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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第三章 迷宮の探索者とお宝
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029 宴会の後で

029 宴会の後で





 僕らは城郭都市キドで過ごしている。


地上に帰還した僕らは、掘り出したお宝を山分けする為に探索者ギルドへ売却した。黄金の剣は美術的な価値があるとかでオークションに出す予定だ。

救出した探索者のふたりは行方不明だが、探索者ギルドが威信をかけて支払わせるそうだ。お宝の金貨は鋳つぶして金銀に分け、討伐した蜘蛛やその他の魔物の素材を売り、一部の税金を払う。

手に入れた現金を山分けすると、ひとり頭で金貨20枚余りの収入となった。贅沢をしなければ、ひと月は暮らせる金額だ。


その後、僕らは迷宮での経験を生かして、装備を整え休息し鍛錬に励んでいた。


今日もリドナスは獣人の戦士バオウと訓練している。剣士マーロイは奥さんと家庭の平和のため活躍しているそうだ。僕はひとり素振りを繰り返し鍛錬していた。


「百九十七、百九十八、百九十九、…にひゃく!」


以前よりは体力も付いたと思うし身体強化も上達した。僕は思い付いた技を試すため、杖に魔力を通して木製の案山子を叩く。


「…【切断】」


案山子の腕が切れ飛ぶ。【切断】は薪割りで鍛えた技だ。千年霊樹の杖は魔力の伝導率が高く、ブラル鉱山の魔道装置の魔力線の代用に出来る程だ。

これを応用して、千年霊樹の杖に【切断】の魔力を通して案山子を切る。さらに、魔力で【粉砕】を通すのも良いだろう。以前に鉱石の選別場で鉱石を砕いていた技が【粉砕】だ。


僕は地面に魔力を注ぎ掴み上げる。


「円錐で…【形成】」


粘土を形成する様に土塊の形を整える。何度も練習して完成までの時間を短縮したが、予め形成する基本的な形は練習しておきたい。ひと通り練習してから休憩すると、僕は汗を拭い水筒から水を飲んだ。


「ふぅ…形になってきたな」




◆◇◇◆◇




 鍛錬の後にキドの町へ出掛けた。町の様子は傭兵団や防衛隊の兵士の姿が減り、迷宮へ向かう探索者の姿が増えた様子だ。今日は迷宮から無事に帰還した祝いに酒場で宴会がある。僕は待ち合わせの広場でいつものメンツを探した。


