挿話 P04 ピヨ子は見た
挿話 P04 ピヨ子は見た
◇ (あたしは魔獣グリフォンを従えたご主人様の後を追いかけた。幾分か手加減された速度で飛行するグリフォンにさえも、付いて行くのは厳しい)
神鳥のピヨ子が荒野に到着した時には、戦いは夜戦に突入していた。人族の軍勢と見える兵士たちがぶつかり合う。
「トルメリアの豚どもを蹴散らせ!」
「「「 おおぉ! 」」」
騎兵の集団が敵の歩兵隊の横腹に突撃した。トルメリア軍は無駄に伸びきった戦線の至る所を騎兵に分断されている様子だ。そこへ飛び込む二つの影があった。
「KONF!」
「GUUQ…」
ひとつは幼女の体に太く柔軟な二本の尾を備えた獣人の子供と見える。それを襲うのは魔獣グリフォンだ。果敢にも獣人の子供が、驚異的な跳躍力を見せて魔獣グリフォンへ打ち掛かる。
しかし、魔獣グリフォンは羽根のひと仰ぎで打撃を回避すると辺りに砂塵が舞った。突風の煽りを受けてトルメリア軍の兵士たちが転倒する。
◇ (あれは、ニビとファガンヌ!…なぜ、二人が戦っているのかしらッ!?…あたしは戦いの行方を見守った)
「なにっ! グリフォンだと……」
「あの、獣人は魔境の主かッ!?」
多くの兵士が二体の化け物を目撃した。魔境の主!ふたつ尾のニビが大技を繰り出す。猛スピードで回転した尾の連打が魔獣グリフォンのファガンヌを捕えると見えた。
ファガンヌは余裕を見せて低空を飛行していたが、ニビの攻撃を避けなかった。むしろ、迎撃態勢とばかりに自身の前足の爪で打撃を受け止めたのだ。空中でぶつかり両者の体が弾け飛ぶ。
-DOMF-
地上へ落下したニビの体が衝撃に跳ねるが致命傷は回避したらしい。混乱した兵士が魔獣グリフォンへ向けて魔法を放つも効果は無くて、ファガンヌは煩わしげに魔法を打ち払う。
「おおぉ…」
兵士たちのどよめきは両者の戦いの決着を望む声か、余計な手出しをした愚か者への非難の声か。
◇ (あたしは前世の記憶から考えても……ふたつ尾のニビに勝ち目は無いわ)
ファガンヌは音も無く飛来してニビを襲った。前足の鋭い爪は連撃を繰り出し鷲の様な嘴で急所を付くと、これにはニビも有効打を避け切れずに地面を転がった。
「FuSHuu!」
「GUUQ…」
せめてもの矜持かなおもニビは立ち上がり反撃を試みるが、急所の全てを避けられ、打撃を受けられ、返し技にも反抗されて血を吐くばかりだった。
◇ (激しく戦う様子だけど、ファガンヌがニビを殺す攻撃には見えない……明らかに両者の実力には格差があるわ)
漸くニビは最後の力を振り絞って森へ逃げ込んだ。
それは逃走のためか反抗のためか。
◇ (あたしには戦いの行方を見守るしか方策は無かったのよ)
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