表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
46/365

040 魔法競技会

040 魔法競技会






 僕は専門科目の魔道具工学を受講している。リドナスは本人の希望で薬草学1を受講中のハズだ。魔道具工学の講師は現役の職人らしく実践的で面白い講義だった。


「これを見てくれッ、魔力回路の基本は入力・変換・出力だ!」


壁面に火の魔道具の模式図が張り出される。


「まず、魔力の(みなもと)は魔術師でも魔晶石でも同じく、そこから引き出した魔力素を用いるのだが…」


講師の職人の手には火の魔道具があり、彼は魔晶石の実物を見せるために、格納部分を開いて取り出す。


「普通の魔道具は入力として、魔力素を魔力回路へ注ぐと、これを変換して魔法の現象を再現する仕組みだッ」


彼は空の魔晶石の格納部分を通して、自身の魔力素?を器用に流して見せた。とても容易な技とも思えないのだが、見事な魔力操作だろう。


「そうして、発生した魔力を魔力回路の出力先へと誘導するのだが、むむむむっ…」


漸く、火の魔道具の切っ先に火が灯る。この他にも、魔力回路を使っての魔力の分岐や増幅など、魔力回路の基礎を学ぶ講義内容だった。


………


僕は有意義な受講を終えて、食堂でひとり鳥肉の定食を食べていた。リドナスは医療実技の研修科目だった。そこへ、僕に話かける者があった。


「あなたに、話があるのッ…」

「おい、よせっ!」

「彩色の…」


見ると、眼前にひとりの女子とふたりの男がいた。なにやら揉めている様子だが…


「もう決めたじゃないの!……あら、ごめんなさい。私はオレイニア」

「?!…」


オレイニアと名乗る女子には見覚えがあった。構内を見学した際に砲撃の訓練をしていた女子のひとりだろう。後ろの男は神官服に似たデザインのローブを着た男と、茶色の作業服で泥に塗れた男だった。


「あなたが、マキトさんねッ」

「はい。何か用ですか?」


彩色の女オレイニアが後ろの修行僧の様な男を制して言うので、僕は早めに用件を済ますために聞いた。


「魔法競技会に出てみないかしら?」

「えっ…」


差し出された用紙を見ると魔法競技会の募集要項だった。オレイニアが微笑む。


「正確には、あなたとリドナスさんにも参加して欲しいのよ」

「…」


魔法競技会は6人で1チームらしく、追加の1名は控え選手か監督としての登録が出来る。オレイニアの話を聞くと、彼女たちは昨年のチームから卒業生が抜けて新人を集めているらしい。

参加条件としては「水の治療魔法を使える者は1チームに2名以上の登録が必要」との記載があり……そうか、リドナスは水の治療魔法も得意だから…。オレイニアが先手を打つ。


「優秀チームには工芸学舎から、報奨金もでるわ!」

「ふむ、……それで、他の選手は?」


彩色の女オレイニアは多彩な表情を見せながら言う…表情も彩色で興奮した様子か。


「私と後ろの二人……あと他に一人か二人は募集中よッ」

「なるほど…どうするかなぁ…」


おり良く、リドナスと森の妖精ポポロが食堂に現われた。僕は迷いながらも、リドナスに相談してみた。


「リドナス、魔法競技会に出て見ないかい?」

(ぬし)様が お許し 頂けるなら ゼヒニ♪」


そうか、リドナスが出たいと言うなら良い機会かも。と言う訳で僕は決断する。


「分かりました。僕らも参加します」

「あたいも参加する。チャ!」


意外にも、森の妖精ポポロが喰い付いて来た。目に通貨記号が浮かんでいるのは……何やら魔法競技会の募集要項にある「報奨金」のところを丹念に読んでいる。


こうして僕らは魔法競技会に参加する事になった。




◆◇◇◆◇




 魔法競技は6人の相手チームと原野にて対戦する競技だ。


まず前衛として、彩色の女オレイニアは火・水・風・土の四属性の魔法を使うエースだが、治療魔法は苦手との事だった。修行僧のカントルフは水の神官見習いらしく、学生の身分でも水の魔法は得意である。

