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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十三章 帝都に滞在して見たこと
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ep285 貧民街の盗賊団

ep285 貧民街の盗賊団





その日、貧民街の盗賊団へ検挙の手が入った。南区の警吏も手下の者も総動員された一斉検挙だ。


「おい。新入りはここを守れッ、盗賊を取り逃がすなよ!」

「はいッ」


それは新任の警吏を気遣った、グロウ先輩たちの嫌がらせか。


「おおっと、ここまで逃げてくる盗賊など居ないさ…手柄は俺たちで頂くぜ!」

「「 応ぅ! 」」


先輩の警吏たちは張り切って捕り物へ出向いた。マキトは町の包囲網の端の方で、先輩たちの働きを見学する予定だ。


貧民街に警吏の合図で笛の音が鳴る。一斉検挙の開始だろう。


………


-PIHYUOOOF PIHYUOOOF-


魔窟にある悪党の拠点(アジト)へ手下が駆け込んだ。


「あっ、兄貴ッ。手入れだ!」

「ちっ…警吏の奴ら。やけにッ、手回しが早いな…」

「…ズラかるかぁ、()っちまうかぁ?」


悪党の面々も大騒ぎに気付いて動き始めた。


「まずい、逃げ道も塞がれた!」

「くくくっ、ならば、全てを喰らう迄よッ」

「…さすがッ。ディの兄貴だぜぇ…」


この盗賊団の壊滅も遅くは無いだろうと思う。




◆◇◇◆◇




結果として南区の警吏も手下の働きも悪くは無かった。ディの盗賊団は多くの検挙者を出して捕縛され抵抗する者は討伐された。警吏と手下の死傷者も出たが概ねは順調な成果と言える。後は帝都の検察局と裁判所が上手く処理する事だろう。ディの盗賊団の(かしら)と幹部の数名は逃亡したらしく追手も駆けている。


南区の警吏を掌握する役所に警吏長官としてマキト・クロホメロス男爵が珍しく出仕していた。普段は名誉職の様に姿も見せず、部下へ任せきりの名ばかりの長官と見られている。実際のマキトは郊外の屋敷にも帰らず官舎の小部屋と職場を往復する毎日だ。警吏の交代勤務は思うよりも忙しい。


役所の官吏がマキトに話しかける。


「クロホメロス長官殿、お調べ物ですかな?」

「うむ。過去の犯罪記録を見ている」


「南区の一斉検挙は上手く運んだ様子ですなぁ」

「そう、らしいね…」


特に役所の官吏には興味も無いのだ。マキトは調べ物に忙しいと見える。


「さて、長官殿のお屋敷からメイドが一人逃げ出したとか…」

「貴殿は、耳が早いねぇ」


郊外の屋敷は正式にはマキト・クロホメロス男爵が借り受けた物件で、無駄に広い屋敷を管理するには現地で人手を雇う必要があった。使用人の身元の調査は面倒でも一人ずつ経歴を洗う必要がある。表面的な調査では信頼に値する者が分からないのだ。それにしても、新しく雇い入れた使用人から獣人の女中(メイド)が逃亡した件の情報が漏れたのだろうか。


「私の贔屓の店では、獣人も人族も妖精族も取り揃えておりますぞッ」

「おぉ、それは良い店かい?」


高級な料亭か娼館か奴隷市場が分からないが、貴族の高官を持て成す店だろう。珍しく役所へ出仕した新任の警吏長官と(よしみ)を結びたい者は多いのだ。


マキトは貴族的な対応をしつつ情報を追った。




◆◇◇◆◇




そこは新市街と貧民街の間に立つ娼館でゆわゆる緩衝地帯(グレーゾーン)と見做される場所だ。表面上は真っ当な商売をして春を売り、裏では奴隷を斡旋する稼ぎも行う。


「くくくっ、ミーア。俺の女になれッ!」

「ひぃ、嫌だニャ!」


ディは昆虫の触手を伸ばし猫顔の獣人ミーナを捕える。頭から伸びた触角は派手な蛾の成体を思わせて、ミーナの毛並みを(くすぐ)る。


「手下の何人かは、()られたが、…お前の中にも種付けしてやろう」

「きゃっ!」


猫顔の獣人ミーナは貞操の危機である。も!


