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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第六章 帝都までの旅行記
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ep060 狩り時々帰郷

ep060 狩り時々帰郷





 僕は城門の上から北側の山岳斜面とそれに続く森林地帯を眺めていた。


森林地帯の奥にはゲフルノルドの軍勢が布陣して野営しているらしい。軍勢にはゲフルノルドの守備兵のほか北の大国アアルルノルド帝国の軍が加勢しているという。


「ヤツら…ゲフルノルドの軍勢も一枚岩じゃないし、内部に問題もあるじゃん」

「そうなのかい?」


チルダはいつものホットパンツに丈の短い上衣姿だ。北風に火鼠のマントをはためかせている。顔に掛かる赤毛を撫でつけてチルダは言った。


「作戦は長くなりそうだけど、ここに滞在しないかい?」

「うーむ、ファガンヌの気分次第だよ」


正直なところ僕にはファガンヌを抑える自信が無い。


「マキトには、しばらく寝込んでもらう積もりだったケド…」

「えっ!」


何をする気だ?


「あの方には逆らえないか……」

「…」


あの方とは?…僕は聞き返そうと思ったが、メイド姿のサヤカが現れてチルダに声をかけた。


「お嬢様、ゲフルノルドの軍が動き出しました」

「今、行く!」

「…」


チルダはメイド姿のサヤカを伴って司令部に向かう様子だ。僕はチルダの褐色の肌とサヤカの白い肌を見比べて考えた。火の一族の支配するブラアルの町には獣人の傭兵も多いのだけど、それらに混じって外部の人間も多い。


最初に会った時、サヤカはウォルドルフ家の女中だった。今もメイド姿でチルダに仕えているのだが…あれ?チルダの実家は……。そのような事をマキトが独り思索をしていると、鬼人の少女ギンナが飛びついて来た。


「英雄さま!」

「おや、ギンナ!お弁当を持ってどこに行くのかな?」


見るとギンナは風よけのフード姿に背負い袋を担いでいた。袋の中はギンナの食糧…鉱石が入っているハズだ。


「大お姉さまと 狩りに出かけますぅ」

「…ああ、ファガンヌの事か」


常に爪を研ぎ澄ました金赤毛の獣人ファガンヌが待機していた。


「GUUQ お前も 来るがよい」

「ッ!」


僕はファガンヌに攫われた。


………



さすがに、ゲフルノルドの軍が布陣している北の森林地帯を飛行するのは危険だろうと思い、僕はファガンヌを促して南東に飛んだ。城塞の東は山岳が連なり南東部の山脈へと続いている。グリフォン姿のファガンヌは高空を飛んで山脈を越えた。


眼下に広がる平原で狩りをしよう。僕らは平原で獲物を探した。


その平原は霧の国イルムドフの領土だったが、近年の動乱では北の大国アアルルノルド帝国との同盟関係となっていた。いやむしろ北の大国の軍事的な脅威に屈服して傘下となっていたのだが、政治状況など知らない僕らは気ままな狩りを楽しんだ。


当然の様にファガンヌは高空から得物を見つけて急降下し、必殺の爪で獲物を仕留めた。こんどの獲物は大型の兎形の魔物だ。僕は激しい上下の加速に耐えて…魔力による身体強化で胃袋を守っていたが、間もなく限界が訪れた。


グリフォン姿のファガンヌは咄嗟に宙返りして僕を投げ捨てた。


「あわわぁぁぁ」


-ZAPPN-


僕は川面に落ちた。ぶぐぶぐ……咄嗟に頭を守って脳震盪を避けたが、浅瀬であれば大怪我か死んでいる所だろう。なんとか岸辺に泳ぎつくと、そこには既に獲物を抱えて金赤毛の獣人ファガンヌが待っていた。


