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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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045 準備期間

045 準備期間





 僕は港町トルメリアの倉庫街にあるアルトレイ商会の店舗にいた。店舗は新商品の発売準備で大忙しの様子だ。新商品とは牧場主のロマイシズが経営する焼き肉店で使う焼肉竈だった。キアヌ商会長は営業用の美中年の笑顔で現われる。


「マキト君、じゃないかね!」

「商売繁盛の様子ですね」


僕が応じると、キアヌ商会長はご機嫌な様子だった。


「焼肉竈の初売りの準備だッ。新製品の発売は心が浮き立つね!」

「いくらで発売するのですか?」


キアヌ商会長は声を潜めて囁いた。


「…金貨5から4で販売したいものだが…」

「…強気の価格設定ですねぇ…」


前回のミゾレ機は低価格の販売方針だったが、今回は高級品としての販売方針らしい。


「焼き肉店で使う分は別としても、焼肉竈を買うのは料理屋か貴族の厨房だろうと予想している…」


キアヌ商会長は話を続けた。


「それほど数が売れる訳じゃない……だから高級品として販売しよう、じゃないかね!」

「なるほど」


僕はキアヌ商会長の商魂に敬意を表しつつ工房へ向かった。


………


店舗の裏手にある工房では焼肉竈の制作が行われている。休日だというのに働き者の職人たちだ。


僕は保温箱にミゾレ機で作った半端な氷を敷き、良い具合に冷めた蒸気鍋からプリンを取り出して詰める。僕のプリンは貴族階級に好評のようで、既に製法を真似た類似品が作られていたが「プリン」の呼び名は定着していた。水の神殿のアマリエからは定期的に注文があり、僕の良い小遣い稼ぎとなっている。


保温箱の構造は中身が冷めない容器として試作されたが、その原理はともかく真空の隔壁を作る製造方法には苦労をしていた。目標としては小型の水筒サイズにしたい所だが、まだ商品化には程遠い。今後の職人の工夫に期待しよう。


「さて、プリンの配達に行こうか!」

「はい。主様♪」


リドナスは格闘術の腕を上げて護衛然と佇んでいる。アマリエの話では水魔法も上達しているそうだ。港町の倉庫街を抜けて水の神殿のひとつに着いた。水の神殿の本殿はトルメリア湾の中の孤島にあるのだが、町には水の分神殿がいくつかある。個々の分神殿は水に関わる神を祀り広く一般の信仰者に開放されているのだ。


僕は参道から外れて社務所を訪れた。いつもの場所へ納品を済ませて代金を受け取る。


「毎度、ありがとうございます」

「ご苦労様です」


見習いの巫女と見える女と挨拶を交わす。そこへ水の神官アマリエが現れた。


「マキトさん。お時間よろしいですか?」

「はい」


休日のデートのお誘いかと思ったがアマリエは仕事着の神官服だ。そのまま分神殿の奥へ案内された。


「神官長が、ご挨拶申し上げたいとの事です」

「…」


僕は静かに頷いた。アマリエの案内に従い分神殿の奥へ進むと、静寂な神殿の雰囲気が心に染みる。最奥と思われる扉が開き……そこは、かび臭い神殿の奥の間ではなく秋の日差しが降り注ぐテラスだった。


「あなたが、マキトさんね」

「はい。お初にお目に掛かります」


水の神官長は衰えた老婆と見えたが、声音は少女の様に可憐だった。


「お礼が遅くなって、申し訳ないのだけど……うちの巫女イネリアを助けて頂いて、ありがとう」

「いえ、当然の事ですよ」


可憐な少女の声音に似合わず、老婆は鷹揚な仕草で感謝を表した。


「心から感謝いたします」

「!…」


発言の内容と行動が一致していない様子だったが、アマリエが囁く。


「…神官長はお体が不自由で…」

「なんと!」


驚く僕をそのままに可憐な声音で神官長は続けた。見ると神官長の座椅子は水に浮いている。…水の魔法か!


