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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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044 牧場と牛肉

044 牧場と牛肉






 僕はアルトレイ商会の工房で魔道具の試作をしていた。試作品の基本構造は【加熱】の生活魔法を応用した竈の魔道具だが、中央の窪みで炭を焚き周りから加熱するため、炭火の上に金属製の網を載せて完成となる。竈の魔道具はテーブル上に設置できる大きさだ。


早速に牧場主のロマイシズさんから貰った牛肉をスライスして焼くと、ジューと肉が焼け香ばしい匂いが食欲をそそる。さらに、炭火の暖かさと肉が焼ける音は酒がすすむ要因だろう。手伝いのリドナスと焼肉を試食する。


「旨いぞー!」

(ぬし)様、たいへん 美味しゅう ゴザイマス♪」


どういう嗅覚か獣人の戦士バオウと牧場主のロマイシズが現れた。


「GUF 酒を もって来たゼッ」

「おやぁ、魔道具は完成したのかい?」

「はい」


バオウは酒樽をロマイシズは牛肉の塊をもって来たようだ。酒盛りの2回戦が始まるらしい。


「どれ、上等の牛肉を焼いてみようさぁ~」

「ひとつ、問題がありまして……」


僕は試作品の問題点をうち明けた。


「何だね?」

「この魔道具に魔力を充填しても、加熱が出来る時間が短くて、一時(いっとき)かと……」


そこへロマイシズが大胆な回答を示した。


「それなら、客に魔力の充填をさせようさぁ」

「えーっ!?」

「GHA そりゃ 良い!」


既にほろ酔い機嫌のバオウの意見は当てにならないが、店主となるロマイシズが言うのなら可能だろう。ロマイシズは焼肉の専門店を開く為にも特製の調理器具を注文していた。この牛肉がより美味しくなる為に特製の調理器具をッとのご要望だった。


ロマイシズの牧場では品種改良された牛を飼育しているそうで肉質は良い。元々の牛肉の美味しさと品質を知ってもらう為には、焼肉の専門店は良い宣伝になるだろう。僕は特製のタレ焼きと塩焼きの方法も提案してみた。


「なるほど、この醤油ダレは美味しいさッ」

「GUF ウマイぞぉ GUU…」

「美味しゅう ゴザイマス♪」


焼肉の試食会は好評だった。


「あたしを忘れないで!ねっ◇(ハート)」


風魔法使いのシシリアが現れた。先に酒盛りを始めたせいで機嫌を損ねるかと思えたが、意外にもシシリアは上機嫌だった。シシリアはバオウの横に割り込んで、発泡酒と焼肉を奪い取ると美味しそうに食べ始めた。


バオウは発泡酒を片手に焼肉の世話をしている。リドナスはナイフで牛肉の塊をスライスしていた。


竈の魔道具は大成功だった。




◆◇◇◆◇




 次の日は魔法術理論の受講だった。人気のある科目のため、朝早くに登校したが講堂には既に多くの学生がいた。僕とリドナスが席を確保すると、講堂のざわめきが大きくなる。


「おはよう!」

「おはよう ございマス」


見ると森の妖精ポポロがリドナスの隣に座った。


「…見ろよ、勲章持ちのマキトだッ…」

「きゃー、リドナス様! こちらを向いてぇ~」

「あはっ、妖精の子も、かわいい…」

「…ざわざわ…」


授与式も無いのに…王国優戦士勲章を貰った事が噂になるのは…どういう訳か。周りが騒がしい様子だが、講堂に若手の教員がやって来て講義が始まる。広い講堂によく通る声は風の魔法らしい。


「定説としては、全ての生物は魔法の基となる魔力を多かれ少なかれ持っています」


前方の壁に魔法行使の概念図が描かれた…土の魔法だ。


「しかし、一般的には魔法を発現する才能が無い者は魔法使いには成れません」


若手の教員は軽く手を振って、壁に否定の図形を書き加えた。


「その他にも魔力を操作する事や魔力を注ぐなどの、基本的な行為にも向き不向きは存在します」


新しい絵図面が土の魔法で描かれる。


「それら才能の不足を補う方法としては、魔道具や魔法陣などの魔法回路を活用する事ができます」


その後は魔道具と魔法陣の活用事例が紹介された。まるで、新製品の売り込みを見ている様な気分になるが、見事な魔法の行使と講義の内容だった。


僕らは受講を終えて食堂に向かった。焼き肉の定食を買ってテーブルに着く。リドナスは魚の定食だ。森の妖精ポポロはいつもの弁当の包みを開けて、ピヨ子に餌付けをしている。


