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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十五章 奇岩島探検と配達任務
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ep317 ぶち犬は伏せる

ep317 ぶち犬は伏せる





 マキトは体調を崩して寝込んでいた。移動小屋の運航は河トロルの戦士リドナスと鬼人の少女ギンナに任せて独り床に臥せる。


「ゴホッ、ゴボゴボ…」

「ん#」


喉の腫れに頭痛もして発熱がありそうだ。マキトの看病はゴーレム娘のフラウ委員長に任された。感染症でもゴーレムならば問題は無い。


「ゴホッ、ゴボゴボ…」

「マスター。お食事をッ#」


マキトが大好物と思える熱々のうどんも喉を通らない様子だ。思えば最近は乾麺ばかりの食事で食生活に偏りが感じられる。これは食事の改善が必要だとフラウ委員長は思案する。案外に貴族の若様が冒険旅行で命を落とすのは、ささいな原因だろうと推測した。


主人様(マキト)の好物ばかりを食べさせては体調にも影響が出る。サリアニア奥様に知れたらお叱りを受けるだろう。まだまだ、ゴーレム娘のフラウ委員長はお目付け役としてもご主人様(マキト)に甘いのだ。


帰りの進路を選定するのにご主人様(マキト)の病状を考慮して、人里に近いコボンの地へ立ち寄るか早々に帝都へ帰還するかを検討した。フラウ委員長は冬のコボンの地の騒動を報告書から読み知っていたので、危険な迷宮(ダンジョン)へ近付くのを避けた。


それでも、マキトの病状が悪化して途中の茨の森へ食糧補給に立ち寄った。


「これは、いけませんね」

「あぁ、ソアラ様っ、そんな!」


マキトは茨の森の(ぬし)ソアラフレイユに強引に捕縛されて薬を飲まされた。非常に苦い薬草を複数混ぜた煎じ薬だッ。あまりの不味(マズ)さに意識が飛ぶ。


「マスター。きちんと食べて下さい#」

「ぐぬぬっ…」


この病人食も薬草も非常に不味(マズ)いのだッ。すっかり、マキトも貴族の食生活に染まってしまったか。ゴーレム娘のフラウ委員長はソアラ様の言い付けを忠実に守った。


それでもマキトの病状は悪化した。顔のあちこちに紫色の斑点が出て今にも死にそうな顔色であった。


数日して、発熱は下がり本人は至って平気な様子となった。


「暇だ。出られぬッ」

「辛抱して下さいませ#」


紫色の斑点の所為でぶち犬の文様だと狼たちに笑われたが、マキトは小屋に引き籠って薬草の研究をした。薬の成分は各種のビタミンなどの栄養素と風邪に効く抗生物資らしい。特段の特効薬と言う訳では無い。


それでも病状の悪化に移動と外出を禁じられて狼の見張りが付けられた。厳重な警護どころか軟禁状態の人質かと思える。理由を尋ねると紫色の斑点が回復してから数日が最も危険という話だ。それは、ウイルスの飛散を考慮しているのか。


ともかく、軟禁状態は三日間も続いた。




◆◇◇◆◇




帝都では紫斑病という奇病が蔓延した。顔のあちこちに紫色の斑点が出て全身へ及び死に至るという。それは伝染病と考えられて帝都の市民を恐怖に陥れた。


まず、奴隷たちに紫斑病が発生して競売所の奴隷たちが処分された。それでも紫斑病の蔓延は収まらずに市内の貧民街へ感染が広まったのである。帝都の市民は貧民街を焼き払えと騒動になったが、街の警吏も防衛隊の衛兵も暴徒を鎮圧できない。


貧民街と新市街の住民対立が暴動となっても貴族街は静観を決めた。しかし、貴族の屋敷でも紫斑病が発生するに至り帝国軍が暴徒の鎮圧に介入を始めたのだ。


「お父ちゃん、しっかりしてッ」

「くっ、あなた…」


家の稼ぎ頭が倒れては日々の暮らしも間々成らぬ。満足に休んでも居られない町人は発熱が下がると紫斑を隠して働きに出た。同じように満足な治療を得られぬ貧民街では栄養状態も悪く爆発的に紫斑病が蔓延する。


季節は秋に入り始めていた。




◆◇◇◆◇




軟禁状態が解除されてマキトは久しぶりに水浴びをした。その場所は妖精の泉と呼ばれる清廉な真水を湛えている。泉の周りには花が咲いて本当に妖精が現われそうに見えるが、泉の中には水草も無くて魚の一匹どころか虫の一匹も見当たらない。


泉の水に浸かっるとジリジリと肌を削る様な奇妙な感覚がした。同じく水浴びする狼に尋ねると妖精の泉で体を洗うと蚤や寄生虫も死滅して気持ちが良いと言う。それは……殲滅魔法か、殺虫剤か……何か危険な効能だろッ!


マキトは驚いて妖精の泉から上がる。


「ソアラ様っ!」

「おほほほほ、足の先から頭の頂きまで、心行くまでも、お浸かりなさいッ…伏せ!」


茨森の(ぬし)ソアラフレイユの登場に見えない力場に抑え込まれて、マキトは妖精の泉へ沈んだ。


「がぼっ……ぶくぶく.。o○.。o○」

「おほほほほ、…」


くっそう。ソアラ様の美乳を拝みたい。妖精の泉の効能かマキトは元気になった。




◆◇◇◆◇




帝都の宮殿には皇帝陛下の医師団と清掃局の責任者が集められた。紫斑病の対策会議が開かれるらしい。


「どうした事だ。紫斑病の流行が治まらぬとは?」


各部局から現状の報告がされる。


「治療院を訪れた者は一千余を越え増加の一途でございます」

「街の衛兵の手には負えぬ案件であろう…」

「墓地の埋葬は手一杯に…」


それぞれの対策が提言されるが、有効な策に乏しい。


「症状が現われた者は隔離しなれけば、成りません」

「暴徒の鎮圧には是非、我が騎士団をッ…」

「死亡した者は早々に埋葬しますれば…」


気になる情報もあった。


「治療院を退院した者の家から、また患者が出たとッ!」

「我々の実力をご覧に入れましょうぞ…」

「貧民街には放置された死体も…」


なお、ここには現われない情報もあった。帝都に本部を置く一部の宗教組織は疫病に信者の不安を煽り寄付金を集めていると言う。効果も怪しい聖水を売り付けては大金を稼ぐ僧侶もいるらしい。


アアルルノルド帝国の皇帝アレクサンドル三世は先の内乱の終結に際して、宗教組織へ徳政令を発布したが本来は大の宗教嫌いである。この機会に悪徳な宗教組織は殲滅されるだろう。


是非、そうあって欲しいものだ。




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※ 本作品はファンタジーであり、実在の紫斑病とは症状も原因も異なります。


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