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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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038 私立工芸学舎

038 私立工芸学舎





 僕は私立工芸学舎の中央広場にいる。広場は祭りの様な混雑で、商人か職人の子弟と見える大勢の学生で溢れていた。

しかし、広場に祭りの露店は無く前方の演壇では偉そうな紳士が演説しているのだが、大勢に聞かせたいのなら話に工夫が必要だろう。続いて若い男が演壇に上がり、学生生活の抱負だの将来の夢と希望に溢れた演説をするが、さして共感が得られる事も無かった。


そうして無為な時間を過ごしていると、広場の周りに掲示板が立ち上がった。職員の準備が整ったようだ。待っていましたと、僕らは掲示された科目の抽選結果を自分の時間割と見比べた。広場のあちこちで歓声があがる。

人気の科目に受講当選した者、落選した者と悲喜こもごもだ。僕はダメ元で申し込んだ人気科目のいくつかに落選していたが、リドナスの受講科目に落選は無かった。


時間割の空きと入学案内の科目紹介と当選結果を見て、まだ空きがある科目を探す。その時、ピヨ子が飛んで来て僕の肩に止まった。爪が肩に食い込んで少し痛い…猛禽形態か。


「ピヨョョヨー」

「もう、昼か…」

「その鳥は、カン鳥ですね」


僕の足元から声を掛けられた。下を向くと森の妖精を思わせる子供がいた。最近はピヨ子も成長して放し飼いなのだが、こうして飯時になると餌をねだりにやって来る。

トルメリアの王都では昼から夕方にかけて間食を取る習慣があった。僕は私立工芸学舎の食堂と屋台が並ぶ通りに向かう。


ピヨ子は森の妖精の子供とじゃれ合っている様に見える。


◇ (フシャァァァア!…あたしは森の妖精を威嚇した。前世でも、森の妖精は人族に与して魔王を滅ぼした仇敵であるッ。この妖精もあたしの正体を見抜くなど…油断は出来ない!)


ピヨ子が警戒しない者ならば、悪い事は無さそうだ。


僕は屋台でナンに似たパンと辛味のあるスープを買った。食堂のテーブルを探すとリドナスは屋台の魚料理を食べていた。僕がナンを千切って投げるとピヨ子が空中でくわえる。


「…新入生の代表は、名誉な事だから…」

「…とても、素晴らしいですわッ…」

「…うふふ、私にもご紹介を…」


身形(みなり)の良い男が数人の女子を引き連れてテーブルの脇を通り過ぎた。先ほどの中央広場で演説していた学生だろう。気障な仕草で注目を惹く様子も見えるが、無視をする。


テーブルを見ると森の妖精の子供は弁当の包みを開けて、ピヨ子に餌付けをしていた。…その料理の具材は何だろうか、ピヨ子の喰い付きは良い。


◇ (ふん。こんな料理ぐらいじゃ…あたしは、騙されないッんだからねっ!)


昼食の後、僕は空き時間を埋める為に追加募集の受講申請をして帰途についた。平穏な初日だろう。




◆◇◇◆◇




次の日、僕は科目の抽選に落選していたが、リドナスの様子を見学する事にした。リドナスの受講科目は語学1…基礎科目だ。本来は父兄が子弟の受講を参観するために、講堂の最後尾には見学席があった。


見学席からリドナスの受講を参観する。年少の学生に混じり獣人の姿もあった。リドナスの隣の席に森の妖精の子供もいる。仲良くして貰いたいものだ。

講義は文字の読み書きの基礎から始めるようだ。僕はしばらく参観した。


◇ (あたしは文字について考察した。前世の記憶(チート)によると異世界の文字は難なく読めた。鳥の姿でも嘴を使い文字を書くことは可能だろう。しかし、あたしが前世の記憶(チート)を持つと知られたら、ご主人様はどう思うかしら…前世の記憶(チート)(ちから)になるけど、同時に不幸も呼び寄せるわよ)


年少の学生たちは石版にカリカリと白石(チョーク)で文字を書いている。羊皮紙や木札は高価と思えて、木材紙の普及はまだ少ないと見える。


◇ (あたしが直接話すには【念話】の魔法を使う術者か魔道具が必要だわ。あるいは、口真似できる鸚鵡(オウム)に変化するのかしら……あたしは思考に沈んだ)