そして、中衛には僕と森の妖精ポポロがいる。後衛のディグノは土魔法が得意で、今も守備陣地の泥に塗れて作業中だろう……僕らが攻撃している時間にも守備陣地を構築しているのだ。


リドナスが後方から報告に来て、準備が出来たらしい。


「オレイニアさん 準備が 出来マシタ♪」


あと控え選手兼監督としてエルハルド偽子爵が参加していた。エルハルドは新入生の代表演説をした男で、魔法も優秀だそうだが、決定戦力との事で控えている。


獣球(じゅうきゅう)の運びは私とカントルフで行くわ」

「うむっ」


彩色の女オレイニアがチームを統率しているらしく、修行僧のカントルフが頷く。まずは、経験者の実力を見せて欲しい。


「マキトさんとポポロちゃんは私たちの援護よッ」

「「 はい! 」」


僕と森の妖精ポポロは前衛を追って後に続く。


「リドナスは自由に動いて。援護よろくし!」

「ワカリマシタ♪」


何だか、リドナスは楽しそうだ。そう言うと彩色の女オレイニアは風の魔法を獣球(じゅうきゅう)にぶつけた。獣球(じゅうきゅう)は魔法耐性のある魔物の革で出来た、人の頭ほどの大きさの球だ。

この獣球(じゅうきゅう)に何らかの魔法を当て、制限時間内に相手チームの守備陣地に獣球(じゅうきゅう)を放り込めば得点となる。相手チームは王立魔法学院の6人だが面識は無い。この広い原野のどこかで待ち受けているだろう。


オレイニアとカントルフが交互に魔法を獣球(じゅうきゅう)に当てて進むと、原野に土壁の防衛拠点が見えた。


「変ねぇ、…まだ、相手の守備陣地には早いのだけど…」

「妨害用の砦ではないか?」


左側は森林で隘路をはさみ、右側は岩山となる要衝に土魔法の壁が立ち並んでいる。オレイニアとカントルフが進路を相談して……迂回するのか、強行突破を図るのか。

魔法競技では相手選手への直接攻撃はルール違反だが、進路の障害作成と獣球への攻撃は許可されている。獣球に並走している審判員の監視もあり、危険な攻撃は抑止されているのだ。