「GUF 時間どおり だな」

(ぬし)様、ご機嫌 いかが デスカ?」

「まぁね…」


見ると獣人のバオウとリドナスは泥に汚れていた。今日も格闘の模擬戦をしたのだろう。


「よぉ、お待たせ!」

「あらあら、バオウ汚れているわよ…【洗浄】」


振り向くと剣士マーロイと見知らぬ女性が赤子を抱いており…


「GUU…」

「キモチ イイ デス♪」

「ぷは…」


いきなり顔を洗われてしまった。


「…【脱水】!」

「GUA やめろ ナデア!」

「♪」

「………」

「ま、いつもの挨拶だぁね」


マーロイが奥さんと赤子を紹介した。バオウは顔を振って水気を飛ばしている。リドナスは生き生きしていた。僕らが酒場に着くとシシリアが手を振っているのを見つけた。


「早く! 席は確保したわよ」

「すまん」


シシリアに呼ばれてマーロイを先頭に席に着いた。すぐに発泡酒のような飲み物が並ぶ。


「えー迷宮からの生還を祝って…」

「「「 乾杯! 」」」


出来合いの料理をつまみながら話に参加する。


「マキト君かしら、うちの人がお世話になっています…」

「ばか言え、俺が世話してやってんだい!」


すでにマーロイは絶好調だが、奥さんのナデアが続ける。


「私がお産で抜けたから、心配してたのよ…」

「GUF オレ様がいれば 心配は いらん」


バオウはリドナスと肉を取り合っていた。


「このところ、稼ぎがあって助かるわ」

「マキトは優秀だから…あたしに任せなさい!」


自身満々にシシリアが請け負う。


「うぁうぁ、あーん!」

「…」


赤子がむずかると、奥さんのナデアが赤子を外に連れて行くのを見送った…慣れたものだ。


「後で話がある」

「はい?」


マーロイが真剣に言うのに問いたかったが、宴会は酒が酒を飲む勢いで盛り上がってしまった。


………


◇ (あたしは不機嫌だった。ご主人様は探索者たちと酒場で宴会を始めたが、酒場の店主は獣人の男で鳥嫌いらしい…あたしは独り追い出されて酒場の屋根の上に佇む…鳥差別で訴えてやるわ!)


-KAA AHU-


◇ (むっ、通りの向こうから(カラス)どもがうるさい…鳥類は言語が未熟なので意志の疎通は困難なのだが…要は気持ちが伝われば良いのよ)


「ピィイ! ピヨロォ~(うるさい! 殺すわよッ)」


-KAA AHOO AHU!-


(カラス)どもの騒ぎが大きくなる。


◇ (普段なら神鳥(かんとり)の威光で黙らせる所だけど、今のあたしは虫の居所が悪い。【神鳥(ゴッド)加速(スピード)】から【神鳥(ゴッド)爪撃(クラック)】!…猛禽の鉤爪で敵に痛手を負わせる)


神鳥(かんとり)のピヨ子は成長したとはいえ、城塞都市キドの町に屯する(カラス)よりは小さい。見た目では広場に集まる(ハト)にも負けそうだ。しかし素早い飛翔から(カラス)たちを襲撃したのは獰猛な猛禽の姿だった。鋭い爪が一羽の(カラス)を捕える。


-Gッ、KAA!-


悲鳴を上げて路地に(カラス)が墜落した。ヤツはもう助からない…裏路地に巣食う野良犬の餌となるだろう。


その日、城塞都市キドの町の勢力図は大きく書き換えられた。



◆◇◇◆◇



 次の日、僕は二日酔いのマーロイと鍛錬をしていた。以前から鍛錬の約束をしていたのだが、マーロイは頭が痛むのか眉間を手で押さえて呟いた。


「あイタタ、ナデアのやつ、治療してくれなくて…」

「夫婦喧嘩ですか?」


マーロイがぼやくが、奥さんのナデアは戒めのつもりだろう。


「騒ぎ過ぎだと…」

「治療師には逆らえませんね」


僕は木刀の素振りをしながら応えた。


「それよりも話があるのだが…」

「聞きましょう」


訓練の手を止めてマーロイの話を聞く。


マーロイの話は正式に治療師としてチームに参加しないかとの誘いだった。もちろん、リドナスも一緒にとの話だが、治療の腕前は水の魔法が使えるリドナスの方が上だろう。


そして、マーロイの話はもうひとつあった。


「迷宮の最新部の地図を手に入れた」

「最下層ではなくて?」


僕は確認した。


「いや、新しい通路とその先の魔物の情報だ!」

「うーむ」


迷宮でお宝を発見するには、より最下層に近い場所を探すか他人の探索が入っていない最新部を探すのが可能性は高い。しかし、最下層に近い場所は魔物の危険度が高いらしいので、最新部の方が効率は良いかも。


「迷宮の探索には治療師が必要なんだ」

「いちど、薬草の採取に行ってきます。その後なら良いかと…」


マーロイは何か思案する様子で頷いた。


「分かった。頼む」

「はい」


僕は町を出て魔物の森に向かった。


………


 魔境の川沿いにある河トロルの村で養生した僕は、傷が癒えたら魔物の森の狐顔の幼女ニビに会う事を約束をしていた。魔物の森に踏み入ると狐顔の幼女ニビが二本の尻尾を揺らして現れた。


