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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十四章 帝国周遊と新婚旅行
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ep299 帝都へ帰還したら

ep299 帝都へ帰還したら





 氷結海の日差しは夏も近くて眩しい。港町ウエェィを出港したニアマリン号の短い航海は快適な船旅だった。南風に乗るニアマリン号は小型船の快足と中型船の安定度を備えて、船内も貴族の遊覧船として整えられている。まさに贅沢な個人所有の船である。


「奥様、お茶の準備が整いました」

「うむ。良かろう」


サリアニアのお付きの女中(メイド)スーンシアが熱いお茶を注ぐ。その香りはバクタノルドの甘茶だろうか。


「旦那様は、どちらになさいますか?」

「シロン産の新茶をッ」


「はい」


帝都は雨季を過ぎて紫の月も半ば、今年の茶葉の出来は如何なものか。


ニアマリン号は海岸沿いに東へ進みナダル河の河口へ入った。ナダル河は水量も豊富な大河で帝都の西門まで運河を接続しているのだ。小型船の往来は容易である。


帝国の国内を巡り、この新婚旅行も終わりかとマキトは感傷に耽る。新妻のサリアニアと親密に愛情を深める事は出来ただろうか。


「旦那様。帝都へ到着しました」

「うむ。ご苦労ッ」


お付きの女騎士ジュリアが新妻サリアニアを護衛して立つ。マキト・クロホメロス男爵の一行は帝都へ帰還した。




◆◇◇◆◇




帝都の郊外にあるマキト・クロホメロス男爵の屋敷で留守を預かるのはメルティナ奥様だ。彼女は本妻のサリアニアに遠慮をして側室の立場に甘んじていたが、実質的な権力はメルティナ奥様にあると評されていた。なにしろ、男爵家の跡継ぎでご子息レオンハルトを擁しているのだから将来の立場も安泰と思える。(たか)が弱小の男爵家であっても跡目の擁立は重要である。


屋敷に残る護衛のうち、最も特異な者は岩塊の幼女ゴーレムであるガイアっ()だろう。メルティナ奥様も旦那様(マキト)が製作する奇妙な発明品には慣れた物で、ガイアっ()の傍仕えを許した。この最新型のゴーレムは赤子の世話をするのも手慣れた様子で、レオンハルトの面倒を見て子守りをしてくれる。赤子のレオンハルトが泣きだした。


「あぁぅ……ほぎゃー、ほぎゃー!」

「これは、おむつの交換が必要じゃのぉ」


全自動の子守りゴーレムに対処を任せて、お付きの女中(メイド)もメルティナ奥様にも育児の負担は軽くなった。旦那様(マキト)の気遣いにメルティナ奥様は喜んだが、実情は車椅子の役目を終えた岩塊の幼女ゴーレムであるガイアっ()の気まぐれだろうか。


