ep309 大漁と水中訓練
ep309 大漁と水中訓練
マキトたちが奇岩島へ上陸し拠点とした場所はの西側の海岸線であり、岩礁に囲まれた孤島にあっては比較的に波も穏やかな砂浜があった。砂浜でのビーチバレーの激闘をよそにマキトは拠点とした天幕を訪れた。試合の観戦もしないで天幕に引き篭った新妻サリアニアの様子を尋ねる。
「奥様のお召替えが終わりました」
「うむ。ご苦労ッ」
サリアニアの世話をする女中たちが、気を利かせて引き下がってゆく。どういう風の吹き回しか、新妻サリアニアは帝国風の水着からマキトの特製の水着に衣装替えしたらしい。
「どうじゃ、マキトよ。変ではないか?」
「むっ…」
天幕に入ったマキトは息を呑んだ。お付きの女中が計測した寸法からサリアニアの手足が伸びた事も予想していたが、水着のサイズが合っていない。
新妻サリアニアの巨乳は一層の成長で張りと弾力を備え、つんと澄まして上を向き奇跡の均整を保っている。その頂点をマキトの水着が押し潰すのは美の女神への冒涜であろう。
「きゃっ、止せッこんな所で!」
「がうるる」
マキトの男心が暴走した。今すぐに水着を剥ぎ取って調整せねばッ。やはり採寸はマキトが自ら行うべきだと反省した。
きゃっきゃ、うふふな新婚夫婦の痴態は女中たちが関知するものではない。
随分とお楽しみである。
◆◇◇◆◇
翌日は水中訓練となった。奇岩島の周辺は大小の島と暗礁に海流も渦巻き危険な場所が多い。西海岸の浜辺でも一歩間違うと深みに嵌る。そこから東へ目を向けると森林地帯の先には山頂が見えて、南の斜面は疎林となって海へ落ち込む地形だ。
奇岩島の南の海岸は岩場と岩礁であり、まさに奇岩の宝庫と見える。見た所では海底火山の噴出で溶岩が冷え固まった火山岩と思える。その岩場と奇岩の先には岩礁に囲まれた入り江があった。そこは波も穏やかで水深もあり水中訓練には適した場所だ。訓練の教官には河トロルのリドナスが付いた。
「水中訓練を始めマス♪…番号ッ」
「いち#」
「にぃー#」
「さんッ#」
「しぃ、ですぅ~◇」
訓練生にはゴーレム三姉妹と鬼人の少女ギンナが参加している。やはり、泳ぎが苦手な者が集まる様子をマキトは眺めた。
基本的に土の精霊石を持つゴーレム娘と山オーガ族のギンナは装甲重量の影響で泳ぎは難しい。昆虫怪人の騒動でもギンナは川で溺れる失態をしていた。ゴーレム娘のフレインも水の魔法使いの罠に完敗であった。
「フラウ委員長っ、お上手デス♪」
「はいっ#」
ゴーレム娘のフラウ委員長は巨乳に腰細のトランジスタ体型だ。胸部には石弓の弾が詰まっているのだが見事に浮いている。…そうか、訓練の前に弾薬を減らしていたのは重量軽減の為だろう。胸部の空洞のおかげで浮力を得ているのだ。
「二人はその調子デス♪」
「ぶくぶく…#」
「はぃ、ですぅ~◇」
海水でも浮く理由は無い。ゴーレム娘のフレインと鬼人の少女ギンナは力技の犬掻き?で必死に泳いでいる。体力の消耗は激しそうだ。
「フローリアは、問題アリマセン♪」
「はい#」
ゴーレム娘のフローリアは長身で外骨格の構造だが、軽量化の為に中空構造の装甲である。水に浮くだけなら問題は無かろう。あとは移動方法だが、水に浮いたまま背泳ぎをしている姿は筏の様にも見える。機会があれば乗せて貰おうか。
海上水泳の次は水中訓練となる。
ゴーレム娘のフラウ委員長は特製のゴーグル眼鏡を装備して海水を吸い込んだ。…弾薬庫の構造は改良の余地があると思う。
鬼人の少女ギンナは呼吸の魔道具を装備して海中へ潜る。ゴーレム娘たちは呼吸の必要が無いのでそのまま潜航した。ぷしゅーと、ゴーレム娘のフローリアが装甲板を開いて海中へ没した。…あれでは浮上する際に問題となりそうだ。
マキトはゴーレム娘たちの改善案を検討しつつ訓練の様子を追った。
◆◇◇◆◇
最初の異変に気付いたのは、岩場で訓練を見学していたマキトだ。入り江は急速に海面を下げて暗礁を露出してゆく。海水が逃げる様に去ると引き潮に取り残された魚介類が見えた。
「今晩のご馳走だぜッ」
「!…」
この機を逃す手は無い。水中訓練も中断して漁をするのはマキトの嗜好か、リドナスの本能か。
「美味しう、ゴザイマスよ♪」
「フレイン、フローリア。囲みなさいッ#」
「はっ!#」
「はい。お姉様っ#」
「お魚です。ですぅ~◇」
河トロルの戦士リドナスは新鮮な魚が好物だ。ご主人様の要望であるなら、応えねば成らない。訓練生も総動員して魚介類を獲る。
「大漁デスね♪」
「わはははっ、自然の恵みに感謝しようぞ」
期待して良い。今晩のご馳走に浜焼でもBBQでも盛り上がるだろう。
「ん♪」
「これはッ!」
マキトは露出した入り江の岸壁に洞窟を発見した。
◆◇◇◆◇
帝都の郊外にあるマキト・クロホメロス男爵の屋敷には厳重に結界が施された秘密の地下室があった。その地下室に舞踊の足音が響く。
「タン・タタタン・タンターン♪」
「お嬢様。お見事にございます」
秘密の地下室の存在を知るのは旦那様と老執事のセバスと捕らわれの囚人リリィ・アントワネの本人だけである。リリィお嬢様が舞踊の稽古を中断する。
「ふう。いつも美味しいわ」
「勿体なきお言葉ッ」
老執事のセバスの入れるお茶は最高の味わいだ。男爵殿も余程の茶道楽であろう。
「こんな、自堕落な生活では太ってしまうわよ」
「滅相も御座いません」
この会話も何度目か一人で舞踊の稽古をするのも虚しいものだ。マキトに似せた呪い人形は何も答えない。
男爵家に届いた亡霊討伐の嘆願と依頼書はセバスが密かに抜き取ってリリィお嬢様の下へ届けた。本日も有力情報を得て夜の王都へ出掛けるのだ。
「男爵は気付いているかしら?」
「さぁ、家臣も連れて、家族旅行とやらに出掛けておりますれば……屋敷の警備も手薄でしょう」
「おほほほほ」
老執事セバスにはリリィお嬢様の上機嫌な笑い声が心地よい。
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