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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十七章 帝都地下迷宮の討伐
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ep334 迷宮の鍵と不幸な者たち

ep334 迷宮の鍵と不幸な者たち





 不幸にも地下迷宮(ダンジョン)への第二陣の討伐隊は壊滅した。いのち辛々に逃げ帰った生き残りの隊員の話では、迷宮(ダンジョン)の最深部でも危険な領域へ踏み込んだらしい。市井では牛顔に角のある魔王の似姿が噂となった。街の読み売りの仕事も早い。


その魔王の話題と共に冒険者ギルドでは一夜にして大金を得た受付嬢の噂があった。町の読み売りの潜入取材によると、第二陣の討伐隊に参加した多くの冒険者が美人の受付嬢へ遺言と共に遺産を残したとの事だ。確かに冒険者ギルドでは預金の帳簿があり、持ち主が死亡すれば遺族へ預金が支払われる。独身の冒険者が愛人の受付嬢へ遺産として預金の受け取りを託すと言うのは有り得る話だった。


しかし、その金額と件数が一時的にも大金である。ざっと見ても三十人以上の冒険者たちが一人の受付嬢へ遺産の預金を残したのだ。そんな冒険者ギルドのスキャンダルにも似た事件の所為で迷宮(ダンジョン)探索の危険性は薄々とも認識されなかった。今日もまた、無鉄砲な冒険者が大金を夢見て地下迷宮(ダンジョン)へ挑む。


「今日こそは、俺たちがお宝を手に入れるぜッ」

「「 おぅ! 」」


帝都の地下迷宮(ダンジョン)は広大であり、最深部へ至る古き迷宮は特に入り組んで迷路となっている。牛頭で角のある巨人が現われた。


「ぎゃっ、魔王だッ!」

「あばばば…」


怯える仲間に押されて逃げる。こんな場所に魔王が現われるとは予想外だッ。


「なにっ、行き止まりかッ!?」

「兄貴ッこっちだ!」


別の牛頭巨人(ミノタウロス)が現われた。


「「「 うわっぁぁあああー 」」」


無鉄砲な冒険者たちは迷宮(ダンジョン)の陥穽の罠に落ちた。このまま助けが無ければ、迷宮(ダンジョン)の餌と変わるだろう。




◆◇◇◆◇




帝都の衛兵フレデリク・ハーンは商家の出身ながら、両親の反対を押し切って帝国軍へ志願した異例の者だ。金持ちの商家の息子であれば、何も危険な兵士などに志願をせずとも実家の稼業に励めば良い者である。本人は商売の才能が無いと言うが目端の利く男で、人物の観察眼には優れていた。そのため帝都の城門を守る衛兵としては重宝されている。そんな彼も久々に生家に帰宅して見ると内情が怪しい。


「兄貴ッ、親爺が引退したとは、どういう訳だ!?」

「ふん。奴はもう歳だと言うのさ」


商家の大口商談には必ず顔を出すという親爺の姿はどこにも無かった。まさか、商売を引退して湯治にでも出かけたか。離れて暮らすと言っても王都の市中である。自分へ何の相談も無いとは信じられない。兄ライオネルの説明は要領を得ず不明瞭な話だった。


「それで、親爺はどこへ行ったんだ?」

「煩せぇ! 奴も子供じゃあるめぇー」


ライオネルの癪に触ったか兄貴の怒鳴り声にフレデリクは追及を諦めた。いつもは商談を行う応接室には家宝である「豊穣の鉄鍬」が飾られている。それは怪盗パナエルスに盗まれた骨董品だったはず。気のせいか「豊穣の鉄鍬」が怪しく光る。


「ほぅ、家宝が…戻って来たのかッ」

「ふははははっ、これは良い物だぞ!」


明らかに以前は骨董などに興味も無かった兄ライオネルは「豊穣の鉄鍬」を()でている。…おかしい。何が兄貴の態度を変えたのか。親爺の行方も気になる所だ。


ハーン家の家宝と言われる「豊穣の鉄鍬」は大昔の鉄器も無かった時代に製造された鉄製品で、錆び色の付いた骨董品だったと記憶している。しかも、オリジナルの鉄の刃は再生も出来ない惨状だったと思う。


