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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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042 強敵に合わせて

042 強敵に合わせて





 僕らは王都トルメリアを出て北の原野へ向かっている。私立工芸学舎が手配した馬車に乗り町の北門を出るとそこには、王都の食卓を支える農地が広がっていた。馬車は街道を外れて牧歌的な景色の中を北へ進むのだ。


整備された農地を抜けると開拓地と呼ばれる、幾分か人の手が加えられた土地が広がる。開拓地では森を切り開き、灌漑用水路を引いては農地とする土木工事が盛んだ。また魔物の被害に対処する為にも警備隊の詰め所があった。


さらに開拓地を抜けて北部へと進むと人の手が加わらない原野があり、そのの先には魔物の森や魔境と呼ばれる荒野が広がっていた。


「開拓地の先の荒野には怪物の(ぬし)と呼ばれる大怪物がいるらしいです」

「僕は、魔境の大怪物と聞いたが…」


彩色のオレイニアが言うのに、エルハルド偽子爵が応えた。


「その大怪物は巨人のように大きくて…二本の尻尾を振るい北の軍勢を打ち払ったとか…」

「巨人族か?…オーガ族か…」


泥濡れのディグノがひとりごちる。


「水の妖術で洪水を起こして軍勢を壊滅させたとの噂もあります」

「そりゃすげえ!」


修行僧のカントルフが興奮して言うが、オレイニアは皆を宥める様に付け加えた。


「残念ながら、この先は原野があるだけですわ」

「…」


魔法競技会では攻撃魔法を使う為にも、他人の迷惑にならず広い場所が必要だ。恒例であれば、学校対抗戦は一日の開催であったが、今年は王立魔法学舎の要請で追加の開催日程があった。


追加開催は初戦の勝利チームのみが集められている。それで、私立工芸学舎に所属する僕らは追加開催を受ける事と引き換えに、いくつかの条件を提示していた。


まず、追加開催では学校対抗戦ではなくクジ引きで対戦相手を決める事。試合時間を短めにして一日で最大4試合を行う事など。体力配分を考えないと優勝は難しいだろう。


今後は、交代要員に補欠の選手も増員したい所だが…その提案は見送られた。僕ら7人と相手チームの王立魔法学院の7人は馬車を降りて別々に作戦会議する。


審判員が来て会場の地形と概略が描かれた地図をそれぞれのチーム代表に手渡していた。


「この地形だと西の方が…」

「川を利用して…」

「要塞化の土が問題だ…」


両チームともワイワイと集まって作戦会議を行う。会議中の音漏れ防止は風魔法を使うエルハルドの担当だ。いつもと違う真剣な顔をして、風魔法に集中しているのだろ。


作戦会議の時間が過ぎて審判員が両チームの間に銅貨(コイン)を投げた。銅貨(コイン)は相手チームが先攻を示す。僕らは守備陣地を選び配置に着くため出発した。準備の時間が過ぎると試合が始まる予定だ。


「防衛の時間が少ないから、足止めを頼むわ」

「はい。行って マイリマス♪」


オレイニアが指揮して言うのでリドナスが楽しそう応じた。


「僕が付いているから、大丈夫さ!」

「気を付けてね」


エルハルド偽子爵が請け負い…足止めに向かうのを彩色のオレイニアが見送る。基本的に守備側は時間切れまで耐えるか、反撃して獣球を奪うかの作戦となる。


泥濡れのディグノが泥の壁を作り僕が硬化で固めて補強する。今回の守備陣地は沼地が近い。修行僧のカントルフはひとり別行動で水筒への給水作業をしている。…かなり大き目の水樽を用意しているのだ。


オレイニアは土の魔法も使えるので、森の妖精ポポロと泥遊びの最中である。


………


王立魔法学院の5人は防衛陣地に、おそらく土魔法のひとりを残して進んでいた。


「前方に川が見えるぜ!」

「対岸に注意しろ!」


先頭の派手な鎧の男が報告するのに指揮官と思われる男が指示した。王立魔法学院では貴族趣味と見える派手な防具が流行しているらしい。


「ヤツら反撃してくるかしら…」

「どうかな?…【風圧】」


細身の女が言うのに応えながら、細身の男が風の魔法で獣球を前方に押し進めた。どうやら川の浅瀬を渡る様子で、…斥候だろうか…獣球と並走する形で派手な鎧の男が浅瀬を進み川を渡る。


先頭に続く二人は交互に風魔法で獣球を進めている。


「あとひと息で川を越えるわ…【突風】」

「今だ!【風刃】」


細身の女が風魔法を獣球に当て、川を越えようとした瞬間を見計らって、別の角度から風の刃が進路へ割り込んだ!…待ち伏せかッ。脇の藪からエルハルドが姿を現す。


「やあ~やあ~、我こそは天才軍師! エルハルド・シビリアンだッ」

「ぷぷっ!…」


エルハルドの口上に神官服の女が噴き出して笑うが、指揮官の男が喝破する。


「偽子爵ごときがッ 何用かッ?!」


しかし些事には構わず、エルハルドが川に落ちた獣球に向けて風魔法を放つ。


「お前たちの進軍はここまでだ!【風刃】」

「そうはさせん!」


先頭の派手な鎧の男が河原を走り風魔法を遮った。風の刃が鎧に弾かれる!


