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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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046 西へ妖精の流儀

046 西へ妖精の流儀






 僕は馬車の窓から一面に広がる麦畑を眺めていた。既に夏麦の収穫は終わり、秋は種撒きの準備に畑を耕す作業から始まり、畑には早植えの種撒きを行う農民の姿があった。


僕らはトルメリアから西へ乗り合い馬車を乗り継いで、城郭都市キドを経由しコモパルナの町を目指していた。コモパルナの町はトルメリア王国の西方にある開拓村を含む自治州となっている。西方へ向かう街道は秋の夕日に照らされて焼け落ちている様な情景だ。


「あれが、コモパルナの町ですぅ。チャ」

「あぁ」


森の妖精ポポロが馬車の前方へ身を乗り出して西の方を指さす。コモパルナの町は特徴的な尖塔の影を並べて見えた。物見の塔だろうか塔の先端は玉葱の頭の様な形だ。町の門は夕刻の家路を急ぐ人々で混雑している。コモパルナの町の門にも衛兵はいるのだが、門扉は開け放たれていた。町への出入りは容易と見える。


「今日は町で宿を取りましょう!」

「3日ぶりの町だなぁ……」


コモパルナの町は東西の街道が交わる要衝にあり町の出入りは自由であったが、入市税の代わりに宿泊と水の購入には税が課せられている。僕らは町の広場で馬車を降りて手近い宿屋へ向かった。途中の商店や通りでは近隣の作物の他にも西の砂漠原産の宝石や南の山海の珍味などが販売されている。


「おや? これは……」


見ると魔道具としてミゾレ機が金貨6枚近い値段で販売されている。殆ど倍の値段だが……仕入れにかかる輸送費を考えると止むを得ないのかも。


「お客様! 今、評判の(こおり)ッの魔道具でございます」

「むむむ……」


僕が考え込んでいる様子を見て店の主人は攻勢に出た。


「今なら、金貨5銀貨3まで、お負けしますよ~」


すぐに、値引を提案してきたが、僕は気になる事を尋ねる。


「これは、どんな人が購入されていますか?」

「それはもう、領主様や貴族様にも評判の品物ですよッ」


リドナスが腹減った目をしているので、早々に切り上げよう。


「うむ…また今度にするよ」

「それは残念ですが、…次回はぜひ、当店でお買い上げください!」


獣が獲物を狙うような視線で屋台の陳列を見詰めるリドナスを連れて、僕は近くの食堂兼酒場の様に見える建物へ突撃した。その軒先から香辛料で煮込んだ料理の匂いが表通りまで漂って来たからだ。先客の皿を見ると、煮込み料理は肉と魚と豆の3種類があった。


僕は肉の煮込み、リドナスは魚の煮込み、ポポロは豆の煮込みを注文した。それぞれに、小麦粉を焼いてナンに似たパンと麦の発泡酒が付いて来るッ。しかし、水は別料金だとの事。


肉の煮込みは香辛料が良く効いて、ピリ辛のスープに柔らかく煮崩れた山羊か羊の肉が旨い。ナンを浸けて食べる様式は、まさに僕が知るカレーだろう。学舎の屋台で食べた物より本格的な味わいだ。


見るとリドナスも魚の煮込みに満足の様子だったが、何故かポポロは浮かぬ顔をしていた。


「豆の味が落ちています……」

「あら、妖精さんの舌は誤魔化せないわね!」


食堂の女将と見える恰幅の良い女が笑顔で料理の皿をテーブルに置いた。独特の白いスープだが、追加注文をした覚えはない。


「それは、どうして?」

「最近は豆の値段が上がってねぇ……もっと安い南方産の豆を仕入れているのよ…」


女将は正直者なのか、後半は小声で事情を話した。


「…」

「ま、こいつは口止め料さ」


そう言って女将は白いスープを勧めた。ナンを浸けて食べるとヨーグルト風味の野菜スープだった。


「う、旨い!!」

「主様、これも 美味しゅう ゴザイマス♪」

「こんな事で騙されないッ…んだからねッ」


森の妖精ポポロはニマニマしながら白いスープを食べている。ご機嫌な様子を眺めて、僕は女将に尋ねた。


「この辺りに、お勧めの宿はありますか?」

「町の外の安い宿は止めておきなさい。街中の蒼月亭(ブルームーン)の宿がお勧めだね」


女将は真剣な顔で言う。


「そんなに外は危険ですか……」

「近頃は、夜になるとグリフォンの襲撃があるのッさ」


僕は伝説の魔物の存在に驚いて声を上げた。


「ひっ、グリフォン !?」

「空飛ぶ魔物さぁ」


珍しく、ピヨ子が激しく鳴いた。何か危険な知らせかッ!?


