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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十六章 タンメル地方の代官
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ep322 兎族の隠れ里

ep322 兎族の隠れ里





 マキトがお土産に人参の束を与えると、兎族の子供はお礼も言わずに脱兎として逃げ出した。それも予想の内で護衛たちの包囲網は緩い。


「後を付けろッ」

「はっ」


隠密任務に長けた護衛の一人が駆け出す。兎族の子供は警戒心が強くて十分な情報が得られなかった。まさか、拷問して事情を聞き出す訳にも行かない。


密かに後を付けた河トロルの戦士が戻って来た。


「旦那様、兎族の村が襲われておりますッ」

「なんと!……直ちに、救援に向かう」


「はっ!」


こんな事ならマキトたちも後を追って行くべきだったか。今から兎族の村へ救援に向っても間に合うだろうか?


………


そこは兎族の隠れ里らしく岩場に隠れた隙間が入口との報告だ。岩の裂け目を抜けて中へ侵入すると開けた場所に出た。そこでは兎族と腐肉喰(グール)の死闘が発生していた。


見張りの兵士は倒れて腐肉喰(グール)の群れに喰われており、集落の中心地では今も死闘が行われている。マキトたちは腐肉喰(グール)の群れを蹴散らして戦闘に介入し騒乱の中心地へ向かった。


「フラウ委員長。指揮をッ」

「はい。マスター…敵を識別中…目標(ターゲット)の指示を送ります#」


ゴーレム娘の司令機フラウ委員長が望遠の視界で捉えた腐肉喰(グール)の特徴から、精霊石の短距離通信により目標(ターゲット)の殲滅指示を送る。


「ひゃっ、ふぉう~殲滅指示だぜッ#」

「突撃しますぅ#」


ゴーレム娘の強襲機フレインが武装を打ち鳴らして早くも駆け出した。制圧や捕縛ではなく、殲滅指示であれば大いに暴れる事も可能だ。ゴーレム娘の突撃機フローリアは高速形態で走り去った。先行するフレインを追い抜いて愛用の突撃槍の穂先に腐肉喰(グール)を仕留める。


-GYAHOOOU-


腐肉喰(グール)の悲鳴か叫びを開始の合図にして、侵入者との戦闘が始まった。


マキトを中心とした本陣の護衛はゴーレム娘たちが討ち漏らした腐肉喰(グール)を掃討しつつ確実に制圧範囲を広げた。タタタン。タタタン。フラウ委員長の石弓の三連射が心地よく耳に響く。腐肉喰(グール)の殲滅作戦は順調な様子だ。


ものの数分でゴーレム娘たちの活躍により兎族の隠れ里は救われた。




◆◇◇◆◇




兎族の隠れ里の中心地には広場の地面に平伏する兎族の姿があった。ガタガタがたっと震えている。


「こ、これは魔王様ッ…ご機嫌も麗しく…恐悦至極に、ございますッ」

「…ガタガタ…」

「…ひぃ!」


何故かマキトの姿にびびりまくる村人たち。村長と見えるご老体も緊張した様子で怯えている。


「魔王とは、俺の事かッ?」

「ひっ、石像の兵士と魔物の配下を連れた、魔王様ッの軍勢が現われたと……」


村長のご老体は恐れ慄きながらも申し開きをした。既に命乞いを始めた者もいる。そこへ血濡れて汚物に塗れたゴーレム娘のフレインが現われた。


「悪さをする腐肉喰(グール)はいねーか?#」

「きゃっ!」


あまりの形相の恐ろしさに、耳長の兎族の娘が卒倒する。


「レインちゃん。帰ったらお洗濯ですぅ#」

「あわわ、お助けをッ…」


愛用の突撃槍の穂先に腐肉喰(グール)の死骸を引っ掻けてゴーレム娘のフローリアが帰還した。コラッ、獲物を誇示するのは止めなさい。


ゴーレム娘フラウ委員長は眼鏡の奥の冷たい眼差しで兎族の村人を観察する。


「魔王様ッ!貢物に…この娘たちを捧げますッ…どうか、お収め下さいませ!」


「…ひぃ!」

「…きゃっ!」

「…あわわわ…」


完全に恐怖して、恐慌に陥った村人たちは命乞いを始めた。


「そう言われても、受け取れぬ…」

「なんと、儂らの命運もこれまでか…皆の衆、済まん…魔王様ッのご機嫌を害しては、生きられぬッ…」


マキトが貢物の受け取りを断ると、絶望した村人たちが泣き始めた。


「待てッ、俺の気分は悪くは無いさ。魔王様と言うのは止めてくれ」

「では、何とお呼びすれば……」


「俺は、マキトだ」

「おぉぉ、魔王(マキト)様っお許しをッ!」


村長のご老体を始めとして、村人の全員が土下座をし平伏して額を地面に擦り付ける。


「…ひぃ! マキト様、素敵ッ…」

「…きゃっ! あたいの魅力でメロメロよッ」

「…あわわわわ、魔王様に、食べられちゃうぅ…」


息も絶え絶えに助命を嘆願と懇願する様子にマキトは負けた。仕方なく友好の証しとして耳長の兎族の娘たちを屋敷へ連れて帰る。これは是非にも兎族の娘たちを再教育して、誤解を解かねば成らない。


こうして、兎族の隠れ里は救われたのだ。




◆◇◇◆◇




後日にマキトが周辺の探索と魔物の生息状況を調査すると、タンメル地方では腐肉喰(グール)の被害が拡大して勢力範囲を広げていると判明した。


「それは、北辺の荒地に住む…兎族の隠れ里だわ」

「魔王と間違われて、泣き付かれたぞッ」


久々に帝都の屋敷へ帰還したマキトは見習い女中(メイド)の兎族の娘たちについて尋ねた。


「おほほほほ、さも当然でしょう」

「リリィ。何をしたッ?」


屋敷の地下室でリリィお嬢様は過去の悪行を事もなげに語る。


「かの一族には恐怖を植え付けて、毎年に貢物を要求したのよッ」

「それで…」


マキトが聞いた話では貢物の対価として、兎族の隠れ里の周辺から腐肉喰(グール)を狩り出して討伐していたらしい。害獣の駆除も領主の務めだ。その当時の領主であるリリィ・アントワネ・タンメルシアが失脚してから約半年の間に腐肉喰(グール)の被害が拡大したと言う事か。


代官としてのマキト・クロホメロス男爵の仕事ぶりに期待しよう。





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