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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第七章 帝国北部紀行
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ep071 帝都からアルノルド行き

ep071 帝都からアルノルド行き





 僕らは改装された荷馬車に乗り帝都を出発した。帝都の西を流れるナダル河から立ち昇る霧に朝日が反射して穏やかな景観だ。荷台には幌を取り付けて寒風を遮り、御者台には毛皮を敷いてお尻への振動を軽減した。なお、毛皮に包まれて荷台で眠るのも良いだろう。


帝都からアルノルドの町までの街道は帝国内の主要な輸送路らしく、旅人を乗せた乗合馬車や農産物を乗せた荷馬車が往来している。僕は手綱を握り石畳の整備された街道を進んだ。ナダル河に架けられた大橋を渡ると平野部が広がる。


平野部では羊に似た家畜を追い牧畜をしている様子だ。


「GHA メエェの肉は 美味そうダ」

「どこどこ?」


獣人の戦士バオウが言うので、鬼人の少女ギンナが反応した。ギンナは王宮でのドレス姿とは異なり餓えた子供の様だ。


「アルノルドの屋台はメエェの肉料理が有名らしいわよ」


風の魔法使いシシリアは次の町の情報も入手しているらしい。…あの羊がメエェだろうか腹が減ってきた。水の神官アマリエが言う。


「この辺りはシュペルタン侯爵家の領地です。注意して下さい」


そういえば、王宮の社交場で絡んで来たサリアニア姫は侯爵令嬢と名乗ったが、シュペルタン侯爵家の領地はすぐそこだ。僕はアルノルドの町を迂回して進みたい気分だったが、街道は馬車と荷車が列をなして西へと向かっている。


途中で乗客を降ろすらしい乗合馬車を追い越し。冬支度の荷物を載せた農民の荷馬車を追い越すと次第に人影が少なくなった。森林地帯に差し掛かると再び霧が立ち込めてきた。僕は砂利混じりとなった街道に沿って馬車を走らせた。


「GUU マキト! どうした?」

「はっ!」


僕はバオウに肩を掴まれて目を覚ました。いつのまにか眠気に落ちていたらしい。馬車は惰性のためかトコトコと街道を進んでいた。事故が無くてひと安心したが……突然に街道が消失した。


辺りは森林地帯で馬車は茂みに入って止まった。前方に街道は無く……後方は草原のようだ。


樹上で黒猫がニャーゴと鳴いた。


「妖精の友よ。歓迎するニャ」

「何んだッ」


僕が樹上を見上げると黒猫がしゃべった!まさか聞き間違いではないか。驚いていると黒猫はしなやかな動作で地面に降り立ち…二本の足で立ち上がって言う。


「付いて来たまえ。ボクが案内するニャ」

「…」


どうやら罠に嵌ったらしい。僕らは幌馬車を降りて仕方なくしゃべる黒猫に付いて行った。


………


この森は山岳を覆う森林地帯らしく険しい道を僕は杖を突いて進む。しゃべる黒猫はしなやかな動作で岩場を渡り時折に立ち上がって僕らに振り返る。なんとか僕らが付いてくると見て、しゃべる黒猫は速度を上げた。…全く優しくはない。


息を切らしてしばらく進むと森の中の開けた場所に出た。


森は静まりかえっているが多数の獣の気配がする。


「GUU …」


獣人の戦士バオウが鼻を鳴らして警戒するが、樹上から何十何百という光る眼が僕らを見下ろした。


「にゃおにゃお…」

「…にぎゃおにぎょお…」


周りの獣の気配が濃くなった!


-NIGYAO!-


ひときわに威厳と威迫のある鳴き声が響いた、途端に森が沈黙する。。


「ようこそ妖精の友よ。私が猫人の王シドニシャスである」

「ッ!」


いち段と高い樹上から威厳のある声がして見上げると。白く毛長で美しい猫がいた。どういう原理か白い毛が黄金色に光る。


「なぜ、僕らをここに呼んだ?」

「妖精の友よ!ちと、頼みがあってな…」


猫人の王シドニシャスは樹上から語りかけたが、僕は尋ねた。


「猫人の王よ!それが人にものを頼む態度なのか?」


すると王は高い樹上から飛び降りて優雅に着地すると、人族の礼をとった……まるで貴族の跪礼(カーテシー)の様だ。女王か?