………


僕は昼食を摂り、ひとりで午後の受講に向かう。リドナスは算術1…基礎科目だ。


古い校舎の講堂に入ると疎らに学生がたむろしていた。鬚の老教授がやって来て、魔法歴史学の講義が始まる様子だ。


「えー古来から我々は様々な形で魔法を利用してきました。火魔法の発見は我々の食生活と文化の発展に大きな影響を与えています…」


老教授の長い話が続く、午後の太陽が熱い…まるで火炎魔法の様だ。


「火の魔法使いは己の魔力から火炎を発生して熱の操作に長けていました。また、炎熱の操作は金属加工の職人や料理人の技能としても重宝されています…」


僕は睡魔との闘いを初めた。…俺の火炎剣が炎熱を上げる。ガクンッ、今まさに大海原へ船を漕ぎ出す!…冒険の始まりだ。


「えーこれに対して水の魔法使いは水を再現するよりも自然界にある水そのものを操作することで、火の魔法に対抗し社会生活にも貢献をしています…」


冒険の末に、海賊は巨大なクラゲを倒し…午後の講義が終わった。


僕は有意義な受講を終えて帰途についたのだ。




◆◇◇◆◇




 次の日は魔法術理論の受講だった。あさ早くに登校したが講堂には多くの学生がいる。僕とリドナスは混雑の中に座席を確保した。


「おはよう!チャ」

「おはよう ございマス♪」


見ると森の妖精の子供がリドナスの隣に座った。


「君は?……」

(ぬし)様、ポポロさんには お世話になって イマス♪」


僕が尋ねるとリドナスが答えた。講堂に若手の教員がやって来て講義が始まるようだ。開始に伴いアナウンスが入るが、広い講堂によく通る声は風の魔法の効果だろうか。


「ひとくちに魔術の才能と言いますが、才能にはいくつかの要素があります」


前方の土壁に魔力の要素の絵図が描かれた!…土の魔法のようだ。


「はじめに、対象物または空中に魔素を集めて魔力を集中しますッ」


見ると、若手の教員の手元に魔力が集まるのが、緊迫感を持って感じられる。


「次に、魔法現象のイメージを持って魔法を発現します」


ぼふっと、右手に火球が、右手に水球が、あらわれた。


「そして、これを魔力で操作してッ…」


若手の教員は空中に両手の火球と水球を投じた…両者が空中衝突するッ。


-DOMF-


「っと、目標に命中させます」


正確な魔力の操作で対消滅させたらしい。驚くべき、魔法操作の技量だろう。


「あ、そこの君ッ! 講堂での魔法の使用はいけません!」


パチリっと、若手の教員が指を鳴らすと、問題の学生の手元には煙が立ち上がった。…発動より早く介入しのたか?…学生の魔法は不発の様だ。


「あわわっ…」


講堂に笑いが起こる。


「皆さんは、この後に魔法実践の訓練がありますから、そこで試して下さ~い」


見事な魔法の行使と講義の内容だった。


………


僕らは受講を終えて食堂へ向かった。肉の定食を買ってテーブルに着くと、リドナスは毎度の魚定食だ。森の妖精ポポロは弁当の包みを開けて、しきりにリドナスに料理を勧めていた。


「これは?」

「豆の煮込み料理ですぅ」


僕は豆をひとすくい試食した。


「美味い! この味を教えてくれッ!」

「!…」


ひとしきり豆の料理について尋ねながら食事をする。…これは是非にも習得したい料理だぜッ。珍しく河トロルのリドナスにも興味を引いた。


午後は訓練場と見える広場に集合する。学生は得意の「火・水・風・土」と魔法属性ごとに集まり、それぞれに教員か指導員の助手が付くらしい。僕は「その他」の魔法グループにいた。森の妖精ポポロもいる。


訓練で、森の妖精ポポロは地面に手をかざし魔力を注ぐ。土の魔法か…いや違う何か石礫(いしつぶて)の様な…魔法の種か。


「魔力を注ぐぅ、チャ」


石礫(いしつぶて)が水気を吸い、緑色に輝き出した!


