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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十七章 帝都地下迷宮の討伐
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ep344 南方に不穏あり

ep344 南方に不穏あり





 南部のザクレフ地方の豪族が裏切りアルノドフ帝国の軍勢を引き入れたとの報により、聖都カルノの軍令部も対処を始めた。それと同時にナダル河の西岸に姿を見せたアルノドフ帝国の軍勢を睨み守備兵を動員している。敵の旗印はジャンドル家の武門であろう。


「西の大橋の戦況は?」

「はっ、両軍とも対峙したまま、持久戦の構えでありますッ」


市井では英雄などと囃されているが、所詮は蛮族の王である。今では聖都カルノを守護する将軍の一人にしか過ぎない。


「西方討伐軍の動きは?」

「はい。南部へ向けて転進したとの報告です」


都合よく軍勢を派遣出来るのは軍令部の醍醐味と言う物だ。


「良かろう。奴らには聖域への道が開かれるであろう」

「大司教様。聖騎士団の団長がお見えですッ」


「うむ。参内を許す」

「はっ」


白銀の鎧を身に付けた偉丈夫が跪礼する。


「大司教様。ご機嫌麗しう御座いまする…」

(うつ)け者ッ、私は多忙であるぞ」


大司教のご機嫌は悪いご様子だ。おおよそ教皇がお怒りなのだろう。卑屈なまでに騎士団長は身を低くする。


「これはしたり。本日は出立のご挨拶に…」

「早々に発てッ、かの不信心どもを一刻も早く駆逐するのじゃ!」


「御意ッに御座いまする」


そう急くでない。聖都カルノの命運は既に決しているのだから。




◆◇◇◆◇




 聖都カルノの南方には農村地帯が広がり、その先には鉱山都市から発展したザクレフ地方があった。ザクレフ地方には貴金属や武器を扱う豪商と豪族が多くあり小規模ながらも連合国家の様相を見せていた。


そのザクレフ地方でも有力な氏族が煽動して聖都カルノに対して反旗を翻したのである。元から聖都カルノに従属してはいても、商売を円滑に進める為の方便で有効な同盟関係にも似た約定であった。


「契約の神は、カルノの糞坊主どもの堕落を許さぬぞ!」


「「 おおおぅ! 」」


ザクレフの民衆が気勢を揚げる。煽動者がアルノドフ帝国の工作員であると知る者も無い。


「違約金を取り戻せッ…」

「荘園奴隷の契約は無効だぁ…」

「おらが、田畑を取り戻すんだ…」


加熱する民衆の様子を二階のテラスから身形の良い商人が眺めていた。こんな酒場に紳士が姿を見せるとは思えない。


「…シュペルタン卿、首尾は上々の様子ですな…」

「…はい。抜かりは御座いません…」


善人顔の紳士が悪い笑顔を見せる。屋根上で黒猫がニャーゴと鳴いた。


「…これで、ザクレフの不平等な条約も…」

「…糞っ垂れな神々の供物も…」


いつの世も陰謀の種は尽きないらしい。




◆◇◇◆◇




 東方征伐軍は南方平定軍に変更された。内実は交易都市シドニアリスから連日の強行軍で、落伍者を置いて急行した部隊である。


「援軍は、まだかッ!」

「カンパルネの土豪と農民兵など、当てには出来まいて…」

「聖都カルノから、聖騎士団が到着する手筈だが…」


南方平定軍は原野を急行して、南部ザクレフ地方から侵入した帝国軍の長く伸びた行軍の隊列の横腹へ突撃した。少数ながらも帝国軍を攪乱し足止めに成功した。


「あれは、ドラントラン家の旗印ッにございます!」

「なにぃ!象兵が見えるかッ?」


ドラントラン家は南部ザクレフ地方よりも西の山岳部族だ。アルノドフ帝国の侵略に呼応して決起したらしい。


「農民兵が反乱を起こしました!」

「馬鹿なッ!」


思わぬ所で農民兵の伏兵に遇い痛手を被る部隊が続出した。これでは撤退して再戦を期するより他に方法は無い。


南方平定軍は初戦から敗退して聖都カルノへ逃走した。




◆◇◇◆◇




 マキトたちは幸運にも反乱軍の追手を避けて交易都市シドニアリスに帰還した。背負子からエナ・ウンを降ろし休息を得る。数日ぶりの町は意外な程に平然としていた。占領軍は去ったのか?


「ふう、無事に逃げ切ったか…」

「甘く見るなよ。私の牙は御身の喉を掻き切るぞッ」


「はいはい」


獣人の従者エナ・ウンは両足を骨折していても、相変わらずの強気である。道行く行商人の男がマキトに声を掛けた。


「兄ちゃん。その奴隷はいくらだい?」

「へっ?」


マキトは相変わらずの呆け顔である。行商人の男は攻撃的な豹柄を値踏みする。


「このご時世に豹柄の毛皮は高く売れるだろうに…」

「なんだとッ、私を売るのかッ!?」


当然にエナ・ウンはご立腹なのだが、行商人の男はお気に入りな様子で続ける。


「その怒った顔もそそるねぇ~」

「治療院を探しているのだが…」


「はぁ?、奴隷の怪我を治療しようたぁ、奇特な御仁だねッ」

「…」


行商人の男は馴染みの治療師を紹介した。別に悪人と言う訳でもなかろう。ひとしきり治療師にエナ・ウンの治療を任せて、マキトは尋ねた。


「面倒の序に、聖都カルノに行く馬車を紹介してくれ…頼む」

「…お節介で言うが…聖都カルノは帝国軍に包囲されたってぇ話だぜッ」


「なんとッ!」


事態の急変にマキトは驚くより他に無かった。





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