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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第一章 魔道具を製造販売のこと
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006 火の魔石

006 火の魔石





 僕はギスタフ商会の見習いとして店番に立つ。


ギスタフ親方は魔道具屋だと言うが、店の商品は日用雑貨が主で、店番としても暇な時間が多い。魔道具は結構な高額商品なので、時々に来る村の奥様(おかみさん)たちが日用雑貨を買い求める程度だ。


ちなみに、一番安い「火付けの魔道具」は金貨1枚+銀貨1枚で120カル相当であり、水を集めるだけの小さい「水差しの魔道具」でも金貨1枚+銀貨4枚で180カルと高価である。


※金貨1枚が100カル、銀貨1枚が20カル、銅貨1枚が1カルに相当する。


そんな暗算をしていると、近所の農家の大祖母(おばちゃん)が魔道具屋へ立ち寄った。


「いらっしやいませッ」


「おんや、今日は小僧さんが店番かい」

「はい!」


僕は元気に答えるが、笑顔(スマイル)は0カルである。


「元気だねぇ、今日はこの皮袋と串を貰おうかねぇ」

「6カルになります。魔道具屋はいかがですか?」


僕は営業スマイルで対応する。


「今は間に合ってるよ。……それじゃぁ、火付けに魔力を充填して貰おうかねぇ」

「毎度あり……」


残念ながら新しい魔道具は売れない。魔力の充填作業に手間賃を稼ぐ地道な商売だった。マルヒダ村の住民と客層では無理な話だ。


………


その日は太陽が西に傾いた頃、ギスタフ商会の魔道具店には珍しいひとりの客が訪れた。


「やっほー。親方はいるかい?」

「はーい?」


見るとマント姿の若い女がいた。赤毛をショートヘアにした褐色肌の女だ。


「ハッ……」

「親方は狩りに出てますケド」


マルヒダ村では見掛けない顔に旅人だろうか。


「親方が狩りとは、珍しいじゃん」

「村の衆と狼を狩ると言って……カムナ山へ……」


気安い様子だけど親方の知り合いか……あの親方に美女は似合わないと思うのだけど……。突然に赤毛の女はマントをはだけて叫んだ。


「くぅー、熱くなって来た!」

「なッ?」


赤毛の女は革製のホットパンツに丈の短い上衣姿だ。どこかの民族衣装だろうが、春先のこの時期でも寒かろう。僕は目のやり場に困る。いや、目の保養でもあるか。


「あたしも狼を狩りに行きてぇ~」

「……夕方には帰って来ると思いますケド……」


すると、赤毛の女はマントを投げ出して店に上がり込んだ。なんと、勝手知ったる気安さだろう。


「それじゃ、待たせてもらうわ」

「……」


「ピヨョョヨー」


◇ (この女の素肌は日焼けサロンで裸体(まっぱ)焼きした様に見事な小麦色で、魔力的にも美味しそうに見えるわ!……あたしの魔物の本能が刺激されるッ)


僕は彼女の熱気にあてられて、ため息をついた。そろそろ、夕食の準備をしよう。ピヨ子も餌の時間だ。村で買い求めた山蟹を取り出して調理を始める。


「おぉ良いねぇ。あたしの好物じゃん」

「」


手伝いの為か、赤毛の女は右手を掲げて火を灯し竈へ投げ込む。


「っ……【火球】」

「ま、魔法ですかッ?!」


僕は驚いて尋ねるが、赤毛の女は山蟹に夢中の様子だった。そんなに、カムナ山の山蟹が好物なのかい?


「さぁ、早く焼いて食おう!」

「はぁ……」


燃え盛る竈に山蟹を乗せてから炎に魔力を注ぐっ……こうして、魔力を使い炎を抑えると良い感じに焼ける。それでも山蟹は頑固な性質で死ぬまで殻から出て来ないのだケド。


「まだ、焼けないのかい?」

「ちょと待って下さい。山蟹はじ~くり焼いた方が美味しいのです」


殻が開いたので塩を振って焼き立ての山蟹を彼女に渡す。すると、赤毛の女は山蟹の殻を素手で引き裂き!……ガブリッと噛り付いた。


ちょっ、ワイルド過ぎじゃ……折角の美女が台無しかも。僕は女の食い付きにたじろぐ。


「うーん。うめえじゃん!」

「熱く……無いのですか?」


料理を褒められたのは嬉しいのだけど、熱々の山蟹を素手で(つか)むのは危険と思える。


「へーき、平気。このぐらいスグ治る、からッ」

「……」


熱々の山蟹を貪る赤毛の女は(てのひら)を見せるが火傷の痕は無かった。剥き出しの手足にも火傷の痕は無いのだ。


◇ (あぁっ、この女は炎熱系の加護(チート)持ちだわッ!)