「人族の礼も忘れて久しい、許されよ」


僕は騎士の礼をとった。綬爵の式典用に練習しておいて良かった。アマリエとギンナも宮廷の礼をした様子だが、バオウとシシリアはその場に控えるのみだ。


「僕はマキト・クロホメロス」

「早速で済まぬが、頼みを聞いてもらえるか?」


「その前に、なぜ僕らなのですか?」

「そなたは帝王の匂いがする。それに……妖精の印を二つも持っておる」


バオウが鼻を鳴らした気配がする。


「えっ?」

「ひとつは頬の印。もうひとつは千年霊樹の紅い実じゃ」


僕は頬の紅葉腫れを思い出した。杖にしていた千年霊樹の枝が赤く光る!…紅い実は白い布で包んだハズだ。


「それで妖精の友と……では、王の頼みを聞きましょう」

「うむ。頼まれてくれるか?」


詳細を聞くと百年も前に人族の王と交わした約定がいまだ果たされないと言う。


「分かりました。帝都にいる人族の王に伝えましょう」

「かたじけない。百万の感謝をする」


僕は猫人の王の頼みを聞いて帰還する事にした。


猫人の王シドニシャスが黄金色に輝きその眩しさに目を細めていると、僕らは幌馬車と伴にアルノルドの町を見下ろしていた。


「おや、夢か?」

「GUF 夢ではない! 微かに匂いが 残っている」


接触しなくても匂いが付くものなのか。僕は夕日に染まった都市、アルノルドを郊外の丘から眺めた。おかげで予定より早く着いた。




◆◇◇◆◇




帝都の帝国軍情報部に知らせが入った。情報部の参謀将校と見える男が尋ねる。


「Gの行方を見失ったと申すか?」

「ハッ! そのようです」


緊張した様子で伝令の兵士が応える。


「観測班からのグリフォンの目撃は?」

「霧の為、視認できず。との事です」


「うーむ。帝都周辺から西へ捜索を広げろ!」

「ハッ!」


グリフォンの英雄はその名の通りグリフォンを呼び出し自在に使うと言うが、彼らは今朝がたに幌馬車で帝都を出発した。事前の調査では西のコボンの地の迷宮を目指している事が判明している。道行きを急ぐためにグリフォンを使うことは予想された。しかし、乗り捨てたと思われる幌馬車も発見されていない。どこかに痕跡があるハズだ。これは陛下のお耳にも入れておくべきか?


報告するにも最新の状況を把握しておくべきだろう。連絡を密にして任務を果たそう。




◆◇◇◆◇




アルノルドは帝都に負けず大都市で幾重にも城壁を巡らせており、今なおも膨張する市街にも城壁の建設工事をしている。城壁の工事現場を通り過ぎて、仮設の門で都市税を払い僕らはアルノルドの都市に入った。


門から中央区へ続く道では早速に屋台が立ち並びメエェの肉料理の匂いがする。僕らは空腹に負けて屋台の前に幌馬車を停めてメエェの串焼きを買った。両手に串肉を持ったギンナがやってきた。


「英雄さま。あぁん」

「あ~ん。むぐむぐ……」


焼き立ての串肉に噛り付くと肉汁が溢れて口に広がった。塩味だけの野性味に溢れる味わいだ。僕らは串焼きを味わってから石畳に幌馬車を走らせた。走行中は振動が激しくて落ち着き所がないのだ。


今回は城主に挨拶するまでもなく通過するだけなので、低層から中層あたりの宿屋を探していた。冒険者ギルドは後回しでも良いだろう。特に依頼を受けている訳ではない。城壁を二つほど超えた所で都市の兵士と見える隊士に呼び止められた。…というか道を塞がれた。


「クロホメロス卿とお見受けする。私は隊士長のエーリッヒ・クバルコフ! 城までご同行を願えるか?」

「…」


都市の衛兵を従えて馬に乗り堂々として道を塞いでいる。正直に面倒だが往来で問答するのも憚られる。…ここは大人しく同行するか。


「晩餐会にご招待して頂けるって事かしら?」

「女には聞いておらぬ! クロホメロス卿の返答はいかに?」


シシリアが言うのを制して僕は答えた。


「いいでしょう。城まで案内して下さい」

「結構、ご案内いたします」


隊士長の男は先頭に立って城へ向かう。都市の衛兵たちも付いてくる様子だ。町の人々は何事かと街路に出て様子を伺っている。


僕らの幌馬車を連れて城に入った。





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