「GUUQ…」

「英雄さま、大丈夫ですか?」


皆まで言わずともファガンヌが期待している事は分かる。ギンナの優しさに心が和む。


「ああ、問題ない…吹き飛ばせ【振動】…熱々の【熱気】」


僕は立て続けに呪文を唱え魔法を行使した。濡れた衣服の水気を飛ばし熱を加える…じきに乾くだろう。河原にある手頃な石を組み合わせて竈を作り火を入れた。火付けの魔道具はギスタフ親方に貰った僕の愛用品だ。


「ギンナ薪を集めてくれ」

「はいですぅ~」


ギンナは河原で焚き木を拾う。僕は兎の魔物をさばき下味を付けた。ファガンヌは肉を気にしつつも周囲の警戒に余念がない。


「ゴホッ、ゴホッ……何だこれは!」


焚き木を火にくべると煙があがった。ギンナは泣きそうな顔で煙に燻されるマキトを見た。


「GUUQ 良い香りに 思えるゾ」

「…」

「ならば、こうしよう…【形成】…【硬化】」


僕は河原の泥を形成して竈の上に円筒を作り煙の通り道としてから肉を吊るした。時間はかかると思うが、熱と煙で燻製になるだろう。


………



出来たての燻製肉は予想外に好評だった。ファガンヌが仕留めた獲物は流れ作業で燻製とする。何度目かの燻製を仕上げたところで、川面から魔物の襲撃を受けた。


音も無く川面から立ち上がる三体の人影が…この姿には見覚えがある!河トロルだ。


河トロルは草と動物の革を編んだボロを纏い。水面の一部の様だった。


(ぬし)様! ご無事デシタカ♪」

「GUUQ 何者カァ!」


金赤毛の獣人ファガンヌが襲撃者と見える河トロルを威嚇する。先頭の小奇麗な装備の河トロルはリドナスだった。しかし、リドナス配下の河トロルたちは刃物を構えて戦闘態勢に見える。


「待った! ファガンヌ! リドナス」

「ッ!」


僕は両者の間に割って入るが、血気に走った河トロルの一体がファガンヌに切りつけた。


「GUUQ 手向かうか 小童ども」

「…」


言葉とは裏腹に腹が満たされてファガンヌが上機嫌だったことは幸いだった。ファガンヌが腕のひと振りで突風を起こすと、河トロルの襲撃者は見えない壁にぶち当った様に止まった。


河トロルは突風に堪え切れずに自ら後方へ飛ぶ。


「リドナス!僕は大丈夫だから、村で待っていてくれ」

「はい」


僕がそれだけを言うとリドナスには意図が通じた様子で、河トロルたちは次々と川面に飛び込んで姿を消した。


「ファガンヌ、手加減してくれて助かったよ」

「GUUQ…」


その後は燻製窯と焚火の痕を始末して川沿いを下った。


思えば河原で煙を上げて燻製作りをするなど危険な行為だろう。遠方の敵には狼煙を見つけて存在を知られ、付近の魔物には煙の臭いで敵対行為とみなされる恐れがあった。


実際にファガンヌが居ない上に襲撃を受けたらどうなっていたか分からない。


………



この川には見覚えがあった。北西の山岳地帯を水源として僅かな森を抜け荒野に至る。上流は岩場を下る澄んだ水だが平野部の巨石岩群を抜けると次第に川の水が濁り泥水となって淀みに変わる。


淀んだ川辺を下って葦よしが茂るのを横目に進むと河トロルの集落を見つけた。


集落の前には長老以下の村人が集まり人垣をなしていた。


(ぬし)様、ご帰還の悦びを 申しアゲマス」

「うむ。ご苦労」


河トロルの長老が畏まる様子に悪乗りして僕が言うと。河トロルの人垣が揺れた。


「「「 ゲロっ、ゲロゲロ、ケロっ♪ 」」」


口々に何か言っているのだが現地語は分からない。


「ささこちらへ、草庵を用意 いたしマシタ」

「…」


長老が招く先には、装いも新たに着物を来たリドナスが待っていた。


(ぬし)様…」

「やあ、リドナス心配をかけて……申し訳ない」


僕にはリドナスの様子だけで、どれ程の心痛を与えたかと思い至った。


再会の感動もそこそこに歓迎の宴がはじまった。河トロルの主食にしてこの川の名物と見える立派な魚介類と草根の煮物。玄米をつぶして味つげした餅に似た食べ物。さらにはニンゲンの里から取り寄せた魚の干物などが並べられた。


