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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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041 貴族の家系

041 貴族の家系





 僕らはチームの守備陣地にいた。守備陣地は山隘の谷間にあり、ディグノが土魔法を使い要塞化の作業を進めている。


僕は要塞の前面に追加の防壁を作製し、防壁と要塞の間には森の妖精ポポロが種を撒いてる。守備側の基本戦術は持久戦であるが、機を見て獣球を奪えば攻守が入れ替わる可能性もある。


「僕に任せておきたまえ。華麗に獣球を奪って見せよう!」

「エルハルド、あなたの配置は高台よ」


修行僧のカントルフは水魔法を使い過ぎて魔力不足のため、エルハルド偽子爵と交代していた。彩色のオレイニアが注意すると、エルハルドは気障な仕草で言った。


「分かっている。指揮は君に任せた」

「…それよりも、敵の接近を見逃さないで!」


エルハルドは意気揚々と高台に向かった。僕は追加の防壁を硬化しつつ尋ねた。


「壁面を【硬化】… オレイニアさん。僕の作戦で良いのですか?」

「うん、カントルフは(ちから)押ししか出来ないし。ディグノは要塞バカだし……正直、助かるわ」


僕はこそばゆい感覚を笑って誤魔化した。


「ハハッ」

「冗談じゃないのよ。ポポロちゃんも戦力になっているし…ありがとう」


真剣な表情でオレイニアが言うので、見つめ合ってしまった。


「そういう話は、勝ってからにしましよう!」

「ええ、そうね」


その時、高台からエルハルドの叫び声がした。


「敵襲ッ! 前方!」


僕らは急いで持ち場に着いた。




◆◇◇◆◇




王立魔法学院の6人は全員が姿を見せた。先頭には全身を防具で固めた男が見える。魔法競技では武器の使用に制限はあるが、防具の使用は事故防止の為に推奨されている。

後続には、軽装の防具を装備した二人の男が護衛として付く様子だ。問題の獣球は彼らの中央にあり、全方位からの攻撃を遮断する布陣に見えた。


魔法競技では相手への直接攻撃はルール違反だが、進路上の障害物の排除と獣球への魔法攻撃は許可されている。


「シーラ! 頼む」

「大いなる水の流れよ…【水球】」


癒し系の女と見えたシーラが呪文を唱えると、水球が流れるように三連打された。正面の防御壁の一部が破壊されても、硬化の魔法で補強した土の防御壁は予想より頑丈だった。


「ドーガ! 突撃せよッ!」

「「「 おう! 」」」


そのまま正面突破らしく前衛の三人が防壁へ突撃しする。先頭の防具の男ドーガは水魔法を両手に纏いて真正面から防壁を破壊してゆく。…これは強力な攻撃だ。続く二人も土の魔法で防壁を分解しながら進む様子に…これも意外と撃退は困難だろう。

ルールでは相手選手への直接攻撃は禁止されており、通行を阻むにも……要塞を突破されるのは時間の問題と言える。前衛の三人は既に防御壁を抜けて、要塞の外壁に取り付いていた。


「いいぞ、そのまま前進だ!」

「はい!【風圧】」


後衛の女が風魔法を当てて獣球を進める。その時、前衛の三人の背後に蔓植物の繁みが立ち上がった。森の妖精ポポロの撒いた種が発芽したらしい。魔法の蔦植物がそのまま獣球を押さえにかかる。


「温いな!【火球】」

「甘いわ!【風刃】」


蔓植物に火球が直撃して焼かれてゆく……対抗して水の魔法が撒かれても、高速に飛来した風の刃が蔓植物を切り払うッ。要塞の前面では、追加の土壁が立ち上がるが…的確に破壊されて…敵方の前進を許していた。


「進め! このまま、ゴールだ!」

「はい!」


先陣の三人は蔓植物の間隙を抜け、要塞の外壁と瓦礫を踏み越えて、ついに要塞の中心部へ獣球が到達した。


-BOFM-


高台の方で爆発音がして?


