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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十四章 帝国周遊と新婚旅行
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ep307 子爵家と昆虫怪人の顛末

ep307 子爵家と昆虫怪人の顛末





 サリアニアに指揮された警吏隊は邸内を捜索して昆虫怪人を捕えた。元より男爵の屋敷から密偵が尾行しており発見は容易だった。


子爵の本家からの援軍に衛兵が到着した時には、捜索活動もほぼ終わり。警吏長官のマキト・クロホメロス男爵も救助された。マキトは迂闊な行動をサリアニア奥様に咎められたが、容態は回復している。


「…サリア。助かったよ」

「迂闊な行動は、慎むべきであろッ」


会合と称される子爵邸の舞踏会の招待客は事件の参考人として身元を検められた。逃亡したレスター・デルバルはヘルフォルド子爵の関係者であるが、子爵家に身柄を抑えられて警吏の取り調べを受けた。子爵家としては貴族の体面もあるが止むを得ない処置だろう。


「子爵家への対処は?」

(わらわ)に、任せておけッ」


それでも、事前の通告も無しに子爵家の別邸へ踏み込まれたヘルフォルド子爵は激昂して本家の屋敷に私兵を集めていた。サリアニアは男爵家の守りを固めると同時に敵陣の眼前へ布陣した。大胆にもヘルフォルド子爵の近隣の空き屋敷を間借りして陣を敷いたのだ。公式には屋敷の庭を手入れする庭師の一団を派遣している。


武力を封じられたヘルフォルド子爵は貴族の社交界の人脈を生かして、警吏長官のマキト・クロホメロス男爵の排除を画策したが、サリアニアの実家のシュペルタン侯爵家からの圧力に屈した。ヘルフォルド子爵家もリンデンバルク大侯爵とは先王からの繋がりがあり、その影響力は懸念されたが、大侯爵は男爵家と子爵家の両家の武勲を鑑みてか中立的な立場で沈黙を守った。


「サリアたんの手柄に、難癖を付けるかッ!」

「旦那様。お静まりをッ」


男爵家と子爵家の両家の軍勢が互いの陣地で衝突の機を伺う中に、オストワルド伯爵の直属隊が駆け込んだのは、両軍が最も緊張する瞬間だった。サリアニアの養父オストワルド伯爵がヘルフォルド子爵の屋敷へ怒鳴り込む様子である。


それでも、オストワルド伯爵の後を追って来た腰元隊の女騎士に捕らわれて撤退したのは良い判断だろう。ハンネロゥレ・オストワルド伯爵夫人の手管と思われる。


そうして時間が過ぎる間に帝都の市中にも事件のあらましが流布された。


「さあさあ、見てくれ、聞いてくれ、世にも奇怪な昆虫怪人の事件だよッ!」

「ほぉ…」


街の読み売りが事件の記事と口上を述べる。チャリン。誰かが小銭を投げた。


「帝都を騒がす、昆虫怪人の一派が、グリフォンの英雄様にぃ~捕まったぁ~!」

「おぉぉお…」


帝都の事件の真相は、文字の読めない町人には話して聞かせ、小銭を得ては情報を小出しに話を続けて行くのだ。


「ここに、昆虫怪人の正体が描かれたぁ~絵図面があるッ!」

「ほぉぉぉお!」


昆虫怪人の絵図面はこの記事の目玉で注目度も高い。男爵の屋敷へ街の読み売りを呼び、描かせた絵図面だから再現性も良く緻密な描写だ。チラリと絵図面を見せると観衆の興味を引いた。


「さあさ、買った、勝った!」

「っ!」


読み売りの紙面は一枚ぺらの模造紙に文章と絵図面を描いた物で、大した文量も無いが製作には手間がかかる。


「一枚くれッ…」

「儂にもッ…」

「俺も!…」


紙面の売れ行きも好調な様子だ。


サリアニアが仕掛けた情報の流布は昆虫怪人の奇怪さとグリフォンの英雄マキト・クロホメロス男爵の活躍を伝えた。実際のマキトは麻痺毒を喰らって伸びていたのだが、脚色された英雄の活躍は町人にも人気の読み物だ。


こうして、市民に大人気の警吏長官のマキト・クロホメロス男爵を辞めさせる事は出来ず、次第に明らかとなる昆虫怪人の正体は帝都に潜伏する昆虫怪人の残党を追い詰めるだろう。あとは町の警吏の活躍次第か。




◆◇◇◆◇




マキトは帝都の川岸で出港の準備をしていた。正式に男爵家の船となったニアマリン号は軍船の半分程度の大きさだが、両舷に二門の砲身を具えて武装しており小型の武装商船とも見える。帝都の西を流れるナダル河は水量も豊富な大河でこの付近は既に海水も混じり海に近いのだ。


帝都にも近いナダル河の魔物は悉くに駆逐されて安全な航行ができる。それに比べて広大な海は魔物の領域も多くて危険な場所とされる。故に外洋を航海する船には武装が必要となるのだ。ニアマリン号はその名の通り近海しか航行する予定も無いが、マキトは夏の避暑地として北海の小島に滞在する計画を明かした。


マキトが新型の砲身を点検していると、サリアニア奥様とお付きの護衛たちが乗船して来た。


「おや、旦那様(マキト)が自ら点検とは、精が出るの」

「サリアか、子爵家との話は済んだのかい?」


マキトは面倒な貴族間の交渉を奥方のサリアニアに任せきりにしていた。先方も交渉相手は元侯爵姫のサリアニアだと見做していたので、男爵家の当主であるマキトは旗印の飾りでしかない。


「大方の、ヘルフォルド子爵の馬鹿息子は除籍のうえ追放となろう」

「そ、それは…」


サリアニアが用意した帰着点は、悪趣味な舞踏会を開催して男爵に危害を加えるような危険な貴族の排除だ。それに加え、帝都の市中を騒がせる昆虫怪人の一派とヘルフォルド子爵家に繋がりがあると発覚すれば、家名にも貴族の面子にも傷が付くと言うもので、子爵家としては秘密裏にレスター・デルバルを処分する事で妥協したのだ。


「旦那様。メルティナ奥様がご到着ですッ」

「良し。出港だ!」


ざっぱーん。ニアマリン号が夏の氷結海へ漕ぎ出した。


ニアマリン号は帆船と手漕ぎの併用で三十人程の船員を乗せている。乗客はマキト・クロホメロス男爵の家族とその護衛たちで快適な船旅は保障されている。個人所有の船としては贅沢な物だろう。


夏の氷結海は日差しも暑く数日も航海すると、避暑地として選ばれた北海の孤島に到着した。


そこは地元の漁師も近寄らぬ場所で、奇岩島と呼ばれている。




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