「ポポロ、近いうちに醤油を仕入れたいのだけど、大丈夫かな?」

「えっ、商売でも始めるの?」


僕は丁度良い機会と思い、ポポロに頼んでみた。


「そうさ、知り合いの店で醤油タレを使いたい!」

「あたいの実家なら少しは分けて、あげられると思うケド……問題がある。チャ」


妖精ポポロは珍しく暗い顔で俯いた。即決とはいかない様子に事情を尋ねると…


ポポロの話では、実家がある西の草原にグリフォンが飛来してから原料の大豆の栽培が困難になっているそうだ。すぐには解決しない問題だろう。ポポロの()の魔法で促成栽培しても品質の良い大豆には生らないらしい。


ロマイシズさんの焼き肉店は塩ダレで始めてもらおう。醤油の入手には時間が掛かりそうだ。


僕はポポロの実家の事情を聞きいて思案した。


………


午後は魔法術実践のため訓練場へ集合した。学生は得意の魔法の属性ごとに集まり、専門の指導教員が付く。仕方なく僕はひとりで無属性魔法の実験をしていた。火・水・風・土の四大精霊に属さない魔法は無属性と見做されるのだ。


「壺の形に【形成】…【硬化】…【熱気】」


水漏れが無いか確認してから更に熱を加えて壺の中を殺菌しておく。個々の壺に麦だの米だの大豆だのを入れて別々に封印した。午後の日差しもあるが、壺に魔力を注ぎイメージしながら適度に撹拌する。ガスが発生して封印の蓋が膨らんでくれば実験は成功だ。


「はうぅ! 発酵してる。チャ」

「ふふふっ。どうやら、第一段階は成功の様だねぇ」


妖精ポポロが目聡く壺の中身を見抜いたが、僕はニヤケ顔を隠せない。その実験は魔力で発酵する為に有効な細菌種を探していたのだ。魔力を使う人間や魔物がいるなら、魔力を好んで増殖する細菌もいるだろう。


有効な細菌種の発見は魔力発酵のための第一段階である。


僕はいくつかの有効な細菌種の候補を得た。




◆◇◇◆◇




次の日。僕は魔物生態学を受講する為ひとり教室に向かった。担当のちみっ子教授が人気講師のため席の確保には手間を取る。もっと大きい講堂を用意されたし。ちみっ子講師が登場した様子で教室にはいつもの黄色い声が響く。


