ep312 奇岩島を調査せよ
ep312 奇岩島を調査せよ
海底洞窟で遭難したマキトたちは捜索隊が発見し救助された。勿論にゴーレム娘のフレインがマキトの居場所を知らせたのは重大な情報であったが、基地では大蛇の消火液に汚されたフレインの姿は魔物と間違えられて大騒ぎとなった。
夜が明けて嵐も治まり、騒動を経てマキトたちは奇岩島の噴火口の竪穴から引き揚げられたのだ。
「英雄さまっ◇(ハート)~」
「ギンナ! 無事だったかッ」
現場に駆け付けた鬼人の少女ギンナを抱きしめるマキトはお互いの無事を確認した。
「フラウ委員長。ご苦労であった」
「んっ#」
サリアニア奥様はゴーレム娘たちの働きを労う。今回は無事に旦那様の身を守り通したのだ。護衛としては合格だろう。
「レインちゃん!その体は?…」
「てへっ#」
フレインは名誉の負傷でボロボロだ。フローリアの傷はそれほど酷くは無い。
奇岩島の火口付近の捜索と上陸当初に派遣した探検隊の周辺調査で奇岩島の全貌が見えてきた。島の西側は最初に上陸した砂浜の海岸がある。そこから南は岩場と奇岩地帯を越えて入り江に至る。マキトたちが海底洞窟を発見した場所だ。
もう一方の北側を走破した探検隊の報告では、奇岩島の北側は岩礁と複雑な岩場へ波が当り、海域には渦が発生すると言う。北海の海流と海底地形の影響だろうか。泳ぎの得意な河トロルの戦士も躊躇う荒れた海域と見える。
島の東側は山体が落ち込んで複雑な入り江が形成されている。それでも暗礁の岩が多くて船を寄せるには危険が大きい。しばらくは西海岸に小舟を寄せて上陸する方法だろうと思う。
「よし、リドナスは引き続き東の入り江を調査してくれッ」
「はい♪」
「我々は森林の調査だ!」
「「 応う 」」
西海岸を上がると森林地帯があり山の斜面を登ると岩に覆われた荒地となる。山を見上げると山頂は三つに分かれて南の山頂と中央の山頂の間に噴火口があった。それはマキトたちが救助された竪穴で、噴火の兆候は無い休火山と見える。北側の山頂はやや低く、その斜面はなだらかな岩場である。
火口部は平坦な土地に魔獣グリフォンが生息していた形跡といくつもの魔獣の骨が散乱していた。ずいぶんと喰い散らかしたと見えて白い平原の様子だ。この惨状では奇岩島に大型の魔獣も野生動物も居ないと思うが、海底洞窟に巣食っていた大蛇は海蛇の類か。
山頂から見下ろすと北東部に森林地帯と南東部に疎林が見えた。
「おや、水源がある!」
東の斜面を下ると雨水を集めた沢谷があった。清涼な水は河口付近から染み出した湧水だろうか。マキトの調査隊は沢谷に石積みの堰を築いて新鮮な水を確保した。飲料水の確保は重要である。
沢谷に沿って下ると左右の山肌は疎林となって夏の暑さも凌げる快適な風景だ。小川を下ると東の入り江のひとつに出る。
「主様。こんな物が…」
「ほほう、水晶石かッ」
河トロルのリドナスが入り江で発見したのは波に洗われた水晶石で、磨けば値が付きそうに見える。
「むむっ、売れそうですぅ~◇」
「良し!」
こう見えても、鬼人の少女ギンナは玉石を産出する山オーガ族の娘で鉱石の目利きでもある。貴重なお宝をゲットだぜッ。
そうして、海底洞窟を探索した部隊からは水晶鉱脈を発見したとの報告があった。大蛇の二匹目との遭遇はなくて、ひと安心する。大蛇の死骸を解体すると丸飲みの水晶石が発見された。帝都へ持ち帰れば、おもわぬ臨時収入となるだろう。
森林地帯を捜索した部隊からも大型の魔獣の報告は無かった。
これにて島の安全の確認は出来たと思う。
◆◇◇◆◇
除霊探偵クロウリィは、その後の捜索で伯爵令嬢の悪霊の潜伏場所を特定した。数日掛かりの追跡はリリィお嬢様の精神にも負担となる。
「セバスちゃん。今度こそ捕えるわッ」
「はい。お嬢様……準備も万端にございます」
帝都の外れにある東屋には盗賊団が巣食っているらしい。帝都の警吏は真面目に仕事をしているのか?疑問に思う。既に東屋の周囲には罠を張り巡らせて捕縛の準備を整えた。
「今よッ!」
「はっ」
助手のセバスが魔力を込めると亡霊を捕える罠が発動した。
「きゃーぁぁぁあああ!」
「何だッ!」
「…女の悲鳴かぁ?」
「…誰だ!、売女を連れ込んだッ馬鹿者は!?」
深夜でも盗賊の隠れ家に騒ぎがあった。叩き起こされた盗賊の手下が東屋から飛び出して来た。ずぽーん。ぶじゅっ。泥沼の罠に間抜けが落ちる。
「…あわわ、罠かッ!」
「…ひいぃぃ?、抜けネェ!」
大混乱の中に薄ぼんやりと逃げ出す悪霊の姿が見えた。
「怨嗟の声 連環の輪 我手に集え」
「怨嗟の声 連環の輪 我手に集え…【悪霊】」
リリィお嬢様の補助もあり、助手のセバスが悪霊を捕えた。これで伯爵家の依頼は落着となろう。この後、この東屋には匿名の通報で駆け付けた警吏隊が泥沼の罠に落ちた盗賊たちを捕縛したと言う。弱小の盗賊団であれば、壊滅だろう。
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