帝都の衛兵フレデリク・ハーンは家宝に眼を向けたが、兄の異常には気付かなかった。




◆◇◇◆◇




エルビラ・レストウッドは新興貴族のご令嬢で帝都にある厳格な子女学院の学生でもある。エルビラは豪奢な金髪を揺らして家令の男に問う。


「ん、準備出来たかしら?」

「はい、お嬢様。完璧な書類を用意してございます」


いかにも我侭に育ったお嬢様でも、長期の家族旅行には学院への欠席届けが必要であった。父親のレストウッド男爵の執務室を訪ねる。


「お父様、いらっしゃるかしらッ」

「おぉ、私の可愛いエルビラよ。今日は何のおねだりかな?」


執務室の神棚には家宝の「馬玩の扇子」が祭られている。それは商売繁盛の神具か。レストウッド男爵は豪商と呼ばれても品性は無くて、大金を積み帝国の役人から男爵位を買い取ったのだ。


「んっ」

「旦那様。学院への欠席届けでございます」


家令の男がエルビラお嬢様の指示で、長い巻物の書類を差し出した。長々とした欠席届けの文面など読んで精査する無駄な時間は無い。いざとなれば、金の力でどうとでも出来る。


「ほぉ、厳格な物だなッ…これで良し…どうだ?」

「十分でございますッ」


レストウッド男爵のサインを確かめて、家令の男は書類を受けた。


「おほほほほ、私の可愛いお父様ッ…さようなら…」

「何ッ、エルビラ! どういう事だ。これはッ!!」


ドカドカと土足で執務室へ踏み込んだ者は町の警吏と役人かッ。


「神妙にしろ。罪人と言えども弁護の権利は……」

「…何故だッ、エルビラ! ハンス!」


エルビラお嬢様も家令の男ハンスも男爵の問いには応えない。今は未だ、何の罪状と容疑で捕縛されたのか分からないのだ。




◆◇◇◆◇




水の神官アマリエはさる大貴族の屋敷へ招かれた。帝都の郊外にある屋敷は普段は来客にしか使用しない別邸と見えて、使用人の数も限られているらしい。数少ない出迎えに水の神官アマリエは不安を覚える。


神官長の話では水の神殿に多額の寄付を頂いた大貴族のお屋敷だと言うが、本当の正体は知らされていない。巫女たちの噂では、お忍びで帝都を訪れた外国の大使だろうとの話だ。アマリエは神殿の神具のひとつ「精霊の水瓶」を抱きしめた。魔力を注げは聖水が「精霊の水瓶」を満たす。


「おぉ、神官さまっ。魔力の無駄使いは イケマセンねぇ」

「大使様?」


屋敷に現われたのは肥え太った貴族の男だ。華麗な衣装は出腹の圧力に弾けようと見える。貴族の男は宝石の付いた指輪をアマリエへ捧げた。


「儂の眼に狂いは無かった! 是非、お近付きの印にこれをッ」

「…頂けません…」


拒否されるとは思わずに、気まずい雰囲気となるが、外国の大使様だろう貴族の男は「精霊の水瓶」に手を掛ける。


「…ならば、神具を渡して貰おうかッ!」

「あなたッ…魔族ねっ!」


上手く化けた様子でも漏れ出す魔力と瘴気は隠せないらしい。


「ちっ、勘の良い娘だッ。これでも喰らえ! ぷはぁ~」

「きゃっ!」


吹きかけたのは毒霧か、アマリエの白い肌が毒色に染まる。水の神官アマリエは必死の抵抗を見せた。


「親愛なるフラッドナリスよ。神意の浄化をッ…【洗浄】」

「なっ、何を!?」


ざっぱんと想定外の大波が押し寄せてアマリエが受けた毒素を洗い流す。それでも水の神官アマリエは窮地であった。





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