「ぅぅぅう、わあぁぁぁぁー【突風】」

「何にぃ!?」


猛烈に三人の中心へ飛来したのは人間砲弾だッ!…勇者エルハルドが風魔法で獣球を弾き飛ばした。


「振り払え!【枝振】」

「馬鹿なッ…」


補助(アシスト)に森の妖精ポポロが呪文を唱えると、燃え残った蔓植物が枝を伸ばして、…獣球を遠方に弾き飛ばした。


「審判! ゴールはッ?」

「っ!」


獣球に並走していた審判員は首を左右に振る。ノーゴール! 得点に成らず……好戦的な恰好の男が怒鳴る。


「おかしいだろッ! ここが、目標地点のハズだ!」

「これを見てくれ……【粉砕】」


僕はタネ明かしをする為に内壁の一部を粉砕した。巨岩に偽装した土壁の一部が崩れて要塞の奥が見える。そこには、目標地点とそっくりな造りの、本当の目標地点があった。


「なんだとッ! 卑怯なっ……」

「騙されて、最後に気を抜いたのは、あなたのミスよ!」


高台から戻って来たオレイニアが応えるも、好戦的な男は言葉を失った。今頃は、リドナスが獣球を敵の陣地に運んでいるだろう。


僕らは敵から獣球の奪取に成功して得点を追加した。




◆◇◇◆◇




その後は時間切れまで防戦して、40対0で勝利した!…1ゴールは20点である。


魔法競技会は王立魔法学院と私立工芸学舎の対抗戦らしく全32チームのうち、私立工芸学舎の勝ちは3チームのみだった。それでも、僕らは優秀チームとして報奨金の三分の一を得た。森の妖精ポポロは金貨の袋を持ってホクホク顔だった。私立工芸学舎の表彰式では彩色のオレイニアが代表として表彰されたが、王立魔法学院とは別の会場である。


その後、祝勝会ではチーム毎に集まり健闘を称えてるらしい。


「あなた達も、今後は注目されるから気を付けてね」

「はい?」


そんな祝勝会の席で、彩色のオレイニアが言うのだが、…


「魔法学院に勝てる実力者は貴重なのよ」

「はぁ…」


いまいち実感が無い。


「あなた達が受講生にいれば、教員の評価も上がるしぃ」

「なるほど」


いろいろと面倒な予感しかしない。


「貴族の面子とか体面とか面目もあるから、注意する事ねッ!」

「あわわぁ……面倒ですねぇ」


オレイニアの話では特待生としての優遇特典もあるらしい、さらに特待生の在籍は、教員の評価と給与にも反映される要素だとか。この後は、王立魔法学院でも軍事教育に選抜教育された「貴族の子弟をも超える実力者」として注目されるらしい。


自身はそんな大層な者ではないと言いたい所だが…


「はっはっは、僕に任せておきたまえ!」

「流石に! センタク鬼とカクハン鬼を従えたマキト殿だ!」

「何ですか!? それは?…」


魔法競技会を終えて、修行僧のカントルフの態度が変わった。エルハルド偽子爵は放置しておこう。


「…僕はそう言って啖呵を切ったのさ…」

「地元の魚猟者の間では有名な噂だが…」

「えっ!?」


なおも、表彰式の後に勝利を祝う席でも仲間内に絡まれた。リドナスは珍しい料理に夢中の様子で護衛には成らない。


「…お前たちの…好きにはさせない!…」

「漁師に海の怪物を退治した話を聞いたぜ!」

「むむむ…」


カントルフは酔った絡みか。エルハルドはいつもの調子に見えて、オレイニアと乾杯している。


「その時の…鬼の一体が、リドナスだろッ…むぐぐ…」

「変な噂を流すなよ!」


噂話に興じるカントルフの口を塞ぐ。海の怪物を退治したのは水の神官たちの巨大な神像だ。カントルフは水の神官の見習いらしいが、事件の真相を知らないのだろうか。


泥に塗れた男ディグノは土の建築家の弟子だと言うが、無口な男だ。


「是非、マキト君を師匠に紹介したい…」

「ありがとうございます」


それはディグノの賛辞らしい。実際には彼の要塞建築のおかげで、偽のゴール地点が完成したのだ。本当の功労者はディグノの方だろう…上空から偵察すれば、まる見えの罠だが…魔法競技では屋根の建築は禁止されているのだ。


