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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十四章 帝国周遊と新婚旅行
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ep306 子爵邸への突入作戦

ep306 子爵邸への突入作戦





 緊急招集された警吏隊は手下の者も動員して帝都の郊外にある子爵邸への突入を開始した。作戦の支援には南区の警吏長官であるマキト・クロホメロス男爵の屋敷から派遣された私兵も動員されている。


サリアニア奥様はマキトが用意した白紙委任の命令書を以って突入作戦の筋書きを描いた。それは緊急事態に備えてマキトが用意していた命令書であったが、これ程に果断に即決で利用されるとは思わない。まさに電光石火の突入作戦である。


子爵邸へ突入した警吏隊は屋敷へ逃げ込んだ容疑者の昆虫怪人を捜索する。時間を掛けては子爵家の衛兵が集まり捜索活動も妨害されるだろう。


「マキト! 無事かッ?」

「…あう…サリア…ニア…」


マキトが捕らわれた部屋は丁度品も整えられた応接室であったが、壁にはグリフォンの英雄マキトの肖像画があり、町で売られる絵草子の類も展示されていた。まるでマキトを歓迎するために館の主人が用意した貴賓室か収蔵品の展示室の様である。


だらしなく弛緩した様子は麻痺系の毒であろう。


「すぐにッ、解毒を!」

「はっ!」


クロホメロス男爵家の救護班が集まりマキトの容態を見た。症状は軽いと診断される。


「子爵の息子は逃亡した様子ですが、追いますか?」

「捨て置け、容易には逃げられぬッ」


「!…」


サリアニア奥様には方策があるらしい。




◆◇◇◆◇




 ゴーレム娘のひとりが落ちた罠は魔術師を無力化する為の仕掛けであった。地下室に構築された蜂の巣から無数に蜂の魔物が湧き出して魔術師を襲う。どんな優秀な魔術師だろうと無限の魔力がある訳でも無い。無数の蜂の攻撃と防御に魔力を消耗して力尽きるだろう。


しかし、この娘はどうだ。再三に石礫(いしつぶて)を飛ばしては魔物の蜂を迎撃し、時折に流れ弾が地下室の壁面を抉る。まるで、こちらの潜伏場所を探る様な攻撃だった。自らの刺客としての鍛練も経験もなんら劣る事は無いが、この娘の魔力の持続力は脅威である。


タタタン。規則的な三連射が脇腹を掠める。時折に見せる火炎弾も巨大な蜂の巣を焼き払うには火力が足りないと見える。そもそも大火力を放てば自らも焼け死ぬ罠である。


タタタン。ボフッ。貴重な火炎弾を放つのは相手も苦しい証拠だろう。…そろそろ頃合いか。魔術師の魔力不足を見計らい攻撃に転ずるのだ。ガリッ!


「そこよッ#」


ゴーレム娘の左腕がこちらを向く。…ヤバイ気付かれた。


地下室の床面には撃墜された蜂の魔物と手足や羽の破片が散乱している。それを踏む僅かな変化と物音に気付いたらしい。


蜂の群れを操りゴーレム娘へ嗾ける。ぶぶぶん。羽音が増して物音をかき消す。混乱に乗じて潜伏場所を変えるのだ。


タタタン。規則的な三連射が甲冑に刺さる。…損害は軽微だ。


地下室の封印が破られた。


「そこまでじゃ、投降せよッ」

「っ!」


少女のくせに威厳のある声は上級貴族の姫君か。護衛の騎士にも隙は見えない。…勝敗はお預けとなろう。


刺客の男は警吏隊に降伏した。




◆◇◇◆◇




 ちびのゴーレム娘が落ちた罠は騎士や戦士の装備を無力化する為の仕掛けがあった。すり鉢状の部屋に水を満たせば、重装備の騎士や戦士は溺れ死ぬだろう。不幸にも水棲の種族であったら、水に溶け込んだ薬液は猛毒となり肺も鰓も腐らせる。それどころか金属の武器も防具も腐食スライムの餌となるのだ。


ゆわゆる迷宮(ダンジョン)のスライム罠に悪質な薬液を加えた物で、子爵家の余興の名物だった。この水芸も何度目の披露か忘れる程だが、膂力を自慢する騎士や戦士ほど罠には溺れやすい。今回の相手も力任せの打撃が得意技と見えた。…放置してそろそろに装備も融けて丸裸であろう。


罠の様子を見た貴族の坊やは、薬液に沈むゴーレム娘を発見した。外骨格の装甲が溶けて体躯も縮んだ様に見える。


「死んだか?…まったく、手間を掛けさせやがるッ」


ざっぱ!。ゴーレム娘が不意に立ち上がった。


「…このっ…ぶくぶく…#」

「わっ!【水幕】」


顔面を殴られた。…まったく、顔面は防御が面倒なんだよ。水の防御幕が間に合って致命傷を避けた。


「…ぶくぶく…野郎ッ#」

「ふんッ【水球】」


ちびのゴーレム娘が吹っ飛ぶ。随分と体躯が軽くなったらしい。簡単に減量できて羨ましい限りだ。


ずごごご。誰かが罠の排水装置を起動したらしい。


子爵家の余興に終わりを告げた。




◆◇◇◆◇




 背高のゴーレム娘が落ちた場所は子爵邸の地下まで伸びた迷宮(ダンジョン)の一部だ。こうして異常に広がった帝都の地下迷宮が世間に顔を出す事もある。


ガキン。ゴキン。剣戟と金属の装甲がぶつかる。身持ちの堅い娘は嫌いではないが、こうも硬くては剣に刃こぼれが生じよう。


「ふっ」

「はぁぁああ!#」


ゴーレム娘が槍を振るう。刺突のみでは実体を捕え得ぬと判断したか、長柄の槍を薙ぎ払いする。…それしきで、私の幻影は破れぬわッ!


「きぇえええッ!」

「きゃっ!#」


わざと奇声を発して斬り込む。幻影と見せた実体に斬られて淑女のドレスもボロ布だ。可愛い悲鳴もゴーレムの肌では興ざめであろう。…そろそろ終わりにするか。鋼鉄の肌を切り刻むのにも飽きた。


どたどたどた。地下迷宮(ダンジョン)に警吏隊が踏み込んで来た。


地下迷宮(ダンジョン)の戦闘は興ざめに終わった。




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