ep278 王都の奪還作戦3
ep278 王都の奪還作戦3
帝国軍へ参陣したグリフォンの英雄マキト・クロホメロス男爵は戦場の平原を見下ろした。上空から見れば黒の軍勢の配置も沼地に仕掛けられた罠も明らかとなる。マキトは混乱する諸侯軍へ伝令役を残して飛び立った。
上空のマキトから指示を伝えるのは試作ゴーレムのA型で、後方支援に特化した機体には弩弓と内臓の射撃装置が組み込まれている。
「…グガガガカ、目標捕捉 狙撃シマス#」
試作ゴーレムA型は諸侯軍の指揮官の目前で妙技を披露した。遠距離から放たれる弓矢は黒の軍勢へ的確に突き刺さる。期待する役目は伝令なのだが、乱戦に不確定な要素は付き物か。
「…マスターのご指示デス。右前方へ軍を進めよ#」
「応うっ!」
屋敷の女中に頼んで録音した音声サンプルは可愛いらしいのだが、如何せん感情に乏しい音声は味気ない物だ。某音声ロボの様に上手くは歌えない。
それでも人語を話す伝令は好評で、混乱する諸侯軍もマキトの指示に従った。これで少しは有利な戦いとなるだろう。
◆◇◇◆◇
東の城塞都市キブラに潜入した野盗たちは。その身形に隠してもオストワルド伯爵の配下の精鋭部隊だ。比較的に警戒の薄い西門を狙い行動を開始する。東門で苦戦するオストワルド伯爵の軍勢を助けるために、西門の城内に騒ぎを起こして、あわ良くば城門を開いて友軍を招き入れるのだ。
強固な守りのキブラ城塞を短期間で攻略するには内部工作も必須の謀略であろう。戦の趨勢を決する任務に精鋭たちの気も引き絞まる。
「隊長、突入の準備が出来ました!」
「ようし、行動開始だッ」
まず、西門に近い繁華街で火事に見せかけた騒ぎを起こす。狭い城塞都市では小火でも命取りに成りかねない。
「火事だぁー」
「衛兵を呼べぇ!!」
混乱に乗じて西門の衛兵も駆け付けて来れば儲け物だ。それで無くても町人の注目を火事場へ向ければ隠密行動も容易い。
「詰所を襲撃しますッ」
「…行けッ!」
敵の増援は壊滅させるか、最低でも足止めが必要だろう。
「ふっ、そこまでだ!」
「げばっははは、怪しい奴らだ。ひっ捕らえよッ」
不快な笑い声と伴に山賊団の配下を率いた敵が現われた。隠密の精鋭と工作部隊も応戦を始める。このままでは、乱戦に敵の援軍が駆け付けては任務の達成が危うい。
あの、風采の上がらぬ若造は山賊団の幹部か?
-ZGACRASHU-
その時、キブラ城塞の西門に轟音が落ちた。
………
グリフォン姿のファガンヌは南部平原から長駆してキブラ城塞へ迫った。
「いっけぇー」
超加速から投げ落とされた突撃兵器は試作ゴーレムのL型だ。付属の推進装置が点火して弾道をさらに加速する。
「きゃっ!#」
無人の突撃兵器にその悲鳴は似合わないッ。冷静な姿勢制御で目標へ飛翔し破壊するのだ! 試作ゴーレムのL型が手にした武装の槍は特別製で空を切り裂く。
轟音と共にキブラ城塞の西門は崩落した。鋼鉄の門扉もそれを支える石造りの門も真っ二つにして大穴を開けている。
「わぁぁぁあああー」
「今だッ、我に続けぇー、突撃ぃー」
折しも西門の周辺へ潜伏していた野盗の群れが崩落した西門へ殺到する様子だ。何ら山賊団と野盗の争いには関心も無いが、この混乱は利用させて貰おう。
グリフォン姿のファガンヌは大胆にもキブラ城塞の上空を通過して東門の背後を襲う。いまや混乱は城塞都市キブラの各所へ広がりを見せて、住民の暴動も誘発した様子と見えた。
………
いかにも山賊の頭と見える男が君主へ進言する。
「若っ、撤退の指揮をッ!」
「うむ。無念である…」
若と呼ばれても、風采の上がらぬ無精髭の男は多くを語らない。落胆しつつも最善を尽くす様子を見届けて山賊の頭は指揮をとる。
「野郎どもッ、ここが奉公のしどころよぉ」
「「 おおおぉぉお! 」」
意外にも山賊団の士気は高い。これでは破られた西門の抵抗も激しい戦闘になりそうだ。
◆◇◇◆◇
王都の西側を流れるナダル河では大橋の突破を断念して渡河作戦が開始された。とはいえ付近には橋をかける浅瀬も民間の渡し船も無くて、急拵えの筏に兵士を分乗しての強襲上陸を目指した。
大橋から下流域は河口にも近く潮の干満をも利用して夜間に強襲と上陸作戦が実施される。敵の目を惹き付ける為に大橋へ突撃する騎兵も兵士も何らかの恐怖に駆られて逃げ惑うばかりだ。あまりの惨状に突撃する兵士の足も竦む。
黒の軍勢の大将と見える漆黒の騎兵は配下の首なし騎兵と伴に健在で防御陣地を微動だにもしない。その存在感だけで黒の軍勢の威圧は増すと思える。
「やはり、化け物ぞろいか…」
「…」
ひと足先に黒の軍勢の正体を思い知ったシュペルタン侯爵家の軍勢は不運な死を遂げた。
「急げッ、対岸は遠くないぞ!」
「…ぐあっぷ…」
「…なっぷ…」
次々と深みへ引き込まれる筏に、生者の悲鳴も消え入る。敵軍への警戒から明りを最小限にした影響で水棲の魔物への対処が遅れた。せめて昼間の強襲上陸であれば助かる命もあったか。
夜は魔物の時間でもあった。
--