オレイニアが発泡酒を抱えて絡んで来た。


「彩色だなんて人を馬鹿にして! あいつらの鼻を明かしてやったわ」

「だいぶ酔っていますねぇ」


ディグノが冷静に評価した。


「いい気味ね! 貴族の家系に泥を塗りなさい…んぐっ」

「そんなに嬉しいですか?」


オレイニアが楽しそうに発泡酒を飲む。


「…もっと派手に…爆破してやるん…だからッ…ぐぬぬッ」

「オレイニア、しっかりして」


かなり足取りが危ういオレイニアの面倒を見ている、この中ではディグノが一番の苦労人の様子だ。彼の話では、オレイニアは貧乏貴族の出身だが魔法の才能があったので私立工芸学舎に入学したそうだ。

実際に火・水・風・土の四属性を使うのだが、その全ての威力は低い。付いたあだ名が「彩色」だとか。良い意味では「多彩な魔法使い」だが、馬鹿にして…帆布に色を付ける程度の威力の魔法!…との揶揄もあった。


「私は良い意味で、彩色と呼びますケド」


ディグノは幸せな笑顔で溶けたオレイニアを介抱しながら呟いた。


見ると森の妖精ポポロは既にお(ねむ)の時間の様子だ。金貨の袋を大事に抱えてニマニマと良い夢を見ているのか。()の魔法は多くの魔力を使うらしいので、…お疲れさま。


報奨金は7人で均等分に分けた。リドナスにも財布を持たせよう。読み書きと計算の実力も付いたかな。


僕らは祝勝会を楽しんだ。




◆◇◇◆◇




 次の日、寝ぼけ(まなこ)で顔を洗っていると工房に獣人の戦士バオウが訪れた。リドナスとポポロは朝から受講している時間のハズだが、僕は冴えない顔でバオウを見た。


「GUF 元気で やっているか」

「はい。お久しぶりです」


バオウは、いつものように獣臭い笑顔で言った。


「GHA これは マキトの 取り分だ」

「えっ?」


テーブルに金貨の入った袋を置く。


「GUF 迷宮で 手に入れた 黄金の剣が オークションで 売れた」

「なるほど」


以前に迷宮で手に入れたお宝の黄金の剣が売れたので、その時の仲間たちと山分けすると言う。他にも迷宮で救助した探索者の謝礼金も含まれるとか…三か月も前の話をした。


わざわざ律儀な者だ。


「GUU その黄金の剣に ナンクセが 付いている」

「難癖ですか…」


バオウの話では、オークションで地元のトルメリア王国の貴族が黄金の剣を落札したそうだ。ところが、その黄金の剣を見て北の大国が言うには、昔の英雄が北の大国から持ち出した物だと……それを理由に、北の大国がトルメリア王国に対して「黄金の剣の返還」を求めているらしい。他にも風の魔法使いシシリアが港町に来ているとか、剣士マーロイの奥さんと赤子の話とか探索者たちの近況を聞いた。


僕は思い付いて工房に向かうと、粘土の細工をして薄く伸ばし…


「【形成】…【硬化】…【熱気】」


完成品は赤子が使うガラガラだ。中は空洞で金属形成の練習に作った鈴を入れた。粘土の焼き物風の仕上げだが、赤子の(ちから)では壊れない頑丈な物だ。僕は素朴なおもちゃをバオウに託す。


「マーロイさんの赤ん坊にお土産です」

「GWA マキト 腕を 上げたな…」


バオウはガラガラの出来より僕の手際の良さに関心した様子だった。


僕はバオウと分かれて学舎へ向かう。





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