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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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039 王立魔法学院

039 王立魔法学院






 僕は王立魔法学院の中央部に(そび)え建つ大講堂のにいる。王立魔法学院と私立工芸学舎には交換講義の制度があり、それぞれの学生は他校を訪問して受講が出来るのだ。

僕は私立工芸学舎には無い、本来は軍人の養成コースにある魔法戦闘論を受講した。大講堂は貴族や軍人の子弟が大半らしく、それらに混ざり少数の商人や職人の子弟と見える学生がいた。


魔道具のベルが鳴り、講義が始まるようだ。演壇には軍人と見える武骨な講師が登壇した。


「魔法とは戦力である。戦力は武力である。すなわち魔法とは武力である…」


よく通る声は大講堂に据え付けの魔道具の効果か、


「古来より人は魔物と戦い。他国と争い戦ってきた。それは戦争であるッ!」


演壇の上部の壁面に戦争の映像が映された。高価な魔道具だろう。


「戦争で人と人が戦うのであれば、魔法という武力は魔法によって対抗すべきである…」


実用的な軍人らしい考え方だ。


「そこで、火魔法には水魔法で対抗するとお互いの性質を打ち消し合って消耗戦となる」


軍人の講師は独り問答をする。


「では、火魔法に風魔法で対抗すると?…火勢を強める結果となるが…」


それに対して、一人の学生が勇者よろしく手を上げた。魔道具の映像が停止する。


「教官殿、質問があります!」


軍人風の講師は、不快げに学生を見た。その勇者は胸の校章をから推察すると私立工芸学舎の学生らしい。


「…平民の学生に質問を許可した覚えはない」

「私は、エルハルド・シビリアン(偽)子爵の一子でありますッ!」


聞いた事の無いどこかの貧乏子爵だろうか…軍人の講師は渋々に発言を許可した。


「うむ、申してみよ」

「大火であろうと、より大きな風で吹き消すのも可能と愚考いたしますッ」


かの偽子爵は私立工芸学舎の新入生代表で演説した気障な男だった。とても勇者の家系とは見えない。


「勿論、膨大な風で火を消す事は可能だが、相手よりも格段に多くの魔力を必要とする」


ありきたりの質問に興味を失ったか、


「敵を効果的に殲滅するには、より効率的に魔法を行使する必要があるのだッ」


軍人の講師は講義を続ける。


「そのため、魔法の性質と有利不利を知って戦うには…」


その後は各属性ごとの対戦比較と見解の講話だった。ありきたりの講義内容と思う。




◆◇◇◆◇




朝の講義を終えて僕らは学生食堂へ向かった。そこは高級宿かと見える贅沢な食堂だ。定食は銀貨1枚から金貨1枚とあるが……いずれも高い。

次回は弁当を持参したいと思いながら、銀貨1枚の魚定食をつついていると僕に話かける者があった。


「先日は失礼した」

「ん?…」


声の方へ振り向くと腰に剣を佩いた剣呑な女が立っていた。どこの騎士家系だろうか…見覚えがある顔だ。


「工芸学舎の学生とは、気付かず…すまなかった」

「いえ、気にしていません」


謝罪した女騎士は鋭い目付きで僕を見るが、向かいの席に腰かけた。


「王都で獣人を連れ歩くのは、やめておけ」

「…なぜ、ですか?」


女騎士はまじまじと僕を見て言った。


「ふむ、獣人排斥派の活動が活発になっておる…そんな事も…もぐもぐ」

「…」


そんな事も知らぬのかと言わんばかりの態度で肉定食を喰う女騎士がいた。僕は王都の常識には疎いのかも知れないが、それは余計な忠告だろう。