「ピィィィッピー!」


◇ (嫌ぁぁぁあ! あたしは前世の記憶を呼び覚ます悪夢に悶絶するのだった)


その警戒音は僕らに警戒心を呼び起こすのに十分である。




◆◇◇◆◇




僕らは街中の蒼月亭(ブルームーン)に宿泊した。蒼月亭(ブルームーン)の建物の造りは質素だが砦の様に頑丈に見える。なんでも、先々代の宿屋の主人が建築に造詣のある人物だったそうで名声があったとか。当時の領主から送られた「血染めの月」の絵画が飾られているのは、何か古来の謂れと思える。


「どう、思う? ポポロ」

「森の状況に関係があるかも知れません」


ポポロは顔を伏せて考え込んでいる様子だったが、僕は結論を先延ばしにする。


「いずれにしろ、森に行って見ないと分からない事だ」

「はい…」


既に10日ほど前から森の妖精ポポロの故郷の森との連絡が途絶えていた。故郷の森はコモパルナの町から北へ丸1日も歩けば辿り着ける場所との事だった。


僕らは不安を抱えて夜を過ごした。



………



-GAWOW!-


夜中に猛獣の鳴き声がして、空気振動はガタガタと鎧戸を揺する。


「何だッ…襲撃かッ?」

「ん♪」


既に異変を聞き付けた河トロルの戦士リドナスは武器を構えて臨戦態勢だ。僕も緊急事態を察して外套を身に付ける。いつでも宿屋を脱出する準備は出来ているのだ。


「ぶるっ、何だっチャ…」


僕は未だに寝惚け眼の森の妖精ポポロを引き掴み異変に備えた。


「今だッ!」

「ふん♪」


僕が合図をすると、リドナスは鎧戸を引き上げる。外は暗闇でも星明りに不自由は無かった。


ごひゅーぅぅぅ。暗闇を切り裂いて飛ぶ巨大な影が見えた。それでも一瞬で巨体の魔物と分かる威圧と魔力量が感知されるのだが……威嚇の飛行か……深夜のコモパルナの町は尖塔にも明りが灯り騒然としていた。


街の被害の程はここからは判然としなかった。



………



 朝日が昇るのを見て僕らは蒼月亭(ブルームーン)の宿を出発した。昨晩の騒ぎに動揺もせず宿屋の軒先には魔除けの銅像が輝いている。


町の西門は小規模な門で街道の先には砂漠と開拓村があるという話だ。しかし、僕らは北方へ向かう為に西の街道を逸れて、右手は護岸の整備された川沿いに進む。川には柵があり簡単には侵入出来ない造りであった。町で聞いた話では、北の水源から水を引いて工事した上水道との事だ。砂漠の乾燥地帯も近い場所では水の確保が重要な土地柄だろう。


北へ向かうと太陽が高くなる頃には草原が見えた。この先の水道は自然の川を利用した護岸の様子だ。


森の妖精ポポロが意外な事実を告げる。


「森が無くなっています…」

「一年やそこらで、森が無くなる物かい?」


僕は呆然とするポポロを連れて先を急ぐ。日が西に傾く頃にようやく森らしき樹々が見えた。


「あっ、森が見えて来ましたッ!」

「これはもう……」


森の妖精ポポロは安堵した様子だったが、遠目に見ても川の西岸の森は勢力を無くしている。その様子に気付いてか、森の妖精ポポロは気も焦り故郷の森へ駆け出す。


「は、はぁ、はぁ、みんなッ」

「ポッポロ!」


故郷の森へ飛び込んだポポロの周りに、何の前触れも無く数人の子供が現れた。ポポロの上に折り重なって、もみくちゃにしている様子だったが、彼らの挨拶の流儀だろうか。衣服を乱して荒いい息のポポロが喘ぐ。


「はぁ、はぁ、やめて!」


「うちの子……お帰りッ」

「…ん、うちの子。大好きぃ~」

「…ポッポロ、ぐぅぅ…」


子供たちはポポロを取り囲んで口々に言う。僕は子供たちの再会を暖かく眺めていた。


「うちの子よ。彼らに、我が家族を紹介しなさいッ」

「はい。…お父さん。お母さん。弟です…」


「何ぃっ!」


どうみても、子供にしか見えないお父さん。どうみても、幼女にしか見えないお母さん。そして……どうみてもポポロの分身にしか見えない弟がいた。ポポロの父が言う。


「ふむっ……大体の用件は、分かりました」

「えっ?」


どうも妖精の流儀には驚いてばかりだが……ポポロの父の話では、森の妖精の特質かある程度の身体接触で情報交換が出来るそうだ。なるほど、荒っぽい挨拶の流儀にはそんな意味があるのか。


