表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十七章 帝都地下迷宮の討伐
353/365

ep333 自称魔王と迷宮の鍵

ep333 自称魔王と迷宮の鍵





 その夜、マキト・クロホメロス男爵の屋敷の警戒網に触れた者があった。屋敷の護衛よりも先に賊を発見したのは老執事のセバスだ。


「何奴かッ」

「グケーケッケッケ…」


ぴゅひー。河トロルの護衛が鳴らす警笛か鳴る。賊は蛙に似た獣人と見える。


「ケケケッ、魔王様の下へ参内せよと、タンメルシアの娘に伝えよ」

「っ!」


くわっと見開き賊を見据える老執事セバスの眼光に恐れをなしたか、賊は即座に逃走した。


「…侵入者かッ!」

「…賊は、どこだッ!」

「…追えッ、小川の方へ逃げたぞ!」


追手は河トロルの護衛に任せても問題は無かろう。それよりも魔王の手先にリリィお嬢様の潜伏場所を知られた事が問題だった。


………


マキトの元へ河トロルの戦士リドナスが報告する。


「賊を取り逃がしマシタ♪」

「ふむ。止むを得まいッ……それで、どんな風体の賊だ?」


下手な似顔絵を見せると、


「このような…♪」

「蛙なのか、獣人なのか?」


リドナスの報告では夜警当番の河トロルの護衛が泳ぎで負けたと言う。水棲の魔物か手練れの獣人と思われる。




◆◇◇◆◇




帝都の闇に走る影。それはリリィお嬢様の手作りの呪い人形に悪霊シルフィスカが憑依した姿だ。残念な顔の造形も仮面を付ければ、怪盗かお忍びの貴族の若様と見える。知る者が見れば、その容姿は除霊探偵クロウリィの流麗な仮面と気付くかも知れない。


除霊探偵クロウリィの姿を借りて悪霊シルフィスカが走る。


「蛇の道は蛇に聞け……悪霊の道は悪霊に聞けってねッ」


辿り着いたのは宮殿の外れにある離宮だ。以前は王女殿下のお住まいだったと言うが、無人の気配にも悪霊の瘴気が漂う。


「これは、魔王の匂いかッ……厄介な所にお住まいだ事っ!」


-BWYYYYN-


宮殿の衛兵よりも先に昆虫の怪人が飛来した。問答無用に襲い来るのを、除霊探偵クロウリィは華麗に躱す。


「ご挨拶も無いとは、無礼な奴めッ!」


-BWWN BWWN!-


羽音を鳴らすのは警告の為か仲間を呼び集める為か。不利を悟って除霊探偵クロウリィは逃走する。


「ふん。用は済んだぜ!さらばッ」


-BWYYYYN-


不快な羽音を引き離して悪霊シルフィスカは帝都の闇に消えた。


………


離宮の闇に薄ぼんやりと光りが灯る。それは迷宮(ダンジョン)(ぬし)には愛用されている鬼火の明かりだ。


「魔王様。賊の正体が判明しました」

「ほほう、宮殿の衛兵も役に立つ物であるかッ」


大臣の報告にレスター・デルバルの顔をした魔王ベルゼロックが関心を示す。


「除霊探偵クロウリィと申す不埒な輩で、帝都の読み売りを騒がせております」

「ふむ、除霊探偵となッ……面白い。引っ立てて獄門に晒せッ」


嫌らしい笑みはレスター・デルバルの本性を晒した物か魔王の徳性か。


「はっ!」


既に魔王の手先は帝国の官僚組織にも浸透している様子だ。




◆◇◇◆◇




帝都の冒険者ギルドでは地下迷宮(ダンジョン)の探索が解禁された。既に迷宮(ダンジョン)の表層部分は魔物も狩り尽くされて安易な迷路に過ぎない。そのため、迷宮(ダンジョン)の最深部の探索は冒険者ギルドが望んだ政策でもある。地下迷宮(ダンジョン)の最深部へと続く封印の扉が破られて活況を呈したのは冒険者ギルドの関連施設と、武器屋、防具屋のほかに迷宮(ダンジョン)探索に必要な携帯食糧や魔道具を扱う店も繁盛となった。


地下迷宮(ダンジョン)の最深部の探索に向かった討伐隊の第一陣は迷宮(ダンジョン)の環境特性と魔物の発生状況を冒険者ギルドへ報告した。それによると帝都の地下迷宮は通常の魔物の他に幽霊(ゴースト)と呼ばれる霊体が多くて、魔法と精神力に優れた除霊師か魔術師が募集された。冒険者ギルドから各宗派の神殿と神官への協力が求められる。


冒険者ギルドから広く一般の冒険者に対しては地下迷宮(ダンジョン)の探索に向かうチームには、除霊師か魔術師の同行が必須と周知された。この規定に違反する者は帝都の地下迷宮(ダンジョン)への入場が出来ないのだ。討伐隊の第一陣は散逸していた封印の鍵と推定される魔道具や骨董品を回収した。それらの多くは盗品との申請が届けられて懸賞金と引き換えに元の持ち主へ返還されたと言う。討伐隊の第一陣は相当の利益を上げたという噂だ。


マキト・クロホメロス男爵の眼前には二つの骨董品が並べられている。マキトはその経緯を尋ねた。


「…それで、我が男爵家に迷宮(ダンジョン)の鍵を預けると言うのか?」

「はい。左様に御座います」


今まで黙って聞いていたサリアニア奥様が激怒する。迷宮(ダンジョン)の鍵と言われる骨董品は今回の事件の証拠品でもあり盗品でもあるが、返還先の無い品物が検察局に残された。


「何という愚行かッ、検察局の恥知らずめ!」

「まぁまぁ、そう言わずに……男爵家としても名誉な事と思いますが…」


検察局から派遣されたという小役人の男はにやにや笑いも隠さずに、サリアニア奥様の言質を値踏みした。マキト・クロホメロス男爵は渋々に決意する。


「うむ、分かった。当家にてお預かりしよう」

「宜しくお願い致します」


男爵家から得た引き取り料金は報奨金として検察局へ流れるのだ。これでは盗品の密売と何ら変わりないと思う。それでも、帝都の地下迷宮(ダンジョン)の最深部を封印するには必要な品物だろうに、既に皇帝陛下は再度の封印を諦めたのだろうか。


品物のひとつは光教会に保管されていた「光輝の王冠」と呼ばれる金属の輪だが、光も輝きも無い。それも何故か光教会が受け取りを拒否した為にマキトの下へ移送されて来た。そしてもうひとつは「漆黒の宝珠」と呼ばれる水晶石でとても漆黒とも値打ち物とも見えない。それは今回の事件で漆黒の僧院の関係者が全滅した影響で、引き取り手を失った品物だ。


いずれの品物も管理団体への返還の手間を惜しんだ検察局の小役人がマキト・クロホメロス男爵へ保管を押し付けたと言える。或いは、この男へ報奨金から成功報酬が支払われるのだろうか。小役人の男が屋敷を退出してから、サリアニア奥様はあきれ顔で尋ねた。


旦那様(マキト)よ。どうするお積りじゃ?」

「仕方あるまい。迷宮(ダンジョン)を封印するにも鍵は必要だろう」


「ふむ…」


その返答を聞いたサリアニア奥様は、マキトに危険な迷宮(ダンジョン)を封印する考えのある事を理解したが、他の鍵の所在が問題だろうと思う。


暫くは迷宮(ダンジョン)討伐の様子見だろうか。




--


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