ep310 海底洞窟と蛇料理
ep310 海底洞窟と蛇料理
南の入り江に露出した洞窟は海底洞窟と見える。引き潮に攫われても入口には海藻が生い茂り全貌を隠していた。マキトの冒険心が頭をもたげる。
「中を探索しよう!」
「……潮が満ちる迄には、お帰り下さいませっ#」
ゴーレム娘のフラウ委員長はそう忠告するが、この様子ではお目付け役が必要だ。ご主人様も島の探索隊に同行したいと内心では思っている。この洞窟探索の機会を逃す事はないと予想される。
「主様。海の様子を 見て参りマス♪」
「うむ」
河トロルの戦士リドナスは急激な引き潮の原因を探りに湾口へ向かった。ゴーレム娘たちはご主人様を護衛して海底洞窟を探索する。
「岩が滑るッ、気を付けろ!」
「はっ#」
先行として身軽なフレインが洞窟に歩を進めた。危険な魔物が生息していないか確認する様子だ。鬼人の少女ギンナはマキトの護衛から離れない。
フラウ委員長は子爵邸の事件の教訓からご主人様の警護を強化した。マキト本人に危険があれば、ご主人様の命令でも拒否する決意だが、潮の干満は周期的な現象で満ち潮までには時間があると予測される。ここでも図書館の書物の知識が役に立つ。
「フローリアは後方の警戒をッ#」
「はい。お姉様#」
洞窟で襲撃があるとすれば前後からと想定される。ご主人様の直援にはフラウ委員長と鬼人の少女ギンナが付いている。
入口には海藻と珍しい蟹が生息しいてる様子だ。中へ入ると洞窟は冷んやりとして夏の日差しも届かない。
「ギンナ。松明を出してくれッ」
「はい。ですぅ~」
マキトは鬼人の少女ギンナに持たせた荷物から松明を取り出して火を付けた。ゴーレム娘たちは夜目も効くがご主人様は暗がりに不便だろうと思う。
フローリアは後方で、自ら携帯した槍を構えて警戒している。フレインはお気に入りの手甲を装備しているし、石弓の弾丸は護身用に残してある。装備は不足ながらも最低限度に揃っているのだ。余程の魔物でもこの守りを突破できるとは思えない。
フラウ委員長は洞窟で遭遇しそうな敵を魔物辞典の情報から検索した。
「蛇だっ#」
「フレイン。毒がありますッ阻止して!」
「はぁああ!」
毒蛇はゴーレム娘のフレインが一撃で仕留めた。頭を潰せば行動不能である。
「こいつも、美味そうなんだがッ」
「っ!」
マキトは料理用の刃物を抜いて構えた。やはり、毒蛇が単体とは限らない。タタタン。フラウ委員長が狙撃する。
「弾丸の残りはあるか?」
「はい。問題ありません#」
この程度で、ご主人様の手を煩わせる事も無い。折れ曲がった洞窟を進むと上り坂となった。このまま上へと洞窟が続くらしい。
「マスター。戻りますか?#」
「うむ。残念だが…そうしよう」
ここから洞窟の入り口まで戻れば、満ち潮には余裕で間に合う。そう計算していたフラウ委員長であったが、…
「そんなッ!?#」
-ZBABABA-
潮が洞窟に満ちて来た。予想よりも早過ぎる!
洞窟へ流れ込む海水はざぶざふと溢れて波の波頭を伝えた。予想外の大波が鬼人の少女ギンナを攫う。
「きゃふん…」
「ギンナっ!」
マキトは手を伸ばすがゴーレム娘のフラウ委員長に阻止された。ご主人様の身の安全が優先事項だ。
「マスター。危険です#」
「ギンナがッ!!」
慌てるマキトを制して冷静に告げる。
「ご心配なく。彼女は潜水訓練用に魔道具を装備しています#」
「くっ…」
確かに、ギンナの事だから大丈夫と思うがマキトの心は晴れない。マキトたちは洞窟の斜面を登り少しでも高い場所を目指して避難した。荒波が治まるまでは待機だろうか。
日が暮れたか、洞窟が冷えて来た。その前に濡れたご主人様が心配だわ。マキトとゴーレム娘たちが洞窟を登ると少し開けた空間に出た。辺りは岩も剥き出しの地形だが、流木も折り重なり焚火の燃料には出来そうだ。
早速に松明の火を焚き木へ移して暖を取る。
「ふぅ。温まるぅ…」
「マスター様っ、これをッ#」
ゴーレム娘の末っ子フローリアが槍の穂先を翳すと、そこには先程に仕留めた毒蛇が串刺しにされている。
「おぉっと、食材ゲットだぜぇ」
「ん?#」
マキトが大袈裟に喜んで見せるが、暗い場の雰囲気は変らない。ここは笑って見せる所か。ご主人様は料理用のナイフで毒蛇を捌いた。得物の解体手順も料理の腕も模倣できるかしら。
「しかし、味付けには期待が出来ないか…」
「塩水は使えまますか?#」
落胆を見せるマキトへゴーレム娘のフローリアが提案した。だばー。フローリアが装甲の一部を開いて海水を排出する。
「うおぉ、気か効くねぇ~」
「ぽっ#」
フローリアが女中の仕事に学んだ料理知識も役に立つ様子だった。
蛇の塩焼き料理はフローリアに任せてフラウ委員長は先行偵察に出たフレインと通信を行う。
「…フレイン。応答して…#」
「…お姉。大きな穴倉を…発見したよッ…#」
精霊石の感応能力を使用した近距離通信だが、洞窟の壁に遮られて感度は悪い。
「…危険は無いかしら、異常があれば報告してッ…#」
「…分かってる…ってぇの…あがっ!…#」
突然にフレインが悲鳴を上げた。緊急事態だッ。
「…フレイン!?…#」
「…ぐぬぬっ…巨大な……がっ!…#」
洞窟には巨大な敵が潜んでいた。
◆◇◇◆◇
除霊探偵クロウリィは助手とみえる老紳士に車椅子を押されて、とある伯爵家の別邸を訪れた。それはリリィ・アントワネが意識を憑依させた呪い人形の姿だ。伯爵家の屋敷では事故死した伯爵令嬢の亡霊が夜な夜なに出没すると言う噂だ。屋敷の管理人から密かに除霊の依頼があった。
「亡霊など、とんでもないッ……お館様のお耳に入ったら…」
「分かります。退治してご覧に入れましょう」
除霊探偵クロウリィは車椅子に乗り手足も不自由と見えたが、流麗な仮面を付けても身元を詮索しないのは闇仕事のお約束である。
「内密にお願いしますよッ」
「もちろん」
クロウリィは力強く請け負った。
夜も更けた屋敷を隈なく探索すると問題の亡霊と接触した。
「…暗黒に染まる者 我の糧にして 助力を賜わん」
「…暗黒に染まる者 我の糧にして 助力を賜わん…【闇帷】」
クロウリィは助手のセバスと精神を同調して呪文を唱えた。実際に暗黒魔法を行使するのは助手のセバスである。
ぞぞぞっ。嫌な気配を纏って伯爵令嬢の亡霊が現われた。
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