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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十五章 奇岩島探検と配達任務
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ep318 白い悪魔のホラ話

ep318 白い悪魔のホラ話





 マキトたちは茨の森で食糧と燃料の補給を済ませると帰路についた。念のため、あの苦い薬草も積んでいる。北辺の地に秋の気配は早い。平原の遊牧民は家畜を追って南へ移動を始めている。その平原を東に向かい移動小屋を走らせた。


移動小屋は冬季の遠征に備えて白く塗装され紋様が描かれている。ゆわゆる雪迷彩の文様だが、枯れ始めた草原では目立ち過ぎる。マキトは移動小屋を止めて遊牧民の小屋へ向かった。新鮮な家畜の肉と乳を分けて貰うためだ。


「ごーめん下さい」

「あん。見ない顔だねェ」


遊牧民の女が顔を覗かせた。交渉事にゴーレム娘は出せないので、マキトが頑張るしかない。


「すみません。帝都からの旅行者なので…」

「そういう事なら、訳ありかぃ」


「でへっ」


愛想笑いで誤魔化す。マキトは交渉して家畜の乳を手に入れた。最近は栄養管理にもフラウ委員長が煩いのだ。


………


移動小屋に騎兵の一団が現われた。留守番のフラウ委員長がゴーレムの外見を偽装して対応する。


「怪しい…何者だッ、小屋の(ぬし)は居るか?」

「旦那様は不在で御座います#」


女中(メイド)の衣装で来客の対応も慣れたものだが、騎兵の男はフラウ委員長の顔色に気付いた。


「お前ッ、異民族だなッ!」

「きゃ、何をッ…#」


乱暴する騎兵の男は血反吐を吐いて地面に倒れる。


「ぐばぁ…」

「お姉っ、畳んじまおう#」


ゴーレム娘のフレインが賊を倒した様子だ。フローリアが乱暴を止める。


「レインちゃん。ご主人様(マスタッ)に叱られますよッ#」

「平気、平気ぃ~#」


「ふぅ。失策ですわ#」

「「……#」」


突然の暴行に驚いたもう一人の騎兵は逃げ去った。今から追いかけて討伐するのも騒ぎを大きくしそうに思う。




◆◇◇◆◇




マキトが護衛のギンナと魔獣のコロに乗り移動小屋に駆け戻った時には、騎兵の追手が迫ってた。河トロルの戦士リドナスが移動小屋を走らせる。


「何事だッ!?」

「敵に包囲されますッ#」


「敵ぃ?」


どうやら遊牧民の騎兵と敵対してしまったらしい。移動小屋を全速力で走らせても騎兵の方が断然に速い。


「ここは、お任せをッ#」

「はいよ~#」

「とうっ!#」


頼もしくゴーレム娘たちが迎撃に向かう。


「話合いで解決できれば良いのだが…」

(ぬし)様。追い付かれマス♪」


騎兵から弓矢を撃って来た。馬上弓という技術かぁ器用な物だ。移動小屋の壁に矢が突き立つ。


「おっと、危ない」

「ッ!」


平原に隠れた湿地を回避して、移動小屋を取り回すのは容易ではない。このまま追い付かれるのも時間の問題に思える。


………


秋の平原は下草が枯れ始めても夏草の背丈が残っている。伏せて騎兵をやり過ごすのも可能だろう。


「来たッ#」

「レインちゃん。引いてぇえ!#」


「そらよっ#」


ゴーレム娘のフローリアとフレインは自らを楔として地面に埋めて金属線(ワイヤー)を引いた。そこへ突っ込んだ騎兵は足を取られて落馬する。


「きゃぁあっ!」

「…罠かッ!」

「…くっ!」


馬の足を傷められて、真っ直ぐに走れる者も居ない。


「やっ、はっ、たぁあああ!#」

「とうっ!#」


フレインの鉄拳が頭蓋を砕く。フローリアの槍が腹を貫く。多勢を相手の乱戦に手加減も出来はしないのだ。


早速の流血に話し合い所の騒ぎではない。


………


追手の騎兵はそれだけでは無かった。マキトの移動小屋を発見した騎兵はその特徴から、南部のゲフルノルドの流浪民が使う移動小屋だと見抜いた。その所為で敵国の間者(スパイ)だろうと追手を差し向けられたのだ。


とはいえ、この時期的には遊牧民の移動も済んでおらず、付近で狩りをする民兵を集めた騎兵隊であった。彼らは臨時の仕事にも喜んだが、マキトが帝国のお貴族様だとは気付かない。ただ、敵国の間者(スパイ)を狩り出す陣容だった。


「まずい。このままでは、包囲されるッ」

(ぬし)様。煙が♪」


最初に異変に気付いたのは河トロルの戦士リドナスだった。


「何だっ、火事かッ!?」

「…俺の家畜が焼かれるッ!」

「…(わし)の家内が心配じゃもんよ!」


騎兵隊の男たちは途端に身内の心配を始めた。枯れ始めた草原に火の周りは早いのだ。


「こうしては、おれんッ」

「…メエエエ、メエエエェ…」

「…(わし)が助けに行くっ…」


彼らは撤収を決めた。敵国の間者(スパイ)よりも家畜と家人を避難させるのが先決である。こうしてマキトたちは難を逃れた。


火災の原因がゴーレム娘フラウ委員長の仕業だと知ったのは後日の事だった。




◆◇◇◆◇




馬上王トルキスタは配下の報告に不快感も隠さない。かの王座は常に馬上にあり夏の避暑地から帰還の途にあった。


「ふん。白い悪魔が現われたなどと、信じられようかッ」

「しかし、報告によりますれば…」


なおも報告を続ける。


「更に、三人で騎兵隊を撃退したとは、ホラ話も聞き飽きた!」

「…」


しかし、馬上王が信じないのなら報告の意味はない。


南侮(なんぶ)の豚どもの欺瞞工作であろう。臆病者は始末せよッ」

「はっ!」


ただ、命令には従うのみだ。馬上王トルキスタの判断は偶然にもアアルルノルド帝国との外交問題を回避した。





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