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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十五章 奇岩島探検と配達任務
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ep320 帝都の疫病を退治せよ

ep320 帝都の疫病を退治せよ





 マキトたちは古都アルノルドを経由して王都へ向かった。途中の宿場では侯爵家の女中(メイド)オーロラから内密の報告を受けた。


いま帝都では疫病が流行しており、市内へ出入り行商人や旅人は厳重な検査を受けると言う。それとシュペルタン侯爵の関係者の邸宅でも疫病が発生したが、侯爵家の外聞を考慮して内密に新しく買い入れた奴隷の何人かを処分したらしい。


「…という訳で、帝都への帰還には十分にご注意くださいませ」

「それは、どんな病気か?」


侯爵家の女中(メイド)オーロラの情報で、紫斑病の症状を伝え聞くとマキトが体験した病状と類似していた。やはり、厄介事の種と言われた異民族の娘ムツコの誘拐事件と関連があるのだろう。ムツコ本人か人攫いが奴隷商人の元へ病原菌を持ち込んだと想像される。


「紫斑病の蔓延に有効な手立てはありません」

「ふむ…」


マキトは茨の森で体験した治療方法をオーロラに伝えた。侯爵家の女中(メイド)オーロラは早速に屋敷へ戻り、紫斑病の治療方法を実践すると言う。


………


帝都の西門はナダル河に架かる大橋の先にあるのだが、大橋の手前には臨時の関所が設けられて積荷と検疫の検査が行われていた。そのため帝都へ向かう街道は大渋滞の様子だ。


「男爵様でも、帝都への入場には検疫の審査を受けて頂きますッ」

「うむ…」


検疫所の職員は収賄にも応じない様子だ。


こういう時には皇帝陛下の勅使の旗が欲しい所だが、今回は隠密行動の密命で表立ってはマキト・クロホメロス男爵の私的な旅との装いである。事情を話して優先的に便宜を図る事も出来ないのだ。それでも一日がかりに検疫所を抜けるとマキトたちは帝都へ入場した。


早速に宮殿へ参内すると登城にも厳重な検疫検査を受けて皇帝陛下への謁見が叶った。


「此度の旅路、ご苦労であった」

「はっ」


既に概要は報告書として提出してある。異民族の娘ムツコを極北の地まで送り届けて部族の有力者に身柄を預けた事。旅の途中で紫斑病に遭遇して治療法の知見を得た事。


「して、帝都に蔓延する疫病に対策があると?」

「左様に御座います」


マキトは紫斑病の治療方法を皇帝陛下へ提案した。要点は症状の発生した病人を隔離する事と症状が回復してからも三日間は隔離を続けて警戒する事。帝都の衛生管理として公衆浴場の整備を図る事。正しい治療方法を市井に広めて市民への疫病の蔓延を防止する事など。


「公衆浴場の整備には時間がかかるとも、それ以外の件は早急に手配しようぞ」

「ご尽力を賜りまして、有難うございます」


皇帝アレクサンドル三世の積極的な関与には好感が持てる。


「ふむ。そちの手柄は、公には出来ぬが覚えておこう」

「はっ、有難き幸せにございますッ」


こうして、マキト・クロホメロス男爵の任務は完了した。


………


帝都の治療所の拡充と正しい対処方法が広まり、疫病は次第に収束して市民も平穏を取り戻しつつある。疫病に対する市民の不安を煽り利益を得ていた宗教団体は皇帝陛下の徳政令の発布により沈黙した。信仰の壺を売るよりも、正しい治療方法を流布して市井の安寧に務めよとのお達しだ。この命令に逆らえば、再びに帝国軍による宗教弾圧も有り得る。


この騒動の初期に市民の暴動を制圧出来なかった帝都の警吏と防衛隊の衛兵は責任者が職責を問われた。帝都の官吏も現場の失態を擁護できずに、各部署の責任者は更迭されて人事を刷新する事態となった。これに伴い帝都の南区の警吏長官であったマキト・クロホメロス男爵も地方の官職へ左遷されたのだ。


新たな任地は旧タンメル村を含む帝都の北部の森林地帯であるが、森林資源の他には目ぼしい産業も無くて貴族の任地としては不人気な土地である。そこは反逆者リリィ・アントワネ・タンメルシアの領地であったが先の内戦で領主は討伐された。今は皇帝の直轄領として接収された、その土地へマキト・クロホメロス男爵は代官として赴任するのだ。


帝都での宮仕えの生活もこれで終わる。




◆◇◇◆◇




帝都の郊外にあるマキト・クロホメロス男爵の屋敷には反逆者リリィ・アントワネが匿われていた。とはいえども、厳重な神聖封印と結界を施された地下室からの出入りを禁じられて虜囚の身でもある。


「旦那様が帝都へ帰還されました」

「そう、除霊探偵の活躍も潮時の様ね。今後は手勢の育成に励むとするわ」


リリィお嬢様の言から察するに、除霊探偵の活動は町人の評判になる程の成果を上げたらしい。


「ひと時のご辛抱に御座いますれば…」

「分かっているわよ。陰謀を練るのも楽しい物よ」


執事のセバスが心配するのはリリィお嬢様の暴走だ。適度に心理負担(ストレス)を発散して欲しいと思う。


「お嬢様の手腕に期待しておりますぞ」

「うふふふっ。見てなさいッ」


リリィお嬢様の機嫌が良い内は問題も無いだろう。主従の関係も随分と気安くなったものだ。


セバスと旦那様(マキト)の間にはリリィお嬢様の身柄に関する契約があり、その解放には身代金の支払いとして莫大な借金が課せられている。しかし、執事のセバスが真面目に働いても返済できる金額では無いのだ。


帝都の夜にリリィお嬢様の笑みが零れる。





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※ 本作品はファンタジーであり、実在の紫斑病とは症状も原因も異なります。


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