僕は懐かしさを抱えて腹いっぱいに食事を楽しんだ。


傍らの鬼人の少女ギンナは宴の食事を半ばにして持参の鉱石を食べている。旅先で腹痛を起こした前例があるので自制しているらしい。僕は密かに薬草を集めて自作した超強力な下剤も確保していたのだが、心配には及ばないだろう。


金赤毛の獣人ファガンヌは肉類を主食として、付け合せに燻製肉を食べていた。ファガンヌには河トロルの地酒は水のようだ。


向こうでは河トロルの男が腹切りの芸を披露している。男が腹の皮一枚を切り裂くと派手に流血した。見ていて気持ち良い物ではないが…ファガンヌには大受けの様子だ。ご満悦なファガンヌが笑う。


「GUUQ クカカカァ」

「…」


僕は給仕をしていたリドナスに尋ねた。


「傷が深い様子だげど、大丈夫かな?」

「ええ 問題ありません。後で 治療いたしマス♪」


やはり身を張った芸なのか!…河トロルも命懸けだな。芸人の男にとってはファガンヌの不興を買う方が恐ろしいと言う事だろう。


僕は今更にファガンヌの恐ろしさを思い知った。


………



ひとしきり宴が過ぎて僕は草庵に備え付けの風呂に入った。勝手知ったる土の湯船に熱めの湯が入っている。ファガンヌは腹ごなしに出かけて行った。ギンナは姿を見せていない。


ここで水治療を受けたのは半年も前だったろうか…以前とは異なる草庵だったが、薬湯の香りは同じだとわかる。僕が懐かしい香りに包まれていると湯殿の戸口が開いた。以前と同じ水治療師の装束でリドナスが入ってきた。


(ぬし)様、お世話をさせて イタダキマス」

「うむ、よろしく頼むよ」


特に怪我は無いのだけど、リドナスの水治療は楽しみだ。リドナスは新たな薬草を湯船に投入し掻き混ぜる…途端に大量の泡が発生した。


「お背中を♪ 流します♪」


僕は手足を取られて泡に包まれる。近くで見るリドナスはその流線型の体にどこか女らしい柔らかさを備えていた。以前に確認したところ…河トロルには男女の区別は無いらしい。体の機能に違いはないハズだ。


それでもなお、リドナスの水治療には慈愛が満ちていた。僕は全身を洗われて湯船に沈む。



………



身も心もスッキリ絞られて僕は目覚めた。昨晩は長湯して寝入ってしまったらしい。リドナスが朝食を捧げ持って現れた。僕は寝床を起き出て囲炉裏端で朝食を…。


「頂きます」

「…イタダキマス」


朝食は玄米の粥に川魚の香草焼きと何かの卵などだ。


「ファガンヌとギンナは?」

「ファガンヌ様は狩りに出かけました。ギンナは岩オーガが持ち寄った鉱石を吟味しております」


僕の質問に的確に答えるリドナスは出来る子だ。そこへ来客があった。


「マキト、無事のようね」

「GUF 元気そうだ」


風の魔法使いシシリアと獣人の戦士バオウだ。以前は一緒にキドの迷宮を探索したが、それ以来の再会か…


「お久しぶりです。シシリアさん。バオウ!」

「グリフォンに攫われたと聞いて、心配したのよ…」

「GAH 手間をかけやがる」


僕らはお互いの再会を喜んだ。





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