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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十三章 帝都に滞在して見たこと
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ep284 帝都南区の捕物帳

ep284 帝都南区の捕物帳





 帝都の東の郊外にあるマキト様の屋敷では騒動があった。屋敷の中庭では、当主のマキト様が猫顔の獣人メイドを追い廻しているのだ。


「そこへ直れッ、ミーナ。手討ちにしてくれる!」

「嫌だっニャ!」


マキト様が車椅子の加速を全開にして猫顔の獣人ミーナに迫る。手には抜き晒した白刃を持ち癇癪を起した様相だが、ミーナは身軽に攻撃を躱す。


「こらッ、主人の言い付けが守れぬか!」

「…反撃するニャ」


宣言して反撃するなんて、女中(メイド)の鏡と言うものかしら。


「うぉっと!」

「やっ、はっ、たぁぁああ~」


紙一重で回避するのが、熟練の達人技というもの。マキト様は車椅子の急反転に振り回されつつもミーナの反撃を回避した。


「今日こそは許さぬッ、折檻にしてくれようぞ!」

「きゃっ、ご主人(マキト)様ったらぁ~◇(ハート)」


女中ミーナの尻を追い廻すのは、いつものマキト様のご趣味らしいが、今日は(しつ)()い様子にミーナも嬉しそうだ。実は良い相手ではないか?


「こらッ、待てぇ~」

「待てないニャー」


猫顔の獣人ミーナは屋敷を逃げ出した。そんなに嫌なら女中(メイド)も辞めれば良いのにッ。


とんだ茶番だわ。




◆◇◇◆◇




帝都の南区にある貧民街には獣人の姿も多い。マキトの屋敷を逃げ出した猫顔の獣人ミーナは当ても無く貧民街をさ迷った。どこの町の貧民街も似た様な物だ。


「おぃ、ミーアじゃねーか?」

「あたいは、そんな安い名前じゃないニャ」


呼び止めるのは、どう見ても悪党顔の男だ。


「しばらく見ねーと思ったら、…お貴族様の、屋敷の女中(メイド)かッ!」

「うぐっ…」


猫顔の獣人ミーナの恰好はどう見ても貴族の屋敷で働く女中(メイド)服だ。帝都の最新デザインの衣装にはご主人(マキト)様の嗜好が加えられている。目利きの者が見れば、どこの屋敷の女中(メイド)か判別できるのだ。


「おぅ、ミーア。屋敷の情報ならぁ、買うぜッ」

「ふん。あたいは、安くないのよ!」


虚勢に胸を張るミーナの姿は痛々しい。連日のご主人(マキト)様の攻め手に傷付いて見えた。


「精々に高く、ディの兄貴に売りつけなッ」

「そうするわ…」


猫顔の獣人ミーナは悪党の拠点(アジト)へ案内された。昔なじみのクソッ垂れが現われた。以前にも増して嫌いな人相だ。


「ほほう、ミーアか。歓迎しよう」

「ちっ…」


ディの兄貴と呼ばれる男は顔色が悪く、薬か悪霊か何かに取り憑かれている様に見える。ミーアが奴隷として売られて行ったのは何年も前の事だ。


「いい女になった。取って喰いたいぜぇ」

「褒め言葉かしらッ」


それは悪党なりの褒め言葉で、種付けしたいとの意味だ。


「くくくっ、勿論さ、仲良くしたい者だぜぇ」

「…」


帝都でもご主人(マキト)様の情報を欲しがる者は多いらしい。どこへ転売するにしても人気の商品と思える。


ミーナは悪党の拠点(アジト)から帰らない。




◆◇◇◆◇




帝都の南区は新たに都市へ流入した市民が集まる新市街と、違法に帝都へ滞在する者が集まる貧民街に区分される。


新市街には誠実な商売を行う商業通りと正直に住民税を支払う住宅街がある。貧民街には酒場や快楽と春を売る歓楽街があり、その奥には魔窟と呼ばれる悪人の巣があると噂される。


新任の警吏であるマキトは新市街にも貧民街にも立ち寄り見回りを行った。こうして警吏が街中へ姿を見せる事は犯罪の抑止と捜査の為でもある。通常の巡回警邏には二人でひと組みにして担当の区域を見回るのだ。


