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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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043 魔物の獲物と取引と

043 魔物の獲物と取引と






 僕らは避難する馬車に乗り開拓地にある警備隊の詰め所に集まっていた。引率の審判員の話では、魔物の森に近い会場で試合をしていたチームが魔物に襲われたそうで、審判員を含めて16人が行方不明となっていた。


僕ら学生たちは点呼を済ませて王都まで避難する手筈だが、警備隊は王都からの援軍と合流し、魔物の森で行方不明者を捜索するつもりらしい。僕とリドナスは帰りの馬車を抜け出し別行動で西方へ向かっていた。チームの皆には開拓村の知り合いを尋ねると言い残した。


魔物の森に踏み入ると、早速に出迎えがあった。


「GUU &M@%G@ クロメ k@u?」

「そうだ。ニビに 合わせて くれッ!」


狼顔の獣人の声は意味不明だが、僕は(はや)る気持ちで問いかけた。オル婆の形見に貰ったツバ広の帽子を取り出して被ると、少しは意味が分かる。


「GUW 長老は 集会所に いるぜぇ」

「そこへ 案内して くれッ」


狼顔の獣人は訳知りの様子で、僕らを先導し森の奥へと走る。僕は魔力による肉体強化をして付いて行くと……集会所には、頤鬚の老人と狐顔の幼女ニビ、そして見覚えのある狼顔の男と豚顔のオーク男がいた。


「クロメよッ! よく来た」


狐顔の幼女ニビは不似合な、難しい顔で迎えた。


「…だから 獲物は ヤラナイ BUU!」

「GUA 喰うぞ! 豚アタマ GAA!」


情勢を見ると狼顔の男と豚顔のオーク男が口角泡を飛ばして対立していた。話を聞くとオークの群れが数人のニンゲンを捕えたと言うが、…頤鬚の老人が仲裁する様子だ。


「まあ待て! 取引にせよッ」


「…BUU」

「GUU…」


頤鬚の老人は両者を見据えて宣言した。


「ニンゲンの肉が欲しいならば、対価を差し出して取引にせよ!」


そこへ僕は名乗りを上げた!


「生きたニンゲンは 何体も捕えたのか?」


「オレタチが 10も 捕まえた BUUF!」

「GUW 10と2体 ダロがッ…」


オーク男が言うのを、狼顔の男が訂正した。僕は早速に条件を提示する。


「生きたニンゲンなら 魚の干物10と 交換したい」

「BUF 1体 ヤロウ…」


ここは頑張って、出来るだけ助けたい。


「もっと 欲しい!」

「良いダロ 3体 ヤロウ 干物は10と10と10だ BUU!」


現状でも、3人は助かるだろうが残りの運命は分からない。次に狼男が取引を要求する。


「GUW 羊の肉と 交換したい」

「ニンゲンの肉は 羊の肉2だ BUU」


オーク男が言う条件では対価としても高いのだろう、狼男は価格交渉をするらしい。


「GUF それなら ニンゲン3体と 羊の肉4と交換で、どうか?」

「…BOO…FOO…WOO 良いダロぅ」


指折り数えてオーク男は納得した様子がある。余り商売勘定は得意そうには見えないのだ。


「GUW 羊の肉は 熱いうちに喰え と言うぞッ!」

「モチロン 生きた ニンゲンだ BUU」


狼顔の男が何かの格言を言っているが、僕は後の交渉をニビに任せて急ぎ港町トルメリアに戻る。


◇ (あたしは高木の枝に留まり交渉の様子を見守った。狐顔の幼女ニビが辛抱強く交渉しているが、オークの男は頑固な様子ね)


(わらわ)ならば、もっと大きな獲物と交換できるぞよ……丸々と太った獲物の肉はどうじゃ?」

「獲物の肉は 何匹だ? BUU」


オーク男の興味を引いて、残りの六人についてもニビが交渉を続けている。


◇ (無事に助けられるか、喰われてしまうか時間の問題ねぇ…あたしには関係の無い人族の命だし…ご主人様の頑張りに期待するわ)


………


日が暮れてから町に着くと、僕は狩猟者ギルドを訪ねて頼りの人物を探した。


運良く町の酒場で頼りの人物を発見したのだが、


「バオウ師匠! シシリアさん! 助けて下さいぃ~」

「GHA どうしたッ? マキト」


僕は酒に酔い始めた獣人の戦士バオウと風の魔法使いシシリアに事情を話した。


「すでに、王国軍の先発隊は開拓地に向かったわ……私たちも明日の朝には出発なのよ」


シシリアの話では、救助隊あるいは討伐隊となる王国軍が出発したそうだ。おそらく明日の朝には王都からの後続部隊を伴い魔物の森に踏み込む作戦らしい。バオウとシシリアも狩猟者ギルドの募集で討伐隊の後方支援に参加する予定だった。


