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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十七章 帝都地下迷宮の討伐
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ep332 瘴気の行方

ep332 瘴気の行方





 マキト・クロホメロス男爵は魔族と見える偉丈夫を連れて帝都の宮殿を訪れた。魔族とは魔力に優れた北方民族の俗称で魔王や悪魔の手先の意味ではない。それでも筋骨隆々にして肌色も人族とは異なる偉丈夫は只者とは見えない。


特に偉丈夫の魔族は威圧と眼光だけで、宮殿の衛兵や騎士団も立ち竦むばかりだ。その魔族の正体はレスター・デルバルが迷宮(ダンジョン)の悪霊に憑りつかれた姿だ!と見破る者も居ない。本日の宮殿の警備は手薄か、易々と謁見の間に到着した。


マキト・クロホメロス男爵が告げる。


「北方のベルゼロック侯爵閣下にございますッ」

「うむ、直答を許す」


アアルルノルド帝国の皇帝アレクサンドル三世が鷹揚に頷いた。


「はっ、吾輩は北方の大部族を纏める者にして、人族の皇帝陛下に同盟の裁可を求めるなり」

「…」


北方の魔族ベルゼロック侯爵は極北の政治情勢を語り怪気炎を上げた。皇帝アレクサンドルにも、にわかには信じ難い話である。北方の魔族ベルゼロック侯爵はなおも語るが、自身から発する瘴気に謁見の間が包まれている事に気付く者はいなかった。


「人族の有力者と結べば、北方の資源は思いのままで御座いますッ」

「ほおぉ…」


マキト・クロホメロス男爵の追従は帝国の有力貴族に向けた物か。欲望に目が眩む貴族たちの視線が熱い。そんな、確証もない話に惹き込まれるのは悪魔の手管だろうか。


宮殿に濃密な瘴気が立ち込めた。




◆◇◇◆◇




その頃、本物のマキト本人は迷宮(ダンジョン)から屋敷へ帰還しても、魔力不足による体調不良で寝込んでいた。帝都の地下迷宮(ダンジョン)の異変は現状報告の書状を使者に持たせて冒険者ギルドと帝都の行政管理局へ走らせたが、お役所仕事の所為か対応はいまいち危機感に欠ける。


マキト・クロホメロス男爵も後の対処はお役所に任せた!とばかりに休暇の予定だ。帝都の郊外にある屋敷は本日も平穏無事な様子だ。


「うーむ。頭が痛いっ…」

「マスター。それは体調の悪化でも、問題が山積しているとの意味でしょうか?#」


事後報告にゴーレム娘のフラウ委員長がマキトの寝室を訪れた。


「そうだねぇ。子爵邸の幽霊(ゴースト)の退治は出来ても、地下迷宮(ダンジョン)の全ての亡霊を退治は出来ないし…」

「はい。その通りです#」


ヘルフォルド子爵には迷宮(ダンジョン)の探索結果を報告して、屋敷の地下を封印する工事を勧めている。


「帝都の地下迷宮(ダンジョン)には、本格的な討伐隊が派遣されると思う」

「管理局から下水道局と清掃課へ通達があった様です#」


お役所としても対処に動いているらしいが、反応は鈍いと思える。


「おっ、流石に耳が早いねッ」

「しかし、冒険者ギルドとは報奨金の多寡で揉めているとか……財務局からも横槍が入った様です#」


フラウ委員長の情報収集能力に関心しつつも、どこかマキトは他人事である。


「ふーん。お役所の仕事も大変だねぇ」

「……#」


なおも報告を続けるがマキトは余り関心を示さない。


それよりも、マキトには重大な懸案があった。迷宮(ダンジョン)探索にゴーレム娘を三機も動員すれば安全な道中となるが、燃費の問題かマキト本人の魔力消費が激しいのだ。魔力は呼吸や食事と共に睡眠中に回復すると考えられるが、マキト本人が一日に回復する魔力量よりもゴーレム娘の三機が消費する魔力量が多ければ最終的には活動限界となる。迷宮(ダンジョン)探索での魔力不足は致命的な事態であり、他の随行員を増員するか魔力回復の道具(アイテム)を用意するべきだろう。


ゴーレム娘たちの自己回復機能の実装が課題と思える。


それでも旦那様(マキト)は屋敷で惰眠する。




◆◇◇◆◇




屋敷の地下室ではリリィお嬢様が憔悴した表情を見せていた。空腹の胃袋に乳粥を流し込んで咽ると、老執事セバスが介助する。


「ごほっごほっ……魔王の亡霊が復活したわッ」

「まっ、魔王ベルゼロックですか!」


生霊のままに、数日も呪い人形に憑依をしては本来の肉体に支障を来たす。憑依の術は多分に肉体の危険もあるのだ。セバスの驚きを制してリリィお嬢様が事実を告げる。


「既に魔王の使いから接触がありました」

「では、出立の準備を…」


どこへ逃げると言うのか、マキト・クロホメロス男爵の屋敷には厳重な神聖結界が敷かれている。魔王と言えば、大抵は迷宮(ダンジョン)(ぬし)や齢経て知能を得た魔物が名乗る事の多い自称魔王だ。それでも魔王ベルゼロックが厄介な所は、奸智に長けた本人が姿を見せずに目的を達成する事だろう。


「ここでの隠遁生活は名残惜しいものだけど、これも運命と諦めるしかありません」

「お嬢様っ!」


老執事セバスが用意した乳粥は丁寧に煮込まれて甘い味付けがされている。贅沢な逸品と言えよう。


そんな快適な監禁生活にも終わりが見えた。




◆◇◇◆◇




マキトは屋敷の研究室で秘薬を精製していた。それは魔芋の樹液から精製した魔力成分で、飲めば魔力を回復するが非常に苦くて不味い灰汁の様な代物だ。


「うっぷ、不味(マズ)いぃ!」


秘薬の味見などする物では無いが、牛巨人(ミノタウロス)の体液を精製するよりはマシと思う。他にも海獣マオヌウの脂肪や睾丸から抽出した精力剤もあるのだが、魔力の回復には役立たない。


「マスター。これは?#」

「お前たちの新装備だッ」


それは虹色に輝く魔晶石で、遠く大森林の妖精族から仕入れた品物だ。大量に魔力を注ぐと虹色に輝くと言う。タルタドフの領地には大森林からの交易商人が出入りしていると鳥文(とりふみ)の手紙にはあった。マキト・クロホメロス男爵の側室メルティナは息子のレオンハルトを連れてタルタドフの領地へ帰還した。報告書には、領地の開拓と政務に励んでいる事と開拓村(マキト・タルタドフ)の発展の様子が記されている。文面と行間を読んでもメルティナ奥様のご機嫌は悪くは無さそうだ。やはり、メルティナが分かれ際に言った、あの事とは伯爵夫人との逢瀬を指すのか。…余計な色事よりも正室を重んじろという事か。


その影響もあり、正室のサリアニアには懐妊の兆候が無いので連日に夜戦の申込みとあり、マキトの体力にも限界が見えた。


「くっ、これを入れるかッ!」


チョコレート菓子に似た見た目に騙されて、激マズの精力剤を喰らうとマキトの気力と体力が充実した。


回復薬の研究も体力勝負なのだ。




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