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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十三章 帝都に滞在して見たこと
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ep288 秘密の精製工場

ep288 秘密の精製工場





 マキトは帝都南区の警吏として精製工場を捜索していた。南区の農村地帯にも近い郊外とはいえども工場があれば排煙や原料の匂いも戸外へ漏れて機密が漏えいしそうな物だ。


「おぃ。ゴーレム使い。扉を破れッ」


先任の警吏であるグロウ先輩が命令するのに、マキトは配下のゴーレムを使う。


「フローリア頼むッ」

「はい。マスター様っ#」


フローリアは特製の槍を構えて突撃した。どどーん。工場の重い扉は真っ二つに裂けて大穴が開いた。


「中の捜索をしろッ」


何様か、偉そうに命令するグロウ先輩の言動にも慣れたものだ。


「フレインは先行して制圧をッ、フラウは周辺の警戒と索敵をッ」


「よっしゃ、()ったるでぇ#」

「はい。マスターお任せ下さい#」


強襲型のフレインが拳を固めて突入した。フラウ委員長は高性能の視界を発揮して狙撃の構えだ。受信機の精霊石が反応してぶるぶると振動した。


制圧を完了したらしい。


秘密の精製工場は地下にあるらしく下り坂を降りると原料と見える積荷が放置されていた。


「何だッこれは!?」

「砂糖キビには見えませんが…」


事前の話ではご禁制の製糖工場との情報だったが、原料は(きのこ)の様に見える。


「検索完了。コカ茸でございます#」

「!…」


フラウ委員長が情報記憶を検索して茸の品種を特定した。比較対象に参照した植物図鑑によると幻覚作用のある毒茸(どくきのこ)だった。


帝国の国内で砂糖の精製は許認可制を採用しており事実上は侯爵家の独占販売となっている。そのため、ご禁制の品物は没収となるが、毒茸を押収しても利益には成らない。本物の砂糖であれば帝国軍が買い取ってくれるのだ。


「とんだ、空振りだぜッ」

「…」


工場の従業員は既に逃亡した後の様子で完成した商品も無く、捕えた賊は警備のチンピラばかりだ。捜査は失敗の様子にグロウ先輩は後始末を新任の警吏マキトに投げた。


「じゃ、後はゴーレム使い殿に、任せるッ」

「あ、先輩!」


逃げる様にグロウ先輩は現場から姿を消した。


現場には原料の毒茸の他にも少量の砂糖と小麦粉などが残されている。まさか毒茸の菓子を製作していた訳ではあるまい。マキトが精製工場の行程を追って調査すると、毒茸から成分を抽出して飴玉状に固める作業と推測された。


「…これは、もしかして…」

「っ!#」


ご禁制の品物でも悪い部類の商品が帝都に持ち込まれたらしい。




◆◇◇◆◇




試料に毒茸(どくきのこ)のコカ茸を押収した。ご禁制の証拠品であるが、焼却処分にするしか方法はない。マキトは密かに成分の抽出を行う。


「原料を【粉砕】して水を加え加熱ッ。たぶん、温度は低めだろうと…【集熱】」


精製技術は砂糖キビでも実践済みの方法ばかりに手慣れたものだ。


「【濾過】して…【容器】【減圧】からの…【抽出】っと…」


マキトは三連コンボも容易に決めた。


「糖衣錠に固めて完成だッ!」


仕上げは飴玉の形にして、小麦粉は飴玉に塗す粉末だろうか。


………


屋敷の女中(メイド)部屋では休憩中の女中(メイド)たちがお喋りに興じていた。


「…という訳で、ご主人(マキト)様が、あたいのピンチに駆け付けたのニャ!」

「…きゃっ…」

「…それで、それで?…」


先日の昆虫怪人の事件を口も軽く語るのは密偵方で猫顔の獣人ミーナだろう。やはり、密偵としての適性に問題ありか。


「ミーナ。ご褒美に飴玉をやろう」


「ニャ!ご主人(マキト)様っ」

「「 っ! 」」


突然に女中(メイド)部屋を訪れた旦那様に新人の女中(メイド)たちは驚くが、マキトは気軽に問題の飴玉をミーナの口へ放り込んだ。


「はむっ、はむっ◇(ハート)」

「応っと…」


猫顔の獣人ミーナは問題の飴玉の効果か恍惚の表情となってマキトを甘噛みする。大丈夫っ、毒キノコの成分は想定の十分の一の分量だ。本来ならば、もっと劇的な効果に違いない。