「待っておったぞ、クロメよ」

「やぁ、ニビ。元気だったかい?」


明らかに嬉しそうなニビの様子に和むが、ニビは胸を反らし指をつきつけ宣言した。


「お(ぬし)に言われるまでも無い…軟弱者め!」

「ぐぬぬ…」


怪我の経緯を指摘されたが、ぐうの音も出ない。


「お婆様から話があるそうじゃ」

「何かな…」


ニビは二本の大きな尻尾でマキトを巻き込むと駆けだした。


「掴まっておれよ」

「!…」


いつもの強引さに加えニビの尻尾にはマキトを労わる優しさがあった。後ろを見るとリドナスも遅れて付いて来る。こうして見るとリドナスの身体能力の高さが分かる。程なくして、呪い師の婆さんの小屋に着いた。


「ゴホッ、よく帰って来た。クロメよ」

「ご無沙汰しています」


以前よりは生気を取り戻した婆さんが咳いた。小屋の中は煎じ薬の匂いがする。


「最近では、魔境の(ぬし)と呼ばれておるが、元気のようじゃのぉ」

「はっ?誰が…」


婆さんは構わず続ける。


「お主の活躍で魔境は守られた。礼を言うぞ」

「あれは、ニビが魔物の援軍を連れて来たから、人間の軍隊を撃退できたのでしょう」


客観的に事実を指摘するが、


「ゴホン、とにかく、魔境に住む者たちは、お主に感謝しておる」

「………」


僕は思わぬ感謝を飲み込んで、言葉を喉に詰まらせた。


「指輪は大切にしておるか?」

「はい」


ニビから渡された命名の指輪の事だろう。


「我ら魔物の森に棲むもの、魔境に住まうもの、の感謝の印じゃ」

「…」


僕は言葉もなかった。


………


婆さんの小屋では見習い薬師の少女ビビが煎じ薬を作っていた。顔色も二か月前とは変わり、ビビは生き生きとしてどこか魔女っぽい微笑を浮かべていた。


「マキト様、あたしの薬も見てください」

「どれどれ…」


いまだ見習いの薬師とはいえ、ビビの薬は町で販売しても良い出来だ。


「ふふっ」

「良い出来じゃなか。いくつか貰うよ」


ビビを見ると自慢気な顔で微笑む。


「対価は、町のお菓子で良いわ!」

「しっかりしてるねぇ」


僕は自作のプリンを差し出した。


「何これ?」

「プリンさ」


リドナスも呼んで皆でプリンを食べる。リドナスも薬草には興味があるようで、ビビと話が弾む様子だった。ニビもプリンに魅了されている。僕は魔物の森の長老の住処へ向かった。


魔物の森の長老は頤鬚の老人だ。


「ほっほっほ、よく来た。クロメよ」

「ご無沙汰しています」


長老は心を読んだかの如く疑問に答えた。


「分かっておる。援軍の件じゃな」

「ありがとう、ございました」


長老は頤鬚を撫でつけながら語る。


「なあに、魔物の森の古い盟約により、馳せ参じたまでじゃ」

「…」


僕は耳を傾けるのみだが、長老は続けた。


「魔物の領域が侵されると、魔物とニンゲンの軋轢が見過ごせなくなる故に止むを得まい」

「…では、迷宮の魔物は?」


この際に気になる事を尋ねるが、長老の答えは予想通りだった。


「迷宮とな…あこの魔物は赤子が泣き叫ぶが如しで話にならぬ、猛獣と同じよ」

「なぜですか?」


理由が分かれば対策できるかも、


「分からん。生まれが異なるとしか言えぬ」

「そうですか…」


やはり、迷宮の魔物に理性は無いのだろうか、意思が通じないのでは平和交渉もできない。迷宮では殲滅か強行突破するしか道は無いのか…


僕は暗然とした気持ちで帰途についた。





--


※ピヨ子はキドの町で武力闘争を始めました。ww

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