………


マキト・クロホメロス男爵は高級料亭の宴席に招かれた。帝都の上級料理人が腕を振るった高級料理が供されて珍しい各地の酒精が堪能できる。料亭の出し物が上演される舞台では、見目麗しい踊り子が衣装も薄布に肌を露わにして舞踊する。


「あの踊り子たちにご指名があれば、閣下の屋敷へも派遣いたしまする」

「ほほう…」


料亭が派遣事業も行うのは帝都の法に抵触しないのか。派遣される踊り子の仕事内容も料金次第だ。次々と曲も踊り子も入れ替わるのは、商品展示の一環だろう。


「おや、本日は趣向が異なる様子ですなッ」

「!…」


舞台に悪党顔の男が立つのは、この店の支配人か。マキトの周囲の護衛も緊張を隠せない。


「本日はご来店。真に有難う、ゴ・ザ・イ・マ・ス・よよよ」

「ぐわっ!」


-YOYOYOYOYOYO-


悪党顔の男は背中から硬質な羽を伸ばして超音波を発した。これには河トロルの護衛たちも倒れる。店内のお客たちは意識を失い昏倒する者や、護衛の騎士に抱えられて守られる者など阿鼻叫喚が広がる。


「伏せろッ!」

「ぎゃッ…」


茶羽の虫が大量に飛び交って、残ったお客も護衛の騎士も襲う。マキトは車椅子に寄りかかり超音波に耐えたが、耳の三半規管を掻き回されて目が廻る。


「が・ば・ば・ば・ば、全て喰らってやる!」

「くそッ!」


意識を保った護衛の騎士は善戦しているが、多勢に無勢だ茶羽の虫に手足を齧られて出血している。と、そこへ無傷な女中(メイド)が矢を放つ。


「目標捕捉しました。狙撃シマス#」


ツトトト。三連射で石弓を放つのは試作ゴーレムのA型だ。まさか、超音波に効果が無い者が護衛に居るとは思うまい。


-DOGOM-


料亭の壁を破壊して試作ゴーレムのB型が現われた。


「お姉さま。敵は?#」

「あれよ。B型は雑魚を破壊しなさいッ#」


ツトトト。三連射の石弓で試作ゴーレムA型が悪党顔の怪人を射る。暴虐の破壊力で壁を粉砕し粉塵を巻き上げて茶羽の群れを粉砕するのは試作ゴーレムのB型だ。あまりに暴虐な試作機B型の破壊力に限界設定(リミッター)を付けたが大丈夫か。


知性派の司令機としてA型を指名したのは成功らしい。お互いの試作機の姉妹設定は上手く機能している。


「ぎゃあああ!、こ・ん・な・ハズでは…」


超音波を発する硬質の羽を石弓で射られて、お客が連れた護衛たちも戦闘力を回復しつつある。


討伐の時間だ。


………


猫顔の獣人ミーナは振動する精霊石を内蔵した携帯装置を取り落とした。


「くくくっ、ミーア。良い道具を持ってるじゃねーかッ」

「あたいは、もうご主人(マキト)様の物だニャ!」


怪人ディは振動する道具の用途を瞬時に理解した。


「煩い! 俺の物にしてやろう」

「きゃっ、止めてぇ~」


ディは昆虫の卵管を伸ばし猫顔の獣人ミーナに迫る。先にミーナへぶち込むのは振動する道具か卵管か。ミーナの毛並みも逆立つ(おぞ)ましさよ。


-DOGOM-


寝室の壁を破壊して試作ゴーレムのB型が現われた。


「ミーナ。待たせたね!」

「ご主人(マキト)様っ!」


パンチ。猫顔の獣人ミーナの猫パンチが怪人ディの顔面へ直撃(ヒット)した。


「ぐばっ!」

「ひっ…」


顔面の皮膚が破れて新たな顔が出現する。それは昆虫の複眼を備えて最早(もはや)、人族では無い。


パンチ。パンチ。パンチ。三連打にも昆虫顔は傷付かない。


「ええい。離れろッ」


「目標捕捉しました。狙撃シマス#」

「ボクが、粉砕するぜッ#」


マキトの指令で、試作ゴーレムのA型とB型が同時に攻撃したが、A型の石弓の射線とB型の突貫が交差しないのは、両機の連携だろうか。


昆虫顔の怪人ディは危険を察知して窓へ跳んだ。いまや完全体に変態した変態は脱皮して体の秘所を晒し変態性を上げている。ぶぶぶぶ、昆虫の羽を広げて怪人ディが飛ぶ。くっそ、窓辺に夜景が見える高級な部屋を選びやがって!


帝都の空へ昆虫顔の怪人が解き放たれた。飛行型のゴーレムも必要だろうか。





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