マキトはくすぐったいのを我慢して猫顔の獣人ミーナの様子を観察した。この際にモフモフにもふり倒すのも良いだろう。新人の女中(メイド)たちは旦那様の横暴に怯えるばかりだ。心配せずともマキト・クロホメロス男爵は紳士である。


幻覚作用に侵された猫顔の獣人ミーナは何の夢を見るのか。




◆◇◇◆◇




久しぶりに警吏の仕事は非番で、役所から警吏長官への緊急の呼び出しも無い休日だ。一人で二役の仕事を消化するのに苦労は絶えない。そんな余暇を楽しもうと言う日にもマキトの元へ情報が入った。


ベネルクテ伯爵家はご令嬢の死因を病による心労からの事故死と発表し、事件の早急な幕引きを図った。葬儀では不名誉な死と噂されて儀式の規模も縮小されて行われたらしい。何か陰謀めいた匂いを感じるのは、マキトも宮廷貴族の毒素に感化されたか。


最近にマキトの余暇は秘術の研究かゴーレム娘の整備と改修に充てられる。前日も強襲型ゴーレムのフレインが腕を壊した所だ。まぁ、肉弾戦の戦闘ともなれば、拠点の制圧に多少の無理もあるだろう。抵抗する者は殺傷も止むを得ない危険な任務だ。それでも自身の腕を壊してまで皆殺しにするのは許せない。


「フレイン! そこで、反省しなさいッ」

「びえぇーん。ヤツら面倒なんだもーんっ#」


泣き真似をしても許しはしない。これも教育の為とフレインの手足をバラして整備小屋に吊るす。最大出力を抑える制御装置(リミッター)を設けても本人の意識が伴わないなら、今後も同じ結果だろう。


ゴーレム娘たちの構造は大別すると外骨格と内部骨格だ。問題児フレインは格闘戦の機体で外部装甲を主体とする外骨格型だ、簡単に言うと海老や蟹の様に固い殻を持ち内部には筋肉が詰まっている。外骨格型は構造も単純で破損しても継続する戦闘能力は高いのだ。


それに比較してフラウ委員長の構造は左腕の射撃装置を除けば、内部骨格を主体としている。外骨格よりも人型の動きに近いと言えるだろう。ゴーレム娘の長女であるフラウ委員長がマキトを呼びに来た。


「マスター。資料の準備が出来ました#」

「ご苦労ッ……早速に始めよう」


マキトは屋敷の書斎へ移動して作業の開始を指示する。


「はい。マスター#」

「はい。マスター様っ#」


真面目なフラウ委員長に並んで末っ娘のフローリアも手伝う様子だ。二機は役所に保管された過去の捜査資料を高速に読み始めた。まずは、記憶領域へ大量の情報を読み込む。どうせ、役所にあっても過去の捜査資料を求める警吏など滅多に居ないものだ。


情報の整理は後から随時行うとして、マキトは二機の働きを観察した。整備小屋で吊るされて反省中のフレインはこの手の情報処理が苦手らしく、同じ精霊石でも得意分野は異なる。


「マスター。情報の読み込み蓄積が完了しました#」

「よし。情報を共有して解析にかかれッ」


土の精霊石は近距離であれば情報の共有が可能だ。遠距離の通信手段については今後の課題だ。マキトが命じるとフラウ委員長の目の色が変わる。


「はい#」

「…それでは、お姉さまにお任せして…あたしは屋敷の仕事へ戻ります」


フラウ委員長は高速に頭脳をフル回転しているのだろう、末っ娘のフローリアに応答もせず情報処理に没頭している。


「うむっ」


マキトが頷くと特注のメイド服を着たフローリアが退室した。特に志願して女中(メイド)の真似事をしているのだ。物好きなゴーレム娘である。


ちーん。しばらく待つと結果が出た。今後の捜査の有力情報だ。





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