ep340 迷宮門の戦い
ep340 迷宮門の戦い
地下迷宮の主が居ると予想される、広間の門前ではゴーレム娘たちと亡者の群れが戦闘を開始した。
強襲機フレインと突撃機フローリアはフラウ委員長の戦闘指示で左右に分かれて突入した。二機の戦闘能力であれば、亡者の群れにも遅れは取らない。索敵能力も万全で広間に展開した軍勢の動きは備にわかる。
ここに人族を主力とする白磁騎士団がいれば、亡者の群れの威迫に恐慌を来たす所だろう。広間には瘴気が漂う。
「マスター。中央が手薄になりますッ#」
「突入するぞ!」
どうやら先行した二機の陽動作戦で亡者の群れは二分され囮に引き寄せられた様子だ。両機の奮闘に期待しよう。マキトはフラウ委員長を護衛に中央突破を図った。
「亡者どもよ、散れ…【退散】」
マキトは光の秘術を振るい行く手を阻む亡霊を蹴散らした。早速に敵陣へ迫る。
「リリィ。決着を付けねば成らぬのかッ?」
「マキト様にご恩はあれど、恨みはございません」
両軍の大将対決はもはや茶番ではあるまいか。
「ならば、ここから引け!」
「それは致しかねますッ」
タタタン。交渉は決裂と見てフラウ委員長の石弓が放たれる。しかし、それを阻止するのは突如として現われた聖霊の騎兵であった。
「マスター。危険ですッ!#」
「新手かっ!なむ…【殲滅】」
マキトは光輝の王冠の魔道具を使い殲滅の光を放つが、聖霊の騎兵は音も無く滑る様に急加速した。迷宮に騎兵とは卑怯なり。
「ぐわっ!」
「きゃっ#」
がこん。騎兵の突撃は強烈な一撃となりてフラウ委員長の機体を跳ね飛ばした。マキトは衝突の直前にフラウ委員長に脇を押されて命拾いをする。光り輝く聖霊は殲滅の光をも恐れない。
マキトの脇腹を掠めた聖霊の騎兵は乱戦する亡者の群れを踏み越えて、騎首を巡らせた。後続に待機した冒険者も白磁騎士団も前線へ援護に現れる気配は無い。
「委員長! 無事かッ?」
「…&%#」
ゴーレム娘フラウ委員長は返答の代わりに援護の石弓を放つ。特殊弾に火炎弾もと大判振る舞いな様子だ。各所に火炎と煙が立つ。それでも、精霊の騎兵の突進には効果も無くて、再びに鋭利な槍先がマキトを襲った。
「っ#」
「わっぷ!」
煙の向こうには、騎兵の突進を立ち塞ぐゴーレム娘フラウ委員長の姿も見えたが、マキトは横薙ぎに引き攫われた。
「主様。援護シマス! 撤退をッ♪」
「リドナス!」
後続の部隊から河トロルの戦士リドナスが駆け付け、マキトを脇に置くと前線へ突撃した。少しでも撤退の時間を稼ぐ算段らしい。
亡者の群れは二つの乱戦を形成して一方の中心地にはゴーレム娘のフレインがいた。強襲用の装甲も健在と見えて亡者の群れを連続技に打倒していたが、動く死人を主力にした軍勢は無限に立ち上がる肉壁となって、ご主人様との間を隔てている。流石の虐殺人形も無限の肉壁に手間取る様子だった。
もう一方の乱戦では骸骨兵がバラバラにされて閑散としていたが、三体の大型魔獣の骸骨に囲まれてゴーレム娘フローリアは苦戦していた。愛用の槍も防戦の一方らしい。中央では河トロルの戦士リドナスも奮戦していたが、多勢に無勢とも見えて戦闘は劣勢に思えた。
「くっ、撤退かッ…」
「そうはさせぬと、我が愛は言う」
「なっ、離せッ!!」
何かの役に立つだろうと御守りに持って来た呪い人形が突如として立ち上がり、マキトの体に組み付いた。思わぬ伏兵にマキトも慌てる。そこへ聖霊の騎士が最大加速に突撃して来たッ。
ズバンと体を貫く突撃槍の衝撃で、マキト・クロホメロス男爵の部隊は大敗した。
◆◇◇◆◇
ここは地獄か天国か…。死の間際の走馬灯から、マキトが意識を取り戻したのは帝都の一角であった。
「全騎、突撃ッ!」
「「 おぉぉぉおおぉー 」」
帝都の西門にはナダル河にかかる大橋を走破して、赤黒緑の紋章旗を掲げたジャンドルの軍勢が殺到していた。古き武門であるジャンドルの家名はマキトの記憶にもあり、特徴的な紋章旗は本家の軍勢と見える。それに対して帝都の西門を守る兵士は蛮族に似た毛皮を鎧にした精悍な者たちだ。
「ふんっ、我が槍の穂先にでも、絡げてくれようぞ!」
「「 ぅおおおぉぉぉ! 」」
両軍の雄叫びと汗馬の嘶きが交錯する。騎兵による突撃は蛮族の騎兵に分がありそうだ。落馬したジャンドルの騎兵が数名も討ち取られた。
大橋の両端には各々の防御陣地が構えられており、槍兵の防御と弓兵からの射撃が加えられた。両軍ともに素早く騎馬を旋回すると再びの突撃対体勢となった。
「小僧ッ、引っ込んでおれ!」
「はっ!」
ひと際に大きな軍馬へ騎乗した将軍がマキトの姿を見咎めた。マキトの身形は軽装とはいえども戦闘に適した装備と見える。この小僧がただの雑兵とは思えない。大方は戦闘の物見に来た貴族の坊やであろう。
戦闘の様子に茫然としていたマキトは、将軍の副官と見える士官に捕えられて防御陣地の後方へ送られた。
迷宮討伐の失敗にマキトが自責の念を覚える暇もない。
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