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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第五章 北の国から戦乱の風が吹く
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052 練度の戦い

052 練度の戦い






 僕は工房の砂で剣の型を作っている。ここへ溶けた金属を入れて剣を作りたい。


「同じ形で…【複製】【複製】【複製】」


同じ砂型を8コ作成して注ぎ口を用意する。


「ふん。鋳物ではワシらの打った剣には及ばぬぞ」

「ものは試しですよ」


工房の職人たちは懐疑的だが、僕は溶鉄を砂の型に注いだ。熱で砂が焼け収縮と膨張しガスが発生する。


「あちち…【対流】【排気】」

「うむむっ」


僕は気流を操作し換気を続けた。熱く焼けた金属の輝きを見詰める。鋳物は固まるまでの温度の変化で完成する金属の強度が変わるらしい。




◆◇◇◆◇




 戦場の荒野を見渡すと戦況は膠着状態となっていた。これまではトルメリア王国軍の想定する作戦通りの展開といえる。雨上がりの荒野は至る所に泥濘を生じて行軍の妨げとなっていた。


しかし、トルメリア王国軍に急報がもたらされた。伝令と見える兵士がトルメリア王国軍の司令部へ急報を告げる。


「魔物の群れが、農村部にあらわれました!」

「なんだとッ!」


トルメリア軍の後方には、荒野から南方の港町までの平原に農村部が点在している。いつの間に魔物の群れが守備陣地を抜けたと言うのか、未だに軍の警戒網からの報告も無いのだ。


この知らせにより、トルメリア王国軍の守備陣地を抜けた魔物の群れが農村部を襲う事態が想像された。村を救援するには軍を後退させ農村部の防衛に呼び戻す必要がある。


「馬鹿なっ! 魔物の群れは、我が軍が全て撃退したハズだ!」

「いかにして、厳重な警戒網を抜けたのか……」

「あるいは、敵の別動隊が迂回して……」


トルメリア王国軍の作戦会議は混乱を呈していた。それを美麗な声が制する。


「わが隊を持って! 阻止いたしましょう」

「!…」

「…」


トルメリア軍の参謀と見える美男子が立ち上がり意気を見せる。


「さ、作戦参謀殿の直属の兵士を使うとおっしゃるか?」

「いかにも」


若い将校が参謀服の美男子に問い質した。


「うむ、守備隊の精鋭も同行させるが良かろう」

「ありがたき、幸せ」


司令官と見える将校が許可を出す様子に、参謀服の美男子は大袈裟に承った。彼の直属の兵士たちは、本陣の防衛とは別の任務を与えるのに適任と判断されたのだ。



………



参謀服の美男子と直属の兵士および守備隊の精鋭は襲撃された様子の農村へ駆け付けた。既に魔物の群れは去った後らしく村は荒らされた形跡があり、未だ何軒もの家屋が燃えている。


「生き残りの、村人をさがせ!」

「はい!」


すぐに参謀服の美男子が指示するのに直属の兵士は駆け出す。その傍らで主に応える影の声があった。


「…影かッ…」

「はっ…村人の話では、魔物の姿を目撃した者もあり。…避難場所への被害は無いそうです」


影の報告に頷いて、参謀服の美男子はひとりごちた。


「しかし、村を焼き討ちする手口、魔物の仕業とは……腑に落ちぬ」

「…周囲を探索いたします」


そう言うと影の気配は消えた。




◆◇◇◆◇




 河トロルの戦士リドナスは雨上がりの街道を北東に進んでいたが、前方から漂う焦げた匂いに気づいた。


「GUU 気を付けろ キナ臭い!」

「リドナス、待って!」


獣人の戦士バオウが警告するのに、リドナスが前へ飛び出した。風の魔法使いシシリアが制止するのも追いつかない。ふたりはトルメリアの王国の狩猟者ギルドへ魔獣グリフォンの生態調査の報告をしてからリドナスに同行していた。


