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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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048 砂漠の幻影

048 砂漠の幻影






 僕は灼熱の砂漠にいる。


グリフォンに掴まって高い空を飛んだ後に、砂漠の丘に放り出された。僕は運良くか、砂の斜面を転がり落ちて怪我も無く無事なのだが、直射日光に日差しの暑さが耐え難い。


すでに季節は秋だと言えるが、砂漠に秋の気配は見当たらない。砂地からの照り返しが容赦なく僕を炙る。方角を見定める為に手近の岩に登りあたりを見まわすが、南方は砂煙に霞んで見渡せない。また、東は砂の丘に遮られているが、空模様は良さそうだ。北は遠くまで砂の海と空には鰯雲が見える。西には岩山が見えて、その先は砂煙に霞んでいた。


岩から降りて、僕は無事だった装備のカバンから水の魔道具を取り出し魔力を注ぐ。しかし、僅かな水気しか採取できなかった。


「水の魔道具は駄目かッ……」


仕方なく直射日光と日中の暑さを凌ぐため、僕は岩影に穴を掘り天幕を張った。


中天の空にあった太陽が傾き西の地平に掛かる頃、僕は天幕を畳んで西の岩山を目指した。何もない砂漠よりはマシな土地を求めて彷徨い歩く。

いちおう西に向かっているが、日が落ちて星が輝くと寒さが忍び寄って来た。僕は火の一族のチルダに貰った火鼠のマントを羽織る。懐かしきブラル山はここから見える訳も無い。


ひとり岩と砂に埋もれた砂漠を歩くが、細かい砂に足元を取られて進みは遅い。途中で分かれたリドナスは無事だろうか、川トロルのリドナスに砂漠は辛い環境だろう。救援の期待は出来ないと思える。

月明りを頼りに砂の丘を登る。青白く照らされた砂漠は意外と視界が良いのは……砂嵐が止んだせいか。今頃は、トルメリアにある私立工芸学舎では魔法博覧会が開催されている時期だろう。


元々の予定では森の妖精ポポロと醤油味の焼き鳥の露店を開く算段だったが、ポポロの実家との連絡が取れず断念した。しかし、ポポロは魔法博覧会の期間に実家の様子を見に帰郷すると言うので、僕は無理を押して同行していた。


僕が妖精の森で量産した車輪付き魔力植木鉢が役に立つと良いのだが、…ふたつめの砂丘を越えて……辺りの地形を確認するが、砂山は続くばかりだ。


「ポポロたちは無事かな……」


ひとりごちると僕は砂の丘から西の空を見渡す。今は月明りに照らされて岩山の影が星空に浮かんで見えた。


「この方角に何も無かったら、お陀仏だぜッ……」


僕は自分に確認して歩を進めた。水筒の水は残り少ない。水の魔道具は役に立たない。食料はあるが、何日も彷徨い歩く事は出来なかった。救援を呼ぶには手段も当ても無かった。


「何だッ!?」


足元の砂に違和感を感じて、僕は慌てて手近の岩によじ登った。砂の海に見えた砂山が風も無いのに、僅かに崩れて形を変える。サラサラとして乾燥した砂が地面に吸い込まれた。


-ZABUF-


「!…」


砂地が割れて巨大な口腔があらわれた。地上にいた何かの生物を捕らえて再び砂地に潜る。ギラギラと鱗に似た胴体の反射を見せながら、その巨大な魔物は姿を消した。


しばらく息を潜めて様子をうかがっていたが、僕は意を決して先を急いだ。ここに留まっていても水が無ければ生きられない。目標とする岩山は手近い場所と見えた。




◆◇◇◆◇




 リドナスは川を遡り水源に到達していた。川の水源は断崖絶壁の地下から湧き出している。東西に立ち塞がる断崖絶壁はその果ても見えない程の規模で、絶壁の上を見ても霧に遮られて全貌は見えない。


リドナスはグリフォンが飛び去った方角を見定めて様子を伺うと遠くで爆発音が聞こえた。音のした方へ進むと人族の軍隊と見える集団がいた。リドナスは物陰に潜んでその様子を見る。