試しに、カントルフが土壁へ水球を投げると火球の応戦があった。


「やはり、相手の妨害があるわね…」

「制限時間は大丈夫か?」


こんな所で足止めを喰うのは、本陣へ迫るにも時間の浪費として良くはない。僕らは強行突破する為に行動へ出た。




◆◇◇◆◇




王立魔法学院の二人は防衛拠点に潜んでいた。


「平民のヤツらが来たぞ!」

「分かっているわ」 


男は筋肉質の体を日に晒して自身たっぷりに言った。小柄な女は不安そうな顔だ。


「俺がじっくりと相手してやるぜっ」

「きゃー」


頭上から水魔法が飛来して二人を濡らす。男は戦いの熱に興奮して来た様子で、筋肉の躍動を見せる。女は火魔法で応戦した。


「はぁ、はぁ、はぁ、(*´Д`)」

「いやーん【火球】」


土壁の隙間を抜けて水球が破裂した。応急処置として土壁を作る。


「どれどれ…【土壁】」

「美女、びしょ濡れよぉ~」


冗談を言う余裕があるのか序盤は前戯とばかりに、土壁が隆起して相手の体力を削り焦らしている。


「いい具合じゃねーかっ」

「ぐすん。ひどいわ……初めてなのにぃ!」


女はチームの新人だろうか水に濡れて色付く。突然に、スパーン!と良い音がして、男は気合いに自分の頬を打った。


「一発入魂だぜッ!」

「痛いッ!」


赤く腫れた男の頬を見て女は顔を顰めた。その行為には、どんな意味があるのか、男はニヤリと笑みを漏らした。


「それ、それっ【土壁】」

「あぁ~ん、来てッ、来て!」


男がさらに土壁を築いて、波状攻撃に進路を妨害する。興奮した様子の女は妖艶さを増した。


「根性を入れるぞ!」

「もっとよ、もっと来てぇ~【火球】」


女は水魔法の妨害に合わせて火球を放つ……序盤に無駄撃ちは魔力の浪費ではないか。男は渾身に土魔法を撃ち……(あらかじ)め設置した落とし穴の罠へ敵を誘導する。


「おらおらおら~【土壁】」

「は、はぁはぁ、もうダメ…許してぇ~【火球】」


渾身に最後の火球を放つが、敵は落とし穴の罠を無事に乗り越えたらしい。見ると落とし穴の跡地には見慣れぬ蔦草が垂れていた。


「チッ、行ったか……」

「はっ…、はぁ、はぁ……」


ガクガクと膝を震わせて、女がくずおれるのを筋肉質の男が支えた。魔力不足の症状だろう。


「びくびく、震える……お前も可愛いぜぇ!」

「とッても……良くッて……よっ……うふふ」


気障なセリフに笑いを堪える女と魔法競技の前哨戦を遣り切って、爽快な笑顔を見せる男がいる。足止め作戦には失敗したと見えるが、予想外の足止めに時間を取られた。


こうして、マキトたちは手間をかけ、防衛拠点を突破した。



◆◇◇◆◇



彩色の女オレイニアは風の魔法を獣球にぶつけ手早く進む。風魔法は軽くて早いので、獣球を運ぶには最適だ。しかし、風魔法は障害物を突破するには破壊力が不足であり、他の魔法の補助が必要となる。代わりに水魔法を当てて獣球を運ぶ方法もあるが、連続使用はお勧め出来ない。

土魔法は最も重く発現も遅い。そのため、獣球を運ぶよりも拠点防衛や妨害の罠を張る事に用いる。その土壁で作られた拠点を破壊または、獣球を押して運ぶには水魔法の重圧が有効だった。


火の魔法は発現が早く重さも無いので、相手の水魔法を相殺し風魔法を熱気で妨害する。また、水魔法は水を生むよりも水を操作する方が容易なため、水筒を持参する事が許可されている。

その他の樹木魔法では現地の草木を利用するか、植物の種子を持参する事が許可されている。そのため、森の妖精ポポロは蔦植物の種を使い…おかげで、獣球が落とし穴へ嵌る罠を回避する事が出来たのだ。


しかし、現在の僕らは防衛拠点を突破する為にかなりの水を消費していた。これは水筒の残りが心配だろう。


「カントルフ、残りの水は?」

「あと、水筒一本だが……回収した分で、今は廻している」


カントルフが水魔法を獣球に当てるが、威力が落ちている。火魔法で蒸発した水分は回収が面倒だった。


しばらく進むと相手の守備陣地が見えた。あの中にゴール地点があるハズ……僕は物陰でピヨ子を呼んだ。


「ピヨ子!」


◇ (ご主人様があたしを呼ぶ声が聞こえる…)


上空からピヨ子が降りて来て報告する。魔法競技でも伝令や偵察用に使い魔も許可されているのだ。


「ピヨ、ピフ、ビッ、ピヨピヨロー」


◇ (水、風、土、わかんない~と応えた。あたしには簡単な符丁だわ)


ピヨ子の報告に頷いて僕は告げる。


「水、風、土、と不明です」

「「「 凄いっ! 」」」


僕はピヨ子とは簡単な意思疎通が可能で、ピヨ子も単語を覚えた様子だ。おかげで、僕は念話(ねんわ)の魔法の帽子が無くても、ピヨ子の鳴き方で意味が分かる様になっていた。