リドナスは雨上がりの泥濘に足を取られる事も無く、一滴の泥も跳ね上げる事も無く疾走して農村部の集落へ入る。その集落では無人の家屋に火を放つ者の姿があった。


「ダレダッ!」

「!…」


魔術師と見えるローブを着た者は意外にも素早く身を翻して逃げ出した。


「マチナサイ!」

「…」


リドナスは森とも言えない林へ逃げ込むローブ姿を追う。運動能力の差だろう、リドナスは林の半ばでローブ姿に追いつき背後から切り付けた。


しかし、切り裂かれるローブに悲鳴は無く、傷口から血を吹く事も無く肉体が消え失せた!……呆然と佇むリドナスだったが、集落の入り口の付近でも騒動があった。


探索者のバオウとシシリアは集落の入り口でトルメリアの王国軍の兵士に取り囲まれていた。


「怪しいヤツめ、取り押さえろ!」

「くッ!」


隊長と見える兵士が誰何するのに、シシリアが応えた。


「待って! あたしたちは狩猟者ギルドの者よッ」

「GUU ……」


多勢に無勢かバオウとシシリアは抵抗をあきらめた様子だった。それを置いてリドナスは密かに逃亡者を追い、荒野の先へ進む。疾走に音も無く林を抜け荒野の泥濘を走る。河トロルの戦士リドナスには逃亡者の僅かな痕跡が見えていたのだ。


そうして僅かな痕跡を追い、いくつかの岩場を越えると人の気配があった。


「…首尾はどうか?」

「上手く撒いたと、見えまする」


後方に追手の姿は見えない。


「このまま、敵地を走るぞッ」

「はっ!」


不審な二つの気配は荒野を抜けて逃走するらしい。リドナスは迷いも無く逃亡者の痕跡を追って東へ向かった。




◆◇◇◆◇




 僕は工房で完成した鋳物の剣を砂型から取り出していた。切れ味を高めるには研ぎが必要だろう。


「鋭利に…【研磨】」


砂の文様が見える刀身を磨いて表面を美しく仕上げる。それでも愚直な木刀の様な仕上がりだ。僕は鋳物の剣で木の枝を試し切りしてから刀身を確認した。……刃毀れはしないが、切れ味はいまいちか。