「隊長! グリフォンの姿を発見しました」

「ようし、一気に撃ち落とせ!」


隊の司令部だろうか、天幕には見張りも無くて警戒が緩いと思える。


「はい!」


伝令と見える兵士が駆けだして行く。


「先に私たちがグリフォンの巣の調査を……」

「だまれ! グリフォン討伐は我が軍への領主様のご命令であるッ」


役人と見える男は先着の利を述べるが、この軍の隊長と見える兵士は聞く耳を持たない。


「仕方ありません。コモパルナの領主様の命令では……」

「GUF これだから 役人はッ」


なんと、先行する調査隊には風の魔法使いシシリアと獣人の戦士バオウが同行していた。知り合いの顔を見付けて、リドナスは思わず飛び出す。


「バオウ♪! シシリア♪!」


それでも、感動の再会を祝う暇は無かった。



………



 グリフォンの討伐隊は砲術兵と弓兵を主力として何人かの魔法使いを伴っていた。最初の砲撃は不意打ちに成功した様子で、グリフォンを巣からおびき出す効果があった。しかし、上空から飛来した火の粉に巻かれて地上でも爆発があった。討伐隊の軍勢も大混乱の様子だ。


(ぬし)様が、グリフォンに 浚われマシタッ!」


「マキト君も災難よねぇ……」

「GUU マキトなら 無事と思うが……」


心配そうに上空を見詰めるリドナスだったが、シシリアとバオウは深刻な問題としていない。マキトは迷宮の深部からも生還した男だ……そう易々と死にはしまい。 


「GUF ガケを登る 方法は無いか?」


それでも、今にも駆け出しそうなリドナスを押さえてバオウが言う。


「そう、ねぇ…あまりお勧めしないわ」

「♪!…」


シシリアが提示した方法は人間砲弾であった。命懸けの方法になる。断崖絶壁は足場も少なく登るには時間がかかる。グリフォンに見つかると危険が大きい。


霧の晴れ間があればグリフォンの巣まで見通せるようだ。イチかバチかの人間砲弾にリドナスが挑む決意をしたところに、マキトの悲鳴があった。


(ぬし)様がッ!」


「あれは……マキト君かしら?」

「GHA 確かに グリフォンが マキトを連れて 飛んで行くぞッ!」


野生の視力かバオウが身体強化を駆使して、グリフォンの姿を捕らえたらしい。


残念ながら、マキト救出作戦は不発に終わった。




◆◇◇◆◇




 その頃、魔法博覧会は最終日を迎えていた。5日間に渡り連日に行われた新製品の発表や各種の学会と学生主導の催しは終わりを告げる。


「いっくわよ!【着火】」

「ぱよえん…」

「氷の嵐よぉ…【爆風】」


砲術会の女子たちが金属製の筒に火を着けた。中身の薬品が気化して蒸気爆発が起こる。


-BOFUUU-

-BOPS!BOPS!BOPS!-

-BAFUWNM-


色とりどりに着色された紙吹雪が舞う。彩色の雲が空に生まれ輪を描く。氷の粒が光を散らして会場に降り注ぐ。


「全商品! 完売しました!!」


ついに泥塗れのディグノは素焼きの人形を完売していた。


「お買い上げ、ありがとうございます!」


最後のお客に商品を渡すと、修行僧のカントルフは満足そうな顔で頷いた。


「やったのか……僕たちはっ……」


エルハルド偽子爵は乳酸飲料の製造にも販売にも大活躍していた。もっとも、活躍したのはミゾレ機の方だった訳だが……。


「みんな、お疲れ様っ!」


彩色のオレイニアが魔法博覧会の終了を告げる祝砲を打ち終えて戻って来た。手には何かの書簡を持っている。


「お疲れの所で……悪い知らせよ……」

「何か、あったか?」


オレイニアが言い淀むのを、晴れぬ顔でカントルフが尋ねた。


「マキト君が行方不明だと、ポポロちゃんから手紙が来たわッ」

「「「 えっ?! 」」」


彼らは驚くより他に無かった。思わず声が揃ったのは、ここ数日の販売の成果だろうか。ポポロの手紙には、マキトがグリフォンに浚われ経緯と復学が遅れるだろう事が記述されていた。


この知らせにも、無力な学生には為す術も無かった。




◆◇◇◆◇




いくつの砂丘を越えたのか、ひと晩中も歩き通して……僕は漸く目標の岩山へ辿り着いた。白み始めた東の空に照らされた岩山は廃墟の様に見える。


「これは、どうも……町の跡か?」


そこには都市とも言える規模の廃墟が半ばも砂に埋もれつつあった。


とりあえず、日が昇る前に落ち着ける場所を探そう。僕は砂漠から廃墟の都市へ足を踏み入れた。都市の景観は年代も様式も定かではないが、石造りの高層建築が数多くもあった…これが岩山と見えた影の正体かッ…砂漠の幻影では無かった。