マキトと同じ組の先輩は半年ばかりの先任であったが、妙に先輩風を吹かせた若者であった。


「おぃ、新入り。俺に付いて来い」

「はい!」


車椅子の新人を押し付けられて正直にも面倒な顔を見せたが、仕事ぶりは悪くはない。


「これはこれは、お役人様。ご苦労様です…」

「うむ。商売に励めよッ」


商店の店主とも顔馴染みで挨拶の(ついで)に何かと商品や小銭を受け取る。


「本日はお日柄もよく…」

「うむっ、何か面倒事があれば、詰所まで知らせてくれッ」


マキトは先輩の警吏に尋ねた。


「グロウ先輩。その品物は何ですか?」

「林檎だが、何か…」


警吏に対する賄賂であろうか、店頭の商品の一部や小銭の受け取りに躊躇も無い様子だ。…帝都の警吏の習慣だろうか。


「盗みだぁ!!」


通りの向こうから叫びが上がる。


「おぅ、仕事だぜッ」

「っ!」


反応よく駆け出したグロウ先輩に遅れじとマキトも車椅子を急発進させた。どうやら店頭の商品を盗まれたらしい店主が怒鳴っている。


犯人は子供か背の低い獣人と見えた。姿を追って歓楽街を通り抜けると、猥雑な路地へ踏み込んだ。見るからに治安は悪そうだ。


「待てッ、この先は危険だ!」

「!…」


グロウ先輩の話では、帝都の警吏も追跡を諦める魔窟がこの先にはあると言う。そんな悪の巣窟へ二人だけで乗り込むのは命知らずの馬鹿者だろうと、諦めの良いグロウ先輩の様子にマキトは違和感を覚えるのだ。


………


マキトは帝都の南区の警吏の詰所で捕物帳を調べた。つまり過去の犯罪捜査の記録だ。どこで何の事件が発生して、犯行現場や犯人の特徴から警吏の誰が手柄を立てたか等の記録が残っている。これだけでも芝居のネタ話には事欠かないだろう。


「俺は、先に失礼するぜッ」

「お疲れ様です!」


警吏の職場では、勤務交代の時間となれば早々に帰宅する事が推奨されている。疲れを残さずに明日に備えるのも警吏の務めだ。


「…俺のメリッサたんが待っている…」


グロウ先輩が言うメリッサは酒場の女だろう。マキトも新人歓迎の飲み会で見た事がある。


捕物帳には最近の犯罪記録も残されてマキトは関連する情報を集めた。




◆◇◇◆◇




猫顔の獣人トニィは猥雑な通りを抜けて悪所の門を潜った。貧民街にある魔窟の出入りを監視する関所の様な場所だ。通過するには金品を要求される。


「へぃ小僧。今日の上がりを寄こしなッ」

「ほらよ…」


悪党顔のチンピラへ盗んだ商品を手渡す。この程度の男に頭を下げるのは業腹でも、背後の盗賊団が恐ろしいのだ。


「ちっ、しけた稼ぎだぜッ」

「くっ…」


黙って耐えるのも帰りを待つ仲間の為だ。猫顔の獣人トニィは盗品を減らしても魔窟へ入った。


魔窟の中の住人は非常に羽振りの良い者と常に困窮する者の二種類だ。前者は後者をただの餌としか見ない。搾取する者と虐げられる者の差は非情だ。猫顔の獣人トニィは魔窟でも最底辺の獣人が集まる区画へ入った。


「兄ぃちゃ!」

「トニィかぃ…」


「今帰ったぜ」


腹を空かせた獣人の仲間へ食糧を配った。盗品を売り得た僅かな金で購入したマズイ飯だ。魔窟にある盗賊団は盗品を買い取り転売する伝手を持っているらしい。猫顔の獣人トニィが持ち込む品物も格安で買い取ってくれる。


彼らか魔窟から出所するにも金品を要求される。そして期限までに帰らねば仲間の命は無いのだ。群れの仲間意識が強い獣人には厳しい掟であった。


猫顔の獣人トニィは年長者として、明日も町へ出稼ぎに行かねばならない。





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