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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十四章 帝国周遊と新婚旅行
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ep298 後悔と驚愕と焦慮

ep298 後悔と驚愕と焦慮





 マキト・クロホメロス男爵の一行はナーム湖の別荘地を出立して港町ウエェィへ向かった。徹底してサリアニアの実家であるシュペルタン侯爵家を避けた旅程だが、港町ウエェィは侯爵家の本拠地にも近くて侯爵本人の耳に情報が入らぬ訳もない。


道中は山道にて下りでも隊列の進みは遅い。朝晩の稽古を免除された所為か、風光明媚な別荘に帝国式の蒸気風呂の効果かマキト本人は元気も漲り、馬車を降りて徒歩で山道を下る様子だ。


「サリアもどうだい?」

(わらわ)は疲れた。遠慮しておこう」


歳に似合わず、ラドルコフ伯爵家との政治交渉は苛烈な応酬だったらしい。マキトが馬車を離れるとお付きの女中(メイド)スーンシアが尋ねた。


「奥様っ。宜しいのですか?」

「うーむ…」


珍しくサリアニアは即断即決をしなかった。きっと残忍な顔を見せる戦闘メイドのスーンシアか具申する。


「私が密かに…成敗して見せますがッ…」

「止めておけッ、(わらわ)の不徳とするものぞ」


サリアニアは旦那様(マキト)の不義密通を知った。…選りによって、あの不吉の娘ホムマリア・ラドルコフ伯爵夫人かッ。


紆余曲折もあり若くして伯爵家の家督を継いだホムマリア・ラドルコフは未婚のご令嬢であったが、早急にも結婚相手を探さねば成らない。その条件に水龍トールサウルを制御して乗りこなす英雄の資質を備えた男を求めているのだ。ナーム湖の観光地開発などは候補者を探すための口実にしか過ぎないとサリアニアは推察した。


旦那様(マキト)がホムマリアの色香に惑ったとも思えないが、この件はマキトとサリアニアの新婚の仲を引き裂く陰謀ではないかと推理する。それでも、政治力に長けたサリアニアは結婚にロマンスを感じていた。ともあれ、旦那様(マキト)の不義密通は今後の様子見となった。


新妻サリアの気分次第では成敗となるかも知れない。




◆◇◇◆◇




港町ウエェィに到着したマキトたちは船に乗り込んだ。それは帝国式の軍船を小型化した立派な造りで両舷に二門の砲門も備えている。これには新妻サリアニアも驚いた。


「なんと、これはどうした事じゃ!」

「ニアマリン号だッ!」


どや顔で宣言する旦那様(マキト)の顔が憎らしい。


「…姫様っ!…」

「…サリアニア様ぁ、待って下さいましぃ…」

「…謀られたかッ…」


港に待機していたのであろう、シュペルタン侯爵家の手勢が岸壁で右往左往している。兵士たちの間抜け顔を眺めるのは気分が良いものだ。


「これで、帝都までは一足飛びだぜッ」

「ほほう…」


旦那様(マキト)の話では新妻サリアニアの驚く顔が見たくて、ハイハルブの競売に出品された小型の軍船を手に入れたらしい。養父のオストワルド伯爵もこの件には加担していると思われる。


ともかく、小型船ニアマリン号は新妻サリアリアに驚愕と笑顔を齎した。高価な買い物でもなかろう。




◆◇◇◆◇




帝都には南区の警吏長官マキト・クロホメロス男爵の留守を喜ぶ者が居た。ひとりは北区の警吏長官ヴァニス・コルティン伯爵子である。


ヴァニスは伯爵家の三男であったから、独立して身を立てなければ成らない。役所では新進気鋭の若手と言われていても北区の警吏長官の職は重責でもある。帝都の北区は貴族街とも呼ばれて、貴族の邸宅と富裕層を相手に商売をする高級商店が多い地区だ。


最近は南区の貧民街から盗賊団を一掃したとの評判で、南区の警吏長官マキト・クロホメロス男爵の人気が高い。殆んど役所に出仕しないにも関わらず、町の絵草子屋で似姿の肖像画が売られるのは謎だろう。本人は知らぬ事であろうが目障りな庶民の風物である。


「討伐の様子はどうか?」

「…失敗した模様です」


山賊団と盗賊団では勝手が異なるらしい。警吏長官ヴァニス・コルティンも思わず笑みが零れる。


「むふっ、それは好都合であろう」

「…出陣なさいますか?」


競争相手の失策は十分に利用させて貰おうか。配下の軍備にも怠りは無い。


「万端に準備をせよッ」

「はっ!」


功を焦る男がここにも居た。




◆◇◇◆◇




帝都の闇に巣食う者は多い。南区の貧民街にも近い苦界では地下の競売所で奴隷が売られている。多くは帝国が隆盛する歴史の中で攻め滅ぼされた異民族や獣人の奴隷で彼らには生きる自由など無かった。


競売所を経営する女主人ブラスは奴隷の出身であったが帝都の闇世界で成り上がり、今では表通りに店を構える経営者だ。うねうねとのたうつ髪は蛇の様に蠢き切り離しても動き廻る。頭髪の美容師は慣れた手付きでブラスの髪をまとめた。


「本日の競売も盛況にございます」

「それは上々であろッ」


こうして美容を整えて見れば妖艶の美女とも見えるが、本質は恐ろしい蛇女である。彼女の容姿を好む者は少ないと思える。


「ブラス様。お客様がお待ちです」

「うむ。不和の種は蒔かれた。芽吹くのが待ち遠しいのぉ」


それでも苦界では絶大な影響力を誇る闇の名士だ。女主人ブラスは競売会場へ出陣する。




◆◇◇◆◇




帝都の闇に走る車椅子がある。人はそれを除霊探偵マキト・クロウリィと呼ぶ。車椅子を押す助手は老齢の執事と見えるが渋顔(しぶメン)のおじ様だ。マキト・クロウの偽物は流麗な仮面を付けて顔を隠している。それは【誤解】の呪印を刻んだ簡素な仮面であったが婦女子に受けた。今では町の絵草子屋で仮面の似姿が売られる程の有名人である。


その依頼書には古い墓地で説法をする亡霊の実害が報告されていた。


「この辺りですかなッ?」

「…現われたわ…」


呪いの人形に憑依したリリィの意識には亡霊の存在と出現が察知された。


「黒の一族の娘か、未だに魂は捕らわれておる様じゃのぉ…」

「未練があるなら、私に協力なさいッ」


説得の言葉も軽く聞き流された。


「白の教会は弾圧を逃れたと言うが、我が協会は復活の目途も立たぬ…」

「王権を復活しましょう!」


亡霊の望みは王政ではなく協会の復活であるらしい。


「ふん。王など不要。加護も足枷にしかならん…」

「ならば、民の信仰を集めますッ」


リリィお嬢様の必死の説得も心に届かないと見える。セバス・チアンには亡霊の姿は見えないのだ。


「…それが、…良かろうと…」

「あぁ、司祭さまッ!」


亡霊の残り香は帝都の墓地から消え去った。




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