廃墟の路地には草木も無いが、公園だろうか?枯草の茂った跡地が見られた。僕は水の魔道具を取り出して魔力を注いぐ。期待を集めて僕が見つめる中で、水の魔道具は周囲の気体を集めて水滴を作った。この場所には僅かでも水気があるらしい。


気配を感じて、上空を仰ぐと薄いひと筋の雲が浮かんでいる。


「あっ!……ピヨ子ッ」


神鳥かんとりのピヨ子が滑空して廃墟の中へ降りた。そこに何かあると、僕は慌ててその後を追う。そうして、廃墟の崩れた建物とだろう瓦礫を越えると水場があった!


「た、助かったぁ~」


僕は水の魔道具に再度の魔力を注ぎ、一杯の水を飲み干した。


「うぅ、旨い!」


それ以上の感想は無いぃ……生きてて良かった。ひとしきり、命の水を味わってから、僕は念のため水筒に水を汲み、水場から離れて野営する。


久しぶりに蒸気鍋を使い豆と魚の干物のスープだ。こうなると鰹出汁が欲しいところ。それでも、数日ぶりに汁気のある食事は美味かった。神鳥かんとりのピヨ子は今まで何処に行っていたのか?……むしろ僕の方が行方不明者だったろうか。


ピヨ子に豆と魚の干物を与えると喜んで啄む。何日ぶりか古い友に会えた気分だ。


「ピヨ子、美味しいかい?」

「ピヨョー、ピヨョー」


僕にはピヨ子が「旨いぃ旨いぃ」と囀ように聞こえた。食事を終えて、廃墟の壁らしい隅に天幕を張る。僕は日が昇る前に寝入ってしまった。


-ZzzZ-



………



バシャ、水音か?


-GYA!HA-


どのくらい寝ていたのか、水場の野鳥が争う様な物音で、目覚める。はっ、僕は異様な気配に飛び起きッ!……天幕を抜け出して水場を覗いた。


「何だ、あれはッ……」


水場には野鳥を仕留めて首をくわえた獣人の姿があった。その獣人は金色の髪に赤毛が混じり、腰まで届く頭髪は野性味が溢れるように波打っていた。


ギロリ、獣人が僕に気付いて振り返る。鋭い視線と獲物は咥えたままだ。


金赤髪の獣人の瞳は黄金色でネコ科の猛獣を思わせる……僕は(たてがみ)の獅子を思い浮かべた。その獣人は目で笑うと、獲物を引き裂き半分に千切って僕の方に投げて寄越した。

獲物を分けてくれるとは…どうやら敵意は無いらしい…僕はゆっくりと血に濡れた半分の野鳥を拾い、思い切って齧り付いた。……意外と美味い野生の滋味か。


その獣人は片言で言う。


「その光ッ オマエは 我ガ子 ダ!」

「はぁ?……」


まさか、親子の契りの儀式ではあるまいか。獣人の手足は剛毛に覆われて鋭い爪があるようだ。その金赤毛の獣人は引き裂いた獲物を三枚にしてスルスルと飲み込み、喜びに鳴く。


-GUUQ-


金赤髪の獣人の体付きを見ると肉感的な女性だった。長い髪の間から乳房が見える。僕は残りの血に濡れた野鳥の肉を蒸気鍋に仕舞い尋ねた。


「…僕の 言葉が 分かる か?」


金赤髪の獣人は血の味を確かめるように手を舐めて、答えた。


「ワカル トモ」

「我が子 とは 何か?」


「オマエは 我ガ卵カラ 生マレタ」

「!…」


なんと! この獣人はグリフォンだッ。僕は予想外の回答に混乱して言葉を失うばかりに、金赤髪の獣人は続ける。


「ワレ イノホメロスの妻 ヴイグズ・ファガンヌ なりッ!」


その金赤髪の獣人は名乗りを上げた。


「ファガンヌ?」

「オマエを M%#M%# クロホメロス と、名付ケルッ」


「ぐぅっ……」


名付けの効果か身が絞まる。どうやら、僕はグリフォンに命名されたらしい。




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