「おぃ、見習い。ワシの剣と勝負せいゃ~」

「ん?」


職人のひとりが自分の打った剣をやたらと自慢するので、僕は鋳物の剣で打ち合う事になった。


「でやっ!」

「ふんぬっ」


金属と鋼が打ち合う音が響く。二合三合と打ち合うと僕の鋳物の剣がへし折れた。


「ふははっ、やはり、ワシの打った剣には及ばぬか!」

「なぁに、まだまだッ」


折れた鋳物の剣の断面を見ると黒いひび割れの様な箇所があった。これは改良が必要だろう……金属の不純物と思われる。


「まだ、やると言うのか?」

「これからが、本番ですよ」


僕が代わりの鋳物の剣を取り出して構えると、職人の男は顔に冷や汗を流した。


飽きるまで、ド付き合って頂こうかッ。




◆◇◇◆◇




 バオウとシシリアは防衛隊の指揮官と見える男の前に連行された。よく見ると参謀服の美男子だ。


「この村で、何をしている?」

「あたしたちは、狩猟者ギルドの依頼で魔獣グリフォンの調査をしたのよッ」


参謀服の美男子が尋ねるのにシシリアが答えた。嘘は言っていない。


「魔獣グリフォンだと!?」

「ええ、そうよッ」


意外な話に喰い付く美男子を翻弄してシシリアが続ける。


「それで…」

「グリフォンに攫われたのか……グリフォンに乗った人間を探しているわ」


シシリアの話が嘘か誠か、思案する様子の美男子に囁く声があった。


「ふむ」

「…不審者が東へ逃走した形跡があります…」


参謀服の美男子は顔を上げると配下の兵士に命じる。


「追手をかける! 本隊は東へ向かえッ」

「はい、参謀殿。……して、この者たちは?」


隊長と見える兵士が問うのに、参謀服の美男子は不敵な笑顔で答えた。


「我々もグリフォンに乗った人間を追っている……参考人として、同行を願おうか」

「えっ?」


矢継ぎ早に指示する参謀殿の命令を持って伝令が駆け出してゆく。防衛隊も動き出す様子だ。


バオウとシシリアはトルメリアの王国の防衛隊と同行する事になった。




◆◇◇◆◇




 僕は8本目の鋳物の剣にして、ようやく職人が打った剣を凌駕した。所詮は下級の職人だろう。


「8対1とは卑怯なっ! もう一度、勝負しろっ!」

「いいですよ~」


僕は鋳物の剣を構えた。職人は新しく打った自慢の剣を持ち切り掛かる。打ち合わされる金属と鋼の音が響くが、鋳物の剣は刃毀れをする事も無く衝撃を吸収するようだ。三合も打つと職人の剣刃の方が欠けた。


「なにぃ!…」

「打ち所が悪かったですかね?」


僕は鋳物の剣に魔力を通して検分した。特に不都合は見当たらない。呆然とする職人の男を放置して、僕は新たな制作に取り組むのだった。


失われた山の民の工房では金属精錬の他にも硝子細工をしている様子で、石英と見える硝子の原料があった。


工房の一角では硝子細工をしているのだが、吹き竿が無かった。硝子職人は粘土の型と見える物に、溶けた硝子の材料をかけている。着色された硝子の容器らしい。


透明の硝子は無いのか尋ねると、特別に材料の選別が必要だろうとの話である。


「…なるほど」

「これが、硝子の原料じゃ」


髭の職人が指し示す場所には石を砕いたと見える砂山があった。


(ざる)をお借りします…【選別】」

「ほう!…」


僕が(ざる)(すく)った砂山に魔力を当てると、魔力の抵抗値に応じて大小の砂粒が弾け飛ぶ。砂山の中心は捨てて(ざる)に残った砂を集めるのだ。つまり、金属成分は魔力を通しやすく抵抗値が小さい。また、粘土の成分は魔力の抵抗値が大きいので……おそらく砂山の中心は金属成分が多く残るだろう。


その後、何度も魔力を当てて選別し篩にかけると粒がそろった原料が得られた。髭の職人にお願いして融けた硝子に加工してもらう。髭の職人は原料の砂を手に取り何やら検分していたが、満足したのか原料の砂といくつかの材料を混ぜて竈の火にかけた。


「そぉれ。いくぞ!」


妙な掛け声と伴に髭の職人が魔力を注ぐと竈の火力が上がった。火の魔道具だろうか。髭の職人は原料にも過剰の魔力を注いでいる様子だが、そのせいか高温の竈の中で硝子の原料が溶け始めた。


あめ色に輝く溶けた硝子が得られた。上質な材料と見える。


「吹き竿は、ありますか?」

「はぁ? 何じゃそれは……」


僕は身振りで吹き竿の説明をするが、工房でも吹き硝子の手法は知らないらしい。


「では、仕方ない…【形成】」

「何ぬっ!」


融けた硝子の原料に魔力を注ぎ……粘土の壺を形成する要領なのだが、熱い硝子は形を固定するのが困難だった。次第に溶けた硝子が形を無くしてくずおれた。


「もう一度…【形成】」


僕は悪戦苦闘して結論を得た……これは無理だッ、熱すぎる!


次善の策として硝子の球を作り回転させて大小の円盤を作った。冷めるまで放置するしか方策は無い。


僕が工房を後にして離れの小屋に立ち寄ると、職人たちとファガンヌが酒盛りをしていた。まったく……山の民は仕事と酒盛りを交互に繰り返すらしい。


「GUUQ クロホメロスよ オマエも 飲むかぁ~」

「こりゃ、仕事の後は酒が一番じゃ」

「ガハハハ、飲め、飲め!」


「…では、仕方ない…」


僕は山の民との宴会にも参戦するのだ。





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