挿話 P03 ピヨ子戦記3
挿話 P03 ピヨ子戦記3
◇ (あたしは最悪の事態に直面していた。よりにもよってご主人様を攫ったのは魔獣グリフォンだ。…前世の悪夢がよみがえる)
「主様!」
魔獣グリフォンに攫われたマキトを追い、河トロルのリドナスは躊躇いもなく川に飛び込む。空を飛ぶ魔獣グリフォンは北方へ…川の上流に向う様子だったが、流石のリドナスでも追い付ける方法は無いだろう。
◇ (あたしは躊躇した。…前世の記憶でも魔獣グリフォンに勝てる方策が無い。あの時のグリフォンと同じ化け物かと思うと身が竦む)
森の妖精ポポロは突然の出来事に我を忘れていたが、ひとり呟いた。
「マキトさん…ご無事で…」
◇ (翼の無い妖精に出来る事は無いが、あたしには翼がある。そう思うと何か出来る事があるか…ブルブル…駄目よ今度こそ死ぬわ)
そこには、ただ祈る事しか出来ない無力な神鳥のピヨ子がいた。
「そうだ! 助けを呼べるかも知れない。チャ!」
ふと気付くと無力と見えた森の妖精ポポロが駆け出して行く。
◇ (ちょっと、待ってよ! あたしは…名付け親の強制力かご主人様とは離れ難いのッ…)
仕方なくピヨ子は北の空へと羽ばたいた。
………
魔獣グリフォンは猛スピードで飛行したらしく姿形も気配も無かった。川を北へ遡ったリドナスの姿も見えない。
◇ (どんだけ、ご主人様を愛しているのかしら…あたしは自分とリドナスに問いかける。神鳥魔法…【神鳥の雄姿】!)
鷹の姿で、しばらく飛行すると断崖絶壁から湧水が滴る壮大な地形が出現した。大陸が二つに割れて折り重なった断層地形と見える。断崖絶壁の途中には魔獣グリフォンの気配が感じられて頭のアホ毛が逆立つ。断崖の下には人族の集団が居て戦いの準備をしていた。
◇ (あっ! 何か崖から落ちて来た…グリフォンだ! 獲物を追った魔獣グリフォンが人族の集団を追い散らしている…ブルブル…武者震いが不可避な光景だわ)
人族を何人か引き裂いて魔獣グリフォンは巣へと帰還したらしい。
◇ (あの巣に近づくのは難しいと思うの。あたしは遠目からご主人様の姿を探す。神鳥魔法…【神鳥の視界】)
魔獣グリフォンの巣は断崖の中程にあり。途中を遮る物は無いが、時折に立ち昇る水蒸気と雲霧の流れに視界が遮られる。
◇ (あの霧に紛れて接近できるかしら…巣にはご主人の姿が見えず卵に寄り添う魔獣グリフォンの姿があった)
ギロリ。
◇ (ひぃ! 魔獣グリフォンと目が合った…無理だ!あんなのに太刀打ち出来ない…ガクガク)
-BOMF-
その時、崖下の人族から爆発音が聞こえた。魔獣グリフォンの巣に火球が撃ち込まれたのだッ!
◇ (バカ! 命知らずにも程があるわ)
-GYOEEE-
予想された通りに怒り心頭した様子の魔獣グリフォンが人族を襲撃した。しかし、予想外に巣へ燃え移った火の手が早い。
-BOMF-
火勢を見て慌てた魔獣グリフォンが巣に戻る。
-DOGOOOOM-
その一方で、今度は人族の陣地が爆発した。集積していた物資から出火した様子では人族の被害も甚大だろう。
◇ (はっ、ご主人様は何をやっているの!?…あたしは再び巣の中に注目したが、火の勢いと煙に視界が悪い)
「ぎゃぁぁぁぁあ!」
マキトの悲鳴だけが遠くに聞こえた。
◇ (魔力を察知した感じぃ無事だと思うのだけど…、あたしはご主人様の姿を見失ったわ)
◆◇◇◆◇
◇ (断崖絶壁の惨状を放置して、あたしは魔獣グリフォンの気配を追った。【神鳥の加速】!)
そらには、高空を異常な速度で飛行するピヨ子の姿があった。
◇ (魔法を使うと、相手にも気取られる恐れがあるケド、今は追跡を最優先にするわよ)
魔獣グリフォンは西の彼方へ飛び去ったと見える。グリフォンも魔法を駆使して飛行しているらしい。魔力の残滓がキラリと光る。
◇ (あたしはグリフォンの残した魔力の残滓を追ったが、すでに姿も見えない程に引き離された)
高速で飛行する上空の空気は乾燥して、いつの間にか大地は砂に埋もれた砂漠の風景が広がる。
◇ (マズイ…このままでは逸れてしまう!…あたしは精一杯に砂漠の上空を飛行したが、無謀な追跡だったらしい)
ピヨ子は砂地に突き出した岩山の上へ着陸し羽を休めた。
◇ (ふう。って……ここどこよ? まんまと嵌められたのかしら!?)
………
直射日光と昼間の暑さに耐えかねて岩場の影で休息していたら夜になった。
◇ (神鳥の体でも水分補給は必要だわ。火の鳥の不死身には遠く及ばない)
夜の砂漠は寒冷で過酷な世界だ。地上に降り立っても水気は感じられない。
-ZUSUP-
バサッ。砂地からウネウネとした蛇が飛び出してピヨ子に迫るが、軽く羽ばたき空中へ逃げる。
-ZUP!JUMP-
砂地を蹴って、さらに伸び出した蛇がピヨ子を襲う。
◇ (しつこい男は嫌われるわよ…【神鳥の羽毛】! あたしは抜け羽を武器として、剃刀の様に飛ばした)
羽を飛び道具とした遠距離攻撃を受けて、砂蛇はウネウネと落下した。そのまま砂地へ無様に叩き付けられる。
-DOS!ZABUF-
「ぴっ!」
砂地が割れて巨大な口腔があらわれた。そいつは地上にいた砂蛇を捕らえて、ギラギラと鱗に似た胴体の反射を見せながら再び砂地に潜る。……その巨大な魔物は姿を消した。
◇ (ふん。驚かさないでよ! けれど、あたしは独り寂しくなった……早くご主人様を探そう)
梟の形態で夜目を利かす。さらに羽音も無く気配を消して砂漠の探索を続けたが、魔獣グリフォンの気配もご主人様の手掛かりも無かった。
ついに明け方となって前方に光る水面を見付けた!…蜃気楼でなれけば…水場が見える。
◇ (あれれっ? いつの間に、あたしは東へ向かっていたのかしら……)
前方には朝日が見えて、この砂漠に水場と…あたしは九死に一生を得たが…そこは、直ぐに死地へと変わるだろう。
待っていなさいご主人様!
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