女騎士は魔法戦実技だと言って屋外へと去った。僕は魚定食を平らげて、ひとり午後の受講に向かう。魔法戦略論は一般の教室だ。




◆◇◇◆◇




魔法戦略論の講師は軍人には見えない痩せた風貌の男だが、軍の士官服を着ていた。それなりに実力はありそうだ。


「魔法には火・水・風・土などの属性があり。得意とする戦略は異なります」


講師士官の男が魔法の軍事利用を論ずる。軍人の講師の話は似たように聞こえる。


「まず行軍する上で考える事は、軍をどこに置いて陣地を築くか…」


本陣地でも防衛拠点でも土木工事が必要だとの内容で、各陣地の絵図面が教室の壁面に描かれた。手際が良いのは…土魔法のようだ。


「この様に、土魔法による陣地の構築が役に立ちますッ」


講師士官は土魔法を絶賛する。


「土魔法は防御に優れ、火炎に負けず、軍勢を押しとどめ、風をも通しません」


心なしか、講師士官の男は苦悩を見せるも、土魔法の弱みを吐露する。


「唯一の弱点としては、水の浸食に脆く…大量の水魔法の攻撃には…」


講師士官の講論は続いた。


「この場合の有利不利の差は4対6であり、防戦に限らずとも…」


窓の外を見ると訓練場と見える広場では、あの女騎士が火球を切り捨てていた!…どういう原理か眼を剥く剣技だ。


リドナスも魔法戦実技の訓練にいるハズだが、見当たらない。得意の潜伏術の訓練中だろう。


僕は王立魔法学院での交換講義を終えて帰途についた。




◆◇◇◆◇




帰りは港町の倉庫街にあるアルトレイ商会の店舗へ顔を出す。新製品のミゾレ機はこの夏のヒット商品で記録的な売り上げらしい。発売する毎に在庫は全て完売しており、予約のため入荷待ちの注文商品でもある。キアヌ商会長が営業用の美中年の笑顔でやって来た。


「マキト君、じゃないかねッ!」

「商売繁盛の様子ですねぇ」


僕が応じると、キアヌ商会長はご機嫌の様子だ。


「新製品のミゾレ機の売り上げは好調だ……学業の方はどうかな?」

「順調ですよ」


キアヌ商会長は声を潜めて呟いた。


「…うちでも、独自商品を販売したいものだが…」

「ひとつ、提案があります」


驚くキアヌ商会長に、僕は中身が冷めない水筒の原理を説明した。


「ほほう、早速に職人を集めて検討しようじゃないかねッ」

「お願いします!」


キアヌ商会長がやる気を見せているので、後の事は任せておく。僕は店舗の裏手にある工房へ向かった。


工房では入荷した蒸気鍋を若い職人が磨いていた。見栄えを良くする為だろう。それを見て、僕は練磨剤を手に取り呪文を唱える。


「踊れ廻れ 宝石の粉よ 滑らかに美しく 磨き上げよ…【研磨】」


魔力を帯びた練磨剤が、蒸気鍋の底面を回転しつつ磨き上げた。まるで鏡のような輝きだッ。若い職人が驚愕して尋ねた。


「マキトさん!凄い…新しい魔法ですか?」

「そうさねぇ…」


僕は若い職人に【研磨】の仕組みを解説した。これは学業の成果として魔法への理解が進んだおかげで、僕は新しい加工技術を魔法として体得していたのだ。




◆◇◇◆◇




 今日は講義が無い休日だ。私立工芸学舎では連続で5日間の講義の後に1日の休日を設けていた。僕は工房の屋根裏部屋にある寝台から起き上がり、庭の片隅にある水汲み場へ向かう。


水汲み場には、僕が試作した水汲み道具が据え付けてある。それを使い河トロルのリドナスが早朝から水を汲み出していた。まだ試作品の道具では、深い水源から水を揚げるために力も必要だが、この土地は浅くても地下水が豊富で十分な効果があった。


取手を上下に操作して手桶に水を汲む。リドナスは水が満たされた手桶を頭上で返し水を浴びた。残暑が続く季節とはいえども、早朝に水浴びとは肌寒いのではないか。リドナスを見ると上気していた。


