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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第六章 帝都までの旅行記
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ep067 北の大地に燃える村

ep067 北の大地に燃える村





 僕らは港町ハイハルブを出立して北の原野で野営していたが、夜陰に紛れた周囲の様子がおかしい。原野を覆う暗闇と草陰や木陰から闇の塊と見える魔物が湧き出して来た。すでに戦闘態勢にある獣人の戦士バオウが叫ぶ。


「GUU 注意しろ!腐肉喰(グール)ダ」

腐肉喰(グール)の噛みつきに気を付けて!」


獣人の戦士バオウが先陣を切って腐肉喰(グール)の群れに突入した。素手に手甲の装備だか確実に腐肉喰(グール)を蹴散らしている。僕らはバオウに続いて防御の構えだったが、横合いの茂みからも腐肉喰(グール)が湧き出してきた。


「きゃっ!」

「ギンナ避けて!」


不意を突かれて鬼人の少女ギンナが転げた所に腐肉喰(グール)が殺到した。僕は鋳物の剣Bを横薙ぎに払うが腐肉喰(グール)の長く伸びた爪で受け止められた。


「ぐぬぬ」

「…切り裂け!【風刃】」


僕が鍔迫り合いをしていると風の魔法使いシシリアが魔法を飛ばして加勢した。腐肉喰(グール)の手足が切り裂かれて圧力が衰えたスキに僕は一体を切り捨てた。


「シシリア、助かったよ」

「英雄さまぁ!」


鬼人の少女ギンナは怯えて僕の腰にしがみ付いた。


「アマリエさんお願いします」

「はい!」


すでに乱戦の中でも神官服で奮闘しているアマリエに声をかけた。アマリエは水の魔法と杖術を使い的確に数を減らしている。


僕はギンナを抱えたまま荷馬車に走った。


「ギンナ!荷物をまとめて…」

「はいですぅ」


平静を取り戻したギンナは野営の荷物をおお抱えにして荷馬車に積み込んだ。僕は素早く手綱を引き荷馬車を走らせる。


「みんな!乗ってぇ!」

「ッ!」


乱戦を制してアマリエとシシリアが荷台に乗り込んだ。ギンナはすでに荷台で腐肉喰(グール)の様子を見ていたが攻撃手段が無い。僕が荷馬車を走らせると、最後に獣人の戦士バオウが飛び乗った。


「GHA 良い判断ダ」

「あれを見て!」


風の魔法使いシシリアは追撃の姿勢を見せた腐肉喰(グール)に弓矢を射ていたが、その手を休めて指差した。


「何か燃えているわ…」

「火事か?」


僕は全速で荷馬車を走らせた。荷台の上は大変な騒ぎだと思うが、前方に見える火事と思える炎が空を赤く照らしていた。


………


腐肉喰(グール)の追手から逃れて街道を走ると、名も無い開拓村に着いた。


村の家屋が盛大に燃えている。


「これは、村人が火を付けた様ね…」


村には争った形跡や焼け焦げた腐肉喰(グール)と見える死体があった。


腐肉喰(グール)は魔法生物だから通常の武器よりも魔法攻撃の方が効果があるのよ」


シシリアが訳知り顔で解説するのだが、水の神官アマリエは悲痛な面持ちで答えた。


「魔法が使えない村人が身を守るには…火を使う事があります」


この惨状を見ると腐肉喰(グール)に襲われた村人が直接に武器として火を使ったのだろう。それで家が燃えたのでは元も子もない。村の様子を眺めても、すでに村人は避難したらしく逃げ惑う様子は無かった。僕らは助けにもならず燃える村を後にした。