「なんだと!…魔法に対する防御の鎧か?」

「ハッハッハ、我らの鉄壁の布陣は抜けまいて!」


指揮官の男が豪語するが、前衛の三人が優秀なのだろう。エルハルドひとりでは足止めも難しい。その時、川面に浮いていた獣球が流れに逆らって走り始めた。…それは想定外の挙動と見えて…


「良いぞ。リドナス!」

「わ、バカ野郎! すぐに止めろ!」


どうやらリドナスが水中から獣球を操作しているらしい。前衛の囲みを抜けて獣球が進むと、王立魔法学院の5人は慌てて魔法を乱打した。


「取り付いて足枷となれッ…【水球】」

「水も波も打ち砕けぇ!【火球】」

「くっ!…」

「押し留めよッ…【風圧】」

「待ちなさいぃぃ!【突風】」


獣球を縛っていた水球に特大の火球が撃ち込まれた。指揮官の男は優秀な火の魔法使いらしい。そこへ反応が遅れた風の魔法が流れ込むと、火勢が増して偶然に水蒸気の爆発が起こった。


-BOMF-


獣球の周囲が爆風で吹き飛ばされる。水飛沫が辺りに降りしきるが、獣球の動きは止まった。リドナスはどうした!?……我に返ったエルハルドは高木に止まっていたピヨ子に呼びかけた。


「マキトに知らせてくれ!」


足止め作戦は失敗のようだ。




◆◇◇◆◇




 僕らは守備陣地の要塞化を半ばにして持ち場に着いた。ピヨ子の知らせが届いたからだ。ピヨ子の鳴き方でリドナスが川に落ちて、敵が足止めを突破した事がわかった。


前方に王立魔法学院の5人が姿を現した。リドナスの事も気になるが、水場を得意とするリドナスなら大丈夫だろう。派手な鎧の男を先頭に前衛の三人が獣球を運んでいる。速攻の構えに見えた。


守備陣地の前面に構築した防御壁を乗り越えて前衛の三人が進む。派手な鎧の男は意外にも身軽な動きだった。


「マズイわ!…壁を乗り越えられてしまう」


彩色のオレイニアが警告するのに森の妖精ポポロが応じた。


「大地に根を張りて伸びよ…【繁茂】チャ!」

「その手は知っている!【風刃】」


森の妖精ポポロが呪文を唱えると、蔓植物が伸び出して前衛の三人に立ち塞がるが、…意外にも、派手な鎧の男は対抗して風の魔法で蔓植物を薙ぎ払った。


「一気に進むぞ!」

「はっ!」


派手な鎧の男は前衛のふたりと獣球を伴って防御壁を乗り越えた。そこは沼地らしく至る所に泥濘があり、僅かばかりの緑の草地が沼の足場となっている。


「今だッ!」

「…ずべらっ?」


僕が合図するとポポロが操作して緑の草地は沼へ沈んだ。…罠かッ!…前衛の三人は足を取られて泥濘に沈み始めた。


「獲物を絡み取れ…【枝振】チャ!」

「な、何だこれは! 足に絡み付くっ…」


緑の草地に見えた蓮植物は(あらかじ)め、オレイニアとポポロが沼地に植えていた種子だ。それに成長の魔法をかけてい操作しているのだ。前衛の三人は腰まで泥に埋まり行動不能となる。これを見てオレイニアは審判員を通して敵方の指揮官へ休戦を申し込んだ。


「この防衛は、私たちの勝ちですわ! 休戦いたしましょう」

「仕方あるまい……受諾する」


オレイニアの勝利宣言に指揮官と見える男が渋々に頷いた。…賢明な判断であろう。


一時休戦となり戦闘を止めて前衛の三人を沼地から救出する。しばらく既定の休戦時間をおいて後半戦が再開される予定だ。僕らが荒れた防衛陣地を再構築しているとエルハルドとリドナスが戻って来た。