「うちの子が、マキトさんを頼りにしている事は……分かりました」

「はぁ、ところで……」


「その前にあれをッ!【枝振】」

「っ!」


-GYOEEE-


頭上を振り仰ぐと夕暮れの空を飛ぶ魔物が、高木の枝に振り払われていた。ポポロの父は落ち着き払って言う。


「グリフォンです。どうぞこちらに【成長】」

「…」


ポポロの父が指し示す先の草が急激に伸びて花が咲き明りが灯った。まるで小さな街路灯のようだ。グリフォンは放置しても平気だろうか。


僕らは街路灯の道を進みポポロの家族と故郷の森の奥へ向かう。



………



故郷の森のポポロの実家は草木で作った小屋のようだが、中は意外と広く快適な建物だった。僕らは妖精の家族から自慢の豆料理を頂く。その料理は勿論、醤油を基本とした味付けであり、味噌に似たソースを加えた根菜の料理も旨い。


ひと通り、自慢の豆料理を堪能した僕らはポポロの父の話を聞いた。


「グリフォンが現れたのは最近の事ですが……昨年から水道税が上がって困っています」

「それは?」


ポポロの父は苦悩を見せつつ話を続ける。


「税は豆の収穫の代金で支払うのですが、今年はグリフォンの所為(せい)で収穫が思うようには、出来ません」

「先に、グリフォンを退治すればッ……」


僕らの実力でグリフォンを退治できるか検討してみるが、


「無理ですよッ。グリフォンを避け、森に隠れて生活するのも限界でして……」

「別の畑で豆を栽培する方法があれば?…」


やはり伝説の魔物が相手では討伐するにも軍隊が必要だろう。


「水道税も取り立てられていますし、新たな畑の開拓は無理かと…」

「むむむっ…」


とりあえず税の支払いをする方法を考えよう。


「…このままでは、税の代わりに畑を差し出す他に生きる道もなくて…」

「豆の収穫は、僕が何とかします!」


ポポロの父は驚いた様子だったが、


「えっ?」

「良い、考えがあります」


僕は新たに畑を起こし豆を収穫する方法を提案した。




◆◇◇◆◇




次の日、僕は西の森の端で特大の植木鉢を作成していた。


「特大の植木鉢をッ…【形成】【硬化】」


それは人がすっぽりと埋まる程の特大の植木鉢だ。そらに準備として、その内側へ魔力を貯める魔法回路を書き込む。


「内側に魔法回路を…【書込】」


特大の植木鉢へ掘り返した土を入れて豆を植える。森の妖精ポポロと魔力で選別した特製の豆である。


「ポポロ、頼むよッ」

「はい!【成長】」


ぐんぐんと豆の木が成長し人の2倍程も伸びる。とても蔓植物には見えない。まさに樹木の形だッ。


「ここから、魔力を注ぎますぅ…チャ!」


その植木鉢には魔力を注ぐため、小粒の魔晶石が取り付けられている。単純に魔力を貯めるだけの機能だが、魔法で促成栽培した豆の木が枯れない様に、常に魔力を維持する魔法回路が書き込まれているのだ。


この使い方でも一日以上は魔力が保つハズだ。


「じゃ、これを…【複製】【複製】…【複製】【複製】」

「はぅ?!…」


僕は植木鉢をさらに15コ追加した。それぞれにも小粒の魔晶石を取り付ける。そうして、僕はポポロの父に特大の植木鉢の使い方を説明した。


「豆を植えたら、毎日に一回は魔力を注いで下さい」

「なるほど……」


さらに移動用の車輪を魔力植木鉢に付けて、…


今後は森の妖精たちへ魔力の充填と植木鉢の管理を任せる。これでも、森の妖精たちは樹木魔法の達人だから畑の警護としても使えるだろう。また。植木鉢を移動すれば、蔓植物の林を作りグリフォンから隠れて収穫作業が出来るのだ。


「量産しますかね…【複製】【複製】…【複製】【複製】」

「おおぉ!」


こうして、車輪付き魔力植木鉢を大量に生産した。ひと仕事を終えて、僕は魔力不足に立ち眩みをする。


すると、どこから呼んだのか、大勢の子供があらわれて車輪付き魔力植木鉢を運んでいく。森の妖精の一族だろう。僕は計画の通りに作業を終えてひと息ついた。


既に僕はこの提案の対価として醤油の作り方と醤油の菌種を受け取っている。帰ってから醤油を使う料理のあれこれを想像すると、妄想とよだれが止まらない。


-GYOEEE-


「危ないッ!」


頭上を振り仰ぐと、真昼の空を飛ぶ魔獣グリフォンの爪が、僕を掴んでいた。…そりゃ! 地に足が着かずに慌てるだろッ。


「あわぁ! わわわわッ……」


(ぬし)様ッ!」

「っ!…」


咄嗟に、リドナスが空を飛ぶ魔獣グリフォンへ飛び付くが、ヤツは身軽に宙を飛び身を躱した。


僕はグリフォンに掴まれて空を飛ぶらしい。


既にリドナスたちの姿は小さい。


高い空を飛ぶっ!


どこ迄も?


………

……


ピヨ子が悲痛に鳴く。


「ピィィィッピー!」


◇ (嫌ぁぁぁあ! あたしは最悪の事態に直面し、再びの悪夢を見たのよッ)




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