「むぎゅぅ…」

「あわわ、小水を浴びせるでないぃ!」


排泄の勢いが余って小水を飛ばすのも珍しくは無い。それを見たメルティナ奥様も手慣れたもので対処も完璧だ。ガイアっ()は完全に濡れ損である。


「マキト様がお帰りの様子ねぇ」

「?…」


メルティナ奥様が言うのは予言だろうか。新人の女中(メイド)が知らせを持って来た。


「奥様っ、旦那様がお戻りになりました」

「そう。出迎えの準備をッ」


「はい」


屋敷の女中(メイド)たちが慌ただしく動き始めた。旦那様(マキト)の無事な帰還に祝賀の晩餐も必要だろう。予定の通りに準備していたご馳走を並べるのだ。


………


帰宅した旦那様(マキト)はご機嫌な様子だった。メルティナ奥様への帰還の挨拶もそこそこにして赤子を抱く。本妻のサリアニアは早々に自室へ引き揚げた。


「おぉう、良し良し。レオンハルトは、また大きくなったなッ」

「おほほほほ、子供は毎日に大きく育つものですよ」


気になる旦那様(マキト)とサリアニア様の仲はそれほど進展していないと見える。


「毎日。見ていても飽きないのだが、仕事に戻らねばならぬ…」

「承知しております」


旦那様(マキト)は仕事の報告を受けるため屋敷の執務室へ入った。残されたメルティナ奥様はお付きの護衛に旅の様子を尋ねた。


「旦那様は奥様と朝夕にどつき合いの大喧嘩をしておりました…」

「…それでも、寝室では中々に親密なご様子でしたけど…」

「…あれか、水龍の秘薬だろうとの噂で…」


概ねは喧嘩して仲直りも微妙な雰囲気かと察する。




◆◇◇◆◇




マキトが執務室で受けた報告内容は最悪であった。シドニア山地の山賊団の拠点へ派遣した警吏の捜索隊は、賊の反撃に遇い壊滅してゴーレム娘たちも全機損傷との事だ。応援に駆け付けたギブラ城塞の守備隊はどうにか撤退をして難を免れたと言う。


まさか、帝都から派遣された警吏たちを置き去りにして、撤退したのではあるまいか。マキト・クロホメロス男爵の中で疑念と後悔が生じた。早速に大切なゴーレム娘たちを回収するために配下を向かわせたが、屋敷の晩餐会では男爵家の当主として余裕と威厳を見せねば成らない。旅の間に新妻サリアニアから教育された貴族の矜持とやらも面倒なものだと思う。


晩餐会の様子は省略する。弱小の男爵家ではあるが、家族も配下の家臣も増えたものだと思う。


回収されたゴーレム娘たちの状態は目を覆いたくなる惨状だった。


ゴーレム娘の司令機フラウ委員長は武装も左腕の仕込みも失い、片腕の損失と左胸に大穴を空けて発見された。機体の心臓部に当る精霊石は体幹の中心にあり無事であった。


「マスター#。申し訳アリマセン#」

「今は休め…」


破損した音声装置に雑音(ノイズ)#が交る。ゴーレム娘フラウ委員長の秘書官の衣装は布きれと化して胸の破損を隠すのみだ。


フラウ委員長の話では破損した左腕の射撃を諦めて、残った布を束ねて投石器を作成したと言う。原始的な投石で賊を撃破しながら山谷を下る様子を簡潔に報告された。得意の情報分析と詳細報告は機体の修理が終わってからと命じる。


ゴーレム娘の強襲機フレインの破損はさらに酷い。両腕は磨滅して機能せず、最終的には頭突きと噛み付き攻撃に蹴り技だけで逃げ延びたらしい。


「マスタッ#。上手く()ったよ#」

「そうか…」


そんな筈は無い。フレインの機体は腰椎の機関部までも損傷が及んでいる。これは精密な機体の検査が必要だろう。


ゴーレム娘の突撃機フローリアは右足を損傷して機動力を失いながらも奮戦したらしい。主武装の超合金の槍は奇妙な角度にねじ曲がり破壊の威力を物語る。余程の殴打を繰り返してもこうは曲がらないと思う。


「グググ#。$%$%#」

「良くやった…今は休めッ」


既に音声応答も満足には出来ない。機体の表面は敵の返り血を浴びて塗装され汚物の様だ。よくぞ回収してくれたと白磁騎士団には感謝したい。


そんな惨状でも最悪終劇(バッドエンド)は許さない。




◆◇◇◆◇




マキトの執務室には一通の決裁書類があった。山賊の討伐戦で死亡した敵も味方も弔うため霊廟を建立すると言う。そこは古来から黒の教会の墓地であったが、管理する者も無くて亡霊が出没すると噂される荒れた土地だ。


「良かろう」

「はっ、早速に建設へ取り掛かります」


多くは男爵家の出資で霊廟は建設される。戦没者慰霊碑と言うものか。


「化けて出られるのも困るッ」

「念入りに除霊を致しますれば…」


後の采配はセバスに任せても問題は無いだろう。マキトは事件の後処理に取り掛かる。





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