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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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047 魔法博覧会

047 魔法博覧会





 ここは魔法博覧会の会場のひとつ私立工芸学舎の学生広場だ。学生たちは思い思いの露店に商品を並べて販売している。その中でも人気の露店があった。


「この人形の(セット)で…ワンダー3+1を下さい」

「まいどあり!」


主力商品として、魔法競技会で活躍した4人の新人を模った素焼きの人形が売れた。泥塗れのディグノがお客に対応する。


「あたしは、乳酸飲料2つね」

「はい!」


珍しい飲み物は、牛の乳を発酵して冷やした乳酸飲料であり、これも好評のようだ。彩色のオレイニアが元気に応えた。


「俺にも、乳酸飲料をくれッ」

「はいよ」


修行僧のカントルフが不愛想にカップを渡した。店の奥ではエルハルド偽子爵がミゾレ機を操作して、…氷の補充は重労働に見える。


「あれから三日だけど、ポポロちゃんは大丈夫かしら」

「マキトが付いている…大事は無いだろ」


オレイニアが心配そうに言うのをカントルフが慰めた。そこへ人気講師のちみっ子教授があらわれた。


「わたしにも、乳酸飲料とやらをおくれ」

「チリコ教授! いらっしゃいませ」


彩色のオレイニアが愛想よくちみっ子教授に接客する。こう見えても魔法工芸学舎の実力者らしい。


「うむ、甘くて酸っぱいのも美味しいのぉ」

「ありがとうございます」


ちみっ子の教授は乳酸飲料を味わいつつ話を続ける。


「今年の魔道具大賞はミゾレ機になりそうじゃ…」

「ミゾレ機?」


チリコ教授が指し示す先では、エルハルドが額に汗してミゾレ機を操作していた。


「ほれッ!ここにもあるじゃろ」

「はぁ…」


魔法博覧会では魔道具大賞の他にも一般の道具や工芸製品も各ギルドの選考で表彰があるそうだ。これから5日間も続く開催日の毎日に表彰があるらしい。なかなかに盛大な祭りの様子だ。


チリコ教授はこの後も学会があるそうで立ち去った。


「儂にも、乳酸飲料を貰おうか」

「教授、いらっしゃいませッ」


まだ日は高く、露店の売り上げも伸びそうである。




◆◇◇◆◇




 僕は高い空を飛んでグリフォンの巣と見える高台に運ばれた。巣に落とされて、受け身に転がる際、僕は酷い匂いの襤褸切れ?にぶつかった。思わず魔法を放つ。


「ぎゃッ!…【押叩】ッ!【無臭】」


あわれな襤褸切れ?は巣の外へ勢い良く飛び出す。その動きに釣られて、グリフォンは襤褸切れを追って飛んで行った。


「ふぅ…」


僕は巣の中に三個の巨大な卵を見付けた。周りを見渡すと巣は断崖絶壁の途中の窪みにあり……断崖の上も下も霧が立ち込めて見通せないのだが……左右を見渡しても断崖絶壁に囲まれた高台と思える。巣の周りを取り囲む断崖は足場も無くて、やはり脱出路は無かった。


仕方無く、グリフォンの卵と思える巨大な卵を調べると……ひとつは既に空となり、残りのふたつは中身がある様子だった。微細ながらも魔力の波動が感じられる。


「これを使うかぁ…【接着】!【形成】」


僕は急いで空の卵の破片を張り合わせその中へ隠れる。ひと息つく間もなくグリフォンが帰って来て卵に寄り添い温めるらしい。僕は思慮する時間も無くて……その時、


-DOKUN!-


卵が大きく蠢動して大きさが増した様子だった。…やばい。




◆◇◇◆◇




 マキトが空を飛ぶ魔物グリフォンに攫われた直後にリドナスは川へ飛び込んだ。追跡するなら泳ぎの方が早い。


(ぬし)様ッ!」


グリフォンは川の上流へ向かった様子だったが、流石の水鬼リドナスの泳ぎでも追い付ける術は無かった。それでも河トロルの戦士は使命を放棄して諦める事は無い。


森の妖精ポポロは突然の事態に我を忘れていたが、ポポロの父は冷静に告げる。


「あの様子では、助かるまいて……今頃はグリフォンの餌かのぉ…」

「そんなッ…」


悲痛な眼で父を見詰めていても解決策は無かった。


「大恩人の危機にも、我ら妖精族の力が及ばぬ…不甲斐ない父を許しておくれ…」

「………」


もっと早くにグリフォン対策の蔦植物を配備しておけば……故郷の森を出た妖精に出来る事は少ない。


森の妖精ポポロはひとり呟く。


「…マキトさん、ご無事で…」


今はマキトとリドナスの無事を祈るしか出来なかった。




◆◇◇◆◇




 魔法博覧会は中日を迎えていた。トルメリアの町中から、周辺の村々から、あるいは隣の国から珍しい魔道具は無いか、掘り出し物は無いかと大勢の見物人が詰めかけた。おかげで、街中の飲食店や商店も大盛況なのだが、とりわけ魔法工芸学舎の学生会場とその周辺は混雑していた。


