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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第四章 王都での学園生活
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037 祭のあとで

037 祭のあとで





 僕はトルメリア湾の海上、漁船の甲板にいる。


正確には漁猟者ギルドが漁民から借り上げた船だ。

港町トルメリアはユートリネ河が海に注ぐ湾内にあり、トルメリア湾は東から南に突き出した半島と南から東に突き出した半島に囲まれて、波穏やかな湾内には船舶の停泊地があり豊かな漁場でもあった。


僕らを乗せた漁船が湾内を南東へ進むと小島が見えた。その小島には水の精霊を祀る本殿があり禁足地となっている。さらに漁船は小島を通り過ぎ湾口に向かっていた。


「もうすぐ見えるぞッ!」

「!…」


船員の男がドラ声をあげる。僕らが海面を観察していると水面下から黒くて巨大な何かが迫ってきた。


「取り舵、いっぱいぃ」

「わぁ!」


黒くて巨大な何かが噴水の様に海水を噴き上げた。物知りな者でも感嘆を漏らす。


「マオヌウだ!」

「でけぇ……」


漁船の何倍もある巨大なマオヌウは海の魔物だ。昔はその獣脂を取るために乱獲されていたが、最近は貴族たちの鑑賞魚?か保護動物となっていた。しかし、巨大な魔物が湾口にいたのでは、船の航行に支障をきたし湾内の漁猟にも多大な影響があった。


「あれを無傷で、どかせといっても……無理じゃないか?」

「マオヌウを傷つける事は許チません!」


船員の男がぼやくのを聞きつけてローブを被った女が抗議した。幾分か舌が足りていない。背丈も足りない。装備しているのは防水のローブか。隣に付き添った神官服の女が宥めるように言う。こちらは縦も横も十分に巨体で太目の女だ。


「教授、ここは彼らに任せましょう」

「うむ…」


このローブ姿のちみっ子が教授!には見えなくとも、立場は上なのだろうが…船員の男たちは渋々に従う様子だ。


「早速に始めるぞッ!」

「「「 おう! 」」」


僕らは巨大な海の魔物マオヌウを湾内から追い出すために、漁猟者ギルドに雇われている。作戦としては何艘もの漁船でマオヌウを牽制し湾の外へ誘導するため、僕らの役割はその間の漁船の護衛だ。

黒くて巨大なマオヌウが海面に背を見せて、噴水の様に海水を噴き上げた。巨大な魔物マオヌウは息継ぎのためか定期的に潮を吹く習性があるようだ。

僕らは揺れる船べりに掴まってマオヌウの様子を見た。何艘もの漁船に追われてマオヌウは湾口に向かうかと見えたが…大きく迂回して湾内に戻る動きだった。


「教授、何とかなりませんか」

「うむ…」


太目の女神官が困り顔で言うのだが、ちみっ子の教授に名案は無い様子だ。その時、リドナスが僕に囁いた。


「…(ぬし)様、マオヌウは 外海へ出るのを 怯えてイマス」

「湾の外に何か危険があるのか…」


僕が思わず聞き返したのを、ちみっ子教授が聞きつけた。


「それじゃ! 湾口を捜索チてみようかッ」

「仕方ありませんなぁ…」


漁船は湾口を調査する班とマオヌウを牽制する班に分かれた。僕らは当然のように湾口の調査に向かう。


「何もありませんねぇ」

「うむ…」


太目の女神官が安堵した顔で言うが、ちみっ子の教授は特に反論も無いようだ。漁船が湾口を進み外洋に出る。その時、半透明の丸太の様な触手が船に取り着いた。




◆◇◇◆◇




 トルメリアの湾内の小島は水の精霊を祀る本殿があり禁足地となっている。そこには、密かに集まった水の神官たちの姿があった。大量の水を頭上に浮かべている水の神官たちを見渡して神官長の叱咤が飛ぶ。


「何ですか! 今年の神事の失態はッ」

「ッ!…」


神官たちは修行の手を止めた。さらに、頭上に浮かべた水球も動きを止めた。


「日頃の修行が足りない所為(せい)でしょう! 精進が足りません」

「「「 ははぁっ! 」」」


荒れた息を整えながら、神官たちは頭を垂れる。水球が微動だにしない事は、せめてもの矜持か。


「神官長さま、ギルドの船が本殿に近づいております」

「分かっています……船にはイネリアを付けてありますから…」


密かにギルドの船が通り過ぎるのを待つ。


しばらくして、神官長は修行を続ける様に言い置いて本殿の奥へ向かった。しかし、その時は既に沖の海上に騒ぎがあった。


「た、大変ですッ!」

「何事ですか?」


息せき切って駆け付けた若い神官が報告する。


「湾口に新たな魔物が現われました!」

「なんとッ…」


「あっ!」

「あれは……左手のイネリアの水球」


神殿から沖の海上に巨大な水球が見えた。




◆◇◇◆◇




僕は傾いた漁船の船べりに掴まって半透明の丸太の様な触手を見た。


(ぬし)様! これはッ」

「そうだ! 迷宮の底にいた魔物だッ!」


リドナスが手にした銛を投擲した。半透明の触手に銛が突き刺さる。それを見て船員の男たちも次々に銛を半透明の触手へ突き刺した。しかし、半透明の丸太の様な触手は痛痒を感じないのか傍の男を捕えた。悲鳴があがる。


「ぎゃああぁぁ」

「危ない!…【攪拌】」


僕は男に取り着いた半透明の触手を掻き混ぜた。細胞の中身が攪拌されて触手の圧力は弱まるが、意識を無くして倒れた男の肌は紫色の痣が浮き出ていた。


「毒かッ!」

「ひぃぃ」


その時、ぐらりッと、漁船の甲板が傾き…さらに侵水した。マズイ…このままでは、船が沈む!


