ep324 流れの盗賊団
ep324 流れの盗賊団
河トロルの戦士リドナスの調査では帝都から流れて来た盗賊団が森林地帯に潜伏しているらしい。その証拠に帝都の警吏に似顔絵と指名手配をされた賞金首が含まれていた。
「いちいち、盗賊団を殲滅するのは勿体無い…」
「ん?#」
勿体無いとは異なことを言うご主人様の意図は掴めない。
「盗賊団を捕えて、工事現場の人足としよう」
「はい。マスターのご指示に従います#」
なるほど、ご主人様は館の修復を優先させるお考えらしい。ゴーレム娘のフラウ委員長は目の色を変えて計算を完了した。
「工事の進捗はどうか?」
「予定よりも三日ほど遅れております。但し、追加の労働者を確保できるならば…」
明るい見通しと計画を立てた。あとは施策を実行するだけだ。
「作戦を実行せよッ」
「はっ#」
ゴーレム娘たちは出撃する。
◆◇◇◆◇
盗賊団の頭レオボルトは敵襲の知らせに飛び起きた。隠れ家の警戒網は破られて機能しなかったのか。
「お頭ッ、襲撃だ!」
「何が起きてやがるッ…木々のざわめきよ 我に集えッ【集音】」
集音の魔法は命の危機を何度も回避した優れものである。魔法で増幅された聴力は乱戦の様子に剣戟の音を伝えて来る。
「敵は、ゴーレム・マスターと破滅の三姉妹!との事だぜぇ…」
「なぜッ!? こんな辺境に帝都の警吏長官がッ!?」
帝都の警吏長官マキト・クロホメロス男爵の威名は辺境にも届いていた。その警吏長官が出張った理由は分からないが、命の危機には違いない。集音の魔法は既に逃亡を始めた手下の様子も伝えている。
「お頭ッ、シドニアの山賊団へ繋ぎを取りますかねっ?」
「ヤツらの言いなりには、なれん!」
盗賊団の頭レオボルトは手下の進言を拒否した。森を抜けて山岳地帯へ逃げ込めばシドニア山賊団の縄張りになる。帝都の警吏であっても簡単にシドニア山賊団の縄張りへは踏み込めないだろう。しかし、身の安全よりも山賊団の下に付くのは業腹であった。
「それじゃ、戦うしか方策はありませんなぁ…」
「すまん。苦労をかけるッ」
傭兵くずれの盗賊にしては肝の据わった部下の物言いには安堵を覚える。共に死線を潜った事は数知れない信頼する部下だ。
-BOGSHU-
防備の門壁を破って大柄な人影が姿を現した。手にした槍は異様に大きくて攻城兵器を思わせる。燃え盛る門扉にも動じない様子は石のゴーレムかッ…盗賊仲間の噂には聞いていたが、実在にゴーレム娘を見るのは初めてだ。
炎の壁を突き破り小柄な人影が飛び出した。抵抗する前衛の手下が皮鎧をぶち抜かれて悶絶する。敵は小柄な少女に見えて金属の装甲で武装したゴーレムだッ…あれが、皆殺し人形かッ。帝都の盗賊団には知れ渡る、忌まわしき悪名を思い出す。
そんな感想を抱く間にも遠距離からの石弓の狙撃で手下の数人が血を流した。特に武装を持つ腕と肩口への狙撃は驚異的な正確さで、敵方に弓の名手が潜んでいると思える。
「まずい、これでは太刀打ちも出来んッ」
「ぐばっ!」
既に腹を痛打されて血反吐を吐く者が多数にして、足を石弓に撃ち抜かれて逃亡もまま成らぬ者がいる。大槍を構えた偉丈夫は一人も賊の逃亡を許さない構えと見える。
「くっ、これまでかッ…」
「お頭。脱出をッ」
抵抗する手下の頭数も少なくて、戦闘は圧倒敵に不利である。この場からの逃亡も困難と思えた。
「この地を逃れても、どこへ行くと言うのか……投降するッ!」
「無念ですなぁ…」
捕縛された盗賊の処置は縛り首か、良くても奴隷として強制労働に使役されるのみだ。それでも、生きられるだけマシなのか。
盗賊団の頭レオボルトは部下の助命嘆願と投降を決めた。
◆◇◇◆◇
マキト・クロホメロス男爵は盗賊団の捕縛作戦が終結してから現場に到着した。火災の鎮火も残敵の掃討も完了している。マキトは作戦を指揮したゴーレム娘のフラウ委員長から報告を受けた。
「…という経緯で、盗賊団の大半を捕縛しました#」
「うむ。残党の追跡は河トロルたちに任せて、盗賊団の頭はどうした?」
元警吏長官の秘書官であるフラウ委員長の采配には手抜かりも無い。マキトが懸案を尋ねると上々な返答があった。
「神妙にマスターの沙汰を待つ様子ですわ#」
「そうか、投降した者には相応の待遇をッ…抵抗する者には相応の処置をッ」
捕えた盗賊団は罪人としての扱いではなくて、タンメル村の復興と焼け落ちた屋敷の再建に労働者として雇用したい。
「はっ、お任せ下さいませ#」
ゴーレム娘のフラウ委員長の対応は頼もしい限りだ。
戦火も生々しい仮設の牢獄で、マキト・クロホメロス男爵は盗賊団の頭レオボルトと面会した。この男は元騎士爵の落ち武者で帝国に反抗する一派だと言うが、辺境では珍しくも無い身の上話だ。
マキトは元騎士爵レオボルトからの助命嘆願と投降を受け入れて、復興の労働者として雇用する旨を伝えた。
「なんとッ、男爵様のご配慮に感謝を致します」
「うむ。宜しく頼むよ」
「はっ!」
マキト・クロホメロス男爵はどうであれ、盗賊団の配下の助命嘆願は叶うた。生きて居れば反抗の機会もあるだろうが、鬼の警吏長官が容易く反乱を許すとも思えないのだ。
しばらくは、真面目に復興作業に従事するだろう。
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