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無色魔法使いの異世界放浪ちゅ ~ 神鳥ライフ ◆◇◇◆◇  作者: 綾瀬創太
第二十三章 帝都に滞在して見たこと
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ep281 帝都南区の警吏長官

ep281 帝都南区の警吏長官





 グリフォンの英雄マキト・クロホメロス男爵は帝国の内戦において大活躍した。以下に功績を記す。


南部平原では新兵器のゴーレム部隊を投入して戦線の膠着状態を打破し帝国軍の勝利に貢献した。オストワルド辺境伯への助力としてギブラ城塞の西門を破り城塞攻略の先兵となった。


北部平原では亡者の群れを捕縛して黒の軍勢の目論見を崩壊させた。なお市民への被害は最小限に抑えられたと考えられる。反乱軍の首魁と本拠地であるタンメル村を襲撃してこれを殲滅した。


功績の大なるを以って恩賞が与えられる。


それは、新たな領地を与り加増となる物。地方都市の領主として赴任する物。帝都の役職を得る物からいずれかを選べという内容だった。


マキトが選んだのは帝都の治安を守る警備長官の役職だ。帝都には守備隊の他に北区と南区と二分して警吏を置く治安組織があった。江戸風に言うと南町奉行か火付け盗賊改め方か。


本来は皇帝陛下の意向を拝した騎士団か近衛の家系の末弟が担う役職であるが、先の内戦では帝都の治安を守る白銀騎士団は壊滅しており白鴎騎士団も逃亡した模様で消息も無い。それで、皇帝陛下のお気に入りと見做されるグリフォンの英雄マキト・クロホメロス男爵へ任命されたのだが、騎士団の他からの抜擢は前代未聞の事も有り貴族の中には反対する意見も多い。


「なぁに、あの様子では長続きはするまい…」

「…皇帝陛下も、酷な事よのぉ…」

「…ふん、成り上がり者が…」


英雄マキト・クロホメロス男爵は功績を挙げ過ぎたらしく、厄介気味に批判の声も大きいのだ。そんな注目される新任の警備長官殿は戦傷を理由にして人前に顔を見せない。


流石に戦功の論功表彰には姿を見せたが、気力も体力も衰えた様子に軍部の貴族たちも驚いたと言う噂だ。事実としてマキトの病状は酷い物であった。それを根拠として門閥貴族たちはマキト・クロホメロス男爵の失脚を予想した。


………


マキト本人は車椅子に乗り帝都南区の街路を走行していた。その車椅子はマキトの指示通りに岩塊の幼女ゴーレムであるガイアっ()が変形した姿で、乗り心地も操縦感度も良好な仕上がりだ。


すっかり衰えた体力の回復の為に車椅子で外出する貴族の若様(マキト)は非常に目立つ。帝都北区は旧市街で貴族の邸宅も多いが、ここ南区は農村からの流入民も多く庶民の町だ。マキトは偽名のクロウと名乗り警吏として働いている。


「これは、クロウ様。巡回ご苦労様ですッ」

「町に変わりは無いかぃ?」


「お蔭様で商売繁盛に御座いますよ」

「ほほう…」


緑の月も半ばで汗ばむ陽気に店頭には新鮮な野菜が入荷している。マキトは季節の野菜を買い込み車椅子の後方へ積荷として貰う。何かと人の手を借りる事は多いのだ。


「おい。新入りのゴーレム使い。巡回は終わったのかッ?」

「はい。問題はありません」


マキトは先任の警吏に呼び止められた。ゴーレム使いとは下級警吏マキト・クロウの渾名だろう。


「車椅子が捕り物の役に立つとは思えん……精々と使い走りに励む事だなッ」

「心得ております」


どこの職場も下っ端の新入りには厳しい様子だ。


「ふんっ、面白くもない」

「…」


マキトは日常の役目を終えて南区の詰所を出た。後は夜勤番の者へ交代するのだ。郊外へ車椅子を走らせると北部平原へ出た。車椅子に変形したアッコがマキトへ話しかける。


「こやつよ。下賤の者に言わせておくのか?」

他人(ひと)はヒト。僕はボク。分かり合えないのも人の常よ」


「小僧がっ、随分と達観しておるのぉ…」

「っ!」


無駄話をしていると目的地に到着した。そこはマキトが光の魔方陣の秘術で亡者の群れを捕縛した場所だ。


「…神のご慈悲に感謝をッ」

「…貴殿の道行に加護の光があらんことをッ」


どこぞの僧侶と行き交った。今日も亡者の群れを浄化するのは、どこの僧院の門下だろうか。皇帝陛下の徳政令は全ての宗教組織に及んだ。


捕縛した亡者の群れは膨大で、全てを討ち滅ぼすにも魔力が足りない。そこで皇帝陛下の命により帝都に拠点を置く宗教組織は全て亡者の群れの浄化に義務を負った。毎日に交代して浄化の儀式を行うのだ。儀式の遂行により宗教組織が得る利権については興味も無い。


「グガガガカ、任務に異常は アリマセン#」

「ウウウンフ、厳しいデス。シクシク…#」


マキトが魔方陣の要石にしたゴーレムに魔力を注ぐと、試作機のB型が泣きごとを言う。


「泣いても許さん!」

「きゃっ!#」


厳しい事を言うが、マキトの魔力には愛情もたっぷりだ。亡者の群れには試作機のB型が暴れて殺害した帝国軍の兵士も含まれる。戦時の事故とはいえマキトも責任を感じるのだ。


「すまんなッ、巻き添えにして…」

「っ#」


試作機のL型には何の落ち度も無かったが、頭数の都合でゴーレム部隊は全機が魔方陣を維持するために要石として投入されている。


亡者の群れを全て浄化するには時間が掛かりそうだ。




◆◇◇◆◇




マキトが帝都の拠点としている屋敷は北区と南区の境で東の郊外にあった。周囲は屋敷森に囲まれて閑静な趣がある。マキトが屋敷へ帰還すると出迎えたのは執事と見える男だ。


「旦那様。ご用命を承ります」

「今日の収穫だッ」


町の商店で買い求めた野菜を手渡す。熟練の執事として屋敷で雇ったその男は眼光も鋭く堅気の者には見えない雰囲気があった。前歴は観光名所のタンメル村の高級宿で支配人補佐をしていた経歴の人物だ。


(ぬし)様。おかえりなさいマセ♪」

「うむっ」


河トロルのリドナスは執事見習いの恰好で出迎えた。帝都では監視される事も考慮して、あまり派手な出迎えは控えている。最近のリドナスは女体化が顕著と見えてこの機に男装をさせているのだが、余計に危うい魅力を発揮している。


「またっ、ご依頼の使者がございました」

「それは…」


どこで聞き付けたか、マキトの所には悪霊や怨霊の除霊を希望する討伐依頼が複数に届いていた。帝都の官吏に着任して早々に解決した事件の噂が広まった影響と思われる。


マキトは討伐の依頼書を開いた。緊急であれば対処せざるを得ない。





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