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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第六章 帝都までの旅行記
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ep066 港町ハイハルブ

ep066 港町ハイハルブ






 船は霧の国イルムドフを出港して二日ほどで港町ハイハルブに到着する。陸路に比べれば随分と早い到着だろうと、僕らは意気揚々と上陸した。ここは北の大国アアルルノルド帝国の東の玄関口にあたる港町だ。


さすがに帝国の東の玄関口にあって市場や商店は賑わい人通りも多い。僕らと同じ船マリンドルフ号で到着した商人たちは港に積み荷を降ろすと、ここで商売いを始める者やさらに積み荷を陸路で輸送するため荷馬車へ移す者がいた。


商人たちと分かれて僕らは帝国の内地へ向かう。


聞いた話では、帝国は入国する者に対しての検問が厳しいそうで、僕らはハイハルブの冒険者ギルドを訪れた。冒険者ギルドはトルメリア王国で言う狩猟者ギルドと探索者ギルドを統合した組織であり冒険者へ仕事の斡旋を行うという。


建物に入って見渡すと冒険者ギルドの受付は美人のお姉さんが多いのだけど、新規登録の…列が短い受付には中年のオヤジが対応していた。ならば任せてと、風の魔法使いシシリアは女の色気を発揮して言った。


「手早く済ませたいのだけど…いいかしら?」

「おっおう、どこから来た」


「トルメリアよ…」

「登録はひとり銀貨3枚だ」


トルメリア王国の探索者タグ…迷宮探索の登録証を呈示して帝国で言う冒険者カードを作成してもらう。幾らかの手数料がかかるが必要経費だ。


「む、そちらは神官様かい?」

「はい。水の神殿に仕えております」


「あとは獣人の用心棒と荷物持ちか…坊や、冒険者ギルドは初めてかい?」

「ええ。ここは初めてです」


僕はすでに所持している帝国の通行証を呈示した。


「はっ!ミスリル証」

「よろしく…お願いしますよ」


僕はこの反応を予想して優雅にお願してみた。効果は覿面(てきめん)な様子だ。


「た、直ちに作成いたします。少々お待ち下さい!」

「うむ」


大仰な対応に頷いておく。




◆◇◇◆◇




それは灰の月も半ばの昼下がりの事でした。冒険者ギルドでは遅い昼食に受付を交代するのですが、私はその日の仕事にあぶれた冒険者の対応をしていました。そこへ血相を変えた…ベテランのギルド職員ゴロンゾさんが現れました。


「ゴロンゾさん、どうされましたか?」

「ミラか! やべえヤツが受付に来てる…」


「どれですかぁ…」


窓口から新規登録の受付を見ると五人ほどの冒険者がいます。


「あの小僧…若様がミスリル証!を出しやがった~」

「ゴロンゾさん。落ち着いて下さい」


このハイハルブの冒険者ギルドでもベテランのゴロンゾさんが取り乱すのは、よほどの事と思いました。敬語にするのか、罵倒するのか…もう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)です。


「しかも、ミスリル証で星ひとつだゾ!」

「ッ!」


その言葉を聞いて思い出しました。普通の冒険者であれば鉄の登録証から始めて功績を積み上げ…金の登録証まで行くのも稀なことです。それが、功績の印…星がひとつと言うのは、積み上げた実績が無いという事です。よほどの大金を積んだのか、権力者の後ろ盾があると見えます。


「おおぉ急ぎで、登録を手伝ってくれ」

「はい」


私は冒険者の対応もそこそこに、新規登録のお手伝いをします。なるほど…


「…本名:クロホメロス、登録名:マキト、出身地:秘匿…書類上はトルメリア…」


ギルド職員の私でも読み取れない秘匿情報があるとは、さすがにミスリル証です。私はゴロンゾさんのお手伝いを終えて受付に戻ります。そして、窓口から例の若様の横顔を見ていました。


ちようど新規発行された登録証をゴロンゾさんから受け取り、若様はギルドの説明を受けている様子でした。やはり貴族の若様であれば、冒険者の講習などは免除されるのかしら。私は受付の対応をしつつ、若様の顔を心に刻みました。なにしろ玉の輿ですから!




◆◇◇◆◇




僕らは冒険者ギルドの建物を出た。特に問題は起きなかった様子に安心する…騒動が無くて物足りないとは言わない。風の魔法使いシシリアは自分の女の色気の効果だと言って功を誇っていたが、獣人の戦士バオウは終始無言を通していた。


鬼人の少女ギンナもバオウを見習ってか無言で大荷物を背負っている。さすがに長期滞在を考慮して僕らの手荷物は多い。そのため港町ハイハルブで荷馬車を借り受けた。馬と荷馬車は結構な値段と思えたが使い回しの品で格安だった。馬蹄商人の話では帝国に商品を運ぶ商人は、ここハイハルブで手に入れた荷馬車を使い帰りにはその荷馬車を売り払うらしい。


「どうかご無事で、帰りにも我が商会にお立ち寄り下さい」

「ありがとう!」


僕らは荷馬車へ乗り込んで出発した。


町の出入り口は入国検査のためか大渋滞している。御者としてバオウが手綱を引き僕は馬車の操作を見習いに横へ座る。


「GUF 面倒な手続きは シシリアに任せるのが 良かろう」

「そうですね」


バオウの話では旅の準備や交渉事はシシリアにお任せの様子だ。特に旅先では人語を話せない獣人が多いので無言でも良いらしい。そうすると…人語を話すバオウとギンナは珍しい部類か…渋滞の列が進んだ。


「お前たちは、どこへ向かう?」

「帝都までよ」


後方の荷台からシシリアが来て門衛の兵士に対応すると、手慣れた様子で心付けを握らせた…賄賂だ。


「積み荷は…大した物は無いか…」

「ええ。ご覧の通りよ」


門衛の兵士は神官服のアマリエと護衛の人数を見て忠告した。


「ここから帝都まで西の街道は山賊が多い…迂回するのが良いぞ」

「ありがとう、そうするわ」


山賊のせいか厳重な検査を受けている荷馬車も多い。僕らは簡単な検査を受けて出発した。


砂利混じりの街道を北西へ進む。本来なら西へ直進した方が帝都には近いのだが、門衛の兵士が警戒する山賊は脅威と思える。もう一つは南下して国境の町を目指す道もあるが、商人らは南へ向かう者が多い。


人影も疎らになって、僕はバオウに代わり御者の真似事をしていた。馬に見えるが実際は調教された魔物らしい。バオウが言うには馬に主人として認められれば問題ないとの事だ。僕が手綱に注意していると、シシリアが御者台へ来た…バオウは荷台で昼寝している様子だ。


「マキトくん!門番が嘘を見抜く魔道具を使ったのに、気付かなかったでしょう」

「えっ、そうなんですか?」


僕は意外にも有り得る話に納得した。


「あたしが山賊なら、西へ向かうと言うわ」

「ふむ…」


「すると門番は帝都へ行くのか?と尋ねる…そうだ!と答えると嘘がバレる」

「…じゃ、どうすれば…」


「あたしが山賊なら、いや。途中で泊まる!と答えるわ」

「へぇ…」


「西の峠には山賊の拠点があるだろうし…帝都へ行くのは明日以降ね!◇(ハート)と」

「…」


嘘を見抜く魔道具は高価なのだが万全ではない。注意すれば質問の抜け道はあるらしい。じゃお前は山賊かと聞けばよかろうと思うが…本人が山賊と認識してない事もありうるか…なかなか難しい。


そのような嘘発見機を考察しているうちに日が暮れた…この季節の太陽は短い。僕らは見知らぬ原野で野営の準備をした。今日の夕食は港の市場で仕入れた魚と葉野菜だ。蒸気鍋で調理すれば短時間に煮込みが出来る。


「マキトくんが居ると食事が助かるわ~◇(ハート)」

「GUF 美味そうダ」


(ぬし)様に 感謝を……」

「美味しいですぅ」


僕らが魚と葉野菜の煮込みを味わっていると、獣人の戦士バオウが異変に気付いた。


「GUU 何か匂うゾ」

「あれを見て!」


風の魔法使いシシリアが指差す方の空が赤く燃えていた…火事か!


「GUU その前に敵だ!」

「…ッ!」


僕らは戦闘態勢をとった。




◆◇◇◆◇




ギルド職員のミラは鱗を光らせて北回り街道を疾走していた。要注意人物…貴族の若様と推定されるマキトの動向を探るためだ。ここは帝国領内でも貴族の若様の道楽としてもミスリル証の登録内容が不自然だ。…帝国軍の情報部にも報告が必要だろう。


整備された街道でも馬車の歩みは遅い。優秀なギルド職員であり帝国軍の密偵でもあるミラはその能力と特技を生かして任務を遂行した。今も独特の走法で馬車を追跡している。日暮れも近く、馬車を停めて野営をする様子だ…いまだ彼らには追跡の気配も感知されていないハズだ。


携帯食を齧って貴族の若様ご一行の様子を観察していると、遠くに狼煙の様な煙が見えた。はて…この辺りに帝国軍の通信拠点か狼煙台でもあっただろうか?


「これはッ! 事件ですぅ~♪」


それなりの事件であれば、情報と引き換えに帝国軍から報酬を貰える。


ミラはその快速の足を生かして狼煙の元に向かった。





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