さらに、ちみっこ教授は演壇に踏み台を重ねて講義を開始した。


「本日は空を飛ぶ魔物グリフォンの生態についてじゃ」


いつものお約束か、ちみっ子教授が講義を始めると、その声に聞き入るように熱心な学生(ファン)たちは静まり返った。


「大陸中央部の大森林の南部には、大地溝帯と呼ばれる深い谷がある」


慣れた様子で、ちみっ子教授が合図すると助手が壁面に大陸の地図とグリフォンの絵図を張り出した。


「グリフォンはこの大地溝帯の近隣で目撃されている事から、巣または繁殖地が存在するものと考えられておるのじゃ」


なかなかに堂々として人を惹きつける講話だ。


「グリフォン形質は鷲の頭に獅子の体躯をもち、肉質や骨格は馬との類似点も多い…」


その後は、グリフォンの生態について紹介された。


………


有意義な講義を終えて昼食を挟むと午後は魔法格闘技の訓練だ。学生たちは模擬武器を持って訓練場に集まるのだが、僕はアマリエに個別訓練をお願いしていた。


「アマリエ先生。お願いします!」

「マキト君、見ていて下さい……水の波紋は力の伝導です」


噴水池の噴水が止められて水面が凪ぐ。アマリエが水面に手を浸けると波紋が広がった。


「…」

「これを水に触れずに行うとッ」


アマリエが魔力を注ぐと波紋が消えたが、代わりに魔力の波紋が広がった。


「!…」

「これは、水の修行の基本です」


手を振るアマリエの動きに合わせて水面が震える。まるでゴムの様な弾力があると思えるのは不思議な現象だッ。


「なるほど……」

「マキト君、やって見せて」


僕は噴水池の前に立ち水面に魔力を注いだ。魔力の波紋が広がる感覚を味わう。魔力を注ぐ密度を変えると噴水池の縁から反射してくる魔力の波紋が感じられた。


「魔力の波が……感じられます」

「そう、その調子です」


僕は注いだ魔力を手繰り寄せて捻ってみた。水面は魔力に応じて渦巻くのだが、流れは留めない様子に形をなくす。


「むむぅー」

「やはり、水との相性の問題ですわね」


アマリエは相性と言うけれど、僕は自分の才能の無さを思い知る。…水魔法の使い手は遠い夢か。


「あとは、自主的に訓練しますッ」

「そうね……私は他の学生の指導に行くわ」


僕はひとり水の魔力操作を訓練した。




◆◇◇◆◇




 次の日は交換講義の魔法戦闘論を受講するため王立魔法学院に向かう。受講するに支障は無いのだが、王国優戦士勲章を貰った事実から周りが騒がしい。ひとつの反応としては珍獣を見る様な、憧れの様なチヤホヤとした対応をされる。また、別の反応としては敵視されてギスギスとした嫌な態度をされる。


王立魔法学院は後者が多いようだ。


「…平民風情が生意気なッ!」

「…下賤な狩猟者の手助けなど、不名誉なことよ…」

「…所詮、その程度の小者が…」

「…ざわざわ…」


救助された学生の大半は王立魔法学院の学生なのだが、平民の手助けが気に喰わないのか。あるいは、貴族の体面なのか、面子の問題なのか…いずれにしろ面倒な事だ。


いつもの魔道具のベルが鳴り、講義が始まるようだ。演壇には軍人と見える武骨な講師が登壇した。


「魔法とは戦力である。しかし魔力は魔法使いの生命を支える命そのものであるッ」


よく通る声は大講堂に据え付けの魔道具の効果か、


「古来より人は魔物と戦い。他国と争い戦ってきた。それは戦争である」


演壇の上部の壁面に魔法競技会の映像が映された。高価な録画の魔道具だろうか。…魔道具の仕組みが気になる。


「しかし、戦場で魔力を使い切った魔法使いは何の役にも立たない!」


実用的な軍人らしい考え方だ。


「魔法使いは常に魔力を維持し、戦力として機能するべきである」


魔法競技会では過熱した両チームが魔力不足に陥った所を魔物(オーク)の群れに襲われたそうだ。戦場で魔力を使い切った魔法使いのごとく、戦力を持たない彼らでは対抗のしようも無かった。


次回は、交代要員として補欠人数の充実と周辺警戒に人員の配置が必要だろう。


ある意味では魔法競技会の反省会のような受講を終えた。


………


僕は贅沢な学生食堂に向かわず、広場のベンチで弁当を広げていた。白パンに焼肉と葉野菜を挟んだ照り焼き風のそれを齧っていると、魔術師風のローブを着た男に声を掛けられた。


「魔法競技会で2勝したチームは少ない」

「…はっ?」


いきなり話が見えないが、食事を中断して見ると


「君は、かなりの実力者だろ…【噴水】」

「何をするッ【波紋】!」


ローブの男が呪文を唱えると地下水が噴き出しベンチが持ち上げられる! 僕は咄嗟に魔力を地面に叩きつけて妨害した。


「ほほう…庶民にしては、やりおる……これは挨拶だッ【水陣】」

「!…」


噴水の水を根こそぎ奪ってローブの男は流れ去って行った。一体、何がしたいのか謎だ。


………


僕は照り焼き風のそれを平らげて、ひとり午後の魔法戦略論の受講に向かった。魔法戦略論の講師は軍人には見えない痩せた男だが、軍の士官服を着ている。


「まず、攻めるにしろ守るにしろ、敵軍がどこにいるのか。地の利を見極める事が重要です」


講師士官の男が地の利を論ずる。


「地の利とは地形の他にも水場の有無や集落の有無なども考慮されます」


土魔法で北の原野の地形図が描かれた。魔法競技会の会場であったと思われる。


「そのためには地形を知り、土魔法の利用が重要なのです」


あいかわらず、講師士官は土魔法を推奨する。


窓の外を見ると訓練場と見える広場でリドナスが火球を切り捨てていた……その技を是非、教えてくれ!


僕は王立魔法学院での交換講義を終えて帰途についた。





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