「面目ない、足止めに失敗した」

「主様、すみません…」


僕らは二人を出迎えた。オレイニアはエルハルドに暖かく声をかける。


「エルハルドも、ご苦労さま。こちらの防衛作戦は成功したわ」

「あぁ、リドナスも無事で良かった~」


「…」

「ん♪」


二人は怪我もなく無事の様子に安堵する。


次は僕らの反撃だ。




◆◇◇◆◇




 僕らは敵方の防衛陣地を丘の上から見下ろしていた。 敵方の陣地も低地にある池の畔に構築されている。獣球を打ち上げて上空から得点を狙うのは難しいだろう。


敵方には少なくとも三人の風の魔法使いがおり、空中戦は敵方が有利と予想される。しかも進路の途中には妨害工作も無くて、全ての戦力を防衛陣地に集中していると見える。


さらに、僕らが防衛陣地を攻略する際には、獣球を奪うため反撃に敵方が出て来る事もありうる。


「カントルフ先行して! エルハルドは周辺の警戒をッ」

「「 おう! 」」


オレイニアが矢継ぎ早に指示を出すのに僕らが応じる。


「リドナスとマキトは、私に付いて来て!」

「「 はいッ 」」


カントルフは大樽から水を取り出して振り回し始めた。…攻城戦の構えだ。エルハルドは風の魔法で音を集めて伏兵の存在を探るようだ。敵方の防御壁へ近づくが相手の反応は無い。基本戦術の通りにカントルフが水の大槌を振るい最初の防御壁を粉砕する。


やはり水場が近い影響か土の防御壁は脆く崩れ去る。この品質では防衛線も長くは保てないだろう。僕らは順調に防御壁を破壊しながら、敵方の防衛陣地を攻略した。


その時、突然に大量の水蒸気が原野に立ち込めた。オレイニアが味方へ指示する。


「霧の魔法だわ……敵襲に警戒して!」

「右から風ッ!」


エルハルドの警告が飛ぶ。予想通りの敵襲だろう。僕は獣球の周囲の土を形成して獣球を固定した。多少の風では揺るがない様ようにっ!


「左からも風がッ!」


風の刃が霧を切り裂き獣球を直撃当するが、…びくともしないで衝突音のみが響く。辺りは濃い霧のため非常に視界が悪くなっていた。


「正面ッ?!」

「遅いぜッ!【風刃】」


エルハルドは叫ぶが、正面の霧を押して泥に濡れた派手な鎧の男があらわれた。…まずい、至近距離からの風魔法で獣球が弾かれた。


「吹き飛べ!【爆風】」

「何をッ…」


既に呪文を用意していたオレイニアが爆風で獣球を前方に弾き出す。


-BSHU-


爆発音に遅れて、獣球が池に落ちる音がした。


「っ!…」

「どこに飛ばしている! 目標地点から外れているぞッ!」


派手な鎧の男はニヤリと笑った。


しかし、敵方の防衛陣地の中では混乱の気配が伝わる。


「どうなっている!【火球】」

「止めてぇ!【水幕】…同士討ちになるわよ」


-PIYYYPIYYY-


突然に得点を告げる笛の音が鳴り響く。いつの間にか、僕の傍らに居たリドナスは姿を消していた……どうやら上手くやったらしい。


僕らは霧の中で鬨の声を上げた。




◆◇◇◆◇




戦闘を止めて、霧が晴れてから僕らは目標地点へ向かう。そこには、誇らしげに立つリドナスとずぶ濡れの男と女がいた。


「やられたよ……突然に後方の池が増水して獣球を押し込まれた…」

「…水の使い手としては、お恥ずかしいですわ」


敵方の指揮官と見える男はずぶ濡れのまま降参の意志を示した。神官服の女もずぶ濡れで体の線が浮き出ている。…鑑賞用としては悪くは無い。


霧の中で襲撃を受けた時に、いち早くリドナスは防衛陣地を迂回して裏手の池に飛び込んだ。事前の打ち合わせ通りに、オレイニアが爆風の呪文で獣球を池へ放り込むと……後はリドナスが大量の水を使って目標地点に獣球を叩き込み…見事な連携だった。


「リドナス。良くやった!」

「はい、ぬし様っ♪」


僕は素直にリドナスを称賛した。


………


残り時間は敵方の攻撃があったが、泥塗れのディグノが構築した要塞は良く耐えて時間切れとなった。結果として僕らは20対0で勝利したのだ。


ここで昼の食事休憩となる。


僕は最新の蒸気鍋を使い蒸しパンと肉野菜のスープを振る舞った。今日も大活躍したリドナスには特別に魚の干物を焼いてあげる。蒸しパンも肉野菜のスープもチームの皆には大好評だった。そうして最新の蒸気鍋を宣伝しつつ楽しい昼食となった。


しかし、そこへ不穏な知らせが届いた。


「他の学生が、魔物の群れに襲われましたッ! 至急、学生は避難して下さいぃ!」


「なっ、何んだってぇ!?」

「魔物の群れがッ?」

「かはっ!」


緊急事態に、僕らは避難を余儀なくされた。





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