その後はヤクル肉を焼いて彼女に振る舞い、僕らの腹がくちくなった頃にはギスタフ親方が帰って来た。


ギスタフ親方と村の衆は数匹の狼を狩ったと言うが、狼の群れを囲むには人手が足りないらしい。今日の所は程々の成果で帰ってきた様子だった。


「親方っ! 待ってたぜッ」

「何だ。チルダ! 早いじゃねーか?」


やはり、赤毛の女チルダはギスタフ親方と馴染みの客らしい。チルダは満腹の様子だったが、褐色肌のお腹には緩みが無い。


「頼まれていた、火の魔石よ」

「おぉ、ご苦労」


チルダが皮袋を渡すとギスタフ親方は中から赤い火の魔石を取り出し、ひとつずつ明りに翳して確かめている。しばらくして満足した後にギスタフ親方はチルダに尋ねた。


「鉱山の方はどんな塩梅だ?」

「相変わらず、ゴタゴタしているよ……」


チルダが沈んだ面持ちで言う。こころなしか赤毛が萎れて見える。


「あたしが居ない方が上手くいくと思うの、だけど……」

「そんな事は、ねーだろッ」


暗い雰囲気を振り払う様にして、チルダは大げさに尋ねた。


「あぁいや、それより……この子は親方の弟子かい?」

「むっ、まだ見習いだ!」


親方は難しい顔をして答えるのだが、チルダは冗談めかして言った。


「おや、そうかね。親方が弟子を取るなんて、石が降りそうじゃん!」

「むむっ……」


赤毛の美女チルダにからかわれる親方の様子が面白くて、次第に夜が更けた。結局、赤毛の女チルダは店に泊まってゆく事になったが、ギスタフ親方は狩りの疲れの影響か高いびきの様子だった。


……なんだ、親方の女ではないのか?




◆◇◇◆◇




 次の日の朝は、以前に僕がカムナ山から苦労して持ち帰った透過石を(ふるい)にかける作業だった。


「ふんぬッ」

「!」


まず、ギスタフ親方が透過石の山へ手をかざして魔力を注ぐと、透過石が振動して篩の上を転がる。


「透過石は魔力抵抗が高いから、こうして仕分け出来るのじゃ」

「なるほど」


親方は茶色の透過石をひと塊すくい……金型に入れて、そのまま高炉に乗せる。


「チルダ。頼む」

「あいよ」


チルダが即座に火球を高炉に投げ込むと、高炉から炎熱が立ち登った。赤毛の美女チルダは簡単に火の魔法を使う様子だ。


「っ……【火球】」


高炉は魔力を燃やして高熱を発する魔道具だ。金型が赤熱するが、……しばらくして親方は金型を高炉から降ろした。


「うむ。良い出来じゃ」


親方が金型を開くと中から飴色の部品が出て来た。そうして、親方が傍らに取り出したのは、以前に僕が(こわ)した火付けの魔道具である。これを修理するらしい。


ギスタフ親方は魔道具の穂先に火の魔石を取り付け、握手の中に充填用の魔晶石を入れ、新たに作成した飴色の部品で蓋をする。


「ほれ、使ってみろ」

「はいッ」


僕は火付けの魔道具を受け取り、着火の操作をするが反応はない。その様子を見かねてギスタフ親方が魔道具へ手を伸ばす。


「どーれ、貸してみろ」

「……魔力の通りが悪い気がします」


火付けの魔道具は、ギスタフ親方が慎重に魔力を押し通すと……何かが、カチリッと填まった。


「これで良いだろう。もう一度やってみろ」

「はいッ」


僕は再びに、火付けの魔道具へ魔力を通した。シュボッ。


「上手くいきました!」


火付けの魔道具に火種が燈る。なるほど!……親方は魔道具の魔力の通り道を修正したらしい。


「こいつは、お前がもっておけ」

「えっ! ありがとう、ございます」


その後に、ギスタフ親方は真面目な顔で赤毛の女チルダに言った。


「それじゃ、チルダ。小僧を鉱山へ連れて行ってくれないか?」

「ん……」


どういう訳だろうか。





【続く】

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