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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十五章 奇岩島探検と配達任務
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ep319 信じ奉る

ep319 信じ奉る





 マキトたちは北辺の平原を走破して工房都市ミナンへ到着した。これより先は帝国領であり、ひと安心する。整備のため移動小屋を工房へ預けると、マキトの帰還を待ち受けていた僧侶に水の神殿へ案内された。


若い神殿長はビルンバウムと名乗り水の司祭でもあると言う。マキトも名誉司祭の職を受けていたから挨拶は必要だろう。


「それで、名誉司祭殿にお願いの件が御座いまして…」

「ふむ」


面倒事かとマキトは身構えたが、大層な用件では無かった。ビルンバウム神殿長の依頼は新たな立体像の製作依頼であった。


「工房の職人へ依頼すれば良かろうと…」

「なるほど」


以前にマキトが製作したA型(アマリエ)の立体像が好評で高値で取引されていると言う。それと同時にF型(ファガンヌ)R型(リドナス)の立体像も品薄状態だった。それに目を付けた職人が模造品を販売しているが評判はいまいちらしい。


これは、水の神殿としても是非に本物の立体像を販売して信者を集めたいとの意向だ。なるほど、ビルンバウム神殿長は商才にも長けた抜け目の無い人物と思える。マキトはこの依頼を引き受けた。それには知人が世話になった恩義も多少はある。


「チッピィ。工房を借りるぜっ!」

「マキトさぁん~」


馴染みの魔道具店を訪れると、妖精族のチッピィがどんよりと消沈していた。陽気な妖精にしては珍しい事だ。事情を聴くと春先に生まれた恋は秋に実らずに散ったらしい。


「あの女、酷いんです。僕に貢がせた挙句にポイと捨ててぇ…」

「ふむふむ」


「良いんです。僕は仕事に生きるんですぅ~」

「そうか…」


ならば早速に仕事を始めよう。強権の商人と化したチッピィの助けがあれば、材料の調達も容易だ。マキトは久しぶりに腕を振るい立体像の製作に没頭した。


完成した立体像は新作で水の神殿の女性神官たちをモデルにしている。ビルンバウム神殿長は美形の女性神官を使って布教活動を進めているのだ。マキトは最高品質の立体像を水の神殿へ奉納した。


ビルンバウム神殿長は早速に布教活動を開始して、その様子を名誉司祭のマキトも見学する。


「神殿の清浄と神域のままにッ…【浄水】【濃霧】」


神殿の礼拝所に水蒸気の霧が立ち込めて聖域を染める。凛とした清涼感は本物だ。


「では、信徒の皆様をお迎え致しましょう」

「「 はい 」」


部下と見える女性神官たちが販売の準備を始めた。次々と礼拝所を訪れる信徒たちに一般人も混じっている様子だ。


女性神官たちは信徒の一人一人と握手を交わし相手の眼を見つめる。良く見ると魔力を流して癒しの効果を発動しているらしい。これは自分も参加せねばッ!


その様子は事前にビルンバウム神殿長が演出した通りの所作である。あんた、もしかして転生者か?…某アイドル事務所のPと見紛う。


「ふぉっ、ほっ、ほぉ、マキトよ。久しぶりじゃのぉ」

「師匠っ!……ご無事で何よりですッ」


マキトに声を掛ける白髪のご老人はクリストファ神父だ。光神教会の元司祭様でマキトの魔法の師匠でもある。


「ビルンバウムも中々に良くやりおる…」

「…」


師匠クリストファ神父の話では、戦乱のこの時代に癒しを与える水の神殿の布教活動は住民の好評を得たと言う。さらに信仰に興味のない若者には女性神官たちの美貌をも利用して信者を集めているのだ。


現在のクリストファ神父は水の神殿に匿われており、獄門島を脱獄して帝国軍の追及を躱すのは容易な事では無い。名誉司祭のマキトが布教活動にも一役買うのは仕方の無い事だろう。


護衛に守られた貴族の男が現われた。


特別包装の立体像のセットをお買い上げの様子だ。ドカンと置かれた皮袋に寄付金の額も相当な物と思える。


「これはッ、名誉司祭殿ではあるまいか!?」

「っ…」


「拙者は、アインツ・ローゼンバウムと申す。辺境方面軍の…」


要は現在の工房都市ミナンへ派遣された帝国の代官である。


「ご本人にお会いできて嬉しく思う。この気品、この造形美。この躍動感は素晴らしい!」

「有難うございます…」


単なる立体像の愛好家(マニア)か。マキト名誉司祭が製作者と知っての挨拶だろう。


「やはり、フレデリッカちゃんが最高ぅ~!」

「いやいや、イスナリオ嬢もすて難いッ…」

「拙者は、アマミ・ママミでごさる…」


お代官は気さくな様子で、いつの間にか信者(ファン)の交流を始める始末だ。


マキトは水の神殿の実態を見た。




◆◇◇◆◇




その一方で悪徳な宗教家もいた。悩みを抱えた信者へ神の御言葉を告げる。


「この病は永遠に家人を呪い続けるであろう…」

「ひぃ、お助けをッ!」


弱った人間を助けるのは容易な事だ。何かしらの心の支えを与えてやれば良い。


「これに、聖なる霊力を込めた壺がある。それを西向きの窓辺に祀り日に三度も祈りを捧げれば…」

「買った!」


神殿への寄付の金額が、将来への安心を買う事になるのだ。


「神のご加護があらんことを…」

「ははっ」


神像を崇めるのも、壺を祀るのも大差は無いと思う。





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