「それと、…いつも、美味しいプリンを届けて頂いて、ありがとう」

「えっ?」


僕は神官長がプリンの味を知っている事に驚いたが、アマリエが囁く。


「…神官長は大層プリンがお好きで…」

「なるほど!」


なおも、神官長は可憐な声音で続ける。


「プリンは私の好物ではあるけれど、王族との会合でも重宝しているのよ」

「恐れ入ります…」


僕は再会に新作のプリンを約束して水の神殿を後にした。




◆◇◇◆◇




 休みが明けて僕は魔道具工学を受講している。講師は現役の職人で実践的な話が多い専門科目の講義だ。


「一般的に魔力回路はそれぞれの属性に適した魔石に書き込む物だが、今日は実験してみよう」


講師の職人は右手に赤い火の魔石を持ち、左手に青い水の魔石を持って呪文を唱えた。


「水の魔石に火の魔法を書き込む!…【走査】…【複製】」


続けて、両手の魔石に魔力を注ぎ魔法回路を発動させる様子だ。


「ぐぅぅとッ…【発火】!!…この様に、魔石の属性が不適切な場合には、魔法回路の変換効率は悪い…」


講師の職人の両手には赤い火の魔石と青い水の魔石があり、両方に火は灯るが、明らかに火の大きさも輝きにも差があった。


「そんな場合には、魔法回路を改変して術式を再構成する事も出来るのだッ…【改変】【書込】」


青い水の魔石に魔力を流して魔法回路を変更したらしい。なおも実験は続く。


「改変した結果は、こうなる…【発火】」


水の魔石が輝き火が灯る。火の魔石と比較しても遜色の無い火勢だったが、すぐに焼き切れる様に消滅した。…魔力を急激に消耗したらしい。


「どうだ! 魔石と魔力回路の適正が分かったかッ?」


この他にも、魔力回路を使った実践的な魔道具と適正な魔石についても学習した。


………


僕は有意義な受講を終えて、食堂でひとり鳥料理の定食を食べていた。リドナスは医療実技の研修のために校外学習らしい。彩色のオレイニアが食堂に僕を見つけて近づいて来た。


「来週から魔法博覧会だけど、研究発表の準備はしているのかしら?」

「いやぁ、特には……」


オレイニアの話を聞くと、魔法博覧会には学内の研究室や学生の研究成果を発表する者と、学外の商業ギルドに加盟して商会の新製品を発表する者があるそうだ。その他には学生や商会が取り仕切る食堂や露店市場に即売会も開催されるらしい。


僕らは魔法競技会の勝利チームとしての名声を利用して、記念グッズの販売を企画していた。



◆◇◇◆◇



 今日から5日間は魔法博覧会の準備期間となる。講義の殆どは休講となり祭りの準備で大騒ぎの様子だ。その次の週5日間は魔法博覧会の開催で、私立工芸学舎と王立魔法学院は大賑わいとなるだろう。


僕は学生工房で粘土と格闘していた。粘土の採取にも尽力したディグノは既に泥に塗れて休憩している。


「まずは、粘土の品質を揃えましょう…【粉砕】」


粘土の塊に魔力を注いで床面へ叩き付けると粘土の粒が細かく砕かれた。


「次に、魔力による…【選別】」


僕が粘土の上から魔力を打ち込むと外側に粒子が弾かれた。こうして魔力に対する抵抗値が高い成分……つまり、不純物が分離されるのだ。


「うむ、良い粘土ですねぇ…【形成】…【硬化】」


残った粘土の塊を人形に形成する。


「これの部分は…【細工】」

「おぉ! マキトさん。素晴らしい出来栄えですッ」


泥に塗れたディグノは珍しい技法に興奮し称賛する。


「ふふ、ふんっ」

「マキトさんの技法は土魔法とは異なる……無色魔法ですか?」


無色魔法とは既存の属性に含まれない職人などが使う魔法の蔑称だが、ディグノの感情は純粋な称賛だった。


「それじゃ! これをッ…【複製】【複製】…【複製】【複製】!」

「はっ! 何を?」


僕は調子に乗って独自の魔法を使い人形を16体に複製した。この魔法は材料がある限り複製も可能だが程々にしておく。この人形が売れるとは限らないだろうし、他のメンバーの人形も作ろう。


次に水魔法担当の様子を見に行くと、修行僧のカントルフと水鬼リドナスは壺に入れた液体に魔力を注いでいた。


「調子はどうだい?」

「これを見てくれ!」


カントルフが差し出した壺の中身を確認すると甘酸っぱい匂いがした。どうやら発酵は順調の様子だった。


「あとはミゾレ機の氷と混ぜて…味見してくれッ」

「分かった。任せろ!」


思いのほか順調な様子にカントルフがやる気を見せている。そうする間に、出店の申請手続きから彩色のオレイニアが戻って来た。


「遅くなってごめんなさい。手伝うわ…」

「ポポロがまだ、来てないのだケド?」


朝から森の妖精ポポロは姿を見せていない。


「エルハルドと一緒かしら……」

「僕を呼んだかい?」


振り返るとエルハルド偽子爵が宣伝用のチラシを持ち立っていた。そこへ森の妖精ポポロが駆け込んで来る。宣伝担当も大忙しの様子か。


「た、大変なんですぅ~」


森の妖精ポポロは今にも泣き出しそうな顔で僕らを見詰めた。





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※ 学園祭の準備と事件の予感です。


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