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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十六章 タンメル地方の代官
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ep321 北部辺境区の代官

ep321 北部辺境区の代官





 マキト・クロホメロス男爵は帝国北部のタンメル地方の代官に任命された。旧タンメル村を含む帝国北部の森林地帯は皇帝の直轄領の辺境区とされて土地の管理に代官が派遣される。北部辺境区は森林資源の他に目ぼしい産業も無くて貴族の任地としても不人気な土地である。


タンメル村の領主の館は焼け落ちて、手入れもされずに荒廃した娯楽施設が廃墟として残された。前領主のリリィ・アントワネ・タンメルシアに縁の者は先の内戦で戦死するか行方不明となった。残された村人も逃亡した様子で廃村には人気(ひとけ)も無い。マキトは荒廃した村を見てため息を吐く。


「ふぅ。こりゃ復興するにも人手が足りない…」


ゴーレム娘のフラウ委員長は秘書官の制服を着て提案する。秋の新色も中々に似合う。


「マスター。開拓民を募集しますか?#」

「森林地帯の他に目ぼしい資源も無いし……観光開発も難しいだろう」


マキトが難色を示すのに、耳寄りな情報を告げる。


「帝都の木材価格は高騰しておりますわ#」

「なにっ!」


帝国の内戦の被害から帝都の復興需要もあり建設資材は常に不足しているらしい。有力な情報に期待も高まる。


「直近の開発資金には木材の輸出をして、その期間に産業育成を図るのが宜しいかと提案いたします」

「ふむふむ…」


帝都の官吏がマキト・クロホメロス男爵の退官を惜しんだのは主にゴーレム娘のフラウ委員長の秘書官としての才能だ。役所の仕事にも重宝されて大活躍していたと聞く。


マキトがタンメル地方の代官へ就任するにしても有用な人材(ゴーレム)である。


………


タンメル地方はシドニア山脈の北部から北の氷結海までの平野部で、開拓地の間には原生林が残る森林地帯だ。それでも森林資源の採取に人が入る森は定期的な手入れが必要である。


「やっ、はっ、たぁぁあ!#」


-DOTA-


大木から邪魔な枝が切り払われて地面に落下する。嬉々として大木に登るゴーレム娘フレインの姿は山猿の様だ。そのフレインが器用に大木の幹を伝い下りて来た。


「リアちゃん。後は任せたよッ#」

「はい。いっきま~す#」


ゴーレム娘のフローリアが大斧を振るうと、極限まで切り詰められた木口が限界を迎える。


-DOGOM BAARIBAAAARI ZUUN-


計画通りに海側へ向けて大木が切り倒された。フレインが早速に枝打ち作業を再開する。


「次はッ! 枝を切り払うぜッ#」

「はぁぁぁああ!#」


フローリアも負けじと手斧を振るう。余計な枝を切り落し木材として都へ運ぶのだ。


………


森林開発と木材の輸出は順調だったが、マキトには気になる事がある。タンメル地方の開拓地は平野部の森林を切り開いた農地であったが、氷結海から吹き付ける北西の風により寒冷な気候風土だ。その影響で作物の育成には困難が多いと見える。


そのため、マキトは防風林を育成する施策に森林の専門家を招集した。


「伸びのび、伸びるっチャ!【成長】」

「おぉぉ~」


防風林の苗木が伸び出して若木となる。寒風も吹き始めた秋口に魔法でも無ければ、森林の育成には何年もかかる大事業だ。


「大地の地脈に沿って苗木を植えていますからッ」

「ちみゃく?」


マキトが尋ねると妖精族のポポロは幼女の顔からドヤ顔で言う。


「えっへん。自然界にも魔力の流れが存在しているのです」

「へぇ~」


関心しきりのマキトであった。


「マキトさん。こんな所で良いですか?」

「うむ。ありがとう! 明日も頼むよッ」


妖精族のポポロとどれも似た様な顔の親爺がにこやかに応える。妖精族は全員が幼児と見えて、実際の年齢は見た目では分からない。


「ふぅい~ぃ。妖精族が総出でも大変な作業じゃて…」

「…恩義でも無ければ、やっておれぬわッ…」

「…わっせ芽を出せ、わっせ伸びろ…」


多くの妖精族が立ち働き、防風林と森林地帯の育成も順調な様子だ。


………


マキトと妖精族のポポロとはトルメリア王国にある私立工芸学舎の学生時代からの知り合いで、今では彼女も学舎で教鞭を振るう助教授だと言う話だ。そのポポロ先生は菌類学の専門家として森の茸と醗酵学に細菌を研究している。


「マキトさん。この茸は食べられるっチャ」

「ほうほう…」


それは松茸に似た立派な物で、香り高く炊き込みご飯に入れたいと思う。


「こっちの赤いのは体力が回復するっチャよ!」

「ふむふむ…」


回復薬の在庫には丁度良さそうだ。他にも毒茸として痺れや幻覚をもたらす危険な種類もあった。


「あっ!これは新種の……」


森林地帯の森歩きにも興味の種は尽きないらしい。マキトは秋の味覚に各種の木の実と怪しげな茸の類を採取した。


がさっ。そんなマキトの姿を下草の陰から覗く者があった。


「誰だッ!」

「キュ!」


飛び出した人影をマキトの護衛が捕える。


(ぬし)様。賊を捕えました♪……如何なさいますか?」

「むむぅ…」


河トロルの戦士リドナスに組み伏せられたのは、長耳の兎族の子供だった。


「キュクッ、おらが森を荒らす魔物めぇッ!」

「ふっ」


話が通じるだけでも良しとしよう。マキトは兎族の子供をリドナスに命じて解放するが、河トロルの護衛たちに遠巻きに囲まれては逃走も出来ないだろう。マキトが甘い人参を餌に与えると、兎族の子供は匂いを確かめて齧り始めた。


「キュキュキュ、これは美味しいじょー」

「…」


余程に腹が減っていたか、ひと息付いて話を聞くと、その兎族の子供は食糧を求めて森へ入ったと言う。


この付近に兎族の隠れ里でもあるのだろうか。





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