「発現するぅ、チャ」


魔法の種から何かの蔓植物が伸び出して来たッ。


「伸びよ!【繁茂】」

「うぉっと、植木鉢の形に…【形成】」


僕は蔓植物の根元を囲むように土を固めて植木鉢を形成した。


「むむっ、あたいの樹木魔法を捕らえるとはッ!…おぬしやりおるチャ…」

「ふははははッ、何度でもお相手しようぞッ」


その後、僕と森の妖精ポポロは「植木鉢の形成魔法」と「樹木の成長魔法」を日が暮れるまで戦わせていた。…ちっと訓練に乗り過ぎたか。




◆◇◇◆◇




 次の日。僕は魔物生態学を受講する為ひとり教室に向かった。リドナスは語学1の基礎科目だ。教室を見渡すと学生に混じり中年の男が混じっている。話を聞くと狩猟者だという。

狩猟者としては獲物となる魔物の生態は敵を知る意味でも生活のためでも重要な知識だろう。ここで科目の認定単位を取り狩猟者ギルドの職員に応募するそうだ。


講師が来て講義が始まるが、背の低い子供の容姿の講師は演壇に踏み台を重ねている。あれは、海の魔物の騒動の時のちみっ子教授だ。教室に黄色い声が響くのは……人気講師なのだろう。


「魔物の発生と起源については諸説あるが、もっとも有力な説は魔力変成説である。これは野生動物が魔力を得て…」


ちみっ子教授が講義を始めると、その声に聞き入るように静まり返った。


「ブラル山の麓の草原には兎の魔物が多く生息しているが、この地域の野兎が魔力により変成チたと考えられておる」


慣れた様子で、ちみっ子教授が合図すると助手が壁面に兎の絵図を張り出した。…意外と慣れた様子だ。


「その証拠とチて在来の野兎と魔物の兎の形質は非常によく似ており、肉質や骨格も類似点が多い…」


なかなかに堂々として有意義な講話が聞けた。その他にも、海の魔物のマオヌウが貴族の保護動物になった経緯やその生態についても紹介された。


海の魔物のマオヌウは魔物であるが性格は臆病で攻撃性は低い。そのためか昔は巨体の獣脂を取るために乱獲されていた。しかし、時代が進むと獣脂の需要が減り、食料としての魅力も低下したそうだ。今では王国の貴族社会にも鑑賞魚?としてか保護運動の支持者がいるという。


なんとニンゲンとは勝手な者か。お前たちがマオヌウの餌になれ!とリドナスは思うだろうか。…どこの世界にも似た様な話がある。


◇ (人族の都合で魔物を狩ったり保護したりするのは、今に始まった事じゃないわね。帝国でも羊皮紙の革を剥ぐ為に羊に似た魔獣を飼育しているのよ。それは不憫な飼育動物で…)


意外にも有意義なちみっ子教授の講義が終わった。




◆◇◇◆◇




午後は魔法格闘技の訓練だ。学生は思い思いの模擬武器を持って訓練場に集まる。


「このように、木剣といえども魔力を通して扱う事が出来る」


指導教員の男が振るう木剣に魔力の残滓が見える。そこそこの腕はあるだろうか。僕は棒切れを杖に見立てて振っていたが、指導の助手の中に見知った顔を見つけた。


「アマリエさん!」

「マキト君、今は先生ですよ」


水の神官アマリエの杖が僕をひと突きで倒す。アマリエの杖術は超一流だ。


「今日こそはッ教えて頂きます!」

「どこからでも、かかって来なさいッ」


僕は棒切れで挑みかかるが、あっさりと躱され逆撃に三連打を喰らった。


「まだまだ、もう一本!」

「しつこい人は、嫌いじゃありません」


すぐに立ち上がり魔力による身体強化をして僕は突っ込むが、アマリエは難なく僕を投げ飛ばした!…どういう技か?


「くぬぬ、もう一本!」

「最後まで、お相手しましょう」


僕は痣だらけの体になりながらも充実していた。


◇ (あたしは私立工芸学舎の構内を偵察するわッ…縄張り意識は神鳥かんとりの野生の本能かしら)





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