「この人形の全種類!を買うわッ」

「まいどあり!」


高額商品として、魔法競技会で活躍した7人を模った素焼きの人形が売れた。泥塗れのディグノが驚いて対応する。


「GUU オレに、乳酸飲料 3つだッ」

「はい!」


会場の熱気の影響か、牛の乳を発酵して冷やした乳酸飲料が評判のようだ。彩色のオレイニアが元気に応える。


「あたしたちも、乳酸飲料を下さいな~」

「はいよ」


女子たちへ修行僧のカントルフが不愛想にカップを渡した。店頭も大忙しだが、店の奥ではエルハルド偽子爵がミゾレ機を操作している。


「じゃぁ、あたしは、砲術会の準備があるから抜けるわ」

「おうよ、任せろ!」


オレイニアが言うのにカントルフが請け負った。先程の乳酸飲料を注文していた女子たちとオレイニアが連れ立って学舎の奥へ消える。氷の補充に、エルハルド偽子爵はミゾレ機の操作で疲労困憊の様子だった。


「俺が、代わろう」

「はぁ、はぁ、お願いします……」


店頭には臨時雇いの学生を配置している。カントルフが水を補充しミゾレ機を操作し、融けかけの氷を生成する。甘味のある隠し味と牛の乳を発酵した物を混ぜると完成だ。


今日も天気が良い。さらに露店の売り上げは伸びるだろう。




◆◇◇◆◇




 数日間、僕は卵の中で様子を伺っていた。グリフォンは時折に出かけては、獲物を捕らえ巣に帰って引き裂いて食べる様子だ。僕が弾き出した襤褸切れは、以前の獲物の毛皮か……何かの食べ残しの残骸だろう。


周期的にグリフォンが帰って来ない時間を見越して卵の外に出た。


「ふうぅ…」


僕は凝り固まった体をほぐす。他のふたつの卵は幾分か大きく成長している。この調子では、グリフォンの幼鳥が生まれるのも時期が近いと思われるのだ。


「これで良いか?…【形成】【硬化】」


僕は空の卵のひび割れを広げて間に鶏糞と見える素材を粘土の様に形成して卵の大きさを偽装した。


「念の為にこれも…【形成】【密封】」


僕は泥の球を作り密封容器とした。そんな偽装工作をしてから空の卵の中へ隠れる。いつも、グリフォンは音も無く飛来する。どういう原理で飛んでいるのか謎だが、警戒は怠れないのだ。


既に快適な内装をした卵の中でまどろんでいるとグリフォンが帰って来た。巣に降り立つと圧倒的な魔力の気配で分かる。いつもの様にグリフォンが寄り添い卵を温める様子だったが、…


-BOMF-


突然に爆発音が巣に響いて来た。…何かの攻撃か?


-GYOEEEッ-


これには、グリフォンも驚き、外敵に向かって飛び立つ。僕は卵の中で息を潜めていたが二度目の爆発音があった。


-BOMF!-


…今度は近い。直撃かッ…


ガシャンと、偽装していた卵の殻が砕け!…巣に火が付いた。緊急事態だッ!


-GYOEEEe-


「うはっあ! あっちぁ! あ゛ゃあ!【切断】」


尻に火が着いて、僕はみっともなく泣き喚く。そうして、巣の中を転げ廻り……燃えた部分を切り離した。


「ふぅ、危なかった…」


-DOGOOOOOOM-


今度は断崖絶壁の下方から重い爆発音が届いた。何かが大爆発したらしい。僕は恐る恐る下を覗くと人族らしき複数の人影が地上に見えた。なんと!人族の集団にグリフォンの巣が攻撃された様子だった。あの爆発は人族の魔法か、砲撃の類と思われる。地上も大混乱の様子だろうが……バサッ、何かが巣に飛来して……僕はグリフォンと目が合った。


-Q!-


「ぎゃッ、うわあぁぁぁぁー」


再び、僕はグリフォンに掴まれて高空を飛んだ。グリフォンも巣を捨てて逃亡するらしい。


今度はどこへ飛んで行くのか?


秋の空は高く澄んでいた。





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