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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十四章 帝国周遊と新婚旅行
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ep302 帝都の闇市場

ep302 帝都の闇市場





 アアルルノルド帝国の南部は寒冷な気候風土ながらも広大な穀倉地帯である。内乱で戦場となった平原に農地の多くは大麦や小麦を植え付けていたが、不運にも両軍の軍勢に踏み荒らされた。麦は踏まれても強く芽吹く植物であるが、春先に成長を始めた時期を阻害されて収穫は不良となった。


帝国の国内では早植えの麦の価格が高騰したが、それは末端の小売価格で本来の農民が納める租税には適用されなかった。例年通りの収穫量があれば蓄えを切り崩さずに過ごせたが、さしたる蓄えも無い農民は売る物も無くて困窮している。そんな貧民は将来の働き手となる子供を闇市場へ売り渡すのだ。肥え太るのは仲介業者のみか。


帝国の法では奴隷売買を禁止しており、表立っては娼館や人足場の労働者として契約をされる。その逃亡を防止する意味で奴隷の首輪を嵌められるのだ。言わば借金の証しとしての枷であろう。枷は契約魔法で本人の精神へ刻まれて呪いとなる。契約魔法の種類は多岐にわたり専門の職業は奴隷商人と呼ばれている。


配下の奴隷商人が売り上げの報告をする。


「本日の競売では、子猫が12匹に仔牛が10頭の売上でございます。詳細はこれにッ」

「ふむ。上々ですね」


実際の商品は家畜ではなく人族や獣人だろう。


「恐れ入ります」


娼館の女主人ブラスはうねる髪を揺らして尋ねた。


「警吏長官の男爵閣下が来ているらしいのぉ」

「はい。お忍びで、競売所を見学されましたが…」


男爵の爵位に閣下の称号を付けるのは間違いだと思うが、そんな些細な事はどうでも良い。


「ほほう、気に入った商品が無いと?」

「はい。男爵閣下の嗜好は特殊かとお見受け致しますので…」


くだんの男爵閣下はグリフォンの英雄と呼ばれながらも、最近は人形遊びに精を出していると言う。中々の好き者と思える。


「特別な持て成しが必要であろう」

「はっ!」


男爵閣下には特別なお客が待っている。


………


マキトは仮面を付けてお忍びに奴隷を選んでいた。賊の本拠地と思える奴隷市場は公共の施設ではなく地下に隠れ潜む闇市場だ。それでも帝国の法に公然と逆らうものではなく違法ギリギリの商品である。奴隷は契約書付きの労働者として紹介し展示されていた。


場内を案内する奴隷商人がお客へ商品の売り込みを図る。競売が始まる様子だ。


「こちらの戦闘奴隷は闇魔法を使い味方への支援が可能ですが、感情と愛嬌には乏しく夜のお務めには不向きでございます」


「250!」

「300ッ」


「320!」

「おぉおお…」


確かに奴隷は暗い表情に恨みを貯め込んでいる様子だ。それでも競売では高値が付いた。軽く中堅官吏の年収を超える。


「お次は、這い寄る混沌にして夜這いの達人。昼間の淑女にして夜の情婦にございますッ」


「200ぅ」

「220!」


「225ぉ」

「ふむ…」


奴隷商人の口上にも熱は上がるが、値付けは渋めの価格となった。顔も体も悪くは見えないが、何か裏事情といわくはありそうだ。


「これは東方の希少種!ネコ人族の幼女にございまする」


「250!」

「300ッ」


「350!」

「400ッ」


「450!」

「くッ…」


思わぬ勢いで値が競られて高騰した。どこにも猫好きは居るらしい。年齢と将来性を考慮した投資であろうか。


そんな競売所の様子に関心しつつもマキトは競りに値付けする様子は無い。何やらお付きの秘書官と相談をしている。秘書官の制服はこの場に不似合と思えた。


「ふふふっ。これは、かの失墜した…英雄殿ではッ?」

「むっ、何用かッ」


仮面をした貴族の若様と見える人物がマキト・クロホメロス男爵に声を掛けた。仮面で顔を隠しても、秘書官のゴーレム娘を連れたお貴族様など他には思い当らない。それでも、貴族の社交界では仮面を付けた相手に正体を問うのは礼儀に反する。


「貴殿が連れた奴隷は、中々に面白そうだ。ひとつ、お手合わせを願おうッ」

「彼女は奴隷じゃないッ大事な娘だ。それに…」


この場では、知っても知らぬふりが正しい対処だが、喧嘩を吹っ掛けるとは何様だッ。


「マスター。私に任せて下さいっ#」

「なにッ?」


珍しくゴーレム娘のフラウ委員長に感情が出ている。怒りゲージ満タンと言った所で、何か気に障る発言でもあったか。


………


競売所には戦闘奴隷の能力査定の為に闘技場が設けられていた。上段には観客席もあり随分と贅沢な造りだ。観客席は結界の魔方陣に防護されて安全に試合を観戦できると言う。奴隷商人とは余程に儲かる商売らしい。


マキトは観客席から闘技場を見下ろした。東方からは貴族の若様の配下で肥え太った戦闘奴隷が姿を見せた。牛か豚か肉質のある獣人で頭に奇怪な橙色の角が生えている。西方からは秘書官の制服を着たゴーレム娘のフラウ委員長が姿を見せた。共に武器は所持していない。


カーン。魔道具の鐘が鳴る。


先手に仕掛けたのは牛豚の獣人で体格に似合った怪力ではなく、頭から奇怪な角を伸ばして来た。橙色の槍がゴーレム娘のフラウ委員長を襲う。


-DOGA BAGO-


防護の魔方陣を通しても破壊音が響く。この襲撃はフラウ委員長も予想のうちで余裕に攻撃を躱す。闘技場の床の石材が痛むばかりだろう。


タン。ゴーレム娘フラウ委員長は左腕から仕込みの石弓が弾丸を発射する。驚いた牛豚の獣人が弾丸を回避するのも予想のうち。


タン。再びに仕込みの石弓が弾丸を発射する。タン。フラウ委員長は橙色の槍を躱して追撃する。遠距離の戦闘ではフラウ委員長が有利と見えるが、そんなに単調な攻撃を繰り返しても大丈夫か?


-GUUU!-


牛豚の獣人が槍の刺突と同時に突進した。射撃の間隔に隙を狙うが、タン。タン。タン。ゴーレム娘フラウ委員長の左腕に仕込まれた石弓は三連射が標準装備である。


-GYAUッ WOWww-


突進の勢いと弾丸を浴びて牛豚の獣人が血を噴いた。タタタン。タタタン。ここぞッ!とばかりに弾丸を浴びせるフラウ委員長が優勢だ。


牛豚の獣人は防御の体勢と見えたが、明らかに筋力を増強して身を固めた。すると出血は止まり代わりに白い液体を噴いた。


「きゃっ#」


思わず悲鳴が零れる。


ゴーレム娘フラウ委員長は訳の分からぬ白い液体に塗れた。ズルリと足元が滑る。…まさか、これは獣脂の油かッ。


「「 うおぉぉおおお~ 」」


闘技場の観客席も異様に盛り上がって来た。





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