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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第三章 迷宮の探索者とお宝
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035 爺さんの紹介状

035 爺さんの紹介状





 僕はウォルドルフ家に滞在していた。屋敷には立派な温泉があった。ブラル山は活火山であり、町にはいくつかの地下水脈から温泉が湧き出していた。


リドナスを連れて湯殿に向かう。


「男湯で良いのかな?」

(ぬし)様、問題は アリマセン」


湯殿に行くと告げると、メイドは顔を赤くしつつリドナスを見てよろめいた。髪を後ろに纏めたリドナスはその流線型のボディをして少年にも見えた。


体を洗い湯に浸かって体をほぐす。さすがにブラアルの温泉は疲労回復にも良い。


「しかし、チルダの行方が分からないとは…」

「…」


僕は爺さんの話を思い返していたが、リドナスは熱い湯に浸かり上気していた。


「チルダに合って無事を報告したいが……屋敷の敷居が高すぎるなぁ」

(ぬし)様、しばらく 滞在するのが いいデスヨ」


チルダは火の一族である領主の娘だろうと思う。めずらしく上気したリドナスが自分の意見を言うが、


「いっそ、ウォルドルフ工房に就職するかな…」

「はい?」


リドナスが聞きなれない単語に不思議な顔をしていた。その時、密かに湯殿に侵入する影があった。


-ZAPPAN-


突然に湯面が爆発した。


「マキト! その女は誰だっ!」

「ち、ちが、チルダさん…これは、女ではありません!」


チルダが温泉に火炎を投げ込んだようだ、水蒸気が立ち込め視界が悪い。湯気を通して見てもチルダは怒っているらしい。あられもない姿でリドナスを睨み付けるチルダは湯気が仕事してよく見えない。


僕の言い訳を非難する為かチルダがリドナスに近づいた。何もないリドナスの胸板に注目する。


「ふっ、ふん…」


チルダは鼻息を吐いて湯に浸かった。とても上品とは言えない。


「チルダさん。遅くなってすいません」

「許す」


誤解は解けた様子だ。しかし、波乱はまだ終わっていなかった。騒ぎを聞きつけたか、浴衣を纏ったエリザベート婆さんが湯殿にあらわれた。


「チルダリア。何ですか、その態度は…」


婆さんに説教をくらうようだ。


「あなたも火の一族の女ならば、不退転の決意で戦いなさい!」

「!…」


なんと煽りかよ。僕は湯の中で呆然とした。


エリザベート婆さんの説教をまとめると、昔むかし火の一族の存亡をかける(いくさ)があったそうな。火の一族の男たちはよく戦ったが、敵は強大で戦火は火の御山(ブラル山)のすぐ側まで迫っていた。(…中略…)すなわち、火の一族の女が戦う時には逃げる場所など無い。不退転の決意で戦わねばならないのだ。という話だった。


「しかし、婆や。今は火の一族の女も最前線で戦う時代なのです…」


止めておけば良いのにチルダが反論する。年寄りには若者の意見を入れる柔軟な姿勢は期待できないと思うが、


「よく考えなさいチルダ。リドナスさんが男だとしても油断は出来ませんよ」

「「なんだって!」」


既にエリザベート婆さんは病に毒されていた。僕とチルダは思わず叫んでしまった。お互いを見詰める。チルダは疑惑の目で、僕は驚愕とも怒りとも混乱とも言える目…に描いて訴える…無実だ。


「マキトさん、後で部屋に来て下さい。チルダリアも」

「…」


沈黙が重い。そんな混乱をまき散らしてエリザベート婆さんは去った。


………



僕は、温泉から上がり山羊の乳を飲んでいた。少し(ぬる)い。確かに、風呂あがりに冷水器があれば売れるかもと…思案をしつつ部屋に帰った。


チルダが部屋を訪れた。浴衣を着て身だしなみを整えているが、窮屈そうだ。屋敷の奥にあるエリザベート婆さんの部屋に向かう。チルダが呟く。


「あたしは、マキトを信じているから」

「…」


チルダが来訪を告げて部屋に入る。


「ごめんなさいね。マキトさん…チルダリアの我がままに、つき合わせて」

「いえ」


エリザベート婆さんは静かな口調で言った。


「それとお礼を言わせて…あの人が、あんなに嬉しそうなのは久しぶりなのよ」

「…」


僕は神妙に聞く。


「あなたに百万の感謝を」

「はい」


エリザベート婆さんは逡巡しつつも一通の書状を差し出した。


「余計なお世話だと思うのだけど…」

「これは?」


つづけて、真面目に話した。


「王都にある学院の紹介状です。これを理事長に渡せば便宜を図ってくれるでしょう」

「ありがとう、ございます」


僕が素直に受け取ると、エリザベート婆さんは悪戯を思い付いた子供のように言う。


「道理も未来も分かる方で助かるわ。ね、チルダリア」

「婆や…」


チルダはそれ以上は語らなかった。僕は部屋を辞して客室に戻った。


疲れた。すぐ寝た。


-Zzzz-




◆◇◇◆◇




 翌日から、エリザベート婆さんは体調が優れないそうで、姿を見せなかった。執事とメイドが忙しそうだ。せめてもの慰めにリドナスが煎じた薬草をおいてゆく。代わりにチルダが受け取った。


「この薬草を粉末にして湯に入れると、良い香りとともに心が休まります」

「ありがとう」


チルダが寂しさを噛み締めている。エリザベート婆さんが心配なのだろう。


「師匠もお元気で、奥様も養生して下さい」

「うむ、達者でな」


ウォルドルフ爺さんが頷く。僕らは屋敷を後にした。






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