夜の街道を荷馬車で進む。光の魔道具で街道を照らすには光量が足りなかった。腐肉喰グールの脅威が無ければ歩みは遅い。


とぼとぼと夜通しで荷馬車を走らせたが、明け方には荷馬車を止めて交代で休息を取った。


僕らは疲れも抜け切れないまま出発して街道を進んだ。


そして、ある集落に辿り着いた。




◆◇◇◆◇




僕らは茫然として村の入口にある潜り門を見上げた。門の上には看板の様にして


「タンメル村へようこそ!と書かれているわね…」

「旅人を歓迎する意図でしょうか?」


風の魔法使いシシリアは不信感を持って看板の文字を読み上げたが、水の神官アマリエは村人の意図を推測した。


「この先に宿屋・食事処・娯楽施設あり!と…」

「宿場町では旅人は歓迎される事もありますケド」


どちらも困惑していたが、


「GUF 腐肉喰グールの腐臭に比べればマシだ」

「そうですね、このタンメル村で休憩しましょう」

「…」


僕らは荷馬車で歓迎の門を潜り森を抜けタンメル村に入った。門の上には黒猫がおりニャーゴと鳴いた。


タンメル村は普通の宿場町とは異なり、どこからか陽気な音楽が流れ奇抜な衣装の村人たちで賑わっていた。


「GHA 祭りか?」

「この時期に収穫祭?とは思えないけど…」


見るからに楽しそうな雰囲気で村の広場には露店や屋台が出でいる。肉が焼ける匂いに腹が鳴る。


僕らは空腹に耐えかねて思い思いの屋台に突撃した。


「GHAF 親爺!この肉をくれ」

「あたしも!」

「フッ!」


バオウが注文するとシシリアも便乗した。屋台の親爺は仮面のまま頷いて熱々の串焼きを差し出した。僕も隣の屋台で鳥の足に見える肉料理を注文した。大皿で6カルは安いと思う。ギンナと二人で鳥の足肉を頬張る。


「英雄さま!美味しいですぅ」

「うん」


僕らは空腹を満たした。


村の祭りは軽快な音楽に乗って盛り上がっているのだが、村人は仮面を付けてひと言も発しない。そんな奇妙な村祭りの風習を眺めていると通りから笑い声が聞こえた。僕らの他にも旅人がいたらしい。


通りの人集りを覗くと仮装した軽業師が見えた。新たな軽業を披露する度に歓声がする。


「「「 ほおぉ! 」」」

「…さわさわ…」


仮面を付けた観衆の人集りから声にならない歓声が上がる。


「いいぞ! もっとやれ」

「…さわさわ…」


声の主を見ると身なりの良い子供の様だ、帝国の旅行客だろう。あいかわらず観衆からは乾いた歓声か。僕は通り過ぎる軽業師の隊列を見送った。それでもなお通りには軽妙な音楽が流れいてた。近くに楽団が控えている気配は無い…音楽の魔道具があるなら見たいものだ。


食事に満足して僕らは宿屋を探した。旅行客が多いなら宿も充実しているだろう。タンメル村の通りを進むと丘の上に屋敷と見える宿屋があった。庭も建物も立派な造りで田舎の村には不似合に思える。


折角なのでその立派な宿屋を訪ねてみた。


「信じられない!これでひと晩、銀貨一枚なんて…」

「GUF 五人でも 銀貨五枚だ」


「まあ、食事が別と言うのは不思議ですけど…」

「宿の食事が無ければ村で調達しょう」

「はい…」


僕らはその立派な宿屋に宿泊した。部屋もそれなりに立派な造りで客層に合わせているのか?身なりの良い帝国の旅行客らは、ここより上の部屋に案内されている様子だ。


珍しく柔らかな寝台で旅の疲れを癒した。


………


その日の夜、僕は悪夢にうなされていた。


-DOM!DOM!-


宿屋の扉を叩く音…何か事件の匂いがする。


宿検(やどあらため)めである!神妙にせよ」

「「ざわざわ…」」


起き出して部屋の外に出ると町の衛兵らしい男たちが宿屋の主人を押しのけていた。町の衛兵に混じって異形な男が検査に同行していた。その男は浅黒い肌に皺を刻み衛兵の隊長よりも偉そうに見える。僕らは仕方なく検査に応じた。


「他の者はどうした?」

「まだ、酒場から戻りませんが…」


狩猟者の二人…風の魔法使いシシリアと獣人の戦士バオウは酒場だろう。水の神官アマリエは上陸してから別行動だ。


「怪しい…部屋を捜索しろ」

「ハッ!」


衛兵たちが部屋に踏み込む。


「身分証は持っているか?」

「これを…」


僕は慌てて…商人ギルドの登録証を提示した。


「ほほう、商人か。積荷は何だ?」

「…」


異形な男はその皺だらけの顔を歪めて尋ねた。衛兵たちは僕の返事も待たずに荷物を開けた。


「これはッ!」


衛兵が発見した包を開くと中には大粒の真珠がぎっしりと詰まっていた。


「ご禁制の貝玉石だ!ひっ捕らえよ」


異形な男は傍らのギンナをちらと見て、


「くくくっ、この娘は我らが念入りに検査する」

「英雄さま!」


鬼人の少女ギンナは怪力を発揮して衛兵たちを押しのけたが、狭い廊下にいた衛兵の男たちに三人ががりで抑え込まれた。


「うぐぅ…うぅ」

「ギンナ!」


衛兵たちに取り押さえられたが、僕らに脱出する術は無かった。


………


僕は悪夢から目覚めた。





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