「しかし、その情報では相手の作戦は読めないわねぇ…」

「オレイニア、相手は序盤の妨害と…持久戦をして、時間切れが狙いだろう」


オレイニアがカントルフの予想を考慮して作戦を立てる様子だ。


「ええ、カントルフが言う通りなら、早めに攻勢に出ましょう」

「「「 おう! 」」」


そこで、僕はひとつの策を提案した。ピヨ子を飛ばして、守備陣地の偵察へ向かわせる。




◆◇◇◆◇




守備陣地には王立魔法学院の四人の選手がいた。


◇ (相手の陣地は幾重にも土壁を立てて迷路のように入り組んでいる…しかし上空から見渡せば…)


「あれは、使い魔よ! 敵襲ぅ!」

「「「 !… 」」」


斥候と見える女が上空に飛来した鳥を見て叫んだ。ピヨ子は低空を旋回した後で西の空へ飛んで行く。


◇ (あたしは、正確な目的地(ゴール)を確認したわッ!)


「西側にも気を付けて!」

「「「 おう! 」」」


四人の選手が持ち場に着くと、守備陣地の手前にひとりの男があらわれた。ご挨拶か強行偵察だろうか。


「僕たちの陣地はそう簡単には破れませんよ」

「期待しているわ」


参謀風の痩せた男が自信をもって言うのを癒し系の女が応えた。


「気を抜くなっ! 水球が来たぞ!」

「!…」


好戦的な顔立ちの男が注意を飛ばすと、真正面から水魔法が防壁に直撃した。最初から全力の様子だ。痩せた男が土魔法で修復し、好戦的な男が即座に火魔法で応戦する。


「立ち上がれ…【土壁】」

「焼き尽くせ!【火球】」


「俺の前に姿を見せるとはッ! あの男、5回は死んだろ!【火球】」

「ふぅ、戦争ではないのよ……あなたの実力は知っているわ」


好戦的な男が怒鳴るのを癒し系の女が宥めた。戦争では攻撃の花形である火魔法を防戦に使用する事に、男は苛立っているようだ。


真正面に立つ水魔法の男は、やたらと水を振りまいている。早々に水か尽きるだろうと。その時、突如として守備陣地の正面へ蔓植物の繁みが出現した! 水の魔法が蔓植物に当たって砕ける。


「やつら、攻撃の手順も知らんのかッ」

「西側から 敵襲ぅ!」


あわや、斥候の女が警告する際中にも……西側から複数の水球が降り注いだ。バチャ、ボチャ、バタタタッ、球の大きさは然程も無いが数は多い。


「正面は陽動だ! 西側を守れッ!【火球】」

「はッ!…」



◆◇◇◆◇



全ての準備は整った。


僕は戦いの喧騒に紛れて土壁を作り裏側を斜面で覆い補強する。


「土壁を斜面にッ【形成】」


森の妖精ポポロが作った繁みにちょうど隠れる高さに合わせて……この構造物を正面から縦に並べて複製する。


「8コ【複製】。7コ【複製】。6コ【複製】…54321」


…っと、出来たッ! 


僕は合図を送る。


「純粋な水球 焦熱の火炎 大気の隔壁をもて 着火せよ!【爆風】」


-BOFM!-


オレイニアが完全詠唱で呪文を唱えると獣球が爆風により打ち出された。獣球は砲弾となって瞬時に斜面を駆け上がる。


狙い通りに、発射台を飛び越えて、上空に放物線を描いた獣球が守備陣地へ飛び込んだ。そこは、ピヨ子が偵察時に旋回した中心地点であるッ。


-PIYYY PIYYY-


耳に響く笛の音が2回鳴って双方が魔法の使用を止めた。獣球に並走していた審判員の判定を待つと……どうやら獣球が有効範囲を直撃したらしく得点となった。


僕らは鬨の声を上げた。





--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