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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第六章 帝都までの旅行記
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ep069 悪夢から目覚めて帝都

ep069 悪夢から目覚めて帝都






 僕は悪夢から目覚めた。特に実害は無いが安眠できないのは精神的にきつい。他の者たちは特に変わった様子も無く快適に夜を過ごせたらしいが、僕はひとり不安だった。


昨日の晩餐会も盛況でこのタンメル村に長期滞在する旅行客も多いらしい。


「このタンメル村は一年中、村祭りをしているのよ」

「GUF 物好きダロ」


風の魔法使いシシリアは帝国の旅行客から聞いた話を伝えた。


「しかし普段の稼ぎをどうしているのか不思議ねぇ」

「祭りの出店で儲けているとか?」


僕はあて推量で言ってみたが、


「残念だけど、良さそうな儲け話も無くて……」

「それなら、先を急ぎましょう!」


本来の目的地は帝国の領土を超えてコボンの地にある迷宮の探索だ。僕らは名残を惜しんでもタンメル村を出立した。


「ピヨョョヨー(はらへったー)」


村を出ると数日ぶりにピヨ子が飛んで来て餌をねだる。タンメル村の屋台で買った串肉の残りを与えたが気に入らないらしい…贅沢を覚えた様子だ。それならば、ハイハルブの港で仕入れた魚の干物を与えると喜んで食べた。


「ピヨョー(まいうー)、ピヨョー(まいうー)」


困ったものだ。




◆◇◇◆◇




そこは貴族の館の執務室のであった。黒いドレスの女主人が命じる。


「セバスちゃん。祭りの状況を報告なさい!」

「はい。お嬢様…本日の集客は帝国からの団体客もあり上々でございます」


セバスと呼ばれた男は眼光鋭く紳士然として答えた。


「饗宴には間に合うかしら?」

「十分かと存じます。ときに例の水の聖女様と冒険者どもが宿を出ましたが、よろしいのですか?」


宿の支配人としての顔も持つセバスとしてはオーナーの意向を確認しておきたい。


「なぜ、あの者から悪夢を奪えないのか…気にはなるけど、些細な問題だわ」

「左様でごさいますか」


映像の魔道具が荷馬車に乗って村を出て行く一行を映していた。この方角だと帝都へ向かうらしい。


「それよりも、冬の将軍の到来に備えなさい!」

「ははっ、仰せのままに」


セバスは祭りの運営のためか、冬の将軍の対策にか執務室を出て行った。


「この顔は覚えておくわよ…」


黒いドレスの女主人は独りごちて言う。映像の魔道具にはマキトの横顔が映っていた。




◆◇◇◆◇




僕らは荷馬車に乗りタンメル村を出て西へ進むと大河が見えてきた。


「帝国を貫くナダル河よ!」

「「おおぉ」」


雄大なナダル河の景観に感嘆が漏れる。


「北へ行けば氷結海。南へ行けば帝都はもうすぐね」

「はッ!」


僕は帝都へ向けて荷馬車を走らせた。また日が暮れると腐肉喰グールの襲撃が懸念された。さいわいにも、街道は帝都に近づくにつれ整備されて小石交じりに踏み固められている。荷馬車の速度を上げても問題なかろう。


夕日に染まる頃には帝都の北門に辿り着いた。帝都の城壁は川辺に面して西側へ睨みを利かせる建築物だ。そこから東側の平地には帝都の街並みが広がっている。僕らは帝都の北門から入り城下を目指した。


城下は古い建物と新築らしい建物が入り交り商店も市場も賑わっている。歴史と新進気鋭を感じさせる造りだ。僕らは城の登城口で別れた。登城口には嘆願する者や面会を求める市民や、城への納品物を抱えた商人などが行列を作っている。


シシリアとバオウは荷馬車を引いて先に冒険者ギルドへ向かう。僕とアマリエさんは登城口の行列に並びギンナも付いて来た。


「すんません。僕の用事に付き合ってもらって……」

「この行列では仕方ありませんわ」


僕は皇帝への面会を求めていた。かつての事件…山オーガの騒動であったが一度は王城へ顔を見せると約束していた。行列は遅々として進まないが、鬼人の少女ギンナは何かを見つけた。


「アマリエ様、あれは?」

「あら、珍ししい黒猫だわ!」


城壁の上には黒猫がおりニャーゴと鳴いた。


「そうなんですか?」

「ええ。帝都の黒猫は何年も前に駆逐されたハズだけど……先帝の時代の話ねぇ」


ここが帝都になる以前は「聖都カルノ」と称される都市であったが、宗教上の理由か黒猫は邪悪とされて駆逐されたらしい。その影響で聖都カルノでは猫を飼う者は少なく、ましてや黒猫などはもっての外と言う話だった。