僕は魔物との取引についてバオウに相談した。


「GUU なるほど、羊の肉と取引かッ」

「…」


獣人のバオウは思案していたが、顔を上げて言った。


「GHA オレ様に任せろ! 良い考えがある」



◆◇◇◆◇



バオウとシシリアとに相談してから、僕は倉庫街にあるアルトレイ商会の宿舎へ帰還した。そこで魚の干物を大量に仕入れて町の北門に取って返すのだ。


町の北門を出て牧歌的な…今は夜の…農地を進むと獣人のバオウが待っていた。闇夜には獣人の目が光って怖い顔だ。バオウは知り合いの牧場主に掛け合い十数頭の牛を連れていた。シシリアは狩猟者ギルドで別の交渉をしていると言う。


「GUF 急ぐぜッ! こいつらは 足が遅い」

「はい!」


僕らは十数頭の牛を連れて魔物の森へ向かった。夜の強行軍に牛たちは不満な様子だったが、獣人の戦士バオウがひと声も吠えると行軍に従った。


夜通しの行軍に(はや)る気持ちを抑えて、朝方には魔物の森へ到着した。すでに東の空は白み始めている。


「ニビ! 上手くいったか?」

「当然じゃろ。わらわが本気になれば……クロメよッ!」


急にニビが指す方向を見ると、原野の遠方には軍隊の行軍と思われる土煙が上がっていた。どうやら魔法競技会の原野の辺りから捜索を開始するようだ。


僕らはニビに牛の群れを預けてニンゲンたちを保護した。牛の命とニンゲンの命を交換する形だが止むを得ない。ニンゲンたちは頭に麻袋を被せられ、背中には魔力と血を吸うヒルが付けられていた。…獲物の扱いとしても非常に痛そうに見える。


憔悴した学生も多いので、リドナスの水魔法で治療しつつ回復を待った。僕は学生たちに暖かいスープと黒パンを振る舞い、元気を付ける。


ようやく僕らは学生たちを連れてトルメリアの町へと歩き出した。




◆◇◇◆◇




シシリアは狩猟者ギルドと相談し、密かな作戦案を持って捜索隊の指揮所を訪れた。


「…だから、学生の居場所が分からないでしょう!」

「その作戦案は却下したハズだがッ…」


指揮官と見える武骨な男がシシリアに言い渡す。


「おとりの成果が見えるまで、軍の突入は待って下さいッ」

「くどい! 既に捜索は始まっておる」


そこへ伝令と見える兵士が駆け込んで来た。


「数人の学生を 保護 しました!」

「報告は正確にッ」


指揮官と見える武骨な男が伝令の兵士を睨み付ける。


「はい!」

「生きておるのだな」


再度、報告の内容を確認すると、


「間違いありません」

「すぐに正確な 人数 を報告しろ!」


「はいッ!」


指揮官の男が指示すると、伝令の兵士は慌てて駆け出して行く。


「どうやら、間に合った様ねぇ…」


シシリアは独りごちるが、指揮官の男は聞いていない様子だった。


………


僕らは捜索途中のトルメリア軍に保護された。指揮所にはシシリアと数人の学生がいて、彼らは自力で森から脱出して来たそうだ。僕らは事情説明として次のように語った。


狩猟者の獣人バオウとその仲間は学生の救出作戦を立てた。狩猟者ギルドと連名のその策は、十数頭の牛を連れて森に向かい魔物の群れをおびき出すものだった。


僕らは狩猟者の獣人バオウと協力して、牛を連れて森に着いたがオークの群れと狼顔の獣人が獲物ニンゲンをめぐり争う現場に遭遇した。そこへ第三者として介入した僕らは、運が良く学生たちの救出に成功した!…との話だ。


◇ (あたしは最近に魔物の森に合流した獣人の話を知った。彼らは南の山地に縄張りを持っていたが人族との争いに敗れて落ち延びたらしい…それは先日に、あたしが城塞都市キドの(カラス)どもを使い追い立てた、あの山賊たちに!?…)


僕らは、無事に保護された学生と審判員と共に王都トルメリアに帰還した。王都の住民は王立魔法学院と私立工芸学舎を始めとして大騒ぎとなっていた。僕らは、学生たちと別れ狩猟者ギルドへ作戦の成功を報告した。救出作戦の報酬は後日の王国評定会議の後に支払われるとの事だった。