-ZAPPAN-


「流麗なる 女神の 御手よ…【水球】」


太目の女神官が呪文を唱えると甲板に侵入した水をひと纏めにして水球が作られた。次第に水球が膨張し歪な形状になるが……ぐらりと、漁船の傾きが復元した。


漁船の男たちは手近の触手へ銛を打ち込み、船から引き剥がしにかかる。僕は呪文を連発した。


「離れろッ!【攪拌】…【攪拌】!」


細胞の中身が攪拌されて触手の締め付けが弱まる。とその時、


「きゃあぁ!」

「ぐぅ、やめなチャいぃ…」


振り返ると大量の水を頭上に掲げた水の神官とちみっ子の教授が半透明の触手に捕えられていた。


「マズイ! 毒があるぞッ!!」


「ひきぃぃ…」

「ぐうぅ…」


半透明の触手が彼女たちを締め付ける。緊急事態だッ!


「うぉぉ、ぐちゃぐちゃに掻き混ぜてやんよ!」


僕は触手の毒にも構わず、彼女たち取り着いた触手ごと最大級に攪拌するイメージで呪文を唱えた。


「洗濯機よりも早く 攪拌機よりも激しく 掻き混ぜよ!【攪拌】」


触手の細胞の中身が激しく攪拌され、その余波で彼女たちも回転洗いされた。まるで全自動洗濯機のようだ。ひとしきり細胞内が攪拌されると触手の圧力が弱まり、ドロリとした粘液と共に彼女たちは解放された。

粘液まみれの彼女たちは衣服も乱れ、気絶してお見せ出来ない状態だったが、…その時、今まで上空にあった大量の水球が崩れ落ちた! 大量の水が傷ついた触手を船体から引き剥がす。


僕は流れに逆らって彼女たちの衣服を掴み支柱にしがみ付いた。


奔流が流れ去り…まわりを見渡すと、船員の男たちは支柱に掴まり舫い綱に掴まり水を吐いている者もいるが無事の様子だ。それでも、リドナスは海に流された男をふたりも抱えて海面から船に上がった来た。


(ぬし)様、ご無事 デスカ♪」

「ああ、なんとか…」


どういう訳か楽しそうなリドナスを横目に傍らのふたりの無事を確認する。防水ローブを引き剥がされたちみっ子教授は、どうみても凹凸の無い…ちみっ子であった。


それに対して神官服を剥がされた太目の女は、巨乳とデカ尻にウエストも引き締まりグラビアモデルかッ!…神の造形師が劣情を注いだ容姿に…ボン・キュッ・ボンの体型だ。略してBKBの女が扇情的な呻き声を漏らした。


「…あぁん、いけませんっ…」

「…触手が…あぁ…チャ」


二人とも息はあり、どうやら無事の様子だ。白い肌にも紫色の毒と痣は見当たらない。船員の男たちはBKBの女神官(めがみ)の美貌と無事を神に感謝した。


「「「 水の女神よ! 感謝しますッ 」」」


不意に漁船が揺れる。海波の揺れではないッ、…地響きのような振動だった。


僕らが首をめぐらせ、辺りを見渡すと……!



◆◇◇◆◇



 トルメリアの湾内の小島にある水の本殿では、祭事の前の慌ただしさがあった。水の神官たちは隊列を組み、修行に利用していた大量の水を合流させて人型を作っているのだ。


「美しき 女神の 御尊顔よ…【水球】」

「健全なる 女神の 御胸よ…【水球】」

「華麗なる 女神の 御腰よ…【水球】」

「流麗なる 女神の 御手よ…【水球】」

「…」 


次々と呪文を唱え巨大な水の神像を立ち上げてゆく。神官長の叱咤が飛ぶ。


「今こそ、修行の成果を見せなさい!」

「「「 はいッ! 」」」


ついに巨大な水の神像が完成したが……よく見ると、左手が欠損している。


「アマリエ、右手を任せましたよッ」

「はいッ! 神官長さま」


頭の部分を担当する神官長が神像の顔を沖に向けた。それに従いて女神像が沖へ歩み始める。湾口の付近では漁猟ギルドの漁船が、水の魔物と戦っている様子だ。


イネリアの水球…女神の左手が上空に見える。急いだ方が良いだろう。気は焦るが女神像の歩みは遅い。一歩。一歩。と海上へ歩みを進める。


その時、イネリアの水球…女神の左手がが崩れた! 更に神官長が女神像を沖へ進ませるとその大量の魔力に触発されたか、半透明の丸太の様な触手は女神像の方へ絡みついた。

アマリエはこれ幸いと半透明の触手を水の女神像の右手で引っ掴み、肩口まで担ぎ上げた!……怪獣対決戦のようだ。


そのまま触手を絡み付かせて水の女神像は西へ進む。じりじりと、半透明の触手が水の女神像に巻きつく。ズゴゴゴッ、水の女神像と半透明の触手は渾然一体となって西の岬に衝突した。

魔力が尽きたのか、水の女神像は触手を抱えて前のめりに倒れた。ドッぐわっしゃんッ…と水の女神像は崩壊しつつも、半透明の触手を本体ごと陸にぶち撒けた。


ずぶずぶと、水の女神像の形が崩れ急激に水分を拡散させる。……陸には半透明の丸太の様な触手の本体のみが取り残された。のた打つ触手の動きも鈍く次第に弱々しくなると、触手は砂浜に水分を吸収されて縮む様子だった。


こうして触手の魔物は討伐された。





--


※巨大怪獣は水の神像(巨大ロボ)に打倒されました。ww

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