挿話 P05 ピヨ子は見た2
挿話 P05 ピヨ子は見た2
そこは名も無い辺境の開拓村だった。
野盗まがいの略奪行為に荒らされた村は騒然としている。野盗と見えた者はゲフルノルド軍の守備兵だったが、守るべき領民から食糧と金品を奪う悪党でもある。いつの世も野盗が善良な事はないのだ。
ゲフルノルドの兵士たちは村娘を攫い村人にも狼藉を重ねた。ついに村人たちも正体を失い激発しようとしたその時に、魔獣グリフォンに乗った名も知らぬ英雄が村娘を助けた。……それは、天帝様のお慈悲の表れかッ!
しかし、そんな村人の感動も長くは続かなかった。戦が始まるという噂は本当らしい。南方から逃げ戻った商隊の知らせも戦の動揺を伝えて来た。
「どぎゃーすっかねぇ。村長どん……」
「おらは、家族をつれて避難するっぺ」
「そんだ!」
「うんだ、もんどよぅ……」
村人が混乱する中でも村長と見える老人は決断する。
「村を捨てて避難する!」
「…お、おぅっ……」
住み慣れた村と畑を捨てて避難するにも、村人が持ち出せる食糧は少ない。いつ戦が始まり、いつ終わるとも知れないのだから……遠方へ避難するのも困難だ。
「ちょうど良い。食糧も手に入った事だ。戦が終わるまで、森に隠れるのも良かろう」
「うむ。急ぎ支度をするっぺ」
「うんだ!」
「だッ…」
結論を得た村人たちの行動は早かった。既に村長宅では食糧が準備されている。看護の女は捕虜の首筋に噛みつくッ!
「わっ、やめろ……ぐぁ……てへっ。もっと吸ってぇ…くだしゃいぃ…」
びくんびくん。怪我を負った兵士は、魅了されて骨抜きとなり懇願していた。次々と村の女たちは捕虜の血を吸う。
◇ (あたしは神鳥の姿で身を隠し、気配を隠して村の様子を眺めた。……あたしの穏行に気付く者はいないわ)
やがて、捕虜の兵士の悲鳴は弱々しくなり、新たな化け物が誕生した。
そこには吸血鬼の眷属、屍鬼の姿があった。
◇ (ふん。屍鬼など珍しくも無いけれど、吸血族が村の規模で存続している事には驚いた。……あたしの前世の記憶では人族の吸血狩りは苛烈を極めていた……それが、村まるごと生き残っているなんてッ!?)
ピヨ子は静かに村から飛び去る。本来ならば吸血族が生き残ろうが死滅しようが関係の無い話だ。
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