◇ (結果として、あたしが追い立てた獣人たちの合流で魔物の森の食糧事情が悪化した影響か、今回の襲撃事件が起こったらしい…これもニンゲンを食糧とする魔物の性かしら)


疲れた体を休める為に、僕は泥のように眠った。



◆◇◇◆◇



 僕は昼頃に起き出して学舎に向かった。午後から魔法歴史学の受講があるので、僕が古い講堂に入ると異様なざわめきが起きた。


「無色魔法使いのマキトだっ…」

「今日は水鬼リドナス様は、ご一緒じゃないのかしら…」

「バカっ、押すなッ!…英雄様だぜッ…」

「…ざわざわ…」


鬚の老教授がやって来て、魔法歴史学の講義が始まる様子だ。


「古来の魔術師たちは己の力量としての魔力の総量を重要視しておりました…」


老教授の長い話が続く、午後の日差しは秋の気配だ。


「火の魔法使いは巨大な篝火を掲げて己の実力を示し…」


僕は睡魔との闘いを初めた。大草原を牛車に乗り出発する…大交易の始まりだ。


「これに対して水の魔法使いは大量の水を操作して偶像を作り出すことで…」


巨万の富を手に入れて…午後の講義が終わった。


………


帰りに狩猟者ギルドに立ち寄ると風魔法使いのシシリアが待っていた。


昼間に開かれた王国評定会議では、今回の救出作戦で12人の学生を救助した捜索隊が第1功績とされた。第2功績としては3人の学生を連れて自力で帰還した審判員の教師が選ばれた。


僕らの「おとり作戦」は捜索隊の同意が得られず、非公式の作戦ではあるが、救助の契機となる働きは認められた。狩猟者ギルドとの連名で作戦を提案したおかげか、狩猟者ギルドから成功報酬が支払われたのだ。


「…だから、必要経費ですってば! わからず屋め!」


シシリアが狩猟者ギルドの職員と口論している様子だ。


「まったく。もう! あたし達の働きを、何だと思ってるのかしら!」

「まぁまぁ…」


お怒りのシシリア嬢を宥めながら今回の報酬額を数えて損得勘定をする。狩猟者ギルドから支払われた作戦の成功報酬から牧場で購入した牛の代金を差し引くと…僅かな報酬が残った。


その他に僕とリドナスは学生の身分ながら作戦に協力した事で「王国優戦士勲章」を貰ったが授与式も無い簡素な物だ。単なる鉄のメダルに金銭的な価値も無い。


王国優戦士勲章は戦時には手柄を立てた平民の兵士を表彰するための勲章で、追加の報奨金が与えられる事が通例のようだ。シシリア嬢はその点にも不満の様子だったが、僕らも騒動の当事者たる学生の身分なので…仕方がない処置と思う。


そのまま移動して酒場へ向かうと獣人のバオウは既に飲んでいた。面倒な事はシシリアに押し付けたらしい。不満たらたらのシシリア嬢に発泡酒を注ぎ機嫌を取る仕事はバオウに任せよう。


獣人の戦士バオウと酒盛りしていた人物が僕に声をかける。


「おんやぁ、あんたがバオウの弟子かい?」

「はじめまして、マキトです」


小太りな中年の女性と見えるが、僕はバオウに聞いていた特徴を思い出した。


「あたしゃ、ロマイシズさぁ…」

「牧場の方ですよね?」


ロマイシズは頷くと陽気に話しはじめた。


「そうさ。あんたらのお陰で、うちの牛肉が評判でねぇ…」

「えっ?」


意外な話に驚く僕をそのままにして、ロマイシズは話を続けた。


「オークと狼が喧嘩して取り合う程の美味しい牛肉! と言う噂さぁ」

「それは素晴らしい!OO(ダブルオー)ビーフですね」


僕は軽口でジョークを放つが、すべった!か。


「だぶるおお?」

「はい…」


ロマイシズは発泡酒を飲んで思案すると、陽気に言った。


「気に入ったッ! その商品名で売り出すさぁ」

「へっ、えぇっ?」


急展開についてゆけず、僕らはロマイシズの話を聞く。彼女の牧場では食肉用に牛の放牧をしており、今回の騒動で牛肉を提供したが、バオウの信用に代金は後払いで良いとの契約条件だった。今回の事件で噂と評判になったOO(ダブルオー)牛肉を目玉商品にして、王都トルメリアに出店するそうだ。


「そこで、ひとつ頼みがあるのだけどさ、良いかね?」

「…」


僕はロマイシズの頼みを聞いた。





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