「あぁ主様、おはよう ございマス♪」

「おはよう」


うっとり顔でリドナスが歌うように言う。これは機嫌が良い時の所作だろう。河トロル族は定期的に水を補給するようで、朝の水浴びはここ最近の習慣となっていた。


僕はリドナスの隣で水を汲み顔を洗う。リドナスの流線型のボディは美しく光っていた。そこへ神鳥かんとりのピヨ子が飛来する。


「朝飯はオークの肉料理だけど…大丈夫かい?」

「はい。問題あり マセン♪」


「ピヨョョヨー」

◇ (あたしはお腹がすいたわ~)


僕はそのまま炊事場へ移動して蒸気鍋に加工したオーク肉を入れる。さらに、森の妖精ポポロに貰った醤油に似た液体調味料とハーブ類に酒をいれて火にかける。


鍛冶職人のスミノスさんが改良した蒸気鍋は、蒸気が抜ける弁の動作が軽快で小気味が良い。しばらく煮込むと……ハーブの香と種類が違う気がするが、醤油味の豚の角煮!が完成した。


「うっ、旨い!」

「主様、美味しゅう ゴザイマス♪」


「ピヨョー、ピヨョー」

◇ (あら、この醤油味の角煮ッ! イケてルわねぇ~)


その効果か……リドナスの幸福度が上がった。ピヨ子の興奮度が上がった。僕の料理レベルが1UPして、効果音が頭に鳴り響いた!……ような気がするのは幻聴である。


朝食に角煮と黒パンを合わせて食べるのも美味い。これは定番にしても良い物か。


「醤油~万歳!」

「バンザイ?」


「ピヨッ、ピヨー」

◇ (うむ。予は満足じゃ~)


僕らは朝食に感激した。




◆◇◇◆◇




朝食の後、リドナスは川へ水練に行くと言う。ピヨ子も川で魚を取るのだろうか。僕は工房でアマリエと会う約束をしている。店舗は交代制で営業しているが、工房の職人たちの仕事は休みだった。


自由に広い工房の機材が使えるので僕は試作品を作っている。


「マキトさん。お待たせしました」

「いえ。時間通りですよ」


昼過ぎにアマリエが工房を訪れた。僕は試作の手を休めてアマリエを見る。今日は神官服ではない町娘の様な装いだ。それは夏の残暑がつづく昼下がりに合わせて薄着だった。流石に水の女神と噂される美貌か。


「約束の治療をします。上着を脱いで後ろを向いて下さい」

「え!ここで、ですか?」


人気(ひとけ)は無いとはいえ、僕は躊躇うのだが、アマリエは慣れた様子で言う。


「大丈夫、すぐに済みますから…」

「はいッ」


アマリエの治療の腕は一流なので、僕は素直に背中を見せた。


「まあ、思ったより痣が多いですわね」

「…」


ほとんど、アマリエとの杖術の訓練で受けた痕なのだが、僕が転倒して受け身を失敗した物もあるだろう。僕の背中に治療薬らしい液体が塗られた…し、沁みるッ。それはリドナスの治療とは違う薬効なのか…痣の火照りが冷める。


「特別な治療魔法を使いますから、じっとして下さい…」

「ん!…」


アマリエが何か呪文を唱えると、僕の背中に暖かな双丘が押し当てられた。この息遣いはアマリエか…常に近く耳元から熱気を感じる。水の魔法にも熱気の制御術があっただろうか。


「はぁはぁ…」

「ひぃぃ、傷に沁みるッ…」


次第に熱くなるアマリエの息遣いに呼応したのか、僕の体内の血流が異常な速度で駆け巡り…変な声が出た。


「恥ずかしがらないで、私に任せて下さい…うふふぅ」

「はひぃ」


僕は急激な疲労を感じてくずおれた。アマリエの暖かさを感じながら意識が遠退いていく。


………

……


僕は感動の休日を味わった。





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