そのように昔話を聞いていると、行列が進み門衛の詰所に辿り着いた。僕が帝国の通行証(ミスリルカード)を示すと門衛の兵士は何かの魔道具で検査したようだ。


「おい、そこの女! 通行証を見せろッ」

「…」


門衛の若い兵士がアマリエに命じるのを年配の兵士が制した。


「やめておけ、神官様だ」

「ふん、その子供はお前の伴か?顔を見せろ」


さらに門衛の職務だろうが、ギンナが風除けに被っていたフードを引き剥がした。鬼人の特徴である輝く角と金属質の肌があらわになる。


「ッ!鬼人か…猫人(ねこびと)ではなくて残念だ…」

「すまんが…宿泊先を教えてもらえるか、こちらから使いを出すゆえ」


なぜか若い兵士の方が横暴なのだが、僕は年配の兵士の要請で冒険者ギルドを連絡先とした。そういえば、宿はまだ決めていない。僕らは長く待たされた挙句に横暴な門衛の態度にも腹を立ててその場を後にした。


風の魔法使いシシリアの手配で宿を確保して荷馬車を預け、僕らは冒険者ギルドで落ち合い、今は酒場で食事にありついた。


「あたしらは帝都の冒険者ギルドで稼いでくるわ」

「GUF それが良かろう」


何か儲け話を見つけたのか、これから探すのか?


「僕らは帝都の観光かなぁ」

「はいですぅ」


既に水の神官アマリエは乾杯した酒を飲み干して帝都の神殿へ向かった。僕らは冒険者の多い宿屋に泊った。


僕は数日ぶりに悪夢から解放されてぐすり眠った。


………


目覚めは気だるくて気分は低調だった。普通の宿屋だしこんなものか…悪夢にうなされるよりマシとも思える。どうも、タンメル村は磁気の影響か呪いのせいか…夢見が悪いらしい。こんな時は気分がスッキリする水の魔道具でも欲しい所だろ。


僕は昼前に起きてギンナを連れて町に出かけた。


すでに朝市の活況はないが、屋台の軽食をつまみ店を覗くと魔道具店で気になる商品を見つけた。


「これは?」

「ひとくち飲むと気分が高揚しスッキリする水の魔道具でございます」


商人の男が聞き覚えのある口上を述べる。


「いくらかな?」

「銀貨15枚!と、お買い得になっております」


水の魔道具の上部は透明のガラスの様で上品な造りとなっているが…見覚えがある。


「うむ。確かに安い…これを貰おう」

「お買い上げ、誠にッ、ありがとうございます!」


実際にブラアルの町での販売価格よりも安い。僕は金貨で支払い商人に尋ねた。


「この魔道具は水の魔石の他にも黒い魔石を使っていると聞いたが…本当か?」

「ええ…よく御存じですね…」


商人の男は少し躊躇したが追加の情報を話した。いずれ魔道具を分解すれば分かる事だ。


「黒の魔石はこの近くの特産品ですから…っとこれは秘密ですがね」


僕は思いがけず黒の魔石の出所に近づいたらしい。商人に礼を言って立ち去った。


………


夕方まで帝都を観光して歴史ある建造物や新たに建設された水車を見るのはそれなりに楽しかった。いつもの習性か冒険者ギルドに立ち寄ると風の魔法使いシシリアと獣人の戦士バオウが脱力して伸びていた。


「ふああ、お掃除も疲れたわ~」

「GUU 荷物運びは戦士の仕事じゃねえよ」


どうやら仕事を終えた様子の二人に話を聞くと、帝都では冒険者が多くて儲けの良い仕事は特定の冒険者が交代で依頼を引き受けているそうだ。そこへ新参者が参入する余地は無い。また、冒険者ギルドでも依頼の仕事の他に街中で人手が必要な市場や、港の人足寄せ、傭兵などの仕事も斡旋している。


「街中の猫狩りや、下水の掃除にくらべれば、倉庫の掃除の方がマシよッ」

「GUF 汚れる 危険 臭いダロ」


それなら帝都の郊外に出て魔物の討伐でもすれば良かろう。


「えーあたしじゃないもん。バオウが汗臭いのよぉ」

「GUU 腐肉喰グール狩りでは 儲けが無い」


すでに帝都の周辺では開拓地が行き渡り、目ぼしい魔物は駆逐されていた。魔物を狩るには周辺の村まで出向く必要がある。帝都には冒険者ギルド本部の他にも街中にいくつかの支部があるが、どこも似たような状況らしい。貧民街(スラム)の方まで行けば違法な儲け話があると言うが…そこまで危険を冒す勇気は無い。


二人は帝国式の公衆浴場へ向かうというので、僕らも同行した。


帝国式の公衆浴場は加熱した石材に水をかけて蒸気として満たすサウナの様な構造だった。遠くで…ギンナが燥ぐ声がするが、女湯は壁の向こう側だろう。僕は熱々の石材に水を足して蒸気を上げてから木製の段に腰掛けた。しきりに冷水をかぶっていたバオウが僕の隣に腰掛ける。


「つけられて、いますね」

「GHA 王都の警備ダロ……」


僕らは帝国式の公衆浴場を満喫した。





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