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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第六章 帝都までの旅行記
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ep063 海中の戦い

ep063 海中の戦い






 僕は海中から海藻の林を眺めた。陽光が降り注ぐ海中は明るくてまさに森林地帯のようだ。泳ぎは得意ではないが、呼吸の魔道具のおかげで息ができるのは助かる。あとは水圧を克服したい所だろう。


いばらく水中散歩を楽しんでいたが、何やら海中を泳ぎまわる魚影が見えた…もっと下の方だ。僕は魔力による身体強化をして海底を覗き込んだ。


-GAKIN!ZUBOF-


何かが衝突する様な音…海中では音が早く伝わる。僕は海中を見渡すが他には衝突音を発する様な動きは無い。船員たちは海面に近い海藻の除去作業をしているが、もっと上の方だろう。


僕は恐る恐る…海中に潜航した。


まずい!海中にはサメに似た魔物が見える。しかし…その傍には人影が!


僕は最大限の魔力をこめて呪文を唱えた。


「届いてくれ…【通し】【通し】【攪拌】」


追加の魔力で効果範囲を延長して海水を掻き混ぜると海中に小さな渦ができた。


「そこからの…【引寄】!」


僕は魔力操作で人影を掴み引き寄せた。


「ぐぬぬ…」


命綱として体に結んだロープの長さが限界だ! 僕は人影を捕まえた。するとタイミング良くロープが引かれた。


………



「ぶはっ…ゲホゲホ…」

「英雄さま!」


甲板に引き上げられた僕は荒い呼吸をした。どうやら鬼人の少女ギンナに怪力で引き揚げられたらしい。


「助かったよ…ギンナ」

「何かあったようね」


風の魔法使いシシリアは傍らの人影…人魚!を見て感付いたらしい。人魚は怪我をして赤い血を流していた。そこへ獣人の戦士バオウと水の神官アマリエが駆け付けた。


「マキトさん!すぐに治療をします」

「GUU …」


僕はアマリエはを目で制して傷ついた人魚を預けた。事態を理解してアマリエが魔法を行使する。


「大いなる水の加護【治療】」


みるみるうちに傷が塞がり人魚は平静を取り戻した。人目に付くので皆で囲み人魚を船室に運んだ。


-KYYQYY-


「気が付いたかい?」


人魚は少女の様な体つきの上半身と魚の尾びれが付いた下半身だった。鳴き声は甲高くイルカに似ている。


-KYUKQUIK-


僕は荷物から鍔広の帽子【念話】の効果がある…を取り出して被った。


「助けて頂いてありがとうございます。私の名はキュエリー…どうかお許し下さいませ…」


人魚の少女は酷く怯えて許しを乞うている。彼女の恐怖…丸かじり!される心情が伝わる。


僕は優しく話しかけた。


「キュエリー安心して、君を食べたりはしないよ」

「ッ!」

「GUF マキト、話が分かるのか?」

「…」

「マキトさん?」


驚く一同を背にして僕は人魚の少女に語りかけた。


しばらくして、人魚の少女キュエリーは落ち着きを取り戻した様子だ。今はアマリエが魔法で集めた水を飲んでいる。


「甘い水をありがとう」

「あまい?…」


アマリエが魔法で集めたのは真水だ…迷宮探索の野営では重宝する。海水に比べれば甘いと表現するべきかも。


「キュエリー! 何があったのか教えてくれ」

「…私たち魚人族の森に甲殻族が侵入したの…それで争いに巻き込まれて…」


人魚の少女キュエリーは少しずづ事情を語り始めた。どうやら魚人族の森とは近海の巨大な海藻のことらしい。場合によっては協力もするが、海中の争いに関わるのは避けたい所だ。


僕らはキュエリーの処分を協議した。


このまま海に捨て置くのも良いのだけど、船は全く進む気配がない。しかし、いつまでも足止めされる訳にもいかず、近いうちに海藻を断ち切って出発するだろう。


そんな結論も出ない僕らの協議で、めずらしく鬼人の少女ギンナが主張した。


「キュエリーちゃんを助けたいの!」


この意見に元々お人好しの探索者の二人は乗り気で、僕とアマリエさんも嫌は無かった…どちらもお人好しである。


「良し! そうと決まれば準備しよう~」

「GUF よかろう」

「!」


僕らは海中探索の準備にとり掛かった。まずは人数分の呼吸の魔道具を用意するのだが、乗船客から買い上げると騒ぎになりそうだ。幸いにして魔道具の魔法式と動作原理は解析済みだ。僕は素材の提供を受けて呼吸の魔道具を作成した。


水の魔石はアマリエさんから提供された。風の魔石はシシリアさんから借り受けた。金属素材はギンナのお弁当…鉱石から取り出した。他にも必要な触媒や雑多な道具はバオウが船倉から無断で借りた。


海中へ飛び込む前に水の神官アマリエが全員の背中とお腹に水の文様を描く。これは水圧を和らげる結界らしい。


僕らは夜の海に飛び込んだ。


………


夜の海は昼間とは異なり暗闇の世界だ。松明を灯す事が出来ないので獣人のバオウの視力と人魚のキュエリーの案内が頼りだった。そんな心細い海中の暗闇を恐る恐る沈降してゆくと、薄明りが見えてきた。発光する海中植物らしい。


手頃な海中植物植物を引き抜いて明りとする。この海中植物は提灯の様な形状で青白く光る。


「GUF こいつは良い」

「もう……乱暴ね!」

「きゃはっ」


獣人の戦士バオウは提灯植物を振って感触を確かめている。風の魔法使いシシリアがバオウに絡む。鬼人の少女ギンナは海底を元気に走り廻っている…怪力は海中でも有効なのだろう。


宮城(きゅうじょう)はどっちだ!? キュエリー」

「こちらです!」


呼吸の魔道具に使用した風の魔石には周囲の音を集めて他の魔石に伝える魔法式が刻まれていた。おかげで水中での会話が出来るのだけど…盗聴用の魔石だろうか。


水中では浮力が働くため体の感覚が異なるが、水圧を和らげる結界のおかげか行動は楽だった。僕らは泳ぐとも歩くともつかぬ足取りで、魚人族の拠点…宮城(きゅうじょう)を目指す。


海底は複雑な地形でいくつかの岩山や海藻の林を抜けて進んだ。見た感じこの近辺は魚影も多く豊かな環境に思える。そんな呑気な感想を抱いていると、目的の宮城(きゅうじょう)に辿り着いた。


「門を開けて下さい」

「小魚が何を言うかッ!」


門衛と見える大柄な魚人が立ち塞がる。人魚少女キュエリーは勇気を振り絞って答えた。


「地上人のお客様です……門を開けて下さい」

「こんな夜更けに失礼であろうがッ!」


確かに夜の来客を通すのは門衛としては許しがたい。宮城(きゅうじょう)の門前で押し問答をしていると助けがあった。


「良い。通せ」

「ハッ!」


門を押して姿を現したのは見るからに気品のある魚人の男だった。門衛が平伏する様子から推察すると貴族か王族だろうか。


「王子! 夜歩きは中止でございますか?」

「うむ、緊急の用件だ」


やはり王族か…護衛と見える大柄な魚人が王子の魚人に付き従う。僕らは王子の案内で宮城(きゅうじょう)に入った。


宮城(きゅうじょう)の中は宵闇に負けず明りが灯されて明るい。意外と長く曲がりくねった道を通って僕らは大広間に案内された。


広間の奥には壇上がありその頂点には大柄な人魚が寝そべっていた。


「ウゥエリオン、緊急の用件とか?」

「はい、女王陛下」


ウゥエリオンと呼ばれた魚人の王子は応えるが、事情の説明は無いらしい。


「そこの人族、何用か?」

「この子…キュエリーを返しに来ました」


女王陛下の質問に僕は正直な所を答えたが、


「なぜに海底まで来る必要があるかッ…捕らえよ!」

「…!」


僕らは抵抗をあきらめて魚人の捕虜とされた。


………



魚人の収容施設は気瓶牢(きびんろう)というらしい。気瓶牢は海中にあって中を空気で満たし閉鎖されている。なるほど、魚人にとっては厳しい環境だ…体表の皮膚が乾き脱水して喉の乾きも癒されない…監獄といえるだろう。


しかし僕らにとっては快適な施設だった。ようやく体を乾かし水の神官アマリエが魔法で集めた真水を飲みひと息ついた。


「これから、どうするのよ…」

「GUF 暴れるか」


風の魔法使いシシリアと情人の戦士バオウが物騒な相談をしている。別にお礼が欲しい訳でもないが、有無を言わさずに捕まえるとは酷い仕打ちだ。


宮城(きゅうじょう)の事情が、分からない内は……手出しできませんわ」

「英雄さまぁ…」


水の神官アマリエは神妙な顔で思案した…穏当で生真面目な意見はありがたい。鬼人の少女ギンナは困り顔で窮状を訴えているが…決して君の責任では無いよ。


「これを使おう!」


僕はギンナの荷物から密閉容器を取り出した。持ち物を没収されなかったのは誰の配慮だろうか。とりあえず僕らは情報集めに専念した。


キュエリーに似た小魚たちはこの気瓶牢(きびんろう)にも出入りしている様子で食事を差し入れに来ている。僕は密閉容器から飴玉を取り出して…これを賄賂に使い…小魚たちから情報を得た。


どうやら魚人族と甲殻族の争いは魚人族が劣勢で押し負けているらしい。しかし、元々は両種族の仲が悪い訳ではなく…宮城(きゅうじょう)の庭園の庭師や護衛の兵士として甲殻族が働いていた。


そうした戦力としての甲殻族を牢獄に押し込めて争う事になって魚人族の方が劣勢のようだ。


飴玉の賄賂が効いたのか小魚たちが頻繁に気瓶牢(きびんろう)を訪れる様になった。小魚たちは戦力としては心もとないが、その快速の泳ぎを生かして戦場では伝令として、宮城(きゅうじょう)では小間使いとして働いていた